天津などに広く行われていた動物霊の祭祀として、「五大仙」(「五大家」「五大将」)が有名です[cf.西脇 1991:190]。尚潔氏の「祥獣与〈五大家〉」によると、これは狐・イタチ・ハリネズミ・蛇・ネズミなどの動物で、胡仙(狐)・黄仙(イタチ)・白仙(ハリネズミ)・柳仙(蛇)・灰仙(ネズミ)と呼ばれ、財や福をもたらし、吉凶の兆を教える神としてシャーマン(巫女)や商家で祭祀されたといいます。家堂の仏堂中に福・祿・寿三星とともに五大家の神人像を祭祀したのです。
あるいは中庭に仙家楼と呼ぶ幅三尺、高二尺ばかりの小祠を建てて、五大家の牌位を祭祀することもありました。そのうち白仙だけは貴婦人像であり、他は男性像なのですが、天津の天后宮(航海安全の女神、媽祖を祀る)には白仙のみ祭祀されていました[尚潔 2004]。尚潔氏によると、天津では胡 (狐)仙・黄仙・白仙がとくに信仰を集めたといい、白仙については、澤田瑞穂氏と西脇隆夫氏も指摘するように、杭州の白蛇精が許仙という男に恋をする物語である『白蛇伝』にみる白蛇精の影響があると思います[澤田 1982:505;西脇 1991:190]。
澤田瑞穂氏は、天津の風俗につき多く記す清末の筆記雑著、李慶辰『酔茶志怪』巻四「白夫人」をあげています。天津の南門外東塔寺にも白夫人を祭祀し、その霊が巫に憑依していうには、自分はハリネズミの精である白仙ではなく、杭州西湖の雷峰塔に鎮められていた許状元の母(すなわち白蛇精である白素貞)であると名乗ったといいます[澤田 1982:505]。
天津では蛇精信仰もそれなりの信仰を集めていました。のみならず、さらには蛇精のみ独自に家庭内に祭祀する家もあったのです。
『酔茶志怪』をさらに紐解くと、巻三「黒山大王」は、五大仙信仰にも関連するうわばみの精の話です。
「邑(天津城を指す)の李家にはうわばみの仙(「蠎仙」)がいて、黒山大王といった。姿を隠すことができ、細ければミミズのようになり、太ければ甕のようにもなった。その家に吉凶事があるとあらかじめその兆を教えてくれる。それゆえ李氏はこれを祀ることはなはだ敬虔であった。あるとき、負債を取り立てる者があり、無礼を働き、庭に寝ころんで恣に罵り侮辱しつづけた。主人は隠れこらえて、どうすることもできない。夜に一武人が門を開けて入ってきた。黒い鉄の鎧を着て、手には鋭い剣を持ち、叱っていうには、『我は主人のために災いを除きに来たのである。お前に怒りの刃を加えてやろう』。そこでその者は懼れ戦き逃げ去った。数年してから、主人はこの黒鎧の将軍が別れを告げに来たのを夢にみた。それ以来この家は没落してしまったのである」。
この記事は特定の家の盛衰を説明する話として読むことができます。うわばみの精を家宅に祭祀する家であるが、負債が溜まっていたところをみると、大蛇の精は、財を補うものではなかったようですが、吉凶を教えるという霊示を行い、この家の災いを防ぐ神であったのでしょう。この家は、とくに蛇精だけを祭祀していた点で、蛇精も五大仙の中の「one of them」という意味ばかりではなかったことがわかります。
澤田 瑞穂
1982「白夫人祠」澤田瑞穂『中国の民間信仰』東京:工作舎:505-506頁
西脇 隆夫
1991「『白蛇伝』と蛇をめぐる民俗」『蛇の宇宙誌──蛇をめぐる自然民俗誌』東京:東京美術:185-219頁
尚 潔
2004「霊獣与〈五大家〉」『天津青年報』2004年2月6日