自民党司法制度調査会は三月中に法曹人口についての提言を取りまとめることになりました。これは、受験生の皆さんにとって重要な参考情報である今年の司法試験合格者数の目安を、五月から始まる司法試験予備試験を前に公表するべきだという、私が幹事長を務める「法曹養成と法曹人口を考える国会議員の会」(会長:鳩山邦夫、最高顧問:高村正彦)の考えを取り入れたものです。

 そこで今回から数回にわたり、私が平成十九年に法務副大臣に就任して以来取り組んできた法曹養成・法曹人口の改革の具体案と、深刻になる一方の現場の状況につき報告します。

 初回は、三十人の自民党国会議員が集っている「法曹養成と法曹人口を考える国会議員の会」の共通認識を理解していただくため、平成二十五年六月五日に発表した提言『法曹養成制度と法曹人口増加の抜本的改革に向けて』を掲載します。なお、喫緊の課題である司法試験合格者数に関する部分を赤字下線で修飾しています


 

平成二十五年六月五日

法曹養成制度と法曹人口増加の

抜本的改革に向けて

法曹養成と法曹人口を考える国会議員の会

<制度設計時の想定とはかけ離れた現実>

法科大学院修了者を主たる人材供給源とする法曹養成制度の破綻は明らかである。すなわち、法科大学院を経由することができる経済的余裕のある者のみを供給源として、過剰な司法試験合格者を排出した結果、

1.供給源を実質的に著しく制限しながら合格者を増やしたために、制度設計時に約束された法曹の「質」の向上ができないばかりでなく、「質」の低下を招いてしまった。

2.適性試験の受験者数が毎年減少の一途を辿る中、多額の国民の税金を投入された法科大学院の実に四校に三校は行き過ぎた「経済支援」を競い合い、客の奪い合いに血眼になっている。

3.わが国の需要に対して明らかに過剰な法曹人口年間三千人を目標としたため、実に四人に一人が就職できないという惨状の中、新任弁護士は現場学習の機会を喪失し、資格はあるが実質的能力のない弁護士の急増を招いた。

4.たとえ司法試験に合格してもそれまでの借金を返済できるかわからないなど、職業としての法曹の魅力を低下させ、以前よりも優秀な志願者の確保を困難にした。

5.新司法試験の受験資格を原則として法科大学院修了生に制限したため、経済的に裕福な家庭の子女でないと容易に法曹を志すことができなくなった。三年間(未修者)、仕事をしないで学費・生活費・受験予備校経費を払い続けられる若者がどれほどこの国にいるのだろうか。

法科大学院を経由しようとする適性試験受験者が10,144人と当初の八分の一へ激減する一方、司法試験予備試験の志願者数は今年11,255人に達し、逆転してしまった。これは、法科大学院を中核とする法曹養成制度が「法曹の卵」から事実上の不信任を突き付けられたことを意味する。

他方、法曹養成の中核としようとした法科大学院という仕組みでは、理念はともかく、現実には、進級・修了認定の厳格化によって質を担保する機能は皆無であることが判明している。

司法制度改革が想定した「法化社会」とは、法曹としての能力が十分備わっていない弁護士有資格者が社会のすみずみまで行きわたるというものではなかったはずであり、また米国などで見られる過剰な数の弁護士による「訴訟爆発」がわが国でも近い将来、起こり得ると危惧している。

私たちが取り組むべきことは、その場しのぎの弥縫策を作ることではなく、国家と国民の利益を毀損するいまの制度を根っこから改革することにあると、信じるものである。

 かつて自民党の執政において成し遂げた司法制度改革は、いま政権に復帰した自民党の責任において、その見直しを行うべきである。

<提言>

1.司法試験合格者数の適正化

現在の溢れる二回試験修了者数に鑑みれば、必要数をはるかに上回る合格者を排出していることは疑いようがない。

社会には解決されるべき問題がさまざまな分野で無尽蔵に存在するが、その中には、弁護士に対価を払って法的に解決してもらうことが適切なものとそうでないものがある。あらゆる問題が法曹による法的解決が最も相応しいわけではないにもかかわらず、法曹有資格者が社会のすみずみにいれば、存在する問題が自然に適切に解決されるかのような空想に陥っていたことを反省しなければならない。現実の需要と、さらには、現実の法曹養成能力を踏まえて、法曹の質を担保する観点から、司法試験合格者数は、1000人以下を目安にする。

そもそもわが国の法曹需要とは、わが国が目指すべき国家像や隣接法律専門職の活動などを勘案して考えられるべきものである。それらの観点に則って法曹の需要を見極めるまでは当面500人以下を目安にするべきである。なお、合格者数を1000人としても、当面の法曹人口は増大することを付言する。



2.司法試験予備試験の拡充

司法試験予備試験受験者は、適性試験受験者を上回る数となっている。しかるに現状では、予備試験合格者の合格率は法科大学院修了者の合格率をはるかに上回っていることから、予備試験を経由する者の方が明らかに不利益に扱われている。このような不公平は直ちに是正されるべきである。

法科大学院を中核とする法曹養成制度とは、法科大学院の人材養成力が司法試験の受験資格のありようを決するというもののはずである。だからこそ予備試験は、法科大学院修了者と同程度の能力を判定するものとされており、その合格基準は、現実のすべての法科大学院修了者の能力に相当するものでなければならない。

ところが、現在の司法試験委員会の決定する予備試験合格者に対しては、法科大学院修了者の基準をはるかに上回る能力が求められており、「違法状態」にあると言える。速やかに改善されるべきである。

予備試験に合格する力がなくても、法科大学院を経由して時間と金を使えば司法試験を受験できるというのでは、いったい何が法曹養成の「中核」であろうか。司法試験予備試験は試験を簡易化・簡素化し、合格者数を大幅に拡大しなければならない。

3.司法試験の受験資格制限の見直し

法科大学院で学ぶ経済的・時間的余裕がなくても、また、諸事情から、法科大学院といった制度に乗ることが困難な者であっても、司法試験受験資格を与えられるべきであり、本来、受験資格制限は撤廃されるべきものである。司法試験委員会が現状を是正することができず、法科大学院修了者の新司法試験合格率よりも予備試験合格者のそれの方が高くなることが本年も継続した場合は、受験資格制限の撤廃に向かうべきである。

また、現在は五年間で三回しか与えられない受験の機会を、五年間で五回まで広げるべきである。

4.法科大学院制度の見直し 

 文部科学省が行政の作為により高等教育の均てん化を図ることは困難であり、むしろ、法科大学院には多様化をすすめるべきである。その結果、司法試験志願者のみならず、合格者や、司法試験そのものとは無関係に法律実務を理解・習得しようとする者など、さまざまな者を対象とした法律実務教育機関として運用されるべきである。試験対策に汲々とした受験生のみを対象としない多様な人材養成の場としてこそ、研究者と実務家によるすぐれた成果をあげることができるものと考えられる。

5.司法試験と司法試験予備試験の試験の見直し、司法研修所の教育の見直し 

   いかなる専門職も、先輩の助言・指導の下でのOJT(意図的・計画的・継続的な職場教育)の重要性が強調されており、法曹もその例外ではない。資格を持つ前の課程教育ではできることに限界があり、司法試験合格以前に実務を知らないまま枝葉の専門的知識を先んじて身につけることを求めるよりも、基本的知識・理解を十分に確認すべきである。

 その観点から、司法試験の科目と内容は見直すべきである。

司法試験予備試験についても、それに平仄を合わせ、過度な負担と危険性を負わせる試験とならないよう簡素化すべきである。

また司法研修所は、理論と実務の架橋教育の中核機関としての役割を十分認識したうえで、前期修習を復活し、現状よりも少なくなった合格者に対して充実した教育を実施すべきである。

 6.給費制の復活

    1.の提言が実現された場合、それに対応して司法研修所の定員は現在よりも大幅に縮小される。よって、給費制に戻したとしても、それによる政府支出額は以前と比べて大幅に減少するはずである。経済的な理由から法曹を志すことを断念する有為な青年を助けるために、国は貸与制を給費制に戻すべきである


                                          以上