米朝首脳会談の延期という衝撃的な一報が入るなか、ワシントンD.C.滞在二日目、北朝鮮危機の解決に当たった経験を持つ“当事者”たちと相次いで会談を行いました。
2000年代初めに「六者会合」米国代表を務めたジョセフ・デトラニ大使、昨年まで米国の駐韓大使だったマーク・リッパート元国防長官首席補佐官と再会しました。それぞれ約束の時間を大幅に上回り一時間半以上にわたり、中身の濃い有意義な意見交換を行いました。さらにカーネギー国際平和基金では、英語による講演・質疑応答を行い、危機突破のために安倍総理大臣が果たしてきた大きな役割、金正恩氏の“企み”、習近平氏の野望などについて、ワシントン中の有力シンクタンクから集まった有識者たちに発信しました。

私は、シンガポール首脳会談の延期を表明したトランプ大統領の書簡について、講演の冒頭で次のように述べました。
「米朝首脳会談延期表明の前日に会ったホワイトハウス関係者は『どうやら延期の方向だ。でも再調整する開催日はそれほど遠い未来ではないだろう。六月か七月ではないか』と語っていた。私は、必要な環境が整えられ次第、早期の首脳会談開催を望む。なぜなら、いまこの瞬間も北朝鮮の科学者・研究者たちは核兵器能力増強の研究・開発を休むことなく進めているからだ。私はトランプ大統領の決断に同意する。大統領は来たる米朝首脳会談が生産的なものになるために延期を決めたのだろう。会談は、行うことそれ自体が目的ではない。会談で、あるべき外交的な目標を達成することが目的なのだ」。

ある専門家は書簡を一語づつ解説しながら「この書簡は、実によく考えられた内容と練られた表現だ」と感嘆していました。また、「今回の決断を批判する人たちがいることが信じられない」とも語っていました。大統領の決断を最終的に後押ししたのは、北朝鮮外務省の次官にすぎない崔善姫氏が、合衆国国のペンス副大統領を「愚か」と非難したり、核による最終決戦(show down )に言及したことでしょう。会談までわずか二週間半しかないいまの時点で、あんなメッセージを出すこと自体が、大量破壊兵器の「完全で検証可能で不可逆的な廃棄(CVID)」に北朝鮮が真剣でないことの証左だとトランプ大統領は受け止めたのでしょう。

この事態を受けて懸念されることは、北朝鮮のこれからの出方です。ここでもし金正恩氏が再びICBMを打ったり核実験を行ったら、東アジア地域はとんでもない危機に陥るでしょう。そうさせないためには、とにかく北朝鮮に対して最高度の圧力を徹底的にかけつづけることが必要なんです。北朝鮮に過去何度も騙された国際社会が学んだことは、「あの国には“対話”は効かない。効くのは“圧力”しかない」いうことです。具体的には、日本の海上保安庁・自衛隊だけでなく、米国・豪州・英国・フランス・カナダなど有志国の艦船が協力して、制裁逃れの“瀬取り”監視を強化すること、米国が複数の空母打撃群を半島近海に展開することなどが考えられます。

この5年間で31回目のワシントンD.C.は、今回も多くの友人たちに会え、実り多い意義深い出張になりました。これから帰国の途につきます。