勝手にシドバレット(1985-1995のロック、etc.)

勝手にシドバレット(1985-1995のロック、etc.)

ロックを中心とした昔話、新しいアフロ・ポップ、クラシックやジャズやアイドルのことなどを書きます。

 猛烈な暑さと湿気に見舞われて消耗しているので、ロキシー・ミュージックの話をします。
 私の場合、涼しくても寒くてもポカポカ陽気でもロキシーについて語りたいのですが、このご時世だとロキハラ(ロキシー・ハラスメント)とか言われかねないので、なるべく慎んでいます。が、3年前の7月下旬に出版された『ロキシー・ミュージック大全』を心の避暑地として読んでいるうちに、また辛抱たまらなくなってきました。我慢できんのです。催すんです。
 というわけで、今回はロキシー・ミュージックのアルバムの個人的なランキングを発表します。さすがに何か視点を設けないとバツが悪いから、現在56歳の私のランキングと、十代だった頃の順位を振り返って並べ、その好みや心境の変化について書いてみます。なにぶんロキシーのこととなると思い入れの蛇口が壊れてしまうので、くれぐれも水浸しにご注意ください。今からロキハラします。

 私は『アヴァロン』にリアルタイムでは乗り遅れた人間です。More Than Thisは爽快な曲だなと感じてはいたのですが、ビデオを見ると変なおじさんが自己陶酔して歌っていたものですから、アルバムは手を出しませんでした。ところが17歳になった1985年に、その変なおじさんがリリースしたソロ・アルバム『ボーイズ・アンド・ガールズ』を聴いて、自分が変な高校生になってしまいました。
 あのLPの購入者にはレコード店で販促物が配られました。ロキシー・ミュージックとブライアン・フェリーのディスコグラフィーです。その中で渋谷陽一が、ロキシーの『ストランデッド』とフェリーの『いつか、どこかで』が好きだと書いていました。それを読んで、廉価版で発売された2枚を買い求め、ますますロキシー/フェリー沼に引きずり込まれたのです。『ストランデッド』の次は『カントリー・ライフ』、その次は『フォー・ユア・プレジャー』といった調子で、大学入試を乗り切ったのが不思議なくらいでした。そんな十代の頃のランキングは現在と異なっています。
 また、ロキシーがファーストから『アヴァロン』までに発表したアルバムは9作で、これだとキリがよくないから1977年の『グレイテスト・ヒッツ』も加えて、10作を対象としました。1983年のコンピレーション『アトランティック・イヤーズ』はちょっと同情したくなる内容なのだけど、ほかで10枚が揃ったので対象としません。
 
 では、10作のランキングを。

1.『グレイテスト・ヒッツ』(昔の私なら8位)
2.『サイレン』(昔の私なら4位)
3.『マニフェスト』(昔の私なら6位)
4.『VIVA!ロキシー・ミュージック』(昔の私なら9位)
5.『カントリー・ライフ』(昔の私なら2位)
6.『アヴァロン』(昔の私なら3位)
7.『フレッシュ・アンド・ブラッド』(昔の私なら10位)
8.『フォー・ユア・プレジャー』(昔の私なら7位)
9.『ストランデッド』(昔の私なら1位)
10.『ロキシー・ミュージック』(昔の私なら5位)


 ・・・すみません。『グレイテスト・ヒッツ』を加えたのは、こういう理由でした。
 それと、この順位の変動は、現在の私が初期のロキシーの評価を下げたという意味ではないです。今でも全部、どれも好き。ただ、最初に聴いてから40年近くたっていますので、「好き」のグラデーションが昔と同じではありません。だいたい『グレイテスト・ヒッツ』が1位なんて出来レースじゃないか!
 でもね。あのコンピレーションは初期から中期にかけての代表曲を手堅くまとめてあって、今聴いてもワクワクするんです。しかもB面1曲目のLove Is The Drugをロキシーの当時の到達点として、その洗練味から遡ってみると、ファースト・シングルのVirginia Plainの奇天烈さにも難なく導かれていきます。ロキシー初期〜中期の概論として有用であり、とりあえずこのコンピレーションで肩慣らしをしておけば、たとえば『アヴァロン』にうっとりしてからファーストを聴いてみて「なんだ、このケッタイな音楽は!」と顔をしかめる心配もありません。
 で、その『グレイテスト・ヒッツ』を1位に持ってきたから、安心して『ストランデッド』あたりを下位にまわすことができたという次第です。

 もう一度、今度はアルバムごとにランキングがどう変動したかを見てみましょう。
『ロキシー・ミュージック』5位→10位
『フォー・ユア・プレジャー』7位→8位
『ストランデッド』1位→9位
『カントリー・ライフ』2位→5位
『サイレン』4位→2位
『VIVA!ロキシー・ミュージック』9位→4位
『グレイテスト・ヒッツ』8位→1位
『マニフェスト』6位→3位
『フレッシュ・アンド・ブラッド』10位→7位
『アヴァロン』3位→6位


 ええと。こうなると『ストランデッド』(1位→9位)の下落が目立つし、『グレイテスト・ヒッツ』の大躍進(8位→1位)は批難を覚悟のうえだし、全体的に『アヴァロン』寄りのアルバムが順位を上げているのがわかります。
 しつこいようですが、これらはべつに「アゲ」「サゲ」とは違っているのです。
 1985年にロキシーに傾倒しだした私には、グラム・ロックは未知に等しいスタイルであって、温故知新して衝撃や刺激を受けました。ニューロマンティックの先祖のようでいて違うと直感しました。その点、『フレッシュ・アンド・ブラッド』には85年か86年のコンテンポラリーなサウンドにまだ近かったのです。そこに驚きは多くありませんでした。エイティーズ少年だった私がロキシー初期の異物感に驚いたのは、日常で聞こえてこない音楽だったからです。時間がたつにつれて、私はその衝撃に馴染んでいきました。「ここではないどこか」だった場所が、徐々に「ここ」へと慣れていったのです。逆に『フレッシュ・アンド・ブラッド』や『マニフェスト』には、年齢や時代の変化とともに惹かれていきました。
 『ストランデッド』は一番思い入れのあるロキシーのアルバムで、なんなら全てのロック・レコードの中でもトップ・クラスに好きなのだけど、もはや別格と言いますか、この種のランキングで他の作品と競わせるのが心苦しいのです。これが1位でもいいし、それは自分には当たり前のことだから、『ストランデッド』さんには退いていただきました。

 ファーストの『ロキシー・ミュージック』(5位→10位)はロック名盤セレクションで選ばれることの多いアルバムです(これか『アヴァロン』)。たしかにエキセントリックで素晴らしい。この『ロキシー・ミュージック』が1位でもいいのです。
 しかしロキシーのディスコグラフィーでも突出したユニークさを誇るがゆえに、その部分のみに注目されてもなあ、との気持ちも残ります。昔5位だったのは、私もこういうキテレツさに目がなかったからでして、このアート・スクール流儀のビザール・ポップはこれからも出会う人にインパクトを与え続けるのでしょう。
 けれども、このアルバムはブライアン・フェリーの青くて硬い歌い方を筆頭に、私の好きなロキシー・ミュージック像を微調整して向き合う必要があります。そこにデビュー・アルバムならではの面白さがあるのですが、現在は個人的な10位に置くことにしました。かつての5位というポジションも、『ストランデッド』(昔の1位)や『カントリー・ライフ』(昔の2位)などのアルバムほど好んではいなかったからです。

 『フレッシュ・アンド・ブラッド』(10位→7位)は順位こそ地味目のランク・アップですが、昔これが最下位だったのは、本当にいちばん苦手なアルバムだったからです。光沢はあるけどフニャッとしていて、AORみたいで、こういう”クリスタル族”(80年代半ばでも死語)の好きそうな洗練が嫌いだからロキシーのビザール感に夢中になったのに、と不満でした。もちろんIn The Midnight Hourのカヴァーには心酔したし、Same Old Sceneは最高だと思ったのですが、アルバムとしては受け付けなかったんです。
 それが聴く音楽の幅が広がっていって、AORも楽しめるようになると、ニューウェイヴの手法をソフィスティケートさせた本作のまろやかな味わいに魅了されました。フェリーの感傷が甘さに流れている部分は否めないから、『アヴァロン』より上位に置くことはしませんが、このランク・アップの意味は大きいです。

 『マニフェスト』(6位→3位)はもともと好きだったとはいえ、トップ3に入ったのは祝賀ものです。1位がチートなので、実質は2位。
 昔は『アヴァロン』ほどではないけど『フレッシュ・アンド・ブラッド』より良いと捉えていました。『アヴァロン』の豊かな内実に比べると小粒だと、現在も思います。でもそこがいいのです。『サイレン』でいったん終了したロキシーがニューウェイヴの時代に再始動し、このアルバムを引っさげてシーンに返り咲いたということがスリリング。
 自分たちのキャリアをいたずらにアンチ・エイジングすることなく、若いロック・ファンやミュージシャンに向けて、元祖ニューウェイヴのセンスで、瀟洒なDance Awayやソウル色の濃いMy Little Girl、オーティス・レディング調のCry Cry Cryを繰り出す、その余裕綽々たる姿勢。シビれます。そしてラストのSpin Me Roundで『アヴァロン』の予兆を鳴らします。めちゃくちゃカッコいい。

 『アヴァロン』(3位→6位)。これが1位でもいいのですよ。だってそうでしょ、そりゃそうだもの、『アヴァロン』なんだから。

 このアルバムの終盤、To Turn You OnからTrue To Life、Taraへの流れは絶品で、どんどんせつなくなって、最後は波にのまれて魂が来世へと旅立つかのようであります。

 1位にするかしないかの違いは、美しく綴じられた名著を本棚のどこに置くかの選択に似ています。私はそれを面出しで並べることはしない。3位だろうと6位だろうと、『アヴァロン』は『アヴァロン』です。それでいい。


 で、『サイレン』(4位→2位)は『アヴァロン』ほど完璧ではなくて、締まりの緩い箇所もないわけではないです。フェリーの感傷過多という点では、『フレッシュ・アンド・ブラッド』に通ずる度合いがあると思います。

 なのに『サイレン』の順位がアップして実質的な1位となったのは、色恋の煩悶が知性を覆って人をダメにしてゆく甘美さに満ちているから。それが『ボーイズ・アンド・ガールズ』でフェリーに開眼した私にとってのロキシー・ミュージックの魅力です。
 ロキシーに関するかぎり、今の私はアーティスティックに尖った感性とか、わりとどうでもいいんです。ファーストを10位にしたのは、あれが尖った感性による傑作だからでもあります。ロック的には、それで正しい。でも私は変なおじさんの恋愛講座を受けるようにしてロキシー・ミュージックを聴いてきた人間です。若い頃も『サイレン』を”受講”しました。で、2位というか実質1位の座につきました。

 『フォー・ユア・プレジャー』(7位→8位)はとくに大きな変動なし。じつはこのアルバムは昔より好きになったのです。十代の終わりには、いくつかのゴシック的な色合いを持った曲がしっくり来ませんでした。Do The StrandやEditions Of Youといったロキシー・クラシックは最初から気に入ったものの、リピートする回数が比較的少ないアルバムでした。
 しかし2曲目に収められたBeauty Queenの存在感が自分の中で増してゆき、あれをフェリーのファム・ファタール・コンプレックスの萌芽として認識するようになると、アルバムへの愛聴度も高まりました。順位が落ちたのは、単に『フレッシュ・アンド・ブラッド』などが出世して抜いていったから。まあ、ランキングの数字上はこのへんが妥当でしょう。

 『カントリー・ライフ』(2位→5位)は落ちたとはいえ盤石ですね。たぶん今後も5位から上に入ると思います。

 これだって1位で文句ないアルバムです。エディ・ジョブソンをメンバーに得てロキシーのロマンティシズムが横溢し、それでいて次作『サイレン』ほどメロメロではない、充実しまくった大傑作。勢いと輝度と、隙のある色気が絶妙に同居しているところも最高です。でも個人的には『サイレン』より下位。そこに40年ぶんの思い入れの差があります。

 そしてライヴ盤の『VIVA!ロキシー・ミュージック』(9位→4位)。異なる時期のツアーから集めた、当時の直近作『サイレン』期までのライヴ・アンソロジーです。8曲中6曲がイーノ在籍時代に初出されていましたが、演奏はイーノ脱退後のライヴのみ。昔9位だった頃は、曲目を『サイレン』のツアーにしぼるか、イーノ時代の演奏を入れてほしかったような気がします。とくに約40年前の私はファーストとセカンドの頃のライヴに飢えていたので、『VIVA!』はそこそこに楽しむ程度でした。
 その後、ブートレグで初期のライヴを確認し、イーノを擁する演奏は映像で見たほうが何倍も面白いと感じたのです。そこへいくと『VIVA!』はポスト・プロダクションで別ツアーの音源を巧みに繋ぎ、各曲の音にも統一感を施し、”裏グレイテスト・ヒッツ”的なアングルを加味しつつ、オリジナル・アルバムと同質の作品に仕上げていて、その手腕に舌を巻きます。ブリティッシュな堂々たる演奏にも感銘を受ける、今では私のお気に入りの一枚です。

 今回のランキングは遊びの企画で、ほとんどの順位が入れ替え可能です。下位だからダメなアルバムでは断じてないし、イーノ時代を軽視しているのでもありません。1位に『グレイテスト・ヒッツ』を選んだので、初期に関しては気が楽になったのも大いにあります。
 こうやって約40年の好みの変化を見てみると、さすがに今から40年後(私は96歳・・・)は無理だとしても、また数年してから選びなおすと、ランキングが変わっている可能性もあり得ます。それはそれで面白そうだし、その際は新たなロキハラでお目汚しするかもしれません。前もって、お詫びしておきます。

 今昔の個人ランキング比較、ビートルズや他のバンド/ミュージシャンでも記事になりそうですね。いずれまたやってみます。

(『サイレン』のフォト・セッションより、ジェリー・ホールさんと。いろんなことを物語る写真です。めっちゃ笑顔でパラソルを持ってあげてます。ああ・・・)

 

関連記事:

(↑『カントリー・ライフ』ツアー音源のハーフ・オフィシャル盤について)

 

(↑ロキシーで好きな曲のベスト20)

 

(↑ロキシーとフェリーの全アルバムについて書いた記事。4回にわたる長編のロキハラ)

 

(↑当ブログで最初に書いたフェリーの記事。『アヴァロン』より劣るアルバム。でも私が人生で一番好きなアルバムです)