中国、「貿易戦争終結?」経済実勢悪化を見据え「対話シグナル」 | 勝又壽良の経済時評

中国、「貿易戦争終結?」経済実勢悪化を見据え「対話シグナル」

 

 

 

貿易戦争回避の動き強まる

固定投資減少で景気停滞へ

 

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中国は、これまで米国と貿易摩擦をめぐって対等の姿勢を見せてきた。中国経済の実情を知る者には、あまりにも虚勢に見えたのだ。習氏は、米国企業の代表団と面会した際、「外国に殴られたら殴り返す」とまで米国への反発を見せていたのである。

 

その中国が突然、対話路線を模索しているから不思議だ。あれだけ大言壮語してきたものの、中国経済の置かれている厳しい状況を考えれば、「徹底抗戦」などと威勢の良いことを言っていられるゆとりはない。ここは対話路線によって、「関税爆弾」を避けなければ一大事。そういう「逃げの姿勢」へと認識が変わったと見られる。

 

中国外交担当トップの楊(よう)共産党政治局員(中央外事工作委員会弁公室主任)は7月14日、北京で開幕した「世界平和フォーラム」で演説し、「中国市場は今後15年間で24兆ドル(約2700兆円)の商品を輸入する見通しだ」と述べた。これは、米国を対話路線に引き込むシグナルになりそうだ。

 

貿易戦争回避の動き強まる

このような判断をくだす根拠は、次の報道がそのヒントを与えてくれる。

 

『大紀元』(7月14日付)は、「米中貿易戦、低姿勢に転じる中国、米への刺激避ける」と題する記事を掲載した。

 

中国は、今回の米国から加えられた圧力を国内の改革エネルギーに変えようという動きを見せている。数年後には、「トランプ氏に感謝しようという気持ちになろう」、とまで言い始めていることは、米中貿易戦争が対話路線に転換する前兆と見られる。この視点から、前述の楊共産党政治局員の「15年間で24兆ドル輸入計画」は、アドバルーンでなく、現実味を帯びてくる。

 

(1)「中国の国務院弁公庁は7月2日、商務部や外交部や財政部など主要の省庁に対して『輸入を拡大し対外貿易の均衡的な発展を促すことに関する意見』を通達した。商務部が7月10日、同ウェブサイトに掲載した同『意見』についての解説で、今後『一部輸入品の関税引き下げの実施』『企業の正当な権利を保護し、国内投資環境の改善』などに言及した」

 

米中貿易摩擦は、輸入を拡大し対外貿易の均衡的な発展を促すことで解決しよう。こういう基本姿勢が、商務部や外交部や財政部など主要の省庁に伝えられたという。この点が重要だ。

 

(2)「これに対して、SNS微信のアカウント『牛弾琴』に掲載された記事は、同『意見』はトランプ米大統領に歩み寄る姿勢を見せている、と分析している。同アカウントは国営新華社傘下の『環球雑誌』の劉洪・副編集長が開設したもの。同記事は、『この行動(関税措置)のおかげで』、いわゆる改革開放のまい進が急務になったと示した。また、数年後に今を振り返ってみた時、『トランプ氏に感謝するかもしれない』とした。記事は、各メディアに転載された。一部のメディアは、『中国は、“貿易戦”というプレゼントを贈ってくれたトランプ氏に感謝すべきだ』とタイトルを変えて掲載している。在米中国人学者の李恒青氏は、中国当局の姿勢変化について、「米側との貿易戦を避けたい当局の思惑が明らかだ」と大紀元の取材に応じて答えた」

 

かつての日本でも、外圧を利用して国内改革を進めようという議論が盛んであった。中国は今、日本と同じ立場に立とうとしている。日本が中国へサジェスチョンしたのかも知れない。中国は進退に窮したとき、日本の助言を受け入れるパターンがある。2008年のリーマンショック後、中国は「4兆元投資」を行なった。これは、麻生太郎氏が胡錦涛国家主席(当時)に勧めた結果だ。今回も麻生氏が密かに動いたのでなかろうか。余りにも、過去の日本に似たケースであるからだ。

 

(3)習近平国家主席は先月末訪中したマティス国防長官と会談した際、『われわれは貿易戦を望んでいない。米側に対抗したくない』と発言していた。また、米中貿易摩擦をめぐって、習主席が出席した重要会議で『米中が貿易問題で対立しているなか、われわれは姿勢を低くするべき』と話したという。この会議には商務部や外交部、中央宣伝部などの高官が出席した。現在、中国政府系メディアは『貿易戦による圧力を、経済発展を推進する力に変えよう』との論調を展開している」

 

習氏は最近、貿易戦争を回避する姿勢を折りに触れて見せている。マティス国防長官と会談の際に明言し、国内の重要会議でも同様の発言をしているという。米中貿易戦争は、回避されて話合い路線に移る可能性が出てきたと言えそうだ。

 

この背後には、中国経済の直面する危機がある。デレバッレジ(債務削減)は待ったなしの局面にある。これまでの中国経済は、過剰債務が支えてきた。その支え棒が外れたらどうなるか。経済成長率の減速である。すでに意図的なデレバレッジに入る前に、「信用収縮」が始まっている。銀行は、過剰債務を抱える企業に対して新規貸出を抑制しているからだ。マネーサプライ(M2)は、6月に前年比8.0%という過去最低に落込んだ。中国経済は、自律的な「減速過程」に入り込んでいる。この重大な事実を見落としていると、中国の将来を見誤る恐れが強い。

 

このような迷路に入り込んで、米国と貿易戦争をすればどのような事態に落込むか。誰が考えても同じ結論になるだろう。貿易戦争を回避して、米国と話合いのテーブルに着くことである。習氏が、一時の昂揚した気持ちから「徹底抗戦」を声高に叫んでいた時と異なり、経済状況が急変したのだ。

 

7月16日に発表された4~6月期のGDPは実質で、前年比6.7%成長であった。1~3月期に比べて、0.1%ポイントの低下に留まった。この数字を見れば、「まーまーだな」という印象であろう。だが、成長の中身が悪化している。当局が進める債務削減の影響が大きく出ていることだ。その結果、地方政府の資金調達が絞られ、インフラ建設は止まったのである。高騰する住宅を購入したので、ローン金利上昇による負担は個人消費を下押しするという、これまでにみられなかった現象が起こっている。

 

中国政府に、この状況を回避する方法があるわけでない。過去の不動産バブルを利用した「錬金術経済」が終焉したからだ。習氏が、この現実を受け入れるならば、米中貿易戦争を回避するのが政治家として当然の選択に思える。

 

      4~6月期    1~3月期

実質成長率  6.7%      6.8%

固定資産投資 6.0%      7.5%

小売売上高  9.4%      9.8%

 

中国経済を動かしている二大要因は、固定資産投資(インフラ・住宅)と小売売上高である。これらが、揃って「エンジン不調」である。正確にはエンジンが焼き切れたと言った方が正しいであろう。固定資産投資はデレバレッジの影響である。小売売上高は住宅ローンの膨張と金利負担が家計を直撃している。ここで輸出が、貿易戦争の影響で急減すれば、中国経済は「万事休す」となる。

 

固定投資減少で景気停滞

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(7月17日付)は、「中国GDPを読み解く、投資減速で今後の難局示唆」と題する記事を掲載した。

 

この記事では、固定資産投資の伸び率鈍化に注目している。実は、これが中国経済を議論する上で、最も注目されてきた点である。投資主導の中国経済において、投資が「こけたら」その穴を埋める需要項目が存在するのか、という視点であった。余りにも不動産バブルを煽りすぎて超高値になったので、ローン支払い(月間17万円クラスが多数)に汲汲としている。家計は、その圧迫によって消費を切り詰めざるを得ない。こういう主客転倒の事態を招いた習氏の責任は重いのだ。

 

一国の経済構造は、あらゆる部門の均衡が取れて初めて、安定した成長軌道を歩むものである。中国は、その均衡を自ら破壊して短期的な急成長路線に傾斜し過ぎた。もはや自力では均衡成長路線に戻れないところまで、針が振り切ったと言うべきだ。こうなった以上、経済成長率の急減速は免れない。日本経済で言えば、1993年以降に歩んだ泥沼を経験せざるを得ない事態へ追込まれる。中国にその認識があれば、「米国と徹底抗戦」など言えるはずがない。

 

(4)「中国の4~6月期の国内総生産(GDP)成長率が発表された。それが何と予想通りの6.7%で、1-~3月期の6.8%をわずかに下回った。貿易摩擦にも関わらず、輸出はよく持ちこたえた。中国国内産業の方は、冬季の環境規制が3月に終了したことが追い風になった。注目すべきは投資の急減速だ。今年1~6月期は、全体の投資の伸びが前年同期比6%にとどまり、1990年代以降で最低だった。実質成長率はさらに低い。名目GDPが地価バブルで膨張したからだ」

 

4~6月の名目成長率は、前年同期比9.8%である。1~3月より0.4ポイント低く、16年10~12月以来の2桁割れとなった。4~6月期のマネーサプライ(M2)は、前年比8.2%である。名目成長率9.8%を下回る異常事態になっている。これは、「信用収縮」が急激に進んでいることを示している。平常の経済であれば、M2は名目成長率を2~3ポイント上回るもの。それが、逆転現象になっていることは憂うべき事態であろう。

 

このパラグラフでは、不動産バブルが名目GDPを押上げていると分析している。これの意味する点は、中国経済が完全に「バブルまみれ」に陥っている証明である。ここまで放置してきた後遺症が、それだけ大きいことを窺わせている。中国経済は、この重圧に泣かされることになろう。

 

(5)「企業業績の動向をけん引する不動産セクターが、中国のシャドーバンキング(影の銀行)規制の巻き添えを食っているという兆しが増えている。中国人民銀行(中央銀行)の統計によると、シャドーバンキングの信用残は前年同期に比べ微減だった。これは不動産投資とシャドーバンキングの関連性の強さを踏まえると懸念材料だ。6月は従来型の銀行融資がわずかに上向いたが、設備投資の崩落を抑えるには足りない可能性がある。中国経済は7~12月期(下半期)にさらに厳しい局面を迎えそうだ」

 

不動産投資の資金源は、シャドーバンキングである。正規の金融機関は、不動産バブルの崩壊(住宅価格の急落)を恐れて融資の窓口を閉めているからだ。このシャドーバンキングの融資が減ることは、住宅投資の減少でもある。GDP成長率に影響するのは当然である。企業の設備投資は、M2の落ち込みから見て回復が期待できない。こうなると、今年下半期の経済成長率低下は、推して知るべし、である。低迷局面である

 

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(2018年7月19日)

 

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