中国、「人民元安拍車」1~3月期18年ぶり経常赤字へ「転落」 | 勝又壽良の経済時評

中国、「人民元安拍車」1~3月期18年ぶり経常赤字へ「転落」

 

 

 

人民元安の招く政治的混乱

アジア通貨危機への引き金

 

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中国の外貨準備高は、3兆1000億ドル台と群をぬいた金額である。あたかも、世界一の「金満大国」のイメージを振りまいているが、国際収支は脆弱そのものだ。中国の対外的な「稼ぐ力」を示す経常収支構造は、大変な事態に追込まれている。私は、中国の経常収支黒字が、対GDP比で傾向的に低下している事実を繰り返し取り上げてきた。実は、今年1~3月期の経常収支は341億ドルの赤字に陥っていた。2001年4~6月期以来のことである。これは一過性の問題でなく、今後に尾を引きそうな事態となっている。

 

日中の対GDP比での経常収支率を見ておきたい。

 

        日本    中国

2018年  3.76%  1.18%

2017年  4.01%  1.37%

2016年  3.80%  1.80%

2015年  3.05%  2.71%

(IMF資料)

 

IMFの予測では、今年の日本の対GDP比の経常収支率が3.76%である。中国は、1.18%である。2015年からの推移を見ると明らかに、一頃の力を失っている。これと反比例で、習氏が世界覇権に挑戦すると言い出した。中国の弱さを隠すために、あえて高い目標を掲げたとすれば逆効果であった。

 

習氏の発言が、米国を怒らせ警戒させて、予想もしていなかった米中貿易戦争を招いている。中国は、苦し紛れに人民元相場を安値に誘導すれば、「通貨戦争か」と勘ぐられる始末である。習氏の発した「大言壮語」が回り回って中国の運命を大きく変えそうな事態を招いている。口は災いの元と言う。今回の騒動を見ると、それを実感させられる。相手国を貶めるような発言は、自国にはね返ってくるもの。中国は、身を以てそれを実感しているはずだ。

 

中国の国際収支における最大の問題は、貿易収支で巨額の黒字が出ても、サービス収支の赤字が大きいことである。この8割は中国人の「爆買い」を伴う海外旅行である。国民に参政権も与えず、人権弾圧している中国政府は、せめての罪滅ぼしで国民に海外旅行で息抜きをさせなければ不満が爆発しかねない。こう見ると、中国共産党が払わなければならない「必要コスト」がいかに大きいかが分る。

 

こういう経常収支赤字化というショッキングな事実を踏まえると最近、襲ってきた人民元安は一概に、中国政府が意図的に始めたとは言えない面がある。米中貿易戦争の激化を考えれば、形勢不利な人民元が安値に振れても不思議はないからだ。経常収支の実勢悪が、人民元相場に現れて来たと言えよう。

 

人民元安の招く政治的混乱

『ブルームバーグ』(7月21日付)は、「通貨戦争の様相、米財務長官がトランプ大統領に続き中国を名指し批判」と題する記事を掲載した。

 

この記事は、米中貿易戦争が通貨戦争に発展しかねない危険性を指摘している。ただ、中国の経常収支が悪化しているという認識は希薄である点が気になる。中国の巨額な外貨準備高に幻惑されて、あたかも中国の経常収支構造が堅塁を誇っているような錯覚に陥っている予感がするからだ。実態は「泥舟」である。米国と本気で貿易戦争をするような実力はなく、見栄で強いポーズを取ることがいかに危険か。それが、通貨戦争に発展する事態となれば、世界経済を巻き込む大騒動になりかねないのだ。

 

(1)「トランプ米大統領は7月20日のツイッターへの投稿で、通貨と金利を不当に低い水準に操作してきたと中国、欧州連合(EU)を批判。これに先立ち、人民元相場はこの日、対ドルで急落し、1年ぶりに1ドル=6.80元を超えた。しかし、中国人民銀行(中央銀行)が元安に歯止めをかけるため市場介入する兆候はほとんどみられない。ロイター通信によれば、ムニューシン財務長官は中国が為替を操作しているかどうか注視していると述べた」

 

中国が、管理型変動相場制を取っていることは、人民元相場へのあらぬ疑いをかけられる理由である。頑として自由変動相場制への移行を拒否している理由は、人民元相場まで自国が管理したいという間違った考えに取り憑かれている結果だ。世界中の主要国はことごとく自由変動相場制である。その中で、中国は「甘い汁」を吸いたいという邪心を卒業できず、現在まで持ち越してきた。まさに、中国経済の命取りになりかねない事態が予想できる段階で、人民元相場に疑惑を持たれることは致命傷になろう。

 

米国は、人民元が1ドル=6.8元を割って安値に振れてくれば、「安値に誘導している」として中国批判を展開する構えだ。そうなると、通貨戦争という最悪事態に突入する。だが、中国の国際収支はすでにふらついている。純輸出(輸出-輸入)のGDP寄与度は、2011年以降でプラスになったのは、12年(0.2%ポイント)、14年(0.3%ポイント)、17年(0.6%ポイント)だけで、後は全てマイナスである。GDPに寄与していないのだ。18年は1~3月がマイナス0.6%ポイント。1~6月がマイナス0.7%ポイントである。

 

こういう事態で中国が、米国と真っ正面から貿易戦争も通貨戦争もできるワケがない。病み上がりの病人が、健康人と取っ組み合いの喧嘩を始めるような話である。中国にとって唯一の解決法は、自由変動相場制に移行する。資本規制も撤廃して裸の実力を見せ、米国に「降参」することだ。無駄な見栄を張り米国と対抗する「コスト」が、いかに高くつくかを自覚すべきだろう。中国経済の「お里」は知れたもの。取り繕って過大に見せることの無益を覚ることだ。

 

(2)「世界2大経済大国の米中が日増しに激しさを増す瀬戸際外交の新たな局面を切り開く中、米中の通貨を巡る争いが深刻な影響をもたらし、ドルと元以外の通貨にも波及する可能性がある。また現在の世界的な金融秩序も脅かされ、株から原油、新興市場資産に至るあらゆるものが打撃を受ける恐れがある。ウォール街の為替ストラテジストとして毎年トップにランクされたイェンス・ノルドビグ氏は、『本当のリスクは、世界貿易と通貨の協調が幅広く崩れ始めていることであり、これは良いことにはならない。トランプ大統領のこの24時間の発言がリスクを貿易戦争から通貨戦争へとシフトさせていることは確かだ』と分析した」

 

米中が通貨戦争の事態になると、その波及先は多方面に及ぶ。これを回避するには、人民元が主要国と協調して自由変動相場制に移行することだ。資本規制も撤廃する。こういう重大な決定を主要国との話合いの下でなされるならば、無用な混乱を避けられるに違いない。ところが、米中間でこのような話合いもなく、人民元安に触発された通貨戦争に発展すると、多数の「怪我人」が出て、それがさらに国際的な混乱に拍車をかけるであろう。

 

アジア通貨危機への引き金

(3)「国際金融協会(IIF)のチーフエコノミストを務めるロビン・ブルックス氏は、2015年の中国の人民元切り下げが今後の影響の広がり方を予測するのに役立つと指摘。経済成長懸念の高まりに伴い、リスク資産と原油相場が急落する可能性が高く、その場合、ロシア・ルーブルやコロンビア・ペソ、マレーシア・リンギットといった一次産品輸出国の通貨が特に大きな打撃を受け、その後、アジアの他の国の通貨が押し下げられるだろうと述べた」

 

中国が2015年に突然、人民元相場の切り下げに動いた理由は、「人民元高」に耐えられなかったことだ。無理に無理を重ねた「見栄っ張り」経済の悲鳴である。それは、先に指摘したように、純輸出がGDPに寄与しなくなっていたことに現れている。その後も、見栄を張り続けている。GDP2位のプライドに賭けて米国へ対抗しているが、すでにその力を失っている。GDPそのものが「改ざん」されているからだ。

 

中国は、2015年のように突飛な行動をとることなく、米国と充分に打ち合わせて人民元相場の変更を行なう必要があろう。習氏のメンツは丸つぶれでも、世界経済の混乱を事前に防ぐ上で、欠かせない手続きである。米国は1985年の「プラザ合意」で、先進5ヶ国の蔵相・中央銀行総裁が集まって決定している。中国も、こういう配慮を行なうべきだろう。抜き打ちの人民元切り下げは、絶対に行なってはならない。

 

中国が、2015年のような事態を引き起こすと、資源国通貨の急落を招くであろう。それが、足下のアジア通貨に飛び火して、「アジア通貨危機」(1997年)の再来につながる危険性を高める。中国は、「一帯一路」プロジェクトで音頭を取って影響力を強めている。通貨切り下げでこっそりと逃げ切れる妙手などない。

 

(4)「ロビン・ブルックス氏はまた、『アジアの中銀は当初、通貨安を介入によって阻止しようとするだろう。しかしその後、介入から手を引くと予想する。私の考えでは向こう6カ月で最も通貨安となり得るのはアジアの新興国だ』と述べた。ノルドビグ氏は、中国人民銀行がさらなる元安を回避するため、ドル・元相場を1ドル=6.8元付近にとどめようとするかどうかが鍵となると指摘した」

 

国際金融協会(IIF)のチーフエコノミストを務めるロビン・ブルックス氏は、不吉な予言をしている。中国によって人民元安が、突発的に引き起こされれば、その余波は確実にアジア通貨に及ぶと見ている。そういうリスクを回避するメドは、1ドル=6.8元近辺で人民元安が止められるのかどうか。その歯止めがなくなれば、最悪事態へ突入する、という見立てである。

 

中国が、GDPで世界2位になったのは2010年である。この年は、総人口に占める生産年齢人口比率がピークに当る。2010年以前は「人口ボーナス期(プラス)」、それ以降は「人口オーナス期(マイナス)」である。人口動態が、経済成長に与えた影響は全く異なるのだ。中国政府は、この明暗を分ける人口動態の影響について、どこまで正確に理解しているか疑問である。GDPに影響する「純輸出寄与度」を見ても、バラツキが出ているのだ。対GDP比の経常収支比率も低下傾向を示している。中国経済が、急速に衰えを見せていることは疑いない事実だ。中国は、この現実を受け入れるべきで、米国の覇権に対抗する力は存在しない。軍事力だけ拡張して周辺国を威嚇することは、国力の疲弊を早めるだけとなろう。

 

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(2018年7月24日)

 

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