貴州省の西部、中国最大の滝である黄果樹近くには、プイ族というタイ系の民族が住んでいます。タイ系らしく平地の水の豊かな場所に住んで水稲耕作をしている人たちで、藍染の黒地の衣装に、こまやかなろうけつ染めの幾何学的文様がよく似合います。


そんなある村の土地神さまの祠の脇に、こんな呪文が貼ってあるのを見つけました。




天黄地黄 天黄地黄

小孩夜哭 子供が夜泣き

君子念過 君子様に読んでいただければ

睡至日出 ぐすっすりやすらか日の出まで


じつはこの種のおまじないは、かつて中国ではどこでもみられたほど広まっていたものでした。


「天黄地黄」(ティエンホゥアン・ティーホゥアン)の出だしは、「天皇皇、地皇皇」」(ティエンホゥアンホゥアン・ティーホゥアンホゥアン)の出だしで始まることが多いです。


天皇皇地皇皇    天皇皇地皇皇

我家有个夜哭郎   うちには夜泣きの男の子 

来往君子念三遍   往来の君子様三回読み上げてくだされ

一觉睡到出太阳   さすればお日様出るまでやすらかに



などという文句が一般的だと思います。

夜泣きで寝付けない子供をあやしつつ、お母さんかお父さんが墨をすってまじないを書き、誰もいない夜道に出て、こっそり家の前の電信柱や壁に貼っておきます。


通りすがりの人の力を借りて、夜泣きを鎮めるという観念が面白いです。


通りすがりの君子様は、ときどき頼りになる存在です。


たとえば、雲南省の大理地方では、ペー族や漢族子供が病弱だと、朝早く橋のたもとに行き、最初に橋を渡った人に仮の親になってもらい、子供の健康を守護してもらう人になってもらいます。子供の名前に「橋」の一字をつけ、たとえば張橋貴などと命名します。橋や大樹や神に親代わりとしての保護を頼む意味もあり、これを「寄名」(チーミン)というのです。