韓国、「ブラックホール」経済は長期停滞入り、通貨が見せる不気味な「暗示」 | 勝又壽良の経済時評

韓国、「ブラックホール」経済は長期停滞入り、通貨が見せる不気味な「暗示」

 

 

 

【お知らせ】

「勝又壽良の経済時評」をメルマガ発信。

*毎週木曜「まぐまぐ」からのメルマガ(有料)を発信いたします。

予約はこちらから。⇒https://www.mag2.com/m/0001684526.html

 

引き続き『勝又壽良のワールドビュー』もよろしくお願いいたします。

 

勝又ブログ原稿10月5日

韓国、「ブラックホール」経済は長期停滞入り、通貨が見せる不気味な「暗示」

韓国経済が、通貨面で不気味な動きを始めている。通貨増が、消費や投資という経済活動に結びつかなくなってきたのだ。これは、「流動性のワナ」と呼ばれている現象である。すでに、中国経済がこの状況に落込んでいるが、韓国も同じ状況にはまり込んできた。「通貨のブラックホール」である。

 

この「流動性のワナ」とか、「通貨のブラックホール」とか形容詞はついても、一国経済が、この事態に陥ったら、覚悟を決めるべきだ。日本もバブル経済崩壊後、この「流動性のワナ」にはまって抜け出せなかった。焦った日本政府は、大量の国債発行で浮上を図ったが無駄カネに終わったのである。今日の膨大な国債発行残高を抱えさせられる契機はここにあった。韓国も中国も同じ局面に落込んだ。

 

『中央日報』(10月5日付)は、「お金が回らず物価は下落、韓国はブラックホール通貨経済に?」と題する記事を掲載した。

 

(1)「ローレンス・サマーズ米ハーバード大教授が最近、ツイッターで「流動性の罠デフレーション」に対する憂慮を表し、次のようにコメントした。「中央銀行が通貨政策を通じて物価を引き上げるのがもう難しくなった。『ブラックホール通貨経済学』と呼ぼうと、日本化(Japanification)と呼ぼうと、それが何であっても中央銀行はこうした現象を懸念しなければいけない」

 

サマーズ教授の見立てである。通貨増が、契機刺激効果を失ってきた。末期的症状である。ここから抜け出すには、制度改革しかない。これを行う勇気がなければ経済は浮揚できないはずだ。韓国について言えば、労働市場改革である。年功序列賃金と終身雇用制度を廃止して、労働市場の流動化を促進させる。韓国版「働き改革」の実現である。

 

(2)「米財務長官を務めたサマーズ教授は、年初に「世界的な景気沈滞が到来するかもしれない」と警告した。サマーズ教授が話した「ブラックホール通貨経済学」とは、金利がゼロ水準にとどまり出口を期待できないという意味だ。サマーズ教授は「日本と欧州で一世代以上にわたり債券収益率がゼロまたはマイナス水準にとどまるという見方が確固たる認識になっている」と指摘した」

 

韓国の文政権は、この危機感を持たなければならないが無理だろう。労働貴族と称せられる大企業労組が労働市場改革を受け入れるはずがないからだ。

 

(3)「こうした状況で景気を活性化させようと中央銀行が金利を低めてもお金は回らない。不確かな景気見通しのため家計は消費を減らし、企業は投資を避けて内部に蓄積するからだ。経済の活力が落ちて成長も鈍る流動性の罠にはまるということだ。景気低迷から抜け出すための攻撃的な通貨政策を進めたが、国債利回りはさらに下落する悪循環で低成長・低金利・物価安に陥った日本が代表的な例だ」

 

下線を引いた部分は、日本批判である。残念ながら現実である。この解決で「アベノミクス」が行なったのは、日本銀行による国債の市中買い入れである。これによって、ハイパワードマネー(市中に流通する現金と民間金融機関の中央銀行預け金)を増やして、信用創造機能の復活を意図して半ば成功した。ただ、消費者物価上昇率2%目標は未達だが、労働市場は劇的な改善効果を上げている。高度経済成長期と同様の低失業率と高い有効求人倍率を復活させた。

 

(4)「あちこちで警鐘が鳴っている韓国経済の状況がまさにそうだ。今年1~3月期に韓国経済は逆成長(-0.4%)した。前期が良くなかった影響で4~6月期の成長率は1.0%となったが、低成長という札は外れない。依然として低水準にとどまる金利はさらに落ちる可能性が高い。韓国銀行(韓銀)は7月、政策金利を年1.5%から0.25%引き下げた。年内に追加引き下げの可能性もある。9月に-0.4%だった消費者物価上昇率(前年同月比)は2カ月連続のマイナスとなった」

 

韓国経済は、文政権による最低賃金の大幅引上げで失速している。雇用構造の破壊によってスパイラル的な悪化状況に陥っているのだ。この事態を救うには、最賃政策の中止が最善の解決策である。ただ、それは文政権の崩壊を意味する。よって、実現の見込みはない。

 

(5)「サマーズ教授は、「ブラックホール通貨経済」に陥れば通貨供給の蛇口を開く中央銀行の金利政策が逆効果をもたらしかねないと指摘する。金利が下がり、家計と企業の負債が増え、資産価格の上昇につながり、バブルが生じたりするということだ。お金を安く借りることができ、負債の負担が減り(構造改革などが先延ばしになり)、不振企業のゾンビ化を加速化し、経済の活力も落ちると説明した」

韓国が、事態の悪化を正確に認識せずに金融緩和を続ければ、負債の増加によって経済は逆回転するだけだ。その典型例が中国に見られる。今でも住宅価格だけが上昇している。値上がり期待の投機需要である。中国人民銀行は、これが怖くて金融緩和に対して慎重である。


(6)「こうした副作用を防ぐための解決法としてサマーズ教授が強調するのは拡張的財政政策だ。通貨政策の薬効が落ちる流動性の罠に近い経済では、景気失速とデフレを防ぐのに有効であるからだ。「大きいが鈍い刃」と見なされる金利政策は、家計や企業など広範囲な経済主体に無差別的な影響を及ぼしかねない。政策の効果が表れるのにも長い時間がかかる」

 

拡張的な財政政策が、カンフル剤になる。ただ、その国の政治状況を見極めることも必要である。バラマキ型の財政支出拡大は有害である。

 

(7)「一方、財政政策は相対的に効果を早く期待でき、目標への精密打撃も誘導できる。もちろん、むやみに財政を投入するのが解決法ではない。李炳泰(イ・ビョンテ)KAIST教授は「財政を誤って使えばむしろ市場がゆがむこともある」とし「今回、政府が財政支出を増やしても経済成長率はむしろ落ちたことを勘案すると、一時的な効果を狙った福祉性支出よりも、研究開発(R&D)や社会インフラ建設など経済の効率性と生産性を高める建設的な方向で財政執行がなければいけない」と述べた」

 

金融緩和が、不動産バブルを刺激しないようにするには、財政支出の依存度を高めるという代案が提言されている。だが、下線部分のようにバラマキに陥る。文政権は、無定見にこれを行っているのだ。よって、財政支出への依存にも限度がある。結局、こういう事態に陥った場合、最終的に「制度的イノベーション」能力の有無が問われる。韓国は、それが乏しいので、絶望感が漂うだけである。