前回は、タイムトラベルと重力のかかわりについて情報を集めてみました。

そうすると、無限大の重力をもつブラックホールの話が出てきます。

 

でも、タイムトラベルのためにホンモノのブラックホールまで行って、しかも中に入ってみるなんてのはイヤですよね。

仮に、近所にブラックホールがあったとして、

光も出てこれない無限の重力の穴に落ちてみたい人はいないでしょう。

 

ところが、無傷で通過できそうなブラックホールもあるんだそうです。

 

それは、回転するブラックホール。

カー・ブラックホールと呼ばれてます。

 

理論から予言されたブラックホール
ブラックホール(この名称は1960年代初頭に定着)の本格的な研究は、100年以上前にアインシュタインが一般相対性理論を発表したわずか2ヶ月後から始まったようです。

当時の天体物理学者カール・シュヴァルツシルトが、相対性理論を普通の重さの星に当てはめてみたところ、天体の中心から特定の距離だけ離れた位置に理論が成り立たなくなる場所(特異点)があることがわかりました。

その後、この特異点は「特定の距離(シュワルツシルト半径と呼ぶ)より、星の半径の方が大きければ問題ない」ことがわかったそうです。
しかし、星の半径がシュワルツシルト半径を下回った場合の問題は解決されませんでした。

そして、シュワルツシルト半径を下回るほど圧縮された星は、重力が無限大になることから「重力の特異点」と呼ばれました。

 

 

アインシュタイン自身はこの特異点について、「あくまで理論的な計算の結果出てきたもので、実在するものとは無関係である」と判断し、そのの存在を否定したそうです。

その後、球対称な天体の重力崩壊によって、地平面をともなうブラックホールができることを論じたオッペンハイマーとスナイダーの研究があり、
特異点形成をともなうこのような重力崩壊が実際に起こるかどうか、長い間論争が続いたんですね。

そして、1965年に数学専攻のペンローズが、
球対称性というこれまでの仮定を外し、エネルギー密度が正であること、重力崩壊によって、光さえ外向きに進めなくなる捕捉面(trapped surface)が現れることを仮定し、その内側には曲率や物理量が発散する時空の特異点ができることを証明したそうです。

その背景には1960年代初頭のクェーサーの発見により、重力崩壊が実際に起こり、コンパクト天体が形成されているのではないか、との観測的機運があったようです。

 


これらの研究が、現在のブラックホールの発見につながるようですが、
考えてみれば、ロケットも電波望遠鏡もない100年前の机上の理論が、実際のブラックホールを予言したわけですから驚きです。

 

無傷で通過できるブラックホール
アインシュタインの相対性理論から特異点を導き出したシュヴァルツシルトのブラックホールは、
特異点が中心にあり、その周囲は強い重力によって時空がゆがめられ、中心からある距離以内に入ると光でさえも抜け出すことのできない「事象の地平面」に囲まれています。

そして、ここに落ち込むとスパゲッティのように引き延ばされてしまうそうです。

シュヴァルツシルト以外にも、ニュージーランド出身の物理数学者ロイ・カーにより発見されたカー解(一般相対性理論から発見)により表現されるブラックホールがあります。
これは、回転するブラックホールで特異点がリング状になっています。

カー・ブラックホールの内部構造はシュバルツシルト・ブラックホールと違い、事象の地平面の内側に内部地平面があります。

事象の地平面の外側には、時空の歪みが渦のようにブラックホールを取り巻いています。
これをエルゴ領域と言います。

エルゴ領域の内側にある事象の地平面に入った物体は、ブラックホールの中心に向かって落ちていきます。
次に、内部地平面より内側に入ると大きな遠心力が働くため、物体は中心へ向かわずにクルクルと回転するそうです。
しかし、内部地平面の外側にもどることはできません。

 

無事に通過できることを検証してみた

米マサチューセッツ大学ダートマス校のキャロライン・マラリー博士とガウラフ・カンナ博士、
そしてジョージア・グウィネット大学のリオール・M・ブルコー博士らは、
カー・ブラックホールならば、宇宙船が特異点のリングを避けてその中心に突入し、無事通過できるのではないかと考えたそうです。

SF映画「インターステラー」(ノーベル賞受賞者のキップ・ソーン博士が監修)に登場する「ガルガンチュア」という名の巨大な回転するカー・ブラックホールに、実際に宇宙船が入ったらどうなるのか確かめたかったようです。
そして、実際にその様子をスーパーコンピュータでシミュレーションしました。

 

驚いたことに、大質量の回転するブラックホールの特異点は非常に穏やかで「弱く」、宇宙船が安全に通過できることがわかったとのこと。

 

カンナ博士はこの理由を、熱く燃えさかる2,000度のロウソクでも、すばやく指を通過させれば火傷しないことに似ていると説明しているそうです。
(DISCOVERより↓)

このグラフは、回転するブラックホールに突入する際に、宇宙船の金属フレームにかかる物理的なひずみを表したものだそうです。
これは突入の最終段階を拡大して表示しています。
重要なのは、ブラックホールに近づくにつれ、ひずみは急激に増加するんですが、無限に増加するわけではないことです。
そのため、宇宙船と乗組員は生き延びることができるかもしれませんね。

 

 

すぐそこを通過している極小ブラックホール
無傷で通過できるブラックホールまで行くには、近くても数千光年を旅する必要がありそうです。
しかし、すぐそこを極小ブラックホールが毎日通過しているという理論が10年ほど前に発表されてたんですね。

この極小ブラックホールは原子より小さく、およそ乗用車1000台分もの質量があるそうです。

極小ブラックホールは、宇宙誕生直後に極めて高密度な物質が宇宙に拡散し、冷却されるにつれ、大量に形成されたと考えられているそうです。

論文では、極小ブラックホールが粒子を引き寄せた場合、粒子は事象の地平線より離れた軌道上でブラックホールを周回し、吸収されない可能性が最も高いとのこと。
ごく稀に原子や分子が極小ブラックホールに接近し、吸い込まれるかもしれないが、
極小ブラックホールが地球のすべての原子をのみ込むには、宇宙の年齢よりもはるかに長い時間がかかるそうです。

 


2008年の欧州合同素粒子原子核研究機構(CERN)の「ミニブラックホール生成実験」が、地球を飲み込むのではとインターネットで話題になったんですが、まだ生成されたという報告はないようです。

 

 

さて、ミニブラックホールができたとして、残念ながらこれがタイムマシンに使えるようになるかどうかはわかりません。