オーバー・フェンス | カツヤハダオカ映画ブログ
オーバー・フェンス
(Over the Fence) 2016年 日本
 ★★★★★★★★☆☆ 8点(9点)
 他人事に思えない…。

スタッフキャスト
 監督:山下敦弘
 原作:佐藤泰志、脚本:高田亮
 音楽:田中拓人、照明:藤井勇
 撮影:近藤龍人、編集:今井大介
 出演:オダギリジョー、蒼井優、松田翔太
   北村有起哉、満島真之介、松澤匠
   鈴木常吉、優香、塚本晋也(声のみ)

感想
 センチュリーシネマでの
 山下敦弘監督の舞台挨拶付き先行上映で
 オーバー・フェンスを一足早く観てきました。

 本作は佐藤泰志原作の
 海炭市叙景(熊切和嘉)、そこのみにて光輝く(呉美保)
 に続く函館三部作の最後を飾る作品。
 ちなみに熊切和嘉、呉美保、山下敦弘は
 大阪芸術大学に同時期に在籍した監督である。

 そこのみにて光り輝くと同じように、
 函館の町のどこか寂しい何か失ってしまった感じが
 画面からひしひしと伝わってきた。
 函館三部作の三作品とも撮影が近藤龍人なので、
 そのせいもあるのかもしれない。
 今作でも近藤龍人の撮影が本当に素晴らしかった。

 山下敦弘は近藤龍人について
「撮影は近藤くんに全て任せようと決めていた。
 撮影に関しては僕よりも絶対センスがあるし、
 画面の演出もうまい。画が良すぎるのが玉に瑕なくらい笑」
 と女子ツクのインタビューで語っている。
 赤みが強くて画質がちょっと荒いような感じの画面と、
 部屋の中の暗い画面が印象的。
 予告の映像を観て画が美しいと改めて思う。
 近藤龍人と他の人では何がそんなに違うのだろうか。

 オダギリジョー演じる役が他人事に思えなくて
 結構心に突き刺さりました。

 どこが他人事に思えないかと言うと、
 自分も人を壊すタイプなのではと…。
 今まさにある人を壊してしまっているのでは?
 というタイミングで観たのもあって、
 より心に突き刺さった。

 外見と雰囲気で割と他人から良く思われる。
 でも本人としては、
 そうでもない。ダメな奴だと思っている。
 むしろいい人に見えるだけに余計にタチが悪い
 という部分も他人事に思えない。

 桐島、部活やめるってよ
 クリードチャンプを継ぐ男のように
 周囲からは良く見られるけど、
 そんなことないよ映画。

 こういう映画は俺の映画だ!
 と他人事として観れなくなって心に突き刺さる。

 離婚に至った理由の結婚生活に対して、
「俺が悪かったんだろうけどさ。」
 と言った男に対して、
 女性から「そりゃそうだよ。」と言われるのも
 結婚している人間としては
 他人事に思えなくて恐ろしい。
 さらに
「あなたに何が分かるの?分からないから
 奥さんの頭がおかしてなっちゃったんでしょ。」
 という駄目押しの台詞まであって怖い。

 蒼井優の役はピュアといえば聞こえは良いが、
 それ故に相手を傷つけてしまう感じの、
 ぶっ飛んだ狂人。 
 蒼井優演じる聡が鳥好きなのは
 自由に空を羽ばたく鳥が自由の象徴だからか
 そして鳥の求愛ダンスはまさに自分自身が
 愛情を求めてやまないことを表現しているのでは?

 蒼井優は山下敦弘監督から演出があまりされなかったようで、
 放置プレイされたとのこと。

 鷲のシーンは自由に生きる蒼井優と
 自分の気持ちを押し殺して生きるオダギリジョーの
 メタファーになっている。

 蒼井優が白頭鷲を逃がそうとするも逃げない鷲。
 これは蒼井優がオダギリジョーに自由に生きろよ!
 と言っている。
 しかし逃げない鷲。
 やはり自分を押し殺して生きるオダギリジョー。
 しかし、檻から逃げなかったはずの
 鷲がオダギリジョーの家に現れて、すぐに飛んでいく。
 これはオダギリジョーのもう一回生きてみようかな。
 というその後の気持ちの変化を暗示している。

 山下敦弘監督は鷲のシーンについては、
 台詞や俳優の演技と違うところで
 こういうことをやりたかったとおっしゃっていた。
 映画の嘘、映画的な飛躍のあるシーン。
 映画的なシーンで非常に良かった。

 映画全体として明るい映画ではないですが、
 笑えるシーンもあって、
 子供の「魚観る?」→お父さんの背中の入れ墨。
 ソフトボールの練習試合の相手どこだよ?
 と思ったら、同じ職業訓練校の整備科とか最高!

 あと勝間田さん演じる
 鈴木常吉さんが超最高でした!
 プロダクションノートによると山下敦弘監督が
 唯一キャスティングしたのが鈴木常吉さんとのこと。
 鈴木常吉さんはミュージシャンで「思ひ出」という曲が
 深夜食堂のオープニング曲に使われているようなのですが、
 もっと俳優として鈴木常吉さんを観たい!

 映画のための映画ができた。
 と山下敦弘監督は舞台挨拶で語っていました。

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 誰もがその場所から飛び立てるのを信じてた