中国、「孤立」米・EUが貿易戦争回避で危機感「策はあるか」 | 勝又壽良の経済時評

中国、「孤立」米・EUが貿易戦争回避で危機感「策はあるか」

 

 

米EU土壇場の握手

中国の外交的孤立へ

 

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中国は、秘かに米・EUの貿易戦争を期待していたはずだ。そうなれば、中国はEU(欧州連合)と連合戦線を組み米国に対抗し、世界世論を味方につける戦術を思い描いていただろう。事実、EUにその旨を申入れた。だが、米国とEUの話合いがついたのだ。中国にとっては思惑外れであろう。ハシゴを外されたのだ。

 

トランプ米大統領が6月25日にEUと貿易戦争回避で合意し、北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉が8月にも暫定合意に達する可能性が浮上してきた。一方、米国と中国の貿易を巡る争いは収まる兆しが見られない。バンク・オブ・アメリカ(BOA)のエコノミストらは、米国とEUが当面新たな関税導入を控えることで合意したこと。これは、世界的な貿易摩擦の転換点の可能性があると示唆している。トランプ大統領はこの急進展を祝うため、ユンケル欧州委員長と頬にキスを交わす写真をツイッターに投稿した。以上は、『ブルームバーグ』(7月27日付)が伝えたものだ。

 

トランプ氏が、ユンケル欧州委員長と頬にキスを交わす写真をツイッターに投稿したというのは、よほどうれしかったに違いない。トランプ氏が、同盟国と貿易戦争を繰り広げる事態は異常である。米共和党内部でも、トランプ批判が出始めていた。それだけに、EUと工業製品について関税撤廃協議を始めることで合意に達したのは、瓢箪から駒が出たようなものであろう。事前に厳しいEU批判をして、EUに妥協案を用意させたとすれば、トランプ流「ディール」の効果がてきめんと言えよう。

 

米EU土壇場の握手

『大紀元』(7月27日付)は、「米EU、『敵』から一転、貿易戦回避へ、中国は苦境」と題する記事を掲載した。

 

米国とEUは、率直に話合えば妥協点が見つかる。米中は、話合っても簡単に合意点へ達するのは困難である。この理由は簡単である。EUには、米国の覇権を狙う必要のない同盟国である。妥協が可能である。中国は、米国の「後釜」を狙っている。つまり、米国を打倒して世界覇権を手にすることだ。米国は、これが分っている以上、絶対に経済的・軍事的な面で譲歩するはずがない。こうして、米中間では容易に妥協が成立しまい。米国は、雌雄を決するまで勝負をするに違いない。私は、以上のような見方に立っている。

 

このブログで、かねてから「米国の怖さ」を取り上げてきた。日米開戦を1911~12年の段階で「オレンジ作戦」と命名して準備していた国である。当然、中国に対しても準備を始めていると見るべきだ。その意味で、「荒々しい」トランプ政権が登場したのは、歴史的に意義があることだと見るべきである。オバマ政権の良さは別にあるとしても、中国に対して不退転の決意を見せる政権が、米国に必要であったのだ。世界の安保戦略上も必要な政権と言うべきであろう。ただ、誤解を恐れて言えば、トランプ評価はこの一点であること。他の点については別の評価である。

 

(1)「トランプ米大統領は7月25日、訪米中の欧州連合(EU)の行政執行機関、欧州委員会のユンケル委員長と米EU間の貿易をめぐって協議を行った。両首脳は、今後自動車を除く工業製品に対する『貿易障壁撤廃、ゼロ関税、ゼロ政府補助金』へ向けて取り込むことで合意した。また、EUが今後、米国産大豆や液化天然ガス(LNG)などの輸入を拡大する方針を示した」

 

米欧は、自動車以外の工業品について、「貿易障壁撤廃、ゼロ関税、ゼロ政府補助金」を実現すべく協議を開始することで合意した。これは、大きな収穫である。「貿易戦争でないか」と危惧されていた会談が、予想もできなかったベストな局面へ転換した。トランプ氏がここまで予測していたとは思えない。トランプ氏が、ユンケル欧州委員長と頬にキスを交わす写真をツイッターへ投稿したのは、予測外のことであったに違いない。

 

(2)「ロイター通信などによると、米中貿易摩擦の激化を受けて、中国当局は7月初め、米国に対抗するよう、EUに対して連携を働きかけたが、EUはこれを拒否した。こうして、通商問題をめぐって米国とEUが歩み寄り、中国当局が一段と厳しい境地に追い込まれた。米とEUの和解は、米中貿易戦で中国が『完敗する』との見通しが濃厚となった。ホワイトハウスで行われた両首脳の記者会見で、トランプ米大統領は、米とEUが今後協力し、『強制技術移転』や『知的財産権侵害』『過剰生産』などの貿易手法に対抗していくと述べた。大統領は名指しを避けたものの、中国を念頭に置いて発言したとみられる」

 

EUが、米国との妥協の道を選んだのは、現状では米国が「悪者」になって、中国の世界的な地位を押上げる結果を恐れたのであろう。「得たいが知れない」という面で、中国は世界一である。手練手管を使って相手を籠絡させる。この技は、中国4000年の権力闘争が生み出した「芸術」である。そこには一片の人道的な配慮もない、ただの覇権奪還術である。EUは、すでに昨年5月の「一帯一路」シンポジュームで、その手口の一端に接し激怒して署名もせず帰国した経験がある。その残酷さを思い出しただけで、中国との「共闘」を拒否したはずである。中国の思慮不足が招いた失態である。

 

トランプ氏は、米とEUが今後協力し、「強制技術移転」や「知的財産権侵害」「過剰生産」などの貿易手法に対抗していくと明らかにした。明らかに、中国を念頭に置いた発言である。ここで、前記の3項目がなぜ中国経済に発生しているか。それは、普遍的な市場経済ルールに背いた「社会主義市場経済」という統制経済ルールに依拠するからだ。明らかにWTO(世界貿易機関)のルールに反した経済システムである。

 

WTOは本来、この中国経済システムを容認してはならないのだ。迂闊にもこれを認めてしまい、世界中がその措置に苦しむという、あり得ないことが起こっている。中国は、巧妙にWTO違反を繰り返しながら、世界貿易に参加を許されている国である。日米欧の三極が、WTO規則によって、中国を「市場経済国」と認めず、「非市場経済国」扱いしているのは当然である。中国は大変な不満であるが、実態は発展途上国経済体質のままに、経済規模だけ膨らませたに過ぎない。質的な発展をしていない国である。

 

トランプ氏が、取り上げた3項目のうち、「過剰生産」問題だけに触れておきたい。これは、中国が市場経済システムに則って「資源配分=設備投資」していない結果である。全国一律の「市場」が形成されていれば、市場価格は一つしかないはずだ。現実は、全国31地方政府の管轄に分けられた「分割市場」で設備投資を行ない、量的生産計画を立てるだけで価格要因を無視している。だから、結果として過剰生産に陥り、その尻を赤字覚悟の過剰輸出で清算しているものだ。

 

中国が、「社会主義市場経済」という統制経済システムに固執している限り、過剰生産問題は永遠に解決するはずがない。この弊害から逃れるには、中国経済を世界市場から排除することである。この具体的な提案が、後のパラグラフに登場する日欧EPAや米欧貿易協定の締結で市場を守り、ここから中国製品を排除することだ。中国が反省して、「社会主義市場経済」を放棄するまで、貿易のパートナーに迎えるわけにいかない相手である。

 

中国の外交的孤立へ

(3)「米『ラジオ・フリーアジア』(26日付)によると、清華大学元講師の呉強氏は、『米政府とEUが突然、貿易問題で緊張を緩和させたことは、中国当局にとって不意を突かれた』と指摘した。呉氏は、『米とEUの協力関係強化で、貿易だけではなく、中国当局が取り巻く国際政治・外交環境も厳しくなる』とした」

 

中国は、「朝貢国」を持っているが対等な立場の「同盟国」は存在しない希有の国家である。自己主張が強すぎ、支配欲の強烈な結果だ。EUに対しても、「上から目線」の外交である。こうして反発を受けるのだ。EUの本音部分は、「GDPの規模は大きいが中身のないくせに」、と腹の中で笑われている。中国は、それが分らないほど舞い上がっている。この傲慢さゆえに、EUはその鼻をへし折ってやれ、という思いになっても不思議はない。中国は、そういう振る舞いをしている。

 

今回の米・EU会談で自動車を除く工業製品の関税撤廃が実現すれば、中国製品の入り込む余地はなくなるだろう。中国はそれでも孤軍奮闘して、世界覇権を狙うだろうか。ここまで来たら、中国は逆に経済面で包囲されるだろう。民主主義国が、なぜ選挙制度もない独裁国家を世界覇権国に頂く必要があるのか。こういう根本的な選択をするはずだ。この点に気づかない習近平氏とはいかなる人物か。改めて、その思考回路の是非が問われるに違いない。

 

(4)「EUは7月17日、日本政府との間で経済連携協定(EPA)を調印したばかり。人口6億人、世界のGDPの3割を占める巨大な自由貿易圏が誕生する。これに加え、米とEUが自由貿易協定の締結に前進したことで、今後人口9.6億人、世界のGDPの6割以上を占める超巨大市場が形成される。この巨大市場を狙うカナダ、オーストラリア、ニュージーランドなども参入していくとみられる。国際問題評論家の唐浩氏は、『超巨大自由貿易圏が実現となれば、米・EUの主導の下で、国際貿易ルールを無視した中国の蛮行を黙認してきたWTOの解体、あるいは徹底的改革を意味する』との見方を示した」

 

日欧EPAに加えて米欧の自由貿易協定が連結されると、今後人口9.6億人、世界のGDPの6割以上を占める超巨大市場が形成される。こうなったら、中国はもはや手も足も出ない状況に追いやられるはずだ。その場合は、アフリカ相手にビジネスをするしか方法がなくなる。アジア諸国も、「TPP11+日欧EPA+米欧自由貿易圏」の拡大された経済圏に魅力を感じて加入を申し込むであろう。その時、中国は「21世紀半ばに世界覇権」などと、寝言のような目標を掲げているだろうか。「引かれ者の小唄」を演じるに違いない。

 

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(2018年7月30日)

 

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