米国、「夢の自動運転」AIの限界で熱冷め実現は「数十年後?」 | 勝又壽良の経済時評

米国、「夢の自動運転」AIの限界で熱冷め実現は「数十年後?」

 

 

各社は戦略練り直し

欧州は30年代目標

 

「新たに、『勝又壽良のワールドビュー』を開設します」

http://hisayoshi-katsumata-worldview.livedoor.biz/

 

 

21世紀の世界的な高齢社会を迎え、全自動運転車は最大のヒット商品になると見られてきた。だが、相次ぐ公道実験中の事故でAI(人工知能)がどれだけ発展しようとも、現状では咄嗟の判断が可能な人間には及ばない。こういう理由も重なって、人間の判断を必要としない全自動運転車の実現は、「数十年先」というニュースが出てきた。

 

自動運転には5段階がある。

レベル5:全ての運転を自動化

レベル4:一定の環境や条件の下での完全な自動運転

レベル3:システムが運転し、人はシステムの要求に応じて関わる

レベル2:ハンドルとアクセルなどは自動化するが、人は関わり続ける

レベル1:ハンドルやアクセルなどを自動化し、人の運転をときどき助ける

 

現在の法規制では、レベル1~2が可能である。それ以上の段階では法制度的に不可能とされている。ここでいう「数十年先」とは、レベル5の最終段階である。とすれば、レベル1~2までは実現可能ということだ。これまでの公道実験中の事故はレベル4~5という難易度の最も高いものであろう。

 

日本では、トヨタの系列部品会社が自動運転車時代に備えて世界に制御技術の売り込みを図る体制を準備している。その矢先にこのニュースが入ってきた。この制御技術は、全自動運転車実現への貴重な一歩だが、いささか機先を制せられたような感じもする。

 

「トヨタ自動車のグループ4社が共同で自動運転の中核技術の外販に乗り出す。デンソーやアイシン精機などが年内にも新会社を設立。自動運転車の中核となる制御システムを開発し、世界の大手メーカーや新興企業に販売する。自動運転は電動化と並び次世代の競争力を占う分野で、米グーグルなど異業種も開発を競う。かつて自動車大手は中核技術を囲い込むことで競争力を保ってきたが、外販を積極化し次世代車で標準を握る方策を探る」(『日本経済新聞』8月25日付)

 

新会社はAIの判断をもとに車のハンドルやアクセル、ブレーキなどを素早く正確に自動で動かす基盤技術を開発するものという。センサーから半導体、駆動系部品までまとめて提供することで、他社が搭載しやすくする狙いだ。自動運転車の基盤技術として世界に売り込むという大きな目標を掲げている。

 

各社は戦略練り直し

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月15日付)は、「自動運転車の熱狂から冷めた各社、戦略を調整中」と題する記事を掲載した。

 

(1)「今や自動運転が実現された未来がすぐそこに迫っていることを示す新たな道標を目にしない日はほとんどない。だが恐らくそれはないだろう。完全自動運転車が実現するまでには数十年はかかりそうだ(このメルセデス車のような自動車でさえも、実際の青写真というよりは未来を思い描いたスケッチにすぎない)。また、完全自動運転車が近いうちに実現されるという前提に基づいて将来を占ってきた企業の多くが、こうした現実に沿って既に戦略を調整し始めている。

 

完全自動運転車(レベル5)の実現は、数十年先であろうと言っている。このところ、電気自動車(EV)と、全自動運転車の話題が豊富だっただけに、「水を差された」感じは否めない。何よりも、開発エンジニアが公道実験中事故で死者が出ていることに大きなショックを受けているという。自分たちの研究が「人を殺めた」という自責の念が強く、研究の場から立ち去る人も出ていると言う。

 

(2)「例えば、ウーバーは最近、自動運転トラックの開発プロジェクトを打ち切ったほか、同社の自動運転車が死亡事故を起こしたことを受け路上走行試験を中止した。ウーバーの最高経営責任者(CEO)は、自動運転の最大のライバルであるアルファベット子会社ウェイモと手を組むことさえやぶさかでないと発表した。一方で、ウェイモのジョン・クラフチックCEOは、自動運転車の普及までには『想定よりも長い期間』がかかるだろうとの見方を示した」

 

ウーバーは、2017年にも前走車と衝突して横転する重大事故を起こしている。また、今年の3月にアリゾナで人身事故を起こしている。この2件の重大事故から分ることは、「いざという緊急時に、自動運転からドライバーがハンドルを取り戻して事故を回避することがいかに難しいかが分ったことだ」という。こういう事態に対して、余裕を持って回避できない限り、公道実験の継続自体が困難であろう。

 

(2)「自動運転技術業界がにわかに幻想から目覚め始めた理由はいろいろあるが、主な原因はテクノロジーにある。どうすればコンピューターのドライバーにあらゆる条件下で人間と同じか、それ以上にうまく運転させられるかが、いまだに分からないのだ。メンタルモデルを構築する人間の能力は、現在の人工知能(AI)が学習できるものではないことが明らかになっている。また、たとえ完全自動運転テクノロジーを手に入れることができたとしても、予測不可能な行動を取る自動車や自転車、スクーターに乗った人や歩行者に対処しなければならない。路上に自動運転車が増えれば増えるほど、安全性への懸念や法律上・規制上の問題が差し迫ってくる」

 

AIへの過大な期待から目が覚めたとも言える。最近は、将棋に始まってAIの凄さが喧伝されてきた。定型化された現象については威力を発揮するとしても、交通という事象が千変万化する事態には、人間による経験の集積が断然、優れていることを証明している話だ。何か、大袈裟にいえば「人間復権」という感じもしなくはない。全自動運転車実現が遅れて残念という思いと、「やっぱり人間の方が上か」という思いもして複雑である。

 

(3)「実際の人間はどのような行動を取るかに関するデータを使用して学習させるだけでは、いくら大量のデータを投じても車に運転を覚えさせることはできない。こう話すのは、ニューヨーク大学教授でウーバーの元AI部門トップであるゲーリー・マーカス氏だ。『だからこそウェイモなどの企業は、(自動運転技術を)1つの巨大なデータ問題として扱うのではなく、エンジニアリング可能な要素ごとに分ける必要があるのだ』と」

 

貴重なアドバイスが出ている。交通関連データを一括りするのでなく、エンジニアリング(工学)という操作可能性レベルまで具体化すれば、実用化が進むという提言であろうか。中国のように、13億人分のデータはあるが、それだけでは自動運転車に必要なソフトは組めない。エンジニアリングできるまで細分化してソフト化する。それが、再び集大成するという意味だろうか。帰納法と演繹法の総合化という感じだ。まさに、総合科学による総力戦というイメージである。

 

(4)「ウェイモの主席ソフトウエアエンジニア、ネサニエル・フェアフィールド氏によると、ウェイモでは自動運転車をはるかに過酷な条件の下でも絶えず試験走行させている。しかしだからといって、実際にさまざまな季節があったり、道路が完璧ではなかったり、人口密度が高かったりする場所で、自動運転技術がいつ実現されるのかは全く分からない。人間は日々運転しているうちに、注意散漫な歩行者に気づいたり、建設現場で交通整理に当たる作業員の判断を疑ったりといった無数の小さなタスクをうまくこなせるようになっていく。さまざまな自動運転システムが積み上げた走行距離ばかりが強調されているが、こうしたささいな障害の克服には実際とのころ、多くのエンジニアチームによる膨大な知的労働が必要とされる」

 

自動運転システムでは、走行距離ばかりが強調されている。これは、本筋でないと指摘している。あらゆる条件で試験するには、長期にわたる走行試験の累積が求められる。となれば、数十年先には100%の可能性を持つソフトが完成するだろう。そういう気の長い話である。今の赤ちゃんが、年寄りになる頃実現するのであろう。AIの進歩発展と密接に絡んでいることは疑いない。

 

欧州は30年代目標

完全自動運転車の実現が、数十年先のことになれば、これまで立ててきた計画が狂う先が出てくる。EU(欧州連合)は、全自動運転車で世界の先頭を切る勢いで準備をしてきた。製造業の復権を全自動運転車に賭けているのだ。だが、EUだけが先行して、事故でも発生したら、当局への非難集中は免れない。ここは、主要国が歩調をとって情報交換しながら進むほかあるまい。

 

『日本経済新聞』(5月18日付)は、「EU、30年代に完全自動運転、安全指針策定に着手へ」と題する記事を掲載した。

 

(5)「欧州連合(EU)の欧州委員会は5月17日、車両に運転を任せられる完全自動運転の社会を2030年代に実現するための工程表を発表した。加盟国や自動車メーカーに呼びかけ安全確保や事故時の責任について共通ルールを整える。国際ルールに先だって域内基準をつくり、次世代の産業分野で主導権を握る狙いがある」

 

EU経済の挽回には、全自動運転車で先鞭を切ることが不可欠である。自動車はフランスで生まれ(1769年)、米国で大量生産(1896年)されたという苦い経験がある。この際、欧州は自動車発祥の地として一矢報いたいところであろう。それには、全自動運転車という究極の「カー」で勝負をするという意気込みである。

 

(6)「欧州委は公表した資料で『欧州を安全な完全自動運転で世界の先頭にする』と強調。自動運転社会への移行で25年までに8000億ユーロ(約104兆円)を超える市場がEUの自動車と電機業界に生まれると試算する。工程表では、20年代に都市部でも低速で自動運転を可能にし、30年代に完全自動運転が標準となる社会につなげる。年内に域内各国の自動運転車の安全基準を統一したり互換性を持たせたりする指針の作成に着手する。車両が歩行者を認識し制御装置の指示通りにブレーキをかけるような動作を規定するとみられる」

 

20年代に、レベル2ぐらいまでの自動運転車を実現して、30年代に完全自動運転が標準となる社会につなげるという。問題は、欧州のAI技術がどこまで発展しているかだ。

 

『韓国経済新聞』(9月11日付)は、AIに関する特許保有で日本企業が健闘している事実を伝えた。2016年6月基準でAI関連特許を最も多く保有する企業は、米IBMで537件。2位も米国企業のマイクロソフトで514件。だが、10位以内には日本が5社、米国が3社と大部分を占めている。韓国企業は9位のサムスン電子が185件で唯一であった。欧州企業は、ランクインしいていたかどうか不明である。となると、EUは来年発効する日欧EPA(貿易協定)をきっかけに、日本と協力する計画であろうか。

(7)「車両開発の前提となる基準をつくる一方、実際に走らせるには法制度の整備も必要だ。法律見直しはドイツが先んじた。ドイツが批准する国際交通のウィーン条約は16年に『(システムから)即座に運転を引き受けられる場合』の自動運転を認めた。これを受けドイツは17年、一定条件で自動化するレベル3が使えるよう道交法を改正した。日本などが批准するジュネーブ条約は改正が遅れている。ウィーン条約加盟は約80カ国で欧州が中心だ。国際ルールで有利に立つ欧州は、工程表を示すことで自動運転の技術や人材の集積を急ぐ」

 

ドイツが、レベル3まで可能な法整備を整えているという。まず、法律という辺りはいかにもドイツらしい律儀さを感じて微笑ましい。問題は、AI技術がどこまで充実可能かであろう。ただ、米国がレベル5の段階まで達するのは数十年先と想定していれば、EUだけが独走する訳にも行くまい。欧米日の協議となろう。

 

『お知らせ』

ライブドアで「勝又壽良のワールドビュー」と題するブログを開設しました。一日数回新情報を提供しています。「勝又壽良の経済時評」で取り上げられなかったテーマに焦点を合わせています。テーマは幅広く扱っており、両ブログのご愛読をお願い申し上げます。『勝又壽良のワールドビュー

 

(2018年9月18日付)

 

韓国破産  こうして反日国は、政治も経済も壊滅する 韓国破産 こうして反日国は、政治も経済も壊滅する

 

Amazon

 


勝又ブログをより深くご理解いただくため、近著一覧を紹介

させていただきます。よろしくお願い申し上げます。

勝又壽良の著書一覧