ドラマ『マジすか学園5』(2015) | 勝手にシドバレット(1985-1995のロック、etc.)

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 先ごろ終了したAKB48主演のドラマ『マジすか学園5』をようやく見ることができました。ヤンキー女子高生たちの抗争と友情を描いたシリーズの第5弾です。
 1作目はAKBが全国的な知名度を得ていった時期、2作目はトップ・アイドル・グループの座を手に入れた時期、3作目は前田敦子卒業後の次世代メンバー、そこから少し間を置いた4作目はさらにその次世代トップを巡る抗争と、その時々のAKBの事情が設定に反映されています。

 今回の5作目はそれまでと大きく趣向を変えて、ヤクザやチャイニーズ・マフィアとの対決がメインになっています。作品のタッチも今まであったコミカルさを封印し、本格的なバイオレンス描写を盛り込んだハードなものに変わりました。AKBのメンバーもバンバン殺されていきます。
 私なりに例えると、シリーズの基盤を作った1作目はショーン・コネリーの007。拡大路線で展開がハデな2作目はロジャー・ムーア。役者が新人すぎて覚束ない3作目はジョージ・レーゼンビー。ひたすら明快に格闘アクションを繰り広げる4作目はピアース・ブロスナン。そしてシリアスなムードの5作目がダニエル・クレイグ、といった感じでしょうか。
 ダニエル・クレイグの『007/スカイフォール』は素晴らしい映画でしたが、007はもっとお屠蘇気分で気楽に見て盛り上がりたい、という声もよくわかります。この『マジすか』シリーズにも同じようなことが言えると思います。

 5作目を見始めて、前半の数回で抑えた色調の画面に登場するヤクザたちの描き方に北野武の映画を連想しました。それが終盤に近づくと、「なんだ、サム・ペキンパーをやりたかったのか」に変わりました。『ワイルド・バンチ』ばりに並んで死地に赴く少女たち、『ゲッタウェイ』や『戦争のはらわた』ばりのスローモーションで血しぶきをあげて斃れる少女たち。
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 結果的には往年の映画のいろいろなガン・アクションをオマージュしたクライマックスもおもしろく、私にはこの5作目はAKB版ペキンパーという印象が強いです。ラストもアメリカン・ニュー・シネマ的でした。

 演出はかなり良かったと思います。脚本があれこれ複数のグループに手を広げすぎて収拾つかなくなった後半も、個人のキャラクターを行動に反映させながら陰翳のあるドラマを作っていました。
 この陰翳がアイドルにふさわしいのかどうかは別としても、普段はおっとりと可愛い谷口めぐからイライラとして爆発寸前の狂暴性を引きだした手腕は見事です。田野優花の小柄で引き締まった身体を活かした動かし方も良かった。彼女たちの所属する矢場久根女子商業高校のチームは総じて見ごたえがありました。
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 ヤクザやチャイニーズ・マフィアとの対決という設定には否定的な声もあるようですが、ヤンキー女子高生を本物の暴力と対峙させるアイデアは悪くないと思います。
 『マジすか学園』シリーズは、本質的にはモラトリアムの青春ドラマです。ガラの悪い言動でいきがったり強さや独立心を誇示しているものの、彼女たちは社会から隔離されたムラの中で競い合っている子供であり、そこに流れるのは楽しい子供の時間なのです。5作目はこの枠を壊して、学校の中でテッペンを争っている彼女たちを外に出すために、社会に潜む本物の暴力を持ち込んだのでしょう。
 ムラの外に出たヤンキー軍団は無力です。刑事の取り調べにも敬語で答えますし、仲間たちは次々と現実の暴力の前に非業の死を遂げていきます。AKB立ち上げから十周年という年にこの無力さを描いたあたりに、グループの危機感とともに冷静な客観性が残っていることを窺わせました。この5作目は単体ではユニークな一編と評価してよいでしょう。

 問題なのは、前作からの繋がりを中途半端に処理してしまったことで、とくに4作目のラストでの宮脇咲良の悲痛な叫び「道を開けろよ!」がなかったかのように、みんな仲良しの状態から始まるのは呆れてしまいました。いっそのこと、すべてをリセットして完全に新しいものとしてスタートしたほうが良かったのではないでしょうか。
 また、中盤でドラマに緊張感をもたらしたリリー・フランキー、それにAKBメンバーのお父さんたちが涙して喜んだであろう団時朗(私の世代にとっては団次郎、いや、郷秀樹!)などの助演陣の話が、なんともあっけない結末を迎えるのもズサンすぎる脚本です。それにともない、せっかく肝の太い存在感を見せた松井珠理奈もお粗末な幕引きをはたしました。
 どうも制作者には、人を驚かすことは大好きだが風呂敷を広げすぎて手がまわらなくなる性質があるようです。驚かしてくれたぶんは確実に面白かったです。いっぽうで、こんな殺伐としたドラマを見たいんじゃない!という人の気持ちも私はわかります。

 この次はHKTと氣志團が共演する番外編ということなので、そちらはまたコミカルな味に戻るんじゃないかと思います。できれば、そのあとにでも谷口めぐ主演で1シーズン作ってもらえると嬉しいです。

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