韓国、「失敗の実験」最賃大幅引上が招いた雇用減「税金で穴埋め」 | 勝又壽良の経済時評

韓国、「失敗の実験」最賃大幅引上が招いた雇用減「税金で穴埋め」

 

 

 

最賃が店員減らし機械化

文政権の一枚看板はウソ

 

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IMFやOECDなどは、最低賃金の大幅引上げによる「所得主導経済」について、疑念を表明してきた。それを無視して強行した政策が結局、雇用減を招くという笑うに笑えない事態に陥っている。

 

文政権は、「雇用政府」を掲げ年間32万人の就業者増を目標に掲げた。だが、最賃の大幅引き上げが雇用減をもたらして18万人に下方修正せざるをえなくなった。1年間実験してきた所得主導成長不振の事実を政府自らが認めたのだ。このような無残なことになったのは、間違った経済理論に基づいた最低賃金の大幅引き上げを行なったことにある。

 

最賃大幅引き上げが、店員を減らし無人販売機に置き換えられた例から見ておきたい。

 

最賃が店員減らし機械化

『朝鮮日報』(7月19日付)は、「最低賃金引き上げの皮肉、店員減らし無人注文機導入の店が急増」と題する記事を掲載した。

 

大袈裟に言えば、AI(人工知能)が人間の労働力にとって代わったようなものだ。無人注文機1台が、1日にアルバイト店員の1.5人分に当たるという分析結果が出てきた。こうなると、最低賃金が上がれば上がるほど、無人注文機が増える皮肉な話である。

 

(1)「最低賃金が急激に上昇し、人件費負担が重くのしかかる自営業者らが無人注文機『キオスク』の導入を急ぎ始め、関連企業はホクホク顔だ。ハンバーガーチェーン『バーガーキング』は現在、全313店舗のうち67%(210店舗)で『キオスク』を導入しているが、近く全ての店舗に設置する計画だ。また、全1350店舗のうち56%(762店舗)で『キオスク』を導入しているロッテリアも、導入店舗を順次拡大する方針だ。大型デジタルスクリーンでハンバーガーや飲み物の画像をタッチし『テイクアウト』するかどうか、また決済方式を選ぶと、会計まで全て完了する」

 

ハンバーガーチェーンで、無人注文機が「働いている」という。本来ならば、人間がいるべき場所に機械がその座を占めている。日本のように労働需給が極端に逼迫化している状況では当然としても、韓国のような人手が余っている社会での無人注文機は、複雑な思いがする。

 

(2)「昨年末に、『キオスク』を導入したフレッシュジュース専門店『ジューシー』の関係者は、『この6か月間、キオスクを導入した店舗の支出を分析した結果、キオスク1台の導入効果はアルバイト店員の1.5人分に当たることが分かった』として」1店舗で月に最大300万ウォン(約30万円)を節約できる』と説明した」

 

無人注文機1台が、1日アルバイト1.5人分の仕事をこなすとなれば、無人注文機の活躍舞台は、急ピッチで広がってゆく気配だ。1店舗で、1ヶ月に最大で約30万円の人件費を節約できるとなれば、「無人機さまさま」であろう。

 

(3)「フランチャイズチェーンだけでなく、小規模飲食店でも『キオスク』の導入が相次いでいる。ソウル市江南区でベトナム料理店を経営するチョンさん(42)は昨年初めに『キオスク』2台を導入し、アルバイト店員を2人から1人に減らした。人件費は月間150万ウォン(約15万円)減少した。チョンさんのように小規模飲食店の経営者が『キオスク』を導入することができたのは、機械のレンタルサービスが登場したからだ。使用料は機械の種類によって月に8万-30万ウォン(約8000-3万円)ほどだ。個人経営の飲食店でも、レンタル会社にメニューの名前と価格、料理の写真を提供すれば、プログラムに簡単に追加して使用することができる」

 

無人注文機のレンタル料金は、1ヶ月8000円~3万円という、この程度の料金であれば、簡単に無人注文機を導入可能である。逆にこれが、アルバイトの職場を奪うわけで、政府には痛し痒しであろう。

 

文政権の一枚看板はウソ

『朝鮮日報』(7月19日付)は、「経済実験に失敗した韓国政府、税金で穴埋めして責任逃れ」と題する社説を掲載した。

 

韓国政府は7月18日、経済関係閣僚会議を開き下半期の経済政策の方向を発表した。韓国政府はこれまで維持してきた今年の成長率目標3.0%を2.9%に引き下げたもの。主要景気指標の悪化を反映し、民間研究機関だけでなく韓国銀行まで「3%成長不可」に転じていたが、韓国政府だけが固執してきた。それがついに、政府も現実の経済悪化を認めて今年の経済成長率予想を0.1ポイント引下げた。 

こうした下方修正は、政府の「所得主導成長」の失敗によるものだ。国際機関までが疑問符を付けてきた大幅賃上げによる景気回復は、幻に終わったことを示している。

 

(4)「韓国政府が今年の雇用増加の目標値を32万人から18万人に引き下げると発表した。2年間で33兆ウォン(約3兆2800億円)の税金を雇用事業につぎ込んだかこれから投じる予定なのにこの有り様だ。経済成長率の目標値を3%から2.9%に引き下げ、投資、消費、輸出など主な指標の予想値も一斉に下方修正した。経済は数カ月前から後退の兆しを見せてきたが、政府は『景気回復の流れが続いている』と説明していた。ところが、突然『体感景気と市民生活は厳しい状況だ』と言いだした。これ以上ごまかせない状況に達したのだ」

 

文大統領は、就任時に「雇用政権」という看板を掲げた。そのメニューは、①非正規雇用者の正規化、②最低賃金を大幅に引上げ2020年に日本並の1000円へ引上げる、というものだった。就任1年後の実績は、惨憺たるものである。失業率の上昇である。雇用増加の目標値の32万人は、半減に近い18万人へと引下げた。いったい、あの公約はどうなったのか。韓国メディアが批判するのは当然である。

 

文政権の悪いところは、韓国社会の抱える病根の全てが、過去の保守党政権に原因があると罪をなすりつけることだ。「積弊一掃」という名の下に、大企業への規制を強化している。労働改革も、自らの有力支援団体である労働組合の要請を受けて中止した。その上に、大幅最低賃金引き上げだ。企業の手足を縛っておいて、「さあ飛んで見ろ」と言っているようなこと。韓国経済が、下振れする公算が強まったのは当然である。

 

(5)「政府が事実を語ったのは、所得主導成長を掲げる実験的経済運営が失敗したことを認めたものだ。企業の活性化という正攻法ではなく、最低賃金を2桁台で急激に引き上げ、労働時間を無理に短縮するなどの労働者寄りの実験は失敗してもやむを得ない『雇用を民間が創出するというのは固定観念だ』とし、『税金による雇用』まで主張した政策だったわけで、それが成功する方がおかしかった」

 

文政権の最大の弱点は、実務経験のない大学教授を多く閣僚に据えたことである。「理念先行」であるのは、こういう背景がある。もちろん、大学教授が政治に参加するのは珍しくない。だが、「最低賃金の大幅引き上げが韓国経済を活性化させる」という幻想を抱いたことに理念先行の欠陥が現れている。この主張は、どの点を間違えたのか。経済の循環過程に対する正しい知識がゼロであったことだ。

 

一見、最賃引上が低所得層の賃金を引上げ、個人消費を刺激するように見える。これには、企業が活発な生産活動を行なうことを前提にする。文政権は、この重要部分を抑制したままである。タンクに水が少ないのに、蛇口だけ広げるならばどうなるか。蛇口を広げるには、タンクの水がそれに応じて流入(生産性向上)することが必要である。こういう理屈が、左翼経済論では空白になっている。文政権は、それに気づかない致命的な失敗を犯した。

 

(6)「それでも政府は所得主導成長実験の成長を認めず、『さらに見守るべきだ』と主張した。そして、失敗した政策をさらに強化する対策を持ち出した。またもや『税金主導』だ。下半期に政府が4兆ウォン近くを投じ、来年からは税金で低所得勤労者世帯を支援する勤労奨励税制(EITC)を拡大する。334万世帯に3兆8000億ウォンをばらまくというから、対象者は2倍、金額は3倍だ。5世帯に1世帯が税金ばらまきの対象になる。驚くべきことだ」

 

所得主導成長論なるものは、まやかしである。日本の政党でもこういう主張を掲げるが、それには企業活動を活発化させる政策が必要である。つまり、自民党的な政策が求められる。これでは、野党も与党も経済政策において差がつかなくなるであろう。経済原理は一つしかない。市場原理を重んじて、政府の干渉を減らすことである。

 

余談だが、中国政府はこの真逆の道を歩んでいる。一時的に急成長できても、その条件(人口動態)を失えば、元の木阿弥である。中国経済は、経常収支の面から14億人の国民が、自由に海外旅行できる余力を失いつつある。この現実をご存じだろうか。対外的な「稼ぐ能力」が急低下していることだ。韓国も、文政権流の政策を続けていれば、いずれ同じ道に落込むであろう。奇をてらった政策は、国民の人気を一時的に高めるにしても錯覚に終わるであろう。

 

韓国は、最低賃金を大幅に引き上げた。それが、経済停滞の理由になっている。そこで、新たな財政措置によって他の低所得層を救済せざるを得ない立場に追込まれている。334万世帯に3兆8000億ウォン(約3800億円)をばらまく。日本でも、こういうバラマキをやった経験がある。財政負担を増やすだけで何の効果も見られなかった。

 

発展途上国支援論では、食糧を供与するよりも食糧を生産できる手段の提供が必要だ、という議論が定番化している。魚を贈与するよりも釣り道具を贈った方が効果的という意味である。韓国の最賃大幅引き上げは「魚」である。この愚を避けるには、企業活動を活発化させる政策(釣り道具)が必要である。そうすれば、無駄なバラマキをしないで済む。政府の仕事は、多くの国民が働ける場所を提供できる環境を整備をすることだ。文大統領は、自らをサンタクロースに擬して悦に入っているかも知れない。革新政権の落し穴がこれだ。

 

(7)「最低賃金引き上げに対する零細事業者、中小企業人の不満については、矛先を大企業に向けようとする。大企業や賃貸業者などの横暴が問題だというのだ。与党の代表、院内代表、ソウル市長、公正取引委員長らがそろって乗り出して調査を行い、フランチャイズ加盟手数料引き下げ、賃料上昇抑制、クレジットカード手数料引き下げにつなげるという」

 

前記の点で、暴利をむさぼる危険性があれば是正することは必要である。だが、最低賃金大幅引上げによる根本的な問題を隠蔽するために、フランチャイズ加盟手数料引き下げ、賃料上昇抑制、クレジットカード手数料引き下げなどに罪をなすりつける、「文政権の無責任体質」を許してはならない。問題の本質はどこにあるか。それを正確に認識して是正することである。

 

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(2018年7月23日)

 

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