久々です。読むには読んだけど、いろいろ考えて、書こうとすることが増えすぎて面倒臭くなって、結局書かないまま時間が過ぎていくパターンに陥りました、端的に言うとMMTです。まぁ、未だによくわからないので、書くに書けないということもあるのですけど。

あと、読むには読んだけど、あまりにもつまらなかったというパターンもあります。いや、文句の一つも言いたくなるような酷い本だと、それはそれで「これだけ酷い」などと書けるのだけど、それすらない。なんか時間の無駄のような本、たまにそういう本もあるんですよね。

ついでに、暑くて読むのも書くのも考えるのも効率が全然上がらない....。

それはさておき、今回の本です。

エミン・ユマルズ,2023, 『世界インフレ時代の経済指標』, かんき出版.


前回読んで書評を書いた本はちょっと酷かったけど、というかかなり酷かったけど、今回は経済指標の基礎に関する本で著者の自己主張は弱めなので、まぁ、わかりやすい部類かと思います(それでもクセはありますけど)。若干、日本語が変なところがあり、それについては「編集は校正の仕事をしているのか?」と思ってしまいましたが(多少の誤字はまぁ、見落としということもあるけど、ちょっと日本語の表現がおかしいところがあった....)、全体としてはプラス評価でしょうか。

基本的に3章までをしっかり読んで理解すればOKな本で、4章と5章はついでに読む程度、6章はどこかで聞いたような話というか、ここ数年、いろんな経済評論家とかエコノミストが書いてきたのと似たような話なので読まなくてもいいかな、という感じです。というか、4章は個別企業の動向から景気を判断出来ると言っているのですが、なんか中途半端な四季報の読み方紹介という感じでしょうか。経済指標と同じように、四季報の読み方でちゃんと1冊本を書いた方がよいかと思います。四季報は読みこなすまで時間がかかるから、適切な読み方を紹介した本は結構ニーズがありそうな気がするんですけどね。5章は商品先物ですね。まぁ、一応、これまでも商品先物ETFの数字くらいは見ていたので(とりあえず、原油、銅、小麦、大豆を見ていますが、買ってはいません)、そういうこともやっておきましょうということじゃないかなと思います。別にETFでなくてもよいのですが、ちょっと見る分には見やすいですからね。

経済指標は、継続的に追っかけた方がよいのだけど、とにかく数が多いので、継続的な把握はなかなか大変です。なので、アメリカの12の経済指標に絞り込んで、とりあえずそれを理解して使いこなし、なれてきたら増やしていきましょう、ということなのだろうと思います。でもって、「見るならアメリカです」と断言、確かに経済ニュースとかでもアメリカの指標の方が登場回数は多いような気がします。

ただ、読むだけでなく、経済指標をどのように継続的にチェックしていくか、その辺はアバウトな書き方になっています。実践するには、別途お勉強が必要になりそうで、そのためには、他の情報源も必要になるかと思います。最初にこの本を読んで、とりあえずチェックすべき指標を絞り込んで理解したあと、他の情報にあたって具体的に指標の読み方を身につけていく感じでしょうか。少なくともこの1冊で何とかなるわけでないです。

ということで、ちょっと前に買って読んだこの本が比較対象となります。

森永康平, 2022, 『経済指標 読み方がわかる辞典』, 日本実業出版社.

春頃に買った本です。これも悪くないんですけど、ちょっとどうかなという感じです。理由を考えるに

  • 実際、経済指標を追っかけてみると、アメリカの指標に注目することの方が多いが、この本は日本の指標中心となっている。日本の指標の方がわかりやすいけど、どちらかというと、アメリカの指標の方が他の国の指標と言うこともあって、いろいろとわからないことが多いのでアメリカの指標を中心に取り上げてほしいところ(日本の指標はいざとなれば出所に直接アクセスして情報を日本語で入手できますし)。実践的というよりはお勉強で経済指標を読むという感じになっているような気がする。
  • 64の指標を取り上げている。網羅的と言うには少ないが、それでも日常的に経済指標に注意を向けようと思うと64は多すぎる。初心者向けとしては、思い切って12に絞り込んだ方が理解しやすい。あるいは、重要度で、3段階くらいに分けて、かつ指標間の関連を示しておくようなまとめ方もあったのではないか。
  • 辞書形式なので、読むというより引くという感じ。本として読もうとすると、何となく読みにくく感じる。

というところでしょうか。まぁ、辞書よりは情報量が多いので、辞書代わりに使う分には使えるでしょうか。これ以外の書籍も探しているところです。

話を戻して、せっかくなので気がついたこの本の特にメインである2章での問題点を2点あげておきます。

第一に、説明が雑だと思われるところがいくつかあります。一番雑だと思うのが、43ページで、PMIとISMは同じものだと書かれています。「いや、違うだろ」と思ってまた調べる羽目になりました。いや、この2つの混同って多いみたいですね。まず、それぞれの略語を正式名称と訳を調べると

 

略称 正式名称 日本語訳
PMI Purchasing Managers' Index 購買担当者景気指数
ISM Institute for Supply Management 全米供給管理協会


となります(久々のタグ打ち)。PMIは指数の名称で、ISMは組織名ということになります。で、このISMという組織がPMIという指数を発表していれば、PMI=ISMという図式が成り立ちますが、まとめてみると

 

略称 実施組織名 指数名
PMI IHS Markit社 購買担当者景気指数
ISM 全米供給管理協会 製造業景況感指数


ということになります。ただし、ISMの製造業景況感指数のことを

ISM United States Manufacturing Purchasing Managers Index

(ISM製造業PMI)

と表記する場合があるみたいです。訳すと「ISMという組織による製造業の購買担当者景気指数」でしょうか。こうなると、ISMがPMIを発表しているということになってしまいます。つまりは2つの組織がPMIを発表しているというややこしい状況なわけです。。

ということで、この43ページの記述は「2つの組織がPMIを発表しているので、注意してください」とか、「PMIはISMの方を見ましょう」とか書くべきだったのではないでしょうか。

あと、110ページの日銀短観についても、本書では複合指標扱いになっていますが、景況感調査の日銀短観と複合指標であるCI/DIがごっちゃになっている感があります。というか、指標としてのCI/DIと集計方法(分析方法というべきか)としてのDIがあって、それをきっちりと整理しておくべきなのでは....、この点も丁寧な説明がほしいでしょうか。

第二に、指標を絞り込んだことはわかりやすさという点ではOKだと思いますが、その選択というか、登場順というか、重要度というか、その辺には若干問題があるかもしれません。12の指標が五月雨式に出てくる感じで、もう少し整理して示した方がよいのではないか、と思われます。

登場順で言うと

(前略)
3 小売売上高
4 GDP
5 個人所得・支出
(中略)
12 CPI(消費者物価指数)

となっていますけど、3と5と12は345と連続させてもよかったのでは、というか、なんでCPIが最後の最後に登場するのか、この並びは謎です。

また、11番目に新規住宅許可件数ですが、確かに「裾野が広い」つまり関連業種が多くて住宅建築の増減が多くの業種に影響を与えることはわかります。ただ、ふたつあって、

  1. アメリカの住宅に関して言うと、新築より中古住宅の方が圧倒的に市場規模が大きいといわれています。なので、ネットでも本でもたいていは「住宅統計は新築より中古の方が重要」と書いてあります。確かに新築だと裾野は広いけど、中古住宅でも家具家電の売り上げには影響するし、損害保険とか修繕というかリフォームのような需要も出てきます。住宅を指標にするなら、新築と同時に中古の方も取り上げておいた方がよいと思いますが、完全に無視しています。
  2. 裾野の広さというなら、住宅よりも自動車の方が裾野が広いかもしれません。少なくとも日本では自動車の方が裾野が広いです(自動車の場合、中古車だと裾野が広くありませんが....)。まぁ、アメリカ車なので日本と状況は違うのかも知れませんが、なんで自動車ではなく住宅なのか、その辺は示しておいた方がよかったのかもしれません(まぁ、毎月の経済指標の一覧に、日本では新車販売が入っているのに、アメリカでは入っていないので、アメリカでは重要が低いということは何となく想像できますが....)。

問題点だと思うのは以上の2点です。まぁ、経済指標を定点観察したい場合に、とりあえず本書に従って登場する12の指標(というか、本書に出てくる指標を足しあげると、実際には30くらいにはなりますけど)を追いかけていくというのは、悪くはないです。ただ、かゆいところに微妙に手が届かない感じが残るので、この1冊ではなく、別途数冊は読んだ方がよいかもしれません。