コチラのブログで何度も紹介しているのですが、オーディブルというAmazonの書籍朗読サービスで、ダン・ブラウンの著作の朗読音声が公開されています。今回紹介する『天使と悪魔』は、ダン・ブラウン氏の一連の著作シリーズであるロバート・ラングドン教授シリーズの第一作です。ダン・ブラウンはそれまで無名の作家であったのが、『ダ・ヴィンチ・コード』で一気に世界的に有名な作家となったワケですが、『ダ・ヴィンチ・コード』はこのロバート・ラングドン教授シリーズの第二作目であり、実は、今回する『天使と悪魔』がこのシリーズの最初の物語となっています(とは言ってもそれぞれの物語は独立しており、前の作品を読まないと次の作品の内容が理解できないということはありません)。

 

 すでに、シリーズ最新作『インフェルノ』はレビューを書いているいるのですが、この『インフェルノ』は人口増加と人類滅亡についての問題がテーマになっています。『インフェルノ』も朗読音声で聴いて「えらいデカいテーマで来たなぁ・・・」と思ったのですが、実は『天使と悪魔』の方は最初から反物質の生成と破壊がテーマになっており、究極の破壊兵器と呼ばれる反物質がテーマになってる時点で「いきなりシリーズの一作目から人類滅亡の危機に立たされていたのか?!」と驚きましたw

 

 まだ、上巻の最初の方しか聴いていないので、全体のストーリーは分からないのですが、内容としては、天才科学者であり、同時に司祭でもあるレオナルド・ヴェトラが反物質の精製に秘密裏に成功した後に殺され、研究所から反物質と反物質の保管装置が盗まれるという内容です。ちなみに、結構の頃され方がエグくて、レオナルド・ヴェトラは自身の研究の成果を秘密に隠しており、研究室を虹彩認証によって、自分と娘のヴィットリア・ヴェトラの目を認識しなければ入室出来ないようにセキュリティ対策を行っていたのですが、殺された時に目をくり抜かれて、持ち出された眼球を使ってセキュリティを突破され反物質とその保管装置が盗み出されます。

 

 で、まあこの天才科学者であるレオナルド・ヴェトラの娘のヴィットリア・ヴェトラと、研究所の所長のマクシミリアン・コーラーと、ラングドンがアレコレと議論を交わすシーンがあるのですが、その中で、「科学技術の進歩こそが人類の未来の希望だ!!人類の未来の成功は我々科学技術者の手に握られている!!」と述べるコーラーに対して、ヴェトラは「科学技術の進歩こそがこの惑星にとっての最大の害悪だ!!」と反論します。本当かは分からないのですが、ヴェトラは「現代の科学技術が解決しようとしている技術の半分は、もとを辿れば、その科学技術そのものが生み出したものだ!!」と述べます。

 

 ちなみに、この議論の面白いのが、その後に出てくるシリーズの4作目の『インフェルノ』では、「人類の人口増加こそが人類に存続にとって最大の問題である」とされている点です。人口増加の要因は根本的には、科学技術の進歩によって大量の人類を養っていけるだけの食料とエネルギーを確保することに成功したことにあり(科学技術の進歩がなければ、食料生産の限界点で人口の増加に歯止めがかかるため)、シリーズを通じて、科学技術の進歩こそが地球と人類にとって最大の問題であるというテーマは一貫して保たれているのです。

 

 つまり、科学技術というのは人類の繁殖の限界と壊滅を技術的に先延ばしにしてきたというワケなんですね。科学技術の進歩が無ければ、人口は土地の生産する食料やエネルギーの規模によって制限され、仮にその限界を超えるような事態になっても飢饉といったカタチで人口数が調整される。しかし、現在では、技術によってその限界が突破され続け、結果として世界人口が本来地球の資源の採取と食料の生産の持続可能な限界を遥かに超えてさらに人口が増加し続けている。つまり、科学技術によって限界や破滅を先延ばしし続ける度により大きな破滅へと舵を切っていたというワケです。

 

 保守思想的な観点からこの問題を考える上で面白いのが、もうすでに限界を遥かに突破してしまっているという点です。科学技術信奉を嫌う保守の立場であっても、当然ながら、現状で科学技術を放棄すれば即座にエネルギー不足と食料不足に陥り破滅することは目に見えている。おまけに、厄介なのが、次の目の前に迫っている破滅もまた技術寄ってしか解決出来ないということです。

 

 この問題に関しては、再度『インフェルノ』のレビューで書きたいと思っているのですが、一例を挙げるなら遺伝子組み換え作物に関してです。もちろん、保守の立場から考えれば、どのような危険が存在するか未知数である遺伝子組み換え作物に関しては、基本的には慎重な立場を取るべきではあるのですが、しかし、同時に人口増加と食料生産の限界がすぐそこまで迫っているとするなら、当然遺伝子組み換えによって良い安価で大量の食糧を生産出来るのであれば、人類の存続(まさにこれこそ究極の保守?)のためにむしろ積極的に遺伝子組み換え作物の生産を推進しなければならないという状況も考えられます。

 

 現在は、もはや人類の存続と科学技術の進歩に関してポイントオブノーリターン(引き返し不能な地点)をとっくに踏み越えており、原子力エネルギーの例を出すまでもなく、すでに科学技術によって生み出されたあらたな問題や災害を、更なる科学技術の進歩によって乗り越えなければならない状況になっているのです。公害、人口増加、テロと監視システム、もっと分かりやすい例で言えばコンピューターウィルスとセキュリティソフトの関係です。さらに今後は、遺伝子操作による新たな弊害、抗生物質に耐性を持った耐性菌、新しいテクノロジーの及ぼす精神的な影響などこれまで直面しなかった新たな問題が科学技術の進歩によってもたらされるでしょう(もしかしたら、宇宙飛行士が宇宙から未知の病原体を持ち帰ってくるかも?w)。

 

 私が思うに、すでに保守思想や保守主義の立場であっても、技術について、特に技術の及ぼす環境的、社会的、精神的影響について無知や無関心であることは許されず、仮にそれらに懐疑的であったとしても、それらの危険性を一定の合理的な説得力をもって論じる必要があります(何しろ、科学技術や技術進歩の放棄は確実な破滅をもたらすワケですから)。その意味で、現代において保守や保守思想を標榜する上で、「ポイントオブノーリターンの時代における保守の在り方」というものについて考え続ける必要があります。

 

 次回以降は『インフェルノ』のレビューでこれらの議論はさらに具体的に掘り下げて論じたいと思います。

 

 

↓応援よろしくお願いします(σ≧∀≦)σイェァ・・・・・----☆★



↓新しい動画投稿しました!!