ザ・クレーター オリジナル版に見る手塚治虫の世界 | よもやま雑記噺

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以前、自分が最も好きな漫画という事で手塚治虫先生のブラック・ジャックに関する記事をアップ致しました。


その記事内でも触れた事ではありますが、最近、とみに眼にする機会が増えたなと感じるのが所謂、雑誌掲載オリジナル版の刊行というものです。

復刊ドットコムさんからも8月下旬の発売という事で只今、1969年の少年チャンピオン創刊と共に連載スタートした、手塚治虫先生の傑作異色短編集 ザ・クレーターの予約が行われております。


ザ・クレーターは1969年の少年チャンピオン創刊から全16話が連載されました。まだその時は少年チャンピオンは週刊化されておらず、その為か各話のボリュームが高く非常に読み応えのある作品です。内容的にはサスペンス調のものから、ホラー的要素の高いもの、コミカルチックなものや社会性の強いものなど多岐に渡っていて、今読んでも52年前の作品とは思えぬ新鮮さを感じる事が出来ます。

ザ・クレーターは連載終了後の1970年に少年チャンピオンコミックスとして、全2巻が刊行されましたが、頁数の制約などから掲載順番が入れ替えられたり、また掲載自体が見送られたエピソードも幾つかありました。ですが後年、秋田書店から発売された愛蔵版の発売に合わせ、そうしたエピソードに加え、1972年と1973年に単発で週刊少年チャンピオンに掲載された、ぬしと海の姉弟も合わせて収録されました。

90年代以降に発売された、秋田文庫は、この愛蔵版を底本として文庫化された物なので、この収録順番に手塚治虫先生自身が関わっておられたかまでは分かりませんが、連載第2話の八角形の館が第2巻に収録されていることなどから最初に刊行された単行本の意匠が意識されていた事は明確に感じられます。

今回、復刊ドットコムさんから発売されるオリジナル版は雑誌掲載の順番に合わせた上でより雑誌掲載時の雰囲気を感じられる様、タイトルロゴやサブタイトルも掲載時に準拠するような形になるようです。




これは今から15年以上前に集めた雑誌掲載の切り抜きをスクラップしたものですが、第1話から第3話までを見ても非常に内容が濃密なのが分かります。今回のオリジナル版刊行の売りの1つに連載当時にあった次回予告の完全収録があります。

この次回予告は本編のコマの中に組み込まれた例もあれば


本編のコマの外側の枠に文章のみが記される例や


別頁に記される例等があります。


今回のオリジナル版の次回予告がどのように掲載されるかは分かりませんが、是非とも雑誌掲載時と同様な収録を期待したいですね。とは言え、雑誌掲載時に本編に割り込む形で広告が入る場合があります。



こうしたものは大抵、単行本化される際にコマ割りなどの修正が加えられるので、問題はないのですが、オリジナル版を冠する以上はオリジナルの形を残した刊行を望みます。

そうした際に参考になるのが、やはり復刊ドットコムさんから発売された、奇子オリジナル版でしょうか。

出典 著者・手塚治虫 作品名・奇子

出版社 復刊ドットコム 奇子オリジナル版



奇子も雑誌掲載時と単行本化された時とで、クライマックスに違いが生じていることは有名です。雑誌掲載時、最終話の最後には次回予告として新連載される、ばるぼらの予告カットが入っていましたが、この奇子オリジナル版はこの予告カットの部分を敢えて白紙にし注意書きとして、この部分には次作予告カットが記載されていましたとの注意書きが入っていました。修正されたコマ割りを楽しむのも一興ですが、敢えてオリジナルのコマ割りに拘るのもまた一興と思えるのは自分だけでしょうか?(笑)。

また雑誌掲載時に気になる点として挙げられるのが第1話、第2話の扉絵裏の1頁目の扱いです。



愛蔵版が発売された時、これらの頁はカラー掲載されています。これをカラーで掲載するか、雑誌掲載時と同じモノクロにするかで雰囲気は随分変わるかもしれません。

台詞の中には今では差別用語として使用が躊躇われる表現もいくつかあるので完全に当時のままとまでは行かないかもしれませんね。


出典 著者・手塚治虫 作品名・ザ・クレーター

出版社 秋田書店・少年チャンピオン掲載



スクラッチ半ばにして、キングジムさんのB5サイズの100ポケットクリアファイルの製造が中止されてしまったので、何とも中途半端な形になってしまっているのが歯痒いです💦😵。

ブラック・ジャックの記事にも書きましたが、雑誌掲載時の作品こそが作者が限られた時間内で最大限にメッセージを詰め込んだ最良のものだと思っています。後に加筆されたものを完全版とするならば、完成途上のオリジナル版と読み比べが出来れば、こんな楽しい事は無いと思っています。