韓国、「働き方改革」所得格差を拡大させ景気の先行きに「赤信号」 | 勝又壽良の経済時評

韓国、「働き方改革」所得格差を拡大させ景気の先行きに「赤信号」

 

 

 

狭量な労働政策の限界

景気先行指数低下の意味

 

 

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何とも締まらない話になってきた。日本の向こうを張って「働き方改革」に着手したが、皮肉にも社会的な弱者を困窮に追込む逆効果を生んでいる。文政権の経済政策は、ことごとく失敗している。政権応援団である労組と市民団体が、突き上げている結果だ。

 

働き方改革の目玉は、労働時間の大幅短縮である。これまで、週40時間の法定労働時間に残業時間を加え、週68時間まで認められてきた。この上限が大幅に短縮され、週12時間を超える残業が禁じられて52時間になる。違反した事業主は、2年以下の懲役か2000万ウォン(約200万円)以下の罰金が科される。施行から半年間は試行期間とし、罰則が猶予される。7月1日から、従業員300人以上の企業などに適用され、2021年までに中小企業にも順次拡大される。

 

韓国の総労働時間は、OECDでも最悪クラスであった。残業含みで週68時間の上限が、52時間へ短縮される。これ自体は、大変に結構な話である。長時間残業のために、「夕方はあっても夕食はない」という状況が改善される。この改善は、一部の大企業の従業員にはプラスだが、零細企業の従業員には「諸刃の剣」である。給料が減って、生活費を節約する低所得層が増えている。

 

文政権の欠陥は、角を「直角」に曲がるという性急さが付きまとうことだ。実施までの猶予期間が少ないから、企業は事前準備の期間が足りず、やむなく「従業員解雇」という安易な道を選ぶことになるのだ。日本のように、企業に準備時間を与える意味で、「カーブを回る」ように余裕を与えることが求められる。

 

狭量な労働政策の限界

『ロイター』(7月17日付)は、「韓国『働き方改革』で広がる格差、低所得層にしわ寄せ」と題する記事を掲載した。

 

文大統領は、財閥系大企業と零細小企業を同じレベルで捉えている節がある。大企業の労働者にとって良い「働き方改革」は、零細小企業労働者にも経済的なメリットを与えると考えている。むろん、時間が経てば労働者全体に利益は及ぶとしても、過渡期の零細小企業労働者は、逆にしわ寄せを食いデメリットを受ける。そういう過程が理解不能なのだ。

 

OECDは、最低賃金の大幅引き上げが、零細小企業労働者にしわ寄せが行くことを警告している。それにも関わらず既定方針を強行している裏には、政権応援団の労組と市民団体がプッシュをかけているに違いない。理念先行の応援団は、実務能力はゼロの集団である。その意見を取り入れて経済界の生の声は無視する。革新政権の限界を示す振る舞いであろう。

 

(1)「韓国の文在寅大統領は、国民の労働時間を減らしつつ賃金を増やしたいと考えている。それを達成すべく、韓国政府は最低賃金を上げ、週の労働時間の上限を引き下げた。だが、首都ソウルのロッテマートで麦茶の試飲を配るHeo Jeongさん(48)は、そうした政策の結果、収入の3分の1を失ったと話す。Heoさんが働く店舗は営業時間を短縮し、スタッフの勤務時間を削減した。かつて1カ月に40時間働いていた彼女は現在、32時間勤務で月収は120万ウォン(約12万円)と以前より3分の1少なくなった。手当が付く夜勤にあまり入れず、ボーナスが支給される機会も減っているからだ。彼女だけではない。7月1日に法定労働時間が1週68時間から52時間に削減されて以来、多くの企業が従業員を増やすよりも終業時間を早めている」

 

労働時間を減らして賃金を上げる。これは、まさに「働き方改革」の狙いである。これに反対する者は絶無であろう。文大統領は、この「命題」を達成する手段を忘れている。大企業に命じれば、すぐにでも実現可能と見ている点が「幼稚」とも言えよう。それには、生産性を引上げることだ。規制を緩和して、企業の活動を自由にさせることが不可欠である。この点が、認識から外れているから、零細小企業労働者にしわ寄せが行く。

 

非正規雇用労働者は、時給であるから労働時間の短縮が所得を減らしている。正規雇用者は月給制だから労働時間の短縮がメリットになる。同じ労働者でも、非正規(時給)と正規(月給)では全く影響が異なることに気づかないのは、文政権の失策である。

 

(2)「これは、文大統領の改革が裏目に出始めていることを示す多くの兆候の1つであり、格差に正面から取り組む『雇用の大統領』になるとの公約が危ぶまれていると、エコノミストは警鐘を鳴らす。もう1つの問題は、今年1月に実施して、過去17年で最大の上げ幅となった17%の最低賃金(時間額)引き上げが、低所得層の収入に逆効果をもたらし、投資や求人を抑制している可能性があることだ。下位20%の家計所得は、第1・四半期に前年同期比で8%低下。韓国統計庁がデータを集計し始めた2003年以降で最大の下げ幅を記録した。また、15~29歳の約4分の1が失業している」

 

韓国政治は大義名分さえ立てば、委細について議論を省いてしまう傾向が強い。このように非常に大雑把な政治である。韓国社会の価値観は、「感情8割:理性2割」と指摘されているが、大義名分(感情)重視であり、委細(理性)を飛ばしてしまう社会だ。最低賃金引き上げと労働時間短縮という二つの大義が認められると、これに伴う問題点についての議論を忘れてしまうのであろう。

 

この結果、何が起こったか。所得格差の拡大である。

 

非正規雇用者が属する下位20%の家計所得は、第1・四半期に前年同期比で8%低下した。2003年以降で最大の下げ幅を記録したという。一方、後のパラグラフで取り上げられるが、正規雇用者が属する上位20%の所得は9.3%増え、賃金格差は過去最悪のレベルに達した。これが、文政権という革新政権が行なっている政治の実態である。革新政権の「看板に偽りあり」である。

 

(3)「Heoさんは、『もっと長く働きたい。できるだけ夜勤に入りたい』と言う。『自分の周りで収入が増えたという人は、実際に必ずしもいるわけではない。私自身、食費を減らしている』。ロッテの広報は、大半の店舗で営業時間を短縮し、その結果、一部の下請け労働者の労働時間が減ったことを確認している」

 

非正規雇用のアルバイト従業員は、労働時間短縮によって収入は減っている。食費を減らしているという。こういう声に対して、文政権はどのように応えるのか。性急な労働時間短縮がもたらした被害である。

 

(4)「政府が委託した最低賃金委員会は7月14日、来年の最低賃金を前年比10.9%増の8350ウォン(約835円)にすると発表し、懸念をさらに高めた。小規模企業の業界団体である小商工人連合会は、改革履行を拒まざるを得ないと表明。『小規模事業主は岐路に立たされており、廃業するか人員削減か、選択を迫られている』と声明で述べた。確かに、韓国企業の雇用は減速している。今年はこれまで、雇用の伸びは月間平均で14万2000人となっており、2008~09年の世界金融危機以降でもっともペースが鈍化している。文大統領は16日、『最低賃金の大幅な引き上げは、低所得層が威厳ある生活を送れるようにするためだ。家計所得が上がれば国内需要を押し上げ、ひいては雇用創出につながる』と文大統領は閣僚に語った。また、政策によって窮地に立つ低所得者向けに補助金支給も検討していると付け加えた」

 

文氏の間違いは、家計所得の上昇が最賃引上でしか実現できないと考えていることだ。そうではなく、企業の生産活動を活発化させ雇用を増やす過程で、賃金は上昇するもの。政府の介入(最賃引上げ策)は、その手段の一つであり、全てではない。彼は、こういう賃金引き上げをめぐるメカニズムの理解ができないのだろう。賃金もまた、市場メカニズムの一環において決まるものなのだ。政府の介入が全てではない。

 

(5)「ホワイトカラー労働者にとって、政府のこうした新たな政策は息抜きとなっている。『上司より早く帰るなんて、昨年は考えたこともなかった』と、ソウルで小売り関係の事務職に就く29歳の男性は語る。低所得層が第1・四半期に打撃を受けた一方で、平均家計所得は前年同期比3.7%増と過去4年でもっとも急速に拡大した。韓国統計庁によると、上位20%の所得は9.3%増え、賃金格差は過去最悪のレベルに達した」

 

正規雇用者のホワイトカラーは月給制である。労働時間の短縮が、正規雇用者を最大の受益者にする。文氏の頭には、このホワイトカラーの存在しかないのだろうか。今年第1四半期の所得上位20%の所得が、すでに9.3%増えたのは正規雇用者であるメリットだ。既述の通り、非正規雇用者の属する所得下位20%の層は減少している。

 

(6)「文大統領が最低賃金に関する選挙公約を実現するには、2020年までに時給を1万ウォンに引き上げなくてはならない。しかし、OECDは6月に発表した韓国リポートの中で、そのような上昇は加盟国でも前例がないと警告。文大統領に対し、これ以上最低賃金を上げる前に、今年の経済的影響を評価するよう推奨している。韓国の労働市場改革は、『最低賃金引き上げや他の雇用促進策はこの先、格差を是正するのに役立つだろうが、今は非常に悪いタイミングだ』と英銀行大手スタンダード・チャータード(ソウル)のエコノミストは語った」

 

OECDは、生産性を大幅に上回る最低賃金引き上げが、加盟国で前例はないと否定している。韓国ではそれを強引に実行した。韓国経済は、すでに景気の先行指数から見ても下降は必至の状況である。最賃大幅引き上げは、景気下降の勢いを加速する懸念を強めている。その意味では、極めてタイミングが悪いのだ。

 

景気先行指数低下の意味

『朝鮮日報・コラム』(7月22日付)は、「OECD景気指数、韓国だけ13カ月連続ダウン」と題する記事を掲載した。

 

この記事は、景気に関するテクニカルな内容である。要約すれば、韓国景気の6~9ヶ月先を予測する5月の景気先行指数(CLI)が99.5で、2013年1月(99.4)以来、64カ月ぶりの低水準であると指摘している。100を割り込めば景気後退の前兆シグナルとして警戒される。韓国が、100を割ったのは、今年1月である。前述のパターン通りとすれば、今年9月頃には「景気悪化」の現象を確認することになろう。最賃大幅引き上げと労働時間短縮が、減速を加速する懸念が強い。

 

(7)「韓国経済は、このところ雇用・投資・消費など各種の経済指標がマイナスを記録している中、今後の韓国の景気状況はさらに悪化するだろうという経済協力開発機構(OECD)の見通しが発表された。OECDは、5月の韓国の景気先行指数(CLI)が99.5だと発表した。これは前月(99.6)に比べ0.1ポイントのダウンで、2013年1月(99.4)以来、64カ月ぶりの低水準である。CLIは6~9カ月後の景気の流れを予測する指標で、通常100を超える場合は景気上昇、100以下なら景気下降と解釈される。各国の製造業在庫循環指標、長短金利差、輸出入物価比率、製造業景気展望指数、資本財在庫指数、株価指数という6つの指標を基に、最近の数字に加重値を置く方法で算出する」

 

景気循環は、景気の勢いの方向を見る上で極めて重要である。韓国経済がすでに上昇エネルギーを失い、現状はフラフラと宙を舞っているようなもので、間もなく下降に転じるという状況に追込まれている。景気の下降がハッキリすれば、今年のGDP成長率が2.9%に留まる保証はゼロである。下振れの公算が強まろう。

 

(8)「韓国のCLIは、昨年2~4月に3カ月連続で100.9となりピークに達して以降、5月(100.8)から下がり始め、13カ月連続で下がり続けている。世界の主要国のうち、CLIが1年以上下落を続けているのは韓国だけだ。OECDがCLIを集計した32加盟国中、韓国の順位は22位だった。韓国よりも順位が低い10カ国のうち先進国は、欧州連合(EU)脱退を決めて以降、ポンド安で苦しんでいる英国(99.1)だけだった。日本(100.0)は「アベノミクス」に支えられて2016年半ばから着実に景気が上向きになっている。米国(100.2)は2016年半ばに99.0まで落ち込んだが、トランプ大統領就任以降は景気が急上昇している」

 

韓国の先行指数が、すでに1年以上も下降状態にあることは、100%景気後退を告げている。韓国政府は、最賃大幅引き上げと労働時間短縮が、景気下支え役になると見ているとすれば、完全な的外れに終わるだろう。文政権は、景気冷却化の中で自らの経済政策失敗を突き付けられる。そういう苦しい状況に追込まれるのだ。

 

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(2018年7月25日)

 

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