米国、「GDP絶好調」対中貿易戦争は数年かけても闘う「体力」 | 勝又壽良の経済時評

米国、「GDP絶好調」対中貿易戦争は数年かけても闘う「体力」

 

 

米GDPは優等生の出来映え

逆イールドカーブは起こるか

 

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米国は、4~6月期のGDPが年率4.1%増と絶好調である。トランプ大統領は、ますます自らの政策を自画自賛している。確かに、大型減税が設備投資に火をつけており、先行き堅調な経済を予想させる。経済政策の司令塔である国家経済会議(NEC)のクドロー委員長は、「大型減税で潜在成長率が高まるため、インフレは発生しない」とまで主張するほどだ。

 

もう一つ注目すべき動きは、家計貯蓄率が再び上昇していることである。最新統計では、6.8%と過去の平均まで回復している。貯蓄を取りくず形での消費でなく、消費を増やしながら貯蓄を殖やす理想型になった。

 

設備投資や個人消費が、経済を支えるしっかりした足取りである。こういう順風を受けて、対中国貿易戦争に立ち向かう気力・体力はともに充実、「いざ、闘わん」というムードだ。EU(欧州連合)とは自動車を除く工業製品について、関税撤廃交渉を始めるという予想外の好環境になっている。NAFTA(北米自由防衛協定)の交渉も、8月には妥結の方向になってきた。トランプ流の強気貿易交渉は、不思議に収斂過程へ入っている。いまのところ、トランプ氏は打つ手が全て良い結果を生んでいるようだ。

 

対中貿易戦争の指揮官であるライトハイザー米通商代表部(USTR)代表は7月26日、次のような発言をした。

 

「ライトハイザー氏は上院歳出委員会で、『われわれが中国との間に慢性的問題を抱えていることは明らかだ』と証言。中国との貿易問題の解決には数年を要すると指摘した。また、中国は『国家資本主義』を用いて開放的な米経済を利用し、米国内の雇用や富を損ねているため、トランプ政権は中国に反撃すべきだと考えていると語った。中国の張向晨・世界貿易機関(WTO)大使は同日、ジュネーブで米通商政策について、『ゆすりや歪曲、悪者扱いは問題解決に役立たない』と語った」(『ブルームバーグ』7月28日付)。

 

中国の張向晨WTO大使が、米国の強硬姿勢に対して、「ゆすりや歪曲、悪者扱いは問題解決に役立たない」と言って胸の溜飲を下げている。この辺りに、中国の劣勢が明らかに透けて見えるのだ。これまで、中国の他国への交渉姿勢は、まさに「ゆすりや歪曲」の類いであった。久しぶりに攻守所を変えて追込まれているのだろう。

 

前述のように、ライトハイザーUSTR代表は、「中国との貿易問題の解決には数年を要する」と指摘している。米国が、安易な妥協をしないという決意表明だ。また、ライトハイザー氏が「中国は『国家資本主義』を用いて開放的な米経済を利用し、米国内の雇用や富を損ねているため、トランプ政権は中国に反撃すべきだ」と強調している点にも注目すべきだ。中国は「国家資本主義」であり、「市場資本主義」(正式にはこういう言葉はない。資本主義経済は市場メカニズムに基づき営まれる)を食い物にしている悪徳システムである。それ故、断固として中国経済を追い詰める、という認識が表明されたと見られる。

 

問題は、米国が対中貿易戦争を勝ち抜ける底力があるか、だ。4~6月期のGDP分析では、対抗能力が充分あると見られる。先ず、その実力程度を見ておこう。

 

米GDPは優等生の出来映え

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(7月28日付)は、「米GDPに潜む成長余地、底堅い経済の行方」と題する記事を掲載した。

 

4~6月期のGDPを要約しておく(実質値:年率換算)。

GDP      4.1%

個人消費支出   4.0%

民間設備投資   7.3%

民間住宅投資  -1.1%

 

米国のデータを見て気づくのは、中国のGDP統計が中身の分らないように「工夫」していることだ。個人消費も政府消費と合算して、「最終消費支出」と誤魔化している。民間設備投資も民間住宅投資、公共投資も「固定資本形成」で中身を示さない秘密主義である。堂々と発表できるような内容でないためだ。その代わり、実質成長率だけは、前年同期比で発表して特筆大書する。この中国経済が、米国と対抗できるはずがない。詳細な内容も発表できない経済構造であることが、中身を隠蔽する最大の理由であろう。

 

(1)「米国で4~6月期国内総生産(GDP)の年率4.1%という 高い伸び率である。近いうちに繰り返される公算は小さいものの、項目別の詳細は依然として印象的である。景気拡大は勢いを増しているうえ、なお相当な拡大余地があることを示している。広く指摘されているように4~6月期の伸びの大半は輸出の増加が背景となった。輸出増は恐らく、関税措置を受けた一時的な反応だろう。基調的な傾向を見極めるため、最も変動しやすい3つの項目、すなわち純輸出、在庫投資、政府支出を取り除く。こうして割り出される国内民間消費は年率4.3%増となる。個人と企業の支出拡大が追い風となり、GDPの4.1%増も上回っている。その一部は、人々が減税で増えた所得を消費に回したための一時的な増加かもしれない。それでもこうした(国内民間)消費支出項目は過去12カ月で平均3.3%増と、やはりGDP(2.9%増)を上回る」

 

GDP統計では、①純輸出(輸出-輸入)、②在庫投資、③政府支出の3つが変動しやすので、ここではGDPから除外して計算する試みをしている。中国では、③のウエイトが高く、ここでGDPの成長率を調整するという離れ業を行なっているはずだ。つまり、中国のGDPでは、③でGDPの嵩上げを行い、それが外部から掴めないように隠す工夫をしている。

 

米国の場合、前記の3項目を除外した「国内民間消費」は年率4.3%増となる。個人と企業の支出拡大が追い風となり、GDPの4.1%増も上回っていることが分る。このコラムの筆者は、表題に掲げたように、「GDPに潜む成長余地」が大きいと判断した根拠はここに求めたと見られる。

 

ちなみに、過去12ヶ月の「国内民間消費」は、平均で3.3%増である。この間の平均GDPの伸び率2.9%を上回っている。米国経済は、民間の自力で動ける態勢である。中国経済が、バブルまみれになっている状況とは、180度の違いだ。中国は、この米国と「貿易戦争」をやって勝てると思うはずがあるまい。

 

(2)「トランプ氏が昨年末に署名して成立させた減税法により法人税率が下がり、向こう5年間、企業は新規の設備投資を即時償却することができるようになった。実際、今年に入り設備投資に弾みがついている。店舗や工場、オフィスビル、石油掘削装置(リグ)といった構造物への投資は税率の変化に最も反応しやすいが、1~3月期と4~6月はいずれも13%超の増加となった。ただ、設備投資は減税が実施されて以降やや減速した。2017年通年では約10%増だったが、今年これまでのところは6.2%増となっている」

 

4~6月の民間設備投資の増加率は、既述の通り7.3%増である。だが、建物などの構造物の投資は、4~6月期については6.2%増でややスローダウンしている。その分、機械投資が先行して、人手不足に対応しているのであろう。構造物建設が伸び悩んでいることはなんら懸念に及ぶまい。それは、次の理由による。

 

全米住宅建設業協会のデータでは、作業員の不足で72%の業者で納期が遅れ、35%では注文を断っているという。米百貨店大手コールズは6月下旬までに、全米の300店以上で9月の新学期セールと年末のセールに向けた期間従業員の募集を始めた。最近は顧客よりも従業員の奪い合いが激しいという、逆転現象が起こっている。

 

(3)「従来は、消費支出の伸び加速の大半が、一段の預金取り崩しで支えられたかに見えていた。これは景気拡大が後期段階に入っている兆しとなる。経済分析局(BEA)ではその後、賃金や自営業者の所得が当初予想を大幅に上回ったことが判明。このため貯蓄率は3%程度に下がったのではなく、12年以来の平均と一致する6.8%となった。そうなると景気拡大は老齢期というより中年期(もっともその後期段階だが)にあると見える。ただし、どれを取っても、長期的な米経済成長率がトランプ氏の目標とする3%に加速した証明にはならない。長期の成長は雇用と一人一人の労働生産性の伸びを通してのみ実現される。トランプ氏の大統領就任以降、雇用は力強く拡大してきた」

 

今年に入って、貯蓄率が低下したことから、個人消費の伸び率は間もなく鈍化すると予測されていた。ところが、賃金や自営業者の所得が当初予想を大幅に上回った結果、貯蓄率が回復していたことが判明した。2012年以来の平均水準の6.8%に戻っていたのだ。

 

こうなると今後、個人消費が減少する懸念は消えた。米国GDPの約70%が個人消費依存である。貯蓄を取り崩して消費を楽しむ「キリギリス」でなかったことにホットさせられる。中国の個人消費はGDPの39%である。過小消費であるが、インフラ投資重視の煽りを食っているために起こっている現象である。

 

(4)「残る課題は生産性だ。筆者の推計では、生産性の伸びは過去4四半期で約1.3%と、景気拡大期に入ってからこれまでの平均をやや上回るものの、なお歴史的な低水準にある。改善傾向が持続的なものか、トランプ氏か掲げる3%という目標水準が視野に入ったか、見極めるにはまだ数年かかるだろう」

 

米国経済の課題は、生産性の伸びを高めることにある。現状では約1.3%程度に留まっている。生産性の伸びが鈍化しているのは世界的な現象だ。これは、人口高齢化と関わっていると見られる。米国も、その例外ではない。総人口に占める生産年齢人口(15~64歳)比率は、2010年の66.86%(世界76位)が、17年は65.67%(同83位)へとわずかながらも低下している。こういう人口動態変化が、生産性に影響を与えているであろう。米国には移民が不可欠である。トランプ氏は、この面で大変な誤解がある。移民を増やす奨励策に転じるべきである。それが、中国経済をさらに突き放す上で、不可欠な対応策である。

 

逆イールドカーブは起こるか

以上のGDP分析から、設備投資も個人消費も構造的に堅調であることが理解できる。そうなると、これまで機会あるごとにいわれてきた、長短金利逆転がもたらす「逆イールドカーブ問題」である。つまり、短期金利が長期金利を上回ると、株価が急落するという問題だ。

 

『ロイター』(7月17日付)は、「世界経済、1年半以内に減速の可能性強まる」と題する記事を掲載した。

 

(5)「米国はしっかりとした成長が続いているものの、成長が最終段階に入ったことを示す明確な兆しも見える。全米経済研究所(NBER)の景気循環判定委員会によると、景気拡大は9年を超えた。記録上、過去2番目の長さであり、2019年7月になっても拡大が続いていれば1990年代を抜いて過去最長となる。失業率は過去50年間の最低水準に近く、鉱工業生産は過去20年間の最高に近い水準で伸びている」 

 

今の米国景気が、来年7月もなお上昇局面にあれば、過去最長の景気拡大になると指摘している。この4~6月期のGDP統計では、まだ拡大が続く可能性を見せている。この長期寿命の景気を継続させるには、早めに金利を引き上げてインフレを防ぐことが重要だ。その場合、必然的に短期金利上昇が「逆イールドカーブ」をもたらすことになる。短期金利引き上げが予防的な結果か。そうではなくやむなく追込まれて引上げる結果なのか。この状況判断の違いが「逆イールドカーブ」の解釈に違いをもたらすことはないのか。私は、判で押したような一律の解釈は危険のように思える。つまり、「逆イールドカーブ」になると、1年後に景気がピークを迎えるという説に疑問を持つのだ。

 

(6)「米供給管理協会(ISM)の指数は、製造業が過去70年間で最も幅広く拡大している様子を示している。ミシガン大の消費者信頼感指数も数十年ぶりの高さに近い。しかし消費者物価の伸び率は2012年初め以来の水準に上昇し、時間給の伸び率を上回っている。米国債利回りは逆イールド化(短期金利が長期金利を上回ること)しそうだ。これは過去にしばしば景気減速の前兆となってきた。これらすべての指標は、景気循環上の強い癖を示している。景気拡大が急速にピークに近付いている時の動きになっているのだ」 

 

ミシガン大の消費者信頼感指数も数十年ぶりの高さに近い、と指摘している。だが、4~6月期のGDP分析で、貯蓄率を回復させながら消費の増加という手堅い動きである。これが、貯蓄率を下げながらの消費増であれば警戒すべきであろう。現実は、そうなっていないのだ。となると、米国が、米中貿易戦争を行なう一方で、同盟国間での貿易摩擦を鎮静化させる。つまり、米欧貿易協定が実現する雰囲気になると、米国経済は新たな次元に向かう可能性も否定はできないように思えるのだ。

 

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(2018年7月31日)

 

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