韓国、「現代自危機」自動車産業は生き残れるか「下請け倒産続出」 | 勝又壽良の経済時評

韓国、「現代自危機」自動車産業は生き残れるか「下請け倒産続出」

 

 

IMFが最賃の速度調整迫る

賃金の大幅引上げが倒産原因

 

 

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韓国自動車産業が危機に立っている。トップ企業の現代自動車は、4~6月期の売上高営業利益率は、3%台に落込んだ。自動車メーカーは、前記の利益率が5%台を割り込むと研究開発費もままならなくなって「立ち枯れ」状態になる。

 

自動車メーカーが、この状態では下請け企業の経営状態は惨憺たるものだ。売上高営業利益率は、1~2%スレスレにまで落込んでいる。この原因が、人件費アップにある。「貴族労組」による強烈な賃金引き上げは、自動車メーカーの経営を圧迫しているが、下請け企業は政府の大幅な最低賃金引き上げで首を締められている。何とも不思議な構図ができあがっている。貴族労組と政府が、自動車産業を崩壊させる元凶になってきた。

 

この最低賃金引き上げは、IMF(国際通貨基金)から、「速度が速すぎる」と忠告されるにいたった。「最賃スピード違反」とは、韓国政府が世間知らずの「理念先行」政治である弱点をさらけ出している。

 

IMFが最賃の速度調整迫る

『中央日報』(7月29日付)は、「韓国の最低賃金引き上げ速度は速いーIMFが警告」と題する記事を掲載した。

 

国際通貨基金(IMF)が、韓国の最低賃金引き上げスピードが速過ぎると指摘した。6月には、経済協力開発機構(OECD)が懸念の声を出したのに続き、今回のIMFまでが、最低賃金引き上げの速度調節の必要性を指摘している。IMFアジア太平洋局のタルハン・フェイジオールー課長が7月25日、ワシントンで主催したセミナーで指摘した。

 

(1)「タルハン・フェイジオールー課長は、『フランスの事例を参考にしなければならない』と助言した。フランスは2005年に最低賃金が中位賃金の60%に到達した後、副作用が出たことで引き上げ速度を大幅に遅らせた。韓国の中位賃金比の最低賃金水準も今年すでに62%台に上昇した状態だ。OECDの2016年度統計で50.4%にとどまっていたことと比較すると引き上げ速度は非常に急だ」

 

韓国政治では、「原理主義」の側面が強く出ている。誰でも最低賃金の必要性を理解している。それは、生産性との兼ね合いが重要である。バランスのとれた形で実行すべきものである。文政権は、革新政権であるゆえ功を焦っている。保守党政権との違いを見せたいと急ぐが、韓国経済に大きな波乱を引き起こしている。

 

フランスの最低賃金は、2005年に中位賃金の60%に到達した後、副作用が出た。現在の韓国で発生しているような失業者の増加だ。フランスはこれを受けて、引き上げ速度を大幅に遅らせて調整した。韓国の中位賃金比の最低賃金水準は、今年すでに62%台に上昇している。フランスと同じような副作用が出るのは当然のこと。韓国は、さらに来年、10.9%の引き上げを決めた。韓国経済の混乱は一層、拡大方向に向かうはずだ。文政権は危険な政府に成り下がった。

 

(2)「フェイジオールー課長はまた、『最低賃金引き上げ幅は地域別で受容できる水準が違う。ソウルの明洞(ミョンドン)と全羅南道(チョンラナムド)は同じになれない」と話した」

 

最低賃金の引上げ幅は全国一律でなく本来、地域経済によって異なるものである。韓国政府は、この地域差を認めず全国一律を強制している。こう見ると、韓国の最賃は二重の意味で過ちを犯している。因果な原理主義の政権が登場したものだ。日本の最賃は地域別に決められている。

 

 賃金大幅引上げが倒産原因
『朝鮮日報』(7月28日付)は、「韓国自動車業界に激震、下請け会社の倒産相次ぐ」と題する記事を掲載した。

 

この記事は、出色の出来映えである。韓国自動車産業が生きるか死ぬかの瀬戸際にある実情が、手際よくまとめている。内容が若干、専門的であるので、私のコメントだけでも読んでいただき、韓国の看板産業の自動車が窮地に立っている実情を把握していただきたい。韓国大統領府は、こういう現場の知識がゼロであろう。労組の意見だけ聞かされているからだ。

 

(3)「現代・起亜自動車の2次下請け会社で年商1000億ウォン(約100億円)のエナインダストリー(慶尚北道慶山市)が7月12日、不渡り手形を出した。同社はゴム部品などを生産し、年間30億ウォンの営業利益を上げていた。しかし、韓国の自動車生産が2年連続で不振となり、昨年は売上高が832億ウォンに急減し、8億ウォンの赤字を出した。その後数カ月間にわたり月給を支払えず、結局は法定管理(会社更生法適用に相当)を申請した。1800億ウォンの売上高を上げていた現代・起亜自動車の1次下請け業者、リハンも6月、韓国産業銀行にワークアウト(金融機関主導の経営再建)を申請した」

 

韓国自動車産業の2次下請けは、2年続きの不振によって倒産の憂き目にあっている。後のパラグラフで説明されているが、人件費の引き上げが倒産の引き金になった。今年の最低賃金16.4%がもたらす人件費アップが負担になったのだ。それにしても、2年続きの不振で、あっけなく倒産に追込まれる韓国企業の抵抗力のなさにも驚く。内部蓄積がない結果である。下請け企業の製品は、財閥企業から買い叩かれている。その財閥企業は、貴族労組の猛烈な賃金攻勢を、下請け企業の製品買い叩きでカバーしているのだ。この矛楯の連鎖が、最後は下請け企業の賃金を圧迫している。貴族労組が、もう少しモデレートな賃上げであれば、下請け労働者が助かる構図である。

 

(4)「韓国製造業の寵児である自動車産業が根底から揺らいでいる。韓国の自動車の輸出、国内販売の同時不振が2年続き、自動車メーカー5社の1次下請け会社800社、2次・3次下請け会社8000社余りから悲鳴が上がっている。1次下請け会社のうち、上場50社の財務諸表を見ると、23社が今年1~3月に赤字に転落した。産業研究院で30年間にわたり自動車産業を研究してきたイ・ハング上級研究委員は『中堅下請け企業が経営不振で崩壊するのは1998年の通貨危機以来初めてだ。2008年の金融危機にも耐えた自動車業界の生態系は業況不振、人件費上昇、貿易戦争が重なり、根底から崩壊している』と述べた」

 

自動車メーカー5社

1次下請け800社

2次・3次下請け8000社

 

これが、韓国自動車産業の構図である。

1次下請け(上場50社)のうち、今年1~3月期で23社が赤字に陥っている。ここから推し量られることは、2次・3次下請けでは、相当数が赤字経営であろう。コストアップの中では、人件費上昇がかなりの部分を占めていることは想像に難くない。

 

(5)「今年4月、従業員36人を22人に削減したA社の経営者は、次のよう憤っていた。『大企業で働く労働者が利益を全て持っていく構造の中で、何とか持ちこたえてきた中小部品業者が今崩壊しつつある。大企業が倒産しても、オーナーだけが変わり、従業員は生き残るだろうが、中小企業は経営者も従業員も空中分解してしまう。政府は財閥をたたくのに、なぜ貴族労組を何とかしないのか』。先の経営者は、『昨年は昼間勤務者に170万ウォン、昼夜勤務者に240万ウォンの月給を支払ったが、最低賃金引き上げで4大保険料まで上昇し、人件費が24%も増えた』と話す。A社は製品単価を35%引き上げなければ、納品を続けられないと1次下請け業者に通告したという。同経営者は、『下請け業者の営業利益率はやっと1~2%で、マイナスであることも多い。景気が良い時であれば問題ないだろうが、なぜこんなに苦しい時期に最低賃金を引き上げるのか』と不満を漏らす」

 

このパラグラフでは、中小企業の置かれている苦しい立場が良く現れている。財閥企業の労組が貴族労組の位置にありうるのは、下請け企業製品を買い叩いている結果だ。換言すれば、貴族労組は、「生き血」を吸っているドラキュラである。韓国政府は、このドラキュラの言うままに動いている不甲斐ない存在なのだ。

 

下請け企業の営業利益率はやっと1~2%、マイナスもあり得る厳しい条件に追込まれている。この時点で、大幅な最賃引上は苦しい経営の足を引っ張るだけである。その挙げ句に倒産となれば、まさに「最賃倒産」という形容詞がつくであろう。

 

(6)韓国の自動車生産台数は2011年の465万台をピークに減少に転じた。15年は455万台を維持したが、16年には422万台、昨年は411万台にまで減少した。現代自の営業利益率は11年に10.3%を記録したが、その後は低下の一途で、昨年は4.7%と5%を割り込み、今年1~3月期は3%レベル(注:1~6月は3.84%)まで落ち込んだ。営業利益率3%は利息や税金を支払えば、ほとんど手元に残らないため、収益で利息も払えない『ゾンビ企業』一歩手前だ。産業研究院のイ・ハング上級研究委員は「業界は昨年の1次下請け業者の営業利益率が3%を下回ったとみている。現代自が3%レベルならば、1次下請け業者は1~2%かマイナス、2次・3次下請け業者はさらに深刻だ」と指摘した」

 

現代自の営業利益率は、自動車生産台数の低下ともに下落している。2011年の営業利益率は、10.3%(韓国全体の自動車生産台数465万台)。それが、2017年は4.7%(同411万台)へ落込んでいる。今年上半期の営業利益率は3・84%である。まさに、「危機の深化」である。こうなると、「利息や税金を支払えば、ほとんど手元に残らないため、収益で利息も払えない『ゾンビ企業』一歩手前」というギリギリの線に追込まれた。

 

現代自が、ゾンビ企業目前状態であることは、韓国経済の危機そのものである。この認識が韓国政府にあるとは思えない。「反企業主議」の立場を鮮明にしているだけに、具体的な対応策などあるはずがない。韓国の二枚看板の一つが舞台から退けば、残るのはサムスンだけとなる。韓国経済は、「片肺飛行」へ落込む。

 

(7)「仮に、米国から自動車高率関税が適用されれば、韓国の自動車メーカーは崩壊し、下請け業者は焼け野原になる可能性がある。現代・起亜自は韓国での生産台数317万台のうち59万台を米国に輸出している。韓国GMは52万台のうち13万台、ルノーサムスンは26万台のうち12万台だ。今年5月の韓国GM群山工場閉鎖のような事態が続発しかねない。韓国GMだけで約2700人が職を失った。米国の自動車関税爆弾が現実となり、15兆5000億ウォンに達する対米自動車輸出が滞れば、13万人の雇用が脅かされるとの分析も聞かれる。延世大の延康欽(ヨン・ガンフム)教授(経営学)は、『製造業のうち最も労働集約的な自動車産業が崩壊すれば、韓国経済全体が深刻な打撃を受ける。外部環境が最悪な状況で、労組と規制に縛られ、生産性がさらに低下しており心配だ』と指摘した」

 

ここで、米国が自動車関税をかける事態となれば、韓国自動車産業は完全にノックアウトを食らう。米国の自動車関税爆弾が現実となり、15兆5000億ウォンに達する対米自動車輸出が滞れば、13万人の雇用が脅かされるとの分析も聞かれる。ここまで来ると、企業レベルの対応は困難であろう。政府間交渉となろう。

 

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(2018年8月1日)

 

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