なんかよくわからないタイトルをつけてしまいましたが、先日、「何でもデジタルにすればいいってものじゃない」って書いたので、それの話です。といっても、考えの整理ぐらいの内容です。整理なので、後日内容を修正することもあります。というか、文章にして考えを整理するという目的なので、長期的にはボケ予防の一環なので、随時更新で修正していきます(気が向いたら、ですけど)。

さて本題、コロナの話から始めると、去年の今頃はまだワクチンもなく、「何人が感染した」とか「どこで感染した」とか「濃厚接触者がどこで何人」とか、そういう情報収集がメインの時期でした。で、各国がネット技術を駆使してデジタルで情報管理をする中、「日本は未だに電話とファックスで情報を集約している」と報道されました。おそらくは、「日本はアナログ(と書いて”時代遅れ”と読ませたいのでしょうね)で対処している」ということで、「もっとデジタル化して効率的に対処しろ」と主張する記事なのだと思います。

でも、アナログで対処するって悪いことなのでしょうか。デジタルだから効率的に対処できるのでしょうか。つまり、

アナログ=非効率で時代遅れ
デジタル=効率的

と言う図式は本当に正しいでしょうか。アナログでも時代のニーズに即していることもあるし、効率よく処理できることもあるかもしれません。デジタルだから必ず効率的というのは、短絡的過ぎます。

結論から言うと、

1.アナログの方が、使い手の能力やスキルが要求される
2.デジタル技術が使えず、アナログで対処せざる得ない状況の時にどうするの?
3.効率性と信頼性は別
4.デジタルよりすごいアナログが存在する(これはおまけ)

の4点。もちろん、デジタルを否定するわけではないし、実際、BASICの時代からPCをいじくり回していたりするわけです。親のワクチン予約も、アナログ(電話)ではなくデジタル(PCでのネット予約)で取りましたし、プライム詐欺に用心しつつも、通販を利用しています。支払いもEDYとWAON、あと交通系カードを何種類かは持っている程度には、デジタル化しています。

でも、何でもかんでもデジタルかすればよいというものではないよ、という意味で、ちょっと今の趨勢を、頭の中にあるいくつかの例を挙げながら、考えてみたいと思います。まぁ、「こういう事例から、私はこう考えます」という思考パターンです(コロナとは関係ない事例ですけど)。

1.アナログの方が、使い手の能力やスキルが要求される

 

※太字と下線を使ってみました。ダグを使わなくてもできるんだ、と関心。

 

最初の例は、工作機械の話です。最近はNC旋盤とか電子制御の工作機械が中心となっています。NCというのは数値制御、つまりデータを打ち込んでデータ通りに鉄を削る機械です。要するにデジタル機器です。それに対して、昔ながらの職人が使用するのが、旋盤なら汎用旋盤になります。これは基本的に手で操作して鉄を削ります(つまりアナログ)。優秀な職人さんは、この汎用旋盤でNC旋盤と同じ精度、場合によってはそれ以上の精度で鉄を削るのだそうです。

この汎用旋盤を使いこなすには、最低でも3年はかかるといわれています(とりあえず売り物になるレベルを作るのに、その年数がかかるということです)。一方のNC旋盤は半年もあれば誰でも使いこなせると聞きました。誰でも短期間で鉄を削れるという点では、NC旋盤の方が優れているかもしれません。しかし、複雑なものはNC旋盤では削ることができず、職人の手作業に頼らざる得ないといいます。ロケットの先端部分は、機械に任せることができずに職人が手で磨いているといいます(旋盤ではなく研磨作業ですけどね)。つまり、アナログを使いこなすには、使い手側にそれなりのレベルが求められるのです。そして、NC旋盤の使い手より、汎用旋盤の使い手の方が高い技術水準(ここで言う技術水準は、テクノロジーではなくスキルのこと)を求められるわけです。もちろん、単純な作業であれば、NC旋盤に放り込んでおけば、機械が勝手にやってくれるので、大量生産ではNCに軍配が上がります。しかし、試作品や一点ものを作る場合、必ずしもNC旋盤が適しているとはいえないのです。この話を聞いたのは20年ほど前なので、今ではNC工作機械のレベルも当時よりも上がっているとは思います。それでも、工作機械についていえば、デジタル(つまりNC)がアナログ(手作業で操作する汎用機械)よりすぐれているわけではなく、使い手でいえばアナログの方が優れているのかもしれまいのです。

似た例を挙げましょう。今ではCADやCAMも一般的になっていますが、20~30年ほど前は、海外に比べて日本での普及は遅れていると言われていました。CADというのはデジタルで設計図を作成するソフトウェア、CAMはCADで作成した設計図のデータをそのまま製作の機械(NCになるのかな)に入れ込むシステムだと簡単に理解しておいてください(詳しく言い始めると際限がなくなります)。そして、日本ではこのCADやCAMの導入が遅れた理由について、ある人が説明してくれました。

「アメリカでは、工員が設計図通りに作る。だから設計図が間違っていると、そのまま失敗作ができあがってくる。だから、設計図から製造までちゃんと管理する必要がある。ところが日本では、設計図に間違いがあると生産現場の職人がそれに気づいて、現場で修正してしまう。だから、設計図が間違っていてもちゃんとした製品ができてしまう。日本では現場が優秀だから、逆にCADとかCAMの導入が遅れた」

ということらしいです。この話は、現場(アナログの使い手)が優秀だとデジタルでなくてもちゃんと機能することを示しています。先ほどの話に戻って、コロナ感染者の数字のやりとりについても、アナログで対処できているのは、現場がそれなりに優秀であることを示していると解釈することだってできるわけです。

 

ちなみにですが、上の話はもう20年前になるでしょうか、大学の実習で町工場のヒアリングをしたときに見聞きした話がベースになっています。鉄工所や繊維工場などをまわったのですが、尋ねた先がボロボロの民家で、よれよれの服をだらしなく着たオヤジが奥からのそっと出てきた時は、さすがにハズレの話しか聞けないと思ったのですが、話を聞いていると実はすごい技術の持ち主だったとか、教授といっしょに話を聞きに行ったら、相手がひたすら「先生、うちの工場は大丈夫でしょうか」と教授に尋ねまくり、肝心な話が聞けず(でも、大企業が試作品を発注するような腕のある工場で、新入社員にも汎用旋盤を使わせ、取引先との付き合いで買ったNC旋盤が「使えない(試作用の複雑な加工ができないという意味で)」という理由で工場の隅でホコリをかぶっているような会社だということは聞き出せました)に教授が閉口していたりと、なかなかおもしろい経験でした。

 

あと、旋盤とか工作機械については、小関智弘という人の本が参考になるでしょうか(ちょっと古いけど)。現役旋盤工(当時)で兼業作家という人物です。代表作は『粋な旋盤工』ですが、知識を得るなら『鉄を削る 町工場の技術』の方がよいかもしれません。あと、『町工場・スーパーなものづくり』も持っていたはずなのですが、見あたらない。あと、学者では、関満博という経済学者(なのかな?)の著書も参考になると思います。テーマ設定で書評というのも作ったので、いつかこの本についても書くかもしれません(読み直さないといけないので、書くのに時間がかかりますけど)。