ドイツ、「大ヒット」シーメンス、生産規模は変幻自在で生産性14倍、中国の「没落必至」 | 勝又壽良の経済時評

ドイツ、「大ヒット」シーメンス、生産規模は変幻自在で生産性14倍、中国の「没落必至」

 

 

 

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ドイツのシーメンス社と言えば、日本の近代化と深い関わりのある企業だ。創業は1847年の古参企業が、第4次産業革命の先頭を切って生産規模は変幻自在で、生産性を14倍にも引き揚げる生産方法を編み出した。生産コスト切り下げには、これまで大量生産が原則である。多品種少量生産は、高コストが決まり相場だ。この常識が、シーメンスによって見事に崩されたのである。

 

このシーメンス革命は、サプライチェーンのハブである中国から生産機能をシフトさせる米国にとって、最大の福音になりそうだ。それだけインパクトの大きい製造業革命が起こったといえる。中国が、世界のサプライチェーンのハブを失う、製造法革命の到来だ。

 

『日本経済新聞 電子版』(6月8日付)は、「シーメンス、未来の工場、変幻自在、生産性が14倍に」と題する記事を掲載した。 

 

デジタル分野を強化してきた独シーメンスの戦略が新局面に入ってきた。デジタル技術を駆使し、生産ラインの姿を柔軟に変えられる「未来の工場」をつくる。新型コロナウイルスで産業界が変革期に入るのを契機に、システムを外販する。産業分野に攻め込むアマゾン・ドット・コムなど米IT(情報技術)大手との競争も本格化する。

 

(1)「独南部シュツットガルト。2019年9月に量産が始まった独ポルシェの新しい電気自動車(EV)「タイカン」の工場には、従来の組み立てで当たり前のベルトコンベヤーがない。組み立て中の自動車を運ぶのは大きくて平らな無人搬送車(AGV)だ。工場で部品や工具などを運ぶのに使われるAGVをコンベヤー代わりに使うのは世界初という。この仕組みの開発を支えたのがシーメンスだ。AGVの上や周囲で従業員が部品を組み付け、その周りを50台の小型AGVが部品を運ぶ。ポルシェのアルブレヒト・ライモルト取締役は「街中の工場に生産ラインを作ることは大きな挑戦だった」と話す。同社は初のEV生産にあたり本社を構える地元で雇用維持を狙った。拡張余地がない中、作るものにあわせ構成を変えやすい変幻自在のラインが必要だった」

 

ベルトコンベアは、産業革命の英国で採用されたのが世界初である。これが、広く全産業へ広げたのが米国である。20世紀最初の話である。それから120年経て、ベルトコンベアが消えて、無人搬送車(AGV)がその役割を果たすという。

 

そもそも、ベルトコンベアを短くしたのはトヨタ自動車の「看板方式」である。シーメンスは、さらに改善してコンベア自体をなくし、無人搬送車に変えたのだ。トヨタ方式の延長かも知れない。ドイツと日本は、世界製造業革命をリードしているが、日本も負けてはならない。挽回すべきだ。

 

(2)シーメンスのローランド・ブッシュ副最高経営責任者(CEO)は5月の記者会見で、「コロナ後」は先進国の生産回帰とあらゆるモノがネットにつながる「IoT」を備えた工場が商機になると指摘した。「コロナ危機は製造とサプライチェーン(供給網)の大幅な再調整につながる」というのだ。コロナ危機は供給網のもろさを浮かび上がらせた。高賃金の地域で競争力を保つにはデジタル対応が必須との考えだ。青写真はある。独南東部の同社のアンベルク工場。生産するのは工場の自動化に不可欠な電子制御機器「プログラマブル・ロジックコントローラー(PLC)」などだ。建屋内に白と青紫色の製造装置が所狭しと並ぶ。機器自らが生産品にあわせて動き、工場で一般的なフォークリフトが通るスペースなど皆無だ」

 

このパラグラフは、極めて重要な示唆が満載されている。トランプ米大統領が聞いたら、小躍りするようなニュースだ。米中デカップリングを実現する上で、必要なサプライチェーンのシフトには、このシーメンス方式が不可欠である。製造業のリショアリング(自国回帰)実現において、大きな力を発揮する。中国には、耳の痛い話であろう。

 

(3)「1990年代前半から生産を始め、自動化などを徹底して生産性は14倍になった。通常は時間とともに生産性は伸びにくくなるが、15年以降だけでみると4割の向上だ。自動化率は75%で、1秒間あたり1台を生産する。1日120種類の製品、計350回の段取り変えという多品種生産でも工程の不良率は10万回に1回を切る。中国にもPLC工場はあるが需要の3分の2をこの工場でカバーする」

 

下線のように、多品種少量生産はそのたびに、製造工程を組み替えねばならない。「段取り」と言われるものだが、それには時間がかかる。「トヨタ方式」では、その段取りに工夫を加えて生産性を確保した。シーメンスでは、1日120種類の製品、計350回の段取り変えという多品種生産で、不良品発生率は10万回に1回を切る程度という。凄い生産方式の革命が起こったもの。これで、中国が世界のサプライチェーンのハブとして占めていた地位を失うことは決定的になった。