葵上に先立たれた光の君のその後が書いてあるのですが、その前に、「情(なさけ)」や召人についての説明を大野/丸谷談話から孫引きしているうちに、すっかり脇道にそれてしまいました。

 

今度こそ続きです。

 

Visa källbilden

 

傷心の光君は左大臣の家に閉じこもってなげいている。

当時の貴族はよく泣きますね。精神的に動揺すると涙をながし、袖を濡らしています。

 

昔からの悪友、頭中将は葵の兄ですので、彼も、昔話などして何かと光君を慰める。

中でも、二人で大立ち回りをした典侍(ないしのすけ)のおばば殿のことがきまって笑い話になっていた。でも、いろいろ他のことも話しているうちに、人の世のはかなさを語り合い、つい泣いてしまう。

 

なぐさめても、なぐさめきれない。「夫婦とは不思議なものよ、と中将は思う。生きているときにはそれほど愛情を持っていたとは思えなかった。いろいろなしがらみがあって、葵上から離れられないのだろ、気の毒にと思っていた。けれど、本当にたいせつな正妻として、格別に重んじていたらしいと気づかされ、中将は今更ながら妹の死が無念だった」

このほか、周りのいろいろな人たちの反応が書いてあります。

中でも、中将の君という女房は、前からずっと光君と内々で関係を持っていたが、葵上の喪中にあって、光君はそんなそぶりも微塵にもださない。云々。この人、「召人」だったんですね。大野さんたちの解説がなければ、全然分からなかった(と、昔の人のスキャンダルが好きな私は面白がっている)。

 

さて、四十九日も過ぎたころ、光君は桐壺院を訪ね、その日は久しぶりに二条院の方に泊まる。左大臣家では光君に見捨てられるのではないかと、心配だ(当時は婿入り婚だったので、お嫁さんが消えてしまうと、お婿さんは義実家を捨ててしまうことが多々あったという)。

二条院に戻ると、ここではみな華やかに着飾って迎えてくれる。

紫の君もすっかり成長して、可憐に着飾っている。

「紫の君は何もかも理想的に育ち、女性として、みごとに一人前に思えるので、そろそろ男女の契りを結んでも問題ないのではないかと思った光君は、結婚を匂わすようなことをあれこれと話してみるが、紫の姫君はさっぱりわからない様子である。」

 

そしてある朝。

「いったい何があったのか、いつもいっしょにいる二人なので、はた目にはいつから夫婦という関係になったのかわからないのではあるが、男君が先に起きたのに、女君はいっこうに起きてこない朝がある。」

紫式部、人が悪い。こんな大事なことを、さらっと、この2-3行で書いてしまうので、こちらは、えっ、えっ、何が起きたの、となるじゃない。

光君ははつらつと、起きて、硯箱を几帳の中に差し入れて出かけてしまう。

女君があとで見ると、枕元に引き結んだ手紙がある。

「あやなくも隔てけるかな夜をかさねさすがに慣れし夜の衣を(どうして今まで夜をともにしなかったのかわからない。幾夜も幾夜も夜の衣をともにしてきた私たちなのに)

とさらりと書いてある。光君が、あんなことをするような頃を持っていると紫の君は今まで思いもしなかった。あんないやらしい人をどうして疑うことなく信じ切ってきたのかと、情ない気持ちでいっぱいになる」

そりゃあ今まで父親のように思っていた人に、強姦に近いようなかたちで犯されたら、怒るわー。光君はその後戻ってきて、『気分が悪いそうだけれど、どんな具合ですか。今日は碁も打たないで、退屈だなあ』などとうそぶいている。

光君は今や紫の君が愛らしくて仕方がない。宮中に参上しているときも、心ここにあらず、の状態だ。、

そして朧月夜や六条御息所など、他の女性たちの消息が簡単に書かれている。しかし光君は紫の君を妻に娶って腰を据えようか、などと考えている。

 

そして、新年を迎える。

光君は久しぶりに左大臣の所を訪れ、皆に挨拶をした後、夫婦の寝室だった部屋に入る。息子の若君もすっかり大きくなっている。目元、口元が、東宮にそっくりで、人が見て不審に思わないかと光君は不安になる。部屋の中は以前と変わらず、衣桁に掛けられた光君の装束も、依然と同じく伸長してあるのに、その隣に女君の装束がないのが、いかにもさみしい光景である。

ちょっと気になるのが、紫の君がいつご機嫌を戻したのかが書いてないことです。

もうちょっと先の須磨や明石の巻のあたりでは、すっかり落ち着いて、貫禄があり、夫が須磨に退去せざるを得なくなった時、彼の財産を全部任されてかんりすることになる。堂々たるもの。

 

この巻の描写は、まだいろいろあるのですが、実によくできています。

大野/丸谷さんたちは、ここまでの式部の筆はギクシャクしているのだが、この辺から、油がのってきて、多分、書きなれてきたのだろう、とおっしゃってます。

 

源氏物語、長いです。

人によっては(例えばあっちゃんこと田中敦彦など)は漫画などで、簡単に筋を読んでから取り掛かるといい、と言っていますが、そうすると、原文(もっとも私は現代語訳ですが)読んだ時のドキっとすることがなくなります。

私は今の所3分の1ぐらいまでしか進んでませんが、今後ものんびりと、先ず現代語訳を読んで、それに合わせて解説本を読んでいこうと思います。

いつかは原文を読めるようになりたいです。