「毛虫の嫁入り」



明末の城壁が残る古い街、重慶市の四川境近くにある路孔鎮の民家のなかに、珍しいお札を発見しました。



家内に貼るお札でよくある紅紙を十字に組み合わせ、その中心には「雨」かんむりに、「斬」の字が組み合わされた呪字が書いてあります。十字型に次のような文句があります。



「仏生四月八 毛虫今日嫁 嫁至青山去 永世不回家」



「仏の誕生日の四月八日、毛虫は今日お嫁入り、青山にお嫁に行きます。永遠に帰って来なさるな」 



中国ではキツネの嫁入り、ネズミの嫁入りなどのお話しや版画はよく知られているのですが、「毛虫の嫁入り」というのはちよっと面白い習俗です。



でも、その内容はあきらかに、毛虫が大量発生する旧暦四月、毛虫を山のあなたの空遠くに追い払おうという、そういう呪法を記したものだったのでした。



「そうそう、毛虫除けのお札ですよ」



とお家の方もいっていました。



旧暦四月八日を仏陀の誕生日とし、中国では浴仏、日本では花祭りの行事などで知られています。



じつは毛虫の嫁入りに関しては、稲畑耕一郎氏の論文、「習俗と歌謡からみた中国基層文化の地域性と普遍性」(『アジア地域文化学の発展』雄山閣出版、2006年:233-276)に、地方志の記事の悉皆調査の結果が掲載されています。現在の四川省のみならず、重慶市、北は陝西、東は湖北・湖南にまで広がっているということで、現在は四川のみかもしれないが、かつてはより広い分布であったことを稲畑耕一郎氏は注意を促されています(247頁)。


それにしてもこの種の実物の御札を見ることができたのはやはり僥倖としかいいようがありません。