中国「一帯一路」パキスタンIMF支援下に入れば大計画「頓挫」 | 勝又壽良の経済時評

中国「一帯一路」パキスタンIMF支援下に入れば大計画「頓挫」

 

 

 

パキスタンが試金石に

IMF支援下になれば

 

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中国は今、「伸るか、反るか」の危ない橋を渡っている。「一帯一路」プロジェクトで、最大の工事予定国パキスタンが、金融危機でIMF(国際通貨基金)の支援を受ける見通しが濃くなっているからだ。そうなると、「一帯一路」プロジェクトは中止になる。「一帯一路」工事で2番目に多いマレーシアは、すでに財政上の理由で中止を決定した。中国にとって、にわかに雲行きが怪しくなってきた。

 

中国は、「一帯一路」プロジェクトの勧進元だ。資金も工事も全て中国が引き受けるという「おいしい話」である。問題は、融資の金利が割高なこと。マレーシアとの間にかわされた融資条件は、何と「年利6.5%」である。日本とインドで交わされた新幹線工事契約では、たったの「0.1%」だ。インドのモディ首相は、「タダ同然」と喜びを隠しきれない。

 

日本と中国では、インフラ投資の融資条件でこれだけの違いがある。中国の銀行は、国内で貸し付けるよりも好条件だが、債権回収が難しくなる「焦げ付け」を警戒するようになった。パキスタンが、今秋にもIMFから資金援助を受ける事態になると、「一帯一路」プロジェクトの両翼であるパキスタンとマレーシアが脱落する事態だ。「一帯一路」が始まって3年、最大の危機を迎える。

 

パキスタンが試金石

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(7月24日付)は、「中国、一帯一路構想、パキスタンで暗雲」と題する記事を掲載した。

 

中国が、大型工事を受注する場合に必ずやる手は、相手国首脳を賄賂漬けにすることだ。工事後に採算が望めないような工事を強引に行なわせるには、相手に多額の賄賂を贈り身動きできぬようにする「賄賂トラップ」が有効だ。中国には、交渉相手を籠絡させる手法がいくつもある。「ハニー・トラップ」のほか、「債務トラップ」そして先の「賄賂トラップ」である。パキスタンもこの「賄賂トラップ」に引っかかり、「債務トラップ」に落込んでいる。

 

中パ経済回廊は、中国が中東からの原油や物資をウイグル自治区まで陸路やパイプラインで輸送する上で、生命線と言える重要なルートである。つまり、中国北西部の新疆ウイグル自治区カシュガルから、アラビア海に面するパキスタン南西部のグワダルを結ぶコースである。総延長は3000キロメートル。幹線道路の整備に加え、沿線で発電所や港湾を建設・整備する計画を立てている。中国にとっては悲願の「中東への玄関口」を確保する狙いとされる。将来、米中が軍事衝突して海洋封鎖されても、エネルギー確保が可能という地政学的配慮だ。

 

これだけ重要なルート開発に当たり、パキスタンに高利資金を貸付け、工事を中国側が行なうというのでは、完全にパキスタンを食い物にしている証拠だ。中国にとって生命線であれば、貸付金利を引下げるなどの配慮があってしかるべきである。ところが、パキスタンに恩を売って高利で稼ぐ。余りにもあくどい商法と言えよう。

 

パキスタンが、IMFの資金援助を受ける事態になれば、中パ経済回廊の工事は受注先を含めて再検討される気配だ。同時に、IMF最大出資国の米国が乗り出してくる。中国にとっては、針のむしろの状態が始まるだろう。「一帯一路」計画は、資金面で大きな曲がり角に立つに違いない。

 

(1)「中国の目指す現代版シルクロード経済圏構想『一帯一路』に、想定外のつまずきが生じていることを示す象徴的事例となった。中国による計画開始から3年、パキスタンは債務危機に近づいている。中国国営企業が資金を融通し、建設も手掛けるオレンジラインは、同国北東部の都市ラホールを高架で走る路線。中国はパキスタンで計画する総額620億ドル(約6兆9000億円)のインフラ計画の第一弾として、建設費用20億ドルを投じて空調完備の地下鉄を開通させる予定。このオレンジラインのような大規模事業のために中国からのローンや輸入が急増したことが債務危機の一因だ。パキスタン当局は、オレンジラインを運営するには政府の補助金が必要になると話す」

 

パキスタンの格付けは「B-」である。この評価基準は、「保険財務力が弱い。事業環境が悪化した場合、債務を履行する能力が損なわれる可能性がある」状態だ。中国は、この状況を承知で巨額貸出を行なった。高架鉄道のオレンジラインは、最初から採算が採れないことを前提に建設している。運営費を政府が補助しなければ赤字に陥る問題路線だ。この路線の建設に20億ドルを投入している。これを含め、パキスタンは、総額620億ドル(約6兆9000億円)のインフラ投資を計画している。格付け「B-」では、支払い能力に疑問符がついて当然であろう。

 

(2)「米国が戦後、主として欧州に援助資金を与えたのに対し、中国は多くの場合、自国の建設業者に限定するなどの不透明な条件をつけた融資を拡大している。パキスタンは今や、対中債務の増大による財政や政治への副次的影響に悩まされる国々の1つとなった。パキスタン当局は既に、中国の新たな電力プロジェクトに対する支払いを滞納している。今年の秋口にはこうした問題が顕在化する見通しだ」

 

パキスタンは既に、中国の新たな電力プロジェクトに対する支払いを滞納している。これにオレンジ計画に関わる債務支払いが重なれば、完全に「支払い不能」となろう。中国はこの状況を知っているはずだ。これによって、担保権を執行し目指す担保を手中に収めて「我勝てり」と満足するのか。その代わり、「悪徳高利貸し」の汚名を着せられる。

 

IMF支援下になれば

(3)「パキスタンの新政権は国際通貨基金(IMF)に2013年以来となる緊急支援を要請する公算が大きい。救済が行われる場合、借り入れや支出に制限が課されることとなり、一帯一路構想の中核をなす『中国パキスタン経済回廊(CPEC)』が計画縮小に追い込まれる可能性がある。そうなれば、中国としては大いに当惑する事態となる。中国は慢性的な政情不安を抱える人口2億人のパキスタンにとって、この計画がゲームチェンジャーになると信じ、諸外国に対して中国の進める開発モデルの有益性を証明するチャンスだと期待していた」

 

パキスタンの新政権は、IMFへの緊急支援を要請する腹積もりとされている。格付けが「B-」国へ融資してくれるまともな機関は存在しまい。中国のような「高利貸し」では、国家経済が破綻する。金輪際、中国との金融取引を絶たないと、パキスタンは中国の意のままに利用される「属国」になろう。

 

IMFの緊急支援を仰げば、不要不急の「中国パキスタン経済回廊(CPEC)」は見直し対象にされる。計画の大幅な縮小は避けられまい。IMFは、国家財政の立て直しによる債務返済を指導するので、CPECが棚上げされる可能性も出よう。もともと、中国の利益が大部分を占める開発計画である。中国が無償で資金提供するべき工事である。それを、パキスタンの負担で工事させるという「図々しさ」が、パキスタンの批判を浴びるであろう。

 

(4)「『そうなったら(うまく行かなければ)事実上、西側諸国がこの国を救済することになる』。米シンクタンク、ジャーマン・マーシャル・ファンドの中国・パキスタン関係の専門家、アンドリュー・スモール氏はこう指摘する。『もし、ここでパキスタンが財政的に行き詰まれば、一帯一路構想全体に大きな汚点を残すことになる』。それは、IMF最大の出資国である米国が、パキスタンでの中国の計画に大きな影響を及ぼすことにもなる。

 

パキスタンが、IMFの緊急支援を受ける事態になれば、中国の出る幕でなくなる。IMFの出資国1位の米国や2位の日本が発言権を強めるはずだ。先に中国は、日本へ接近しているので、「よろしくお願いします」という根回しに動くであろう。中国には、「一帯一路」計画でパキスタンを経済破綻させたという「非難」がついて回るだろう。中国はこれまでも、スリランカやモルディブを「一帯一路」で財政破綻させてきた。さらに、パキスタンがこれに加われば、中国の評判は徹底的に傷つくはず。習近平氏にとっては痛手だ。

 

(5)「米政府は『債務のわな』(米当局者)に陥らせる中国のやり方に強く異論を唱えてきた。欧州連合(EU)やインド当局も、一帯一路への批判を強めている。透明性や持続可能性を欠くほか、中国の戦略的影響力の拡大が主な狙いになっていると考えるからだ。ジム・マティス米国防長官は6月にこう語った。『明王朝が彼らのモデルのようだ。諸外国が中国の臣下として貢ぎ物をし、叩頭(こうとう)の礼を行うよう求めている。ただしもっと力ずくのやり方である』と」

 

中国外交に、日本のODA(政府開発援助)のような、相手国の財政状態を慮(おもんばか)る優しさがあれば、スリランカ、モルディブ、パキスタンという「犠牲国」を出さずに済んだであろう。ところが、最初から相手国の担保を狙うあくどいやり方であるから、マティス米国防長官に猛批判されている。つまり、「明王朝のモデルのような振る舞いだ。諸外国が中国の臣下として貢ぎ物をし、叩頭(こうとう)の礼を行うよう求める」傲慢不遜な態度を取り始めている。

 

30年前の中国を知っている者には、現在の中国が想像もつかない厚かましい態度を取っている。昔の中国は、控え目であった。何ごとも日本に学ぶ姿勢を見せていた。日本もまた、中国に対して丁重に対応したものだ。今の中国は、厚かましい限りである。「日本のGDPは、中国より下だから中国を敬え」。こういう礼を失したやり方だ。中国は批判を浴びて当然である。今回、パキスタンがIMFの緊急支援を受ける事態となれば、西側諸国はこぞって中国非難に回るであろう。

 

(6)「一帯一路関連事業の融資額がパキスタンに次ぐ2位のマレーシアでは、マハティール・モハマド首相率いる新政権が今月、200億ドルの中国の鉄道建設計画を中止。その他の中国主導のプロジェクトも見直すことにした。ミャンマーは100億ドルの中国の港湾整備計画について再交渉する構えだ。ネパールは昨年11月以降、中国が建設する2カ所の水力発電用ダムの計画を中断している」

 

中国の貸付金利は、高利貸し並である。マレーシアは、新政権になってすぐに旧政権時代に中国との間に進めているプロジェクトの凍結を打ち出した。契約を破棄すると膨大な違約金の支払いが発生するので、中止という形にしている。パキスタンに続いてマレーシアも一帯一路は見直し対象だ。

 

習氏にとっては悪夢を見ているような気持ちであろう。米中貿易戦争が始まる。一帯一路計画は見直し対象になる。全て、中国の独断外交が招いた問題なのだ。習氏は、この逆風から「中華帝国主義」の非現実性を学ぶことであろう。

 

(7)「IMFは今後、『中パ経済回廊』の既存プロジェクトについても、パキスタンの新政権に透明性の向上を求めるとみられる。現政権は競争入札を用いることなく、不透明な取引によって無駄の多い政治的プロジェクトに資金を流用していると批判を浴びていた。『オレンジラインのような取引を秘密にすることはあり得ない』。反汚職を掲げる野党パキスタン正義運動(PTI)のチャウドリー・ファワド・フセイン報道官はこう語った。同氏によると、PTIは中パ経済回廊を支持するものの、全ての取り決めを議会に明らかにし、審議を受けるべきだと主張している」

 

中国は、密室政治である。この中国と結ぶ契約は、全て「中国第一」である。中国の利益最大化を目標にするから、請負業者も中国企業になる。地元企業は排斥され、建設に伴う利益は中国へ持ち帰られる。これほど、相手国を搾取する国があるだろうか。それにも関わらず、口では大変立派なことを言うのだ、これほど言行不一致の国は珍しい。国全体が洗練されていないのだ。今様に言えば、これほどデリカシーに欠けた国はない。

 

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(2018年7月27日)

 

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