中国、「P2P」ネット融資に相次ぐ倒産・閉鎖「バブルの終焉」 | 勝又壽良の経済時評

中国、「P2P」ネット融資に相次ぐ倒産・閉鎖「バブルの終焉」

 

 

 

企業数は2015年ピーク

金融の体裁を欠くビジネス

 

「新たに、『勝又壽良のワールドビュー』を開設します」

http://hisayoshi-katsumata-worldview.livedoor.biz/

 

 

際限なかった中国バブル経済に、最後の断がくだったようだ。国中を舞ったバブル・マネーの象徴であるネット金融の「P2P」(ピア・ツー・ピア)が、ついに「店じまい」を迎えるからだ。「P2P」とは、個人間のお金の貸し借りをインターネットで仲介するもの。「フィンテック」(ファイナンスとテクノロジーの結合)の先駆ともてはやされたこともあった。だが、借り手の信用状態の確認ができない状況の資金貸借は、博打にも等しい危険性が付きまとっていた。その脆弱性が現実の問題になった。

 

隆盛を極めた「P2P」が、あっけない幕切れを迎えたのは、昨年12月の中国政府による「通告」から始まった。

 

『ロイター』(2017年12月15日付)である。

 

「中国銀行業監督管理委員会(銀監会、CBRC)は、消費者金融に対する規制を強化し、未承認の借り手への融資および、現金貸付や学生ローンなどへの投資を禁止した。証券時報が15日報じた。同国では銀行口座を持たない人が多く、その需要を満たすため消費者金融市場が活況。小口の高金利ローンを扱う小規模な業者が増えている。CBRCが消費者金融業者に配布した文書では、承認を受けていない借り手に対し「ピア・ツー・ピア」(P2P)や第三者を介した融資を拡大することを禁止。投資先は債券のみに限定される」

 

この記事の中に、ネット金融の危なさが余すところなく示されている。「未承認の借り手への融資」を禁じたからだ。中国では銀行口座を持たない人々が多い社会である。これでは、身元確認が不可能である。こういう不確かな相手への融資が、いかに回収上危険であるかは自明のこと。金銭貸借の基本手続きを無視して金融が行なわれていた。中国の前近代的社会状況が、ここに浮かび上がるっている。

 

中国ではもともと、個人間の金銭貸借が親類縁者の間で行なわれていた。この延長で銀行口座を持たなくても不便を感じなかったのであろう。日本では、1882年(明治15年)から郵便貯金制度が始まった。これは、世界で4番目の早さであり、日本社会に貯蓄精神を高める役割を果たした。こういう点からいえば、日本には「P2P」が根付くはずもなく、中国だからこそ爆発的な伸びを見せ、その挙げ句に破綻した。バブル経済のあだ花である。

 

前記の記事に「学生ローン」の問題が指摘されているので、これについて取り上げておきたい。

 

「学生向け消費者ローンが急激に拡大し、利用した多くの大学生は莫大な借金と高い利息を返済できず、厳しい取り立てに苦しんでいる。自殺者が続出しており、社会問題となっている。陝西省西安市の地元紙「華商報」(2017年7月9日付)の報道によると、同市の19歳の女子大生は、iPhoneを購入するために、家族に内緒で学生ローンから1万2500元(約21万円)を借りた。借金を返済できないため、また他の学生ローンからお金を借りてくる。8か月後、女性は30以上の闇金融業者から、総額23万元(約382万円)の借金を抱えるようになった。しかも、借金の取り立てが厳しく、毎日、督促の電話がかかってくる。女子学生は、担保の代わりとしてヌード写真を闇金融業者に送付していた。後に、「裸の写真を友人などにばら撒く」と脅迫された。この学生はストレスから、自殺を何度も考えたという」(『大紀元』2017年7月12日「中国、闇金融の餌食にされた大学生、担保の代わりにヌード写真」)

 

この記事の中に、デタラメな消費者金融の実態が浮き彫りにされている。超金融緩和が招いた社会紊乱現象と言える。こうした「金余り社会」から一転して、「P2P」破綻という危機を迎えた。中国社会の狼狽ぶりが透けて見える感じだ。数年前に、整理を付けておくべき問題だった。

 

企業数は2015年ピーク

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(7月21日付)は、「中国P2P金融、相次ぐ倒産や閉鎖、投資家に動揺広がる」と題する記事を掲載した。

 

中国で、ネットを介して個人の資金を融通する「ピア・ツー・ピア(P2P)金融」が事業閉鎖に追い込まれるケースが相次いでいる。背景には、景気の減速に加え、当局が無秩序な金融テクノロジー(フィンテック)業界への規制を強めており、投資家が資金を取り戻せない事態に陥っている。調査会社『網貸之家』によると、6月下旬以降、P2P金融会社200社以上で、事業閉鎖や資金難、幹部逃亡といった問題が発生したという。

 

中国バブル経済の規模は、日本のそれを大幅に上回っている。その意味では、「史上空前」と言ってもよい。中国政府にその認識のない点が、問題解決を遅らせている。「P2P」問題の解決がここまで遅れた裏には、事態の深刻さが分らなかったのであろう。

 

次のデータは、WSJ(7月21日付)から転載した。

P2Pの融資残高

2016年1月  4340億元

2017年1月  8560億元

2018年1月1兆2490億元

2018年6月1兆3170億元

 

P2Pの会社数

2015年11月 3476社(ピーク)

2018年 6月 1836社

 

上記のデータを見れば、身元の不確かな相手に最近期で1兆3170億元(約21兆6000億円)もの巨額資金が融資されていた。驚くべき「乱脈金融」である。P2Pの会社数は、15年11月の3476社がピークでその後、減少している。6月現在、1836社で48%が倒産して消えた。個人の預け金が消失したことでもある。

 

(1)「新たな登録規制の実施期限である6月末が近づくに連れ、業界では逆風が強まり始めた。そこに景気減速が加わったことから融資返済に窮する企業が増え、一部は事業閉鎖を決めたようだ。さらに警戒した投資家の資金引き揚げも重なり、こうした融資プラットフォーム会社をさらに追い込んでいるとみられている。オリエント・キャピタル・リサーチのアナリスト、アンドリュー・コリエ氏は『資本チェーン全体への不安が広がっている』と話す」

 

昨年12月の中国銀行業監督管理委員会(銀監会、CBRC)の通達によれば、「承認を受けていない借り手に対し『ピア・ツー・ピア』(P2P)や第三者を介した融資を拡大することを禁止。投資先は債券のみに限定される」。この結果、身元不確かな相手(銀行口座を所有しない者)への融資が禁じられた。インターネットによる消費者金融が、箍(たが)をはめられた形で、もはや従来のような発展どころか、縮小させられる動きである。

 

(2)「P2P金融とは、小規模な借り手と一般投資家をつなぐ融資事業だ。中国では通常、投資家の資金を集め、運転資金に窮している企業に短期融資や高金利融資を提供しており、資本プールのような働きをする傾向がある。中国では、当局が経済成長のけん引役としてフィンテック業界の育成を推進したことで、2010年代に入りP2P金融が拡大。だが2015年終盤に、あるネット金融プラットフォーム会社が倒産し、投資家に76億ドル(約8500億円)の被害をもたらしたことで、審判の日を迎えた。当局はこの事件を『ポンジ・スキーム』詐欺だとしている。その後、金融当局は規制強化に乗り出すが、実施は難航した。アナリストによると、P2P金融会社の多くは通常のビジネスとして登録しており、また地方当局者はネット金融を規制する経験がほとんどなかったという」

 

中国当局は、P2P金融についてポンジ・スキームと呼んだという。これは詐欺の一種で、日本語で言うところの「 自転車操業」に近いものとされる。こういう不健全な金融事業を「フィンテック」の走りとしてちやほやしたことが悔やまれる。また、P2P金融会社の多くは、通常のビジネスとして登録していた点も問題である。金融ビジネスの一環という認識がなかったのだ。この認識不足が、「P2P」を歪んだ形にした。中国という国は、知れば知るほど怪しげなことに夢中になる不思議な存在である。「下手物(げてもの)好き」と言っても差し支えない。要するに、オーソドックスなものと無縁な社会だ。社会全体が合理的な思考方法に慣れていないのだろう。

 

金融の体裁を欠くビジネス

ここで、「P2P」が、なぜ急成長して破綻の淵に立たされているかについて取り上げたい。

 

『日本経済新聞』(2017年3月17日付)は、「中国、ネット融資急膨張」と題する記事を掲載した。

 

この記事の中に、ネット融資の破綻の理由が全て明らかになっている。米国の開拓初期にありそうなキツネとタヌキの化かし合いの「金融話」が、中国大陸で繰り広げられていたと思えば良い。改めて、中国の前近代性を感じる。この程度の国が、世界覇権に挑戦すると言い出すから、聞かされる方は驚かされるのだ。

 

(3)「個人でなく企業が数十万元の運転資金を借りたり、投資先の選定を仲介業者に任せたりする商品も出てきた。信用リスクが高い分、8~12%程度の高利回りを見込める。運用期間は1年未満というケースが多い。民間調査会社の盈燦咨詢によると、P2P金融の残高は2014年末に1036億元、15年末には4061億元と急膨張。盈燦咨詢の于百程副総経理は『17年末には1兆3千億元を超す可能性がある』と予測する」

 

このパラグラフでは、17年末には「P2P」残高が、1兆3千億元を超す可能性を指摘している。現実に、2018年1月は1兆2490億元に達した。「倍々ゲーム」同様に残高が増え続けたのは、「バブル・マネー」が乱舞していた証拠であろう。

 

(4)「投資資金の流入が続く背景には、中国国内の深刻な運用難がある。足元では消費者物価の前年比上昇率は2%程度で推移するのに、銀行預金の基準金利は1年定期でわずか年1.5%。預金に置いておくと物価上昇で実質的に目減りしてしまう。年10%前後の利回りが期待できるP2Pは一定のリスクは受け入れる投資家ニーズに合致した。個人の株アレルギーもP2Pの規模拡大をあおる。中国株は15年のチャイナ・ショックに続き、16年も下落幅が1割を超えた。全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の期間中には『金融当局がファンド運用会社に株の売り越しを禁じた』といった報道が流れるなど株式市場の信認回復にはほど遠い状況だ」

 

中国政府が、外貨準備高3兆ドル台維持という非合理的な決定をして、資本移動を規制した。これによって、行き場を失った国内貯蓄の運用場所として「P2P」へ流れ込んだもの。この現象の根底には、国威発揚という政治目的が経済を支配しており、それが招いた混乱である。

 

(5)「市場が急膨張した分、問題も少なくない。『貪欲な投資家たち、さようなら! 海外のとある島にて』。春節(旧正月)の長期休暇を控えた1月下旬。P2P仲介業者、来財街の経営者と名乗る人物の書き込みがネット上で騒ぎを呼んだ。1億元近い資金を持ち逃げし、配偶者との離婚などを通じて資金洗浄も済ませたと告白。実際、上海市内にあるオフィスは春節明けにもぬけの殻になっていた」

 

このパラグラフは、中国人の経済モラルの欠如を100%表わしている。長いこと貧しい生活を送ってきた中国人が、他人を騙してまでも豊かになりたい。そういう人間の哀しいまでの性がここに現れている。これが、多くの中国人社会の偽らざる本音であろう。

 

(6)「資金の持ち逃げに限らず、元利払いの遅延などの問題が生じた仲介業者は3千社を超す。慌てた当局は仲介業者に資金の分別管理を要請。仲介業者が淘汰され、2月末時点の業者数は2335社と15年末から1千社以上減った。『上位100社が資金の約9割を扱うなど集約が進み、不正や事故も減ってきた』(盈燦咨詢の于氏)李克強首相は5日の政府活動報告で、ネット金融のリスクに強い警戒を示した。P2P金融の健全性を維持できるかどうかは、中国金融市場が国際的な信用を得るうえでの試金石にもなる」

 

2015年11月の3476社がピークである。それ以降は、業界の整理が進んできた。それにしても、犯罪に相当する事件が頻発した「P2P」にも関わらず、当局の監視から抜け落ちていたのは手抜かりである。中国は、物事をシステムとして捉えない欠陥がある。対症療法的であって、「モグラ叩き」に終始してきた。これが、根本的な解決を遅らせている。市場経済システムに馴染まず、政府の介入を前提とする経済運営が、問題の発生を事前に食い止められない理由に違いない。

 

【お知らせ】

ライブドアで「勝又壽良のワールドビュー」と題するブログを開設しました。「勝又壽良の経済時評」で取り上げられなかったテーマに焦点を合わせます。「経済時評」が中国論であれば、「ワールドビュー」で韓国論を取り上げるように工夫します。両ブログのご愛読をお願い申し上げます。『勝又壽良のワールドビュー

 

(2018年7月26日)

 

韓国破産  こうして反日国は、政治も経済も壊滅する 韓国破産 こうして反日国は、政治も経済も壊滅する

 

Amazon

 


勝又ブログをより深くご理解いただくため、近著一覧を紹介

させていただきます。よろしくお願い申し上げます。

勝又壽良の著書一覧