中国、「追加関税」景気ふらつき強硬策は困難?「話合い路線」 | 勝又壽良の経済時評

中国、「追加関税」景気ふらつき強硬策は困難?「話合い路線」

 

 

 

関税対抗策で手詰まり感

M2伸び率鈍化の不気味

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中国は、口では勇ましい対米発言を繰り返しているが、米国との高官協議を始めたい意向を漏らし始めている。米中の経済力において圧倒的な格差のある現在、粋がって「玉砕覚悟」の徹底抗戦がもたらす被害を考えるようになった。それは、つぎの記事で確認できる。

 

「中国商務省の王受文次官は7月11日、ジュネーブでブルームバーグのインタビューに応じ、『米中両国が貿易問題を抱えているときは、それについて話し合うべきだ。腰を据えて、現在の貿易問題の解決策を見いだそうとする必要がある』と語り、米国に対し、新たな2国間交渉を通じた対立解消を呼び掛けた。この呼び掛けに対し、米政府関係者は『ハイレベル協議を再開させたいトランプ政権の思惑と一致する』と明かした(『ブルームバーグ』7月13日)

 

6月上旬の3回目の米中通商協議では合意の見通しが薄れ、その後、両国政府の高官レベルの意思疎通は途切れている。米国の7月10日の追加関税リストは、一般からの意見公募や公聴会が終わる8月30日以降に発効する見通しだ。米中両国は、それまでに合意を目指すか、本格的な貿易戦争を準備するかの判断を迫られていた。

 

中国が、米中高官協議の再開を模索せざるを得ない事情には、今年上半期の対米貿易黒字の増加がある。中国税関総署が13日発表した貿易統計によると、今年上半期の対米貿易黒字は1337億ドル(約15兆円)となり、前年同期比で13.8%も増加した。対米黒字の増加傾向が続いており、貿易不均衡の是正を求めるトランプ米政権は、中国への通商圧力を一層強める状況が続いている。

 

中国商務省の最新動向は、『人民網』(7月14日付)で確認できる。

 

「中国は理性と冷静さを保っており、今後の対抗措置はターゲットをしぼることに重点 。中国の公式データによると、2017年における中国の対米輸出は約4300億ドルで、米国からの輸入は約1500億ドル。商務部の報道官は最近、『米国が新たな対象品目リストを公表すれば、中国は、量的・質的措置を講じ、対抗する』との姿勢を示した。中国商務部研究院の梅新育(メイ・シンユー)研究員は、『米中貿易関係は不均衡であるため、今後はそれぞれ異なる商品を対象にした対抗措置となるだろう』との見方を示す」 

この記事で注目されるのは、米中貿易の不均衡の実態について、数字を用いて説明していることだ。中国の対米輸出は約4300億ドル。対米輸入は約1500億ドルと明示して、暗黙裏に米中間に貿易不均衡があると認めている。これは、国民に向けて米中が話し合いの必要性を示唆しているようにも思えるのだ。

 

関税対抗策で手詰まり感

中国政府は、米国が7月10日(米時間)2000億ドル追加関税案を発表したが、この対応をめぐって大慌てしたことが話題になっている。中国政府として、従来通りの強硬策を取るゆとりがなくなってきたことを示唆するものだ。

 

『日本経済新聞』(7月14日付)は、「中国、対米摩擦にあせり? 声明取り下げ・会見延期」と題する記事を掲載した。

 

この記事は普段、大言壮語する中国報道官が米国の追加関税2000億ドルにてんてこ舞いした舞台裏が報じられている。思わず、苦笑せざるをえない場面だが、この大慌てした姿に、現在の中国が直面する現実が浮き彫りになっている。「闘う余力が無くなってきた」証拠と見られる。潔く、自らの技術窃取の事実を認めて、改善策を提示することがはるかに生産的なのだ。

 

(1)「中国商務省が米国との貿易戦争にからむドタバタ劇を演じた。12日夜、唐突に米国を批判する声明を発表した直後に取り下げ、その後すぐに再公表した。米国が中国製品への2千億ドル(約22兆円)分の追加関税リストを公表し、中国のあせりが表面化した可能性がある。「米国による中国製品への追加関税に関する声明」。SNS「微信(ウィーチャット)」で記者の携帯電話に通知が届いたのは12日午後8時30分。「米国への報復か」とあわてて読むと具体策は一切なし。日ごろの米批判をまとめた、当たり障りのない内容だった」

 

(2)「問題はそれから。声明はすぐに削除されて見られなくなった。微信には「発表者が削除」との表示。いぶかしんでいると午後9時ごろに新しい声明が公表された。新旧の声明を読み比べると誤字を正したり単語の順番を入れ替えたりしただけ。違いはほとんどなかった。この日、肩すかしをくったのは2回目。その前は朝、午前10時に予定されていた商務省の定例記者会見が突然、午後3時に延期された。「報復措置の発表があるのでは」と午後の会見には多くの記者が詰めかけたが、高峰報道官は慎重な言い回しに終始した。ドタバタ劇にはあせりが透ける。米国は6日に340億ドル相当の中国製品へ追加関税を発動すると、10日には2千億ドル分への制裁案を付け加えた。公表は中国側の予想より早かったフシがある。中国共産党からは『貿易戦争は冷静に理性的に対応』との指示があるとされる。米国との対決をあおれば、不安定な株式や人民元の市場がさらに動揺しかねないからだ。中国は市場とも戦っている」。

 

このパラグラフでは、中国共産党から「貿易戦争は冷静に理性的に対応」との指示が出ていると指摘している。先に引用した『人民網』(中国共産党機関誌『人民日報 電子版』)でも、「中国は理性と冷静さを保っており」との文言がある点に注意して頂きたい。これは、口角泡を飛ばして騒ぎ立てるよりも、追加関税2000億ドルが実施予定の8月末までに米中の話合いに持ち込みたい意思の表れとも読める。

 

実は、国家副主席に就任した王岐山氏は、米国との関係改善が主たる役割であると受け取られてきた。その王氏が今回の米中貿易戦争では一度も登場していない背景を考える必要があろう。それは、米中が報復し合う修羅場では王氏が登場しても効果が薄いと読んでいるのだ。その意味で、中国が報復策に出ないでいるのは、王氏登場の舞台回しが始まっている予感がする

 

『ロイター』(7月9日付)は、「中国、『消防隊長』王副主席、米中摩擦でも火消しの影薄く」と題する記事を掲載した。

 

(3)「米中貿易摩擦が激化したというのに、中国の汚職対策や国内金融問題への対応で中心的な役割を果たし、『消防隊長』の異名を取る王岐山副主席の影が薄い。王氏は副首相時代に米中戦略経済対話の中国側代表も務め、副主席への抜擢はトランプ米大統領対応の中核を担うためと外交筋は受け止めていた。それだけに米中貿易摩擦問題で王氏に表立った動きがみられないのは奇異なことだ」 

 

王氏は、副首相時代に米中戦略経済対話の中国側代表も務めた経験ある。その王氏が、米中貿易摩擦が勃発した時点でもなお、交渉の舞台に上がってこないのはなぜか。それは、交渉の環境が整っていないという判断が中国側にあるのだろう。それをつくる条件整備が、米国への過激な言葉の応酬でなく、静かな交渉の環境をつくることかも知れない。

 

(4)「トランプ氏は習近平国家主席との友好的な関係をアピールし続けているが、王氏の影の薄さは米中関係にとって悪い兆候だとチャイナウォッチャーはみている。近い将来、米中貿易摩擦に打開の見通しがあるのなら、王氏はもっと大きな役割を担っているはずだという。米戦略国際研究所(CSIS)のスコット・ケネディ副部長は、『交渉がまとまり、それが守られるというよほど大きな確信を持てない段階で、王氏が動くのは馬鹿げたことだろう』と話す。王氏の米企業幹部との会合の様子を知る関係筋によると、王氏は『話し合いによって確実な結果が得られるとの見通しを持つことができた場合でなければ』関与しないという。この関係筋は、『交渉の余地があれば、どこかの時点で割り込んでくるだろう』と話した」 

 

中国共産党は、中国商務省に対して「貿易戦争は冷静に理性的に対応」という命令を出しているという。今回の2000億ドル追加関税に対する中国側の反応がドタバタしたのは、感情的な反発をしようとしたのが止められたと見える。感情論を抑えて理性的に対応する。こうやって、米国との話合いを模索していると読めるのだ。

 

中国が、「主戦論」を引っ込めざるをえない理由はいくつかある。株価と人民元相場の急落である。端的に、中国経済が米中貿易戦争に耐えられないだろうという見方が支配的になってきた証拠だ。とりわけ、問題になるのが人民元相場の急落である。これは、世界経済を揺るがす事件に発展しかねない事態になる。

 

こうした劣勢を反映して、中国人民元相場には「売り圧力」が高まっている。1ドル=6.66元(13日)だが、オフショア市場では全く違った様相を呈している。オフショア市場とは、国内市場とは異なり、非居住者が規制を受けない自由市場である。このオフショア市場は国内市場の先導役を果たす。11日、6.7192元となり2015年8月以来の安値を記録した。このことから、いずれ国内市場への波及が予想される。

 

M2伸び率鈍化の不気味

『ブルームバーグ』(7月12日付)は、「人民元がデッドクロスを形成、2015年切り下げ以来初ーチャート」と題する記事を掲載した。やや専門的だが要約すれば、チャート上で人民元相場は大きく値下がりする兆候を見せているので、注意を呼びかけているものだ。

 

(5)「中国のオフショア人民元相場は11日に2016年1月以来の下落率を記録するとともに、テクニカル的には売りのシグナルとして知られる『デッドクロス』を形成した。人民元・ドルの移動平均線を見ると、50日線が200日線を上から下に抜けていることが確認できる。3年前のショッキングな人民元切り下げ以来の現象だ。JPモルガン・アセット・マネジメントのグローバルストラテジスト、デービッド・レボビッツ氏によると、中国はもう少し元安を容認することはできるが、過度な元の下落は逆効果であり、その場合はある時点で介入することになる、としている」

 

人民元相場の下落は、中国経済の弱さを裏付けるものだ。中国政府は、人民元安を誘導して輸出テコ入れ策に利用したいところだ。この思惑が外れて15年のように歯止めのきかない急落事態を避けたいのも本音。オフショア市場の動きは、国内市場へ波及するので推移が気懸りなのだろう。

 

7月12日の上海総合指数の終値は、2837ポイントで、前日比59ポイントの上昇である。当局の相場テコ入れに違いない。12日の『ブルームバーグ・ニュース』では、20年間も運用してきた中国株から撤退したファンド・マネジャーのインタビューが報じられている。それによると、マクロ経済指標に多くの問題を抱える中国株を売却して、タイやベトナムの株式が妙味あると強調。理由は、マクロ経済指標に懸念がないとしている。中国株が売られタイ・ベトナムが買われるとは、アジア経済の主役が交代する印象を与える。時代は変化している。

 

前記の、中国株のファンド・マネジャーが中国株を全て売却した理由は、中国経済に活力が失われてきた証拠であろう。それは、マネーサプライ(M2)の急速な鈍化に現れている。6月は前年同月比8.0%まで低下した。この事態を深刻に考えなければならない。

 

M2とは、現金+普通預金+定期預金の合計である。このうち、預金は銀行の信用創造によってもつくり出される。だから、M2の伸びが鈍化していることは、銀行の貸付けが減っていること、つまり信用創造機能の低下である。これは、銀行が貸出に慎重姿勢になっていることの裏返しだ。新規貸出の抑制の結果であり、「信用収縮」現象とも呼ばれている。金融が、この事態になると経済活動は鈍化する。日本も経験済みである。

 

日本のバブル崩壊(株価急落)は、1990年1月4日の大発会の幕開けと同時であった。その後、不動産の値下がりが始まった。この年のM2の伸び率は10%台(10~13%)であった。だが、91年になるとM2は2~6%に鈍化し、92年には1%台という様変りの事態に急変した。これが、「信用危機」の実態である。ここに、日本経済は正直正銘のバブル崩壊に直面した。

 

中国の6月のM2は、前年比8.0%の伸びに鈍化した。これは、過去最低の伸び率である。中国人民銀行は、この低いM2伸び率について、「ニューノーマル」と受け取るべきだと言っている。換言すれば、「信用収縮」が起こっていることだ。中国経済が、過去に経験したことのない現象が始まった。

 

M2伸び率(前年比:%)

2018年1月 8.6   2017年1月 11.3

     2月 8.8        2月 11.1

     3月 8.2        3月 10.6

     4月 8.3        4月 10.5

     5月 8.3        5月  9.6

     6月 8.0        6月  9.4

 

2018年と17年の上半期のM2伸び率を比較すれば、一目瞭然である。中国経済の「衰退」ぶりが手に取るように分るだろう。このM2から推計する中国経済の名目成長率は、5%台に低下していることは確実であろう。政府発表のGDPに「改ざん」の疑惑が付きまとうのは当然である。

 

以上のような、中国経済の実態から判断すれば、中国に「貿易戦争」をする自力はなくなっている。米国と交渉して技術窃取を認めて穏便に済ませて貰うべく交渉することが得策である。

 

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(2018年7月17日)

 

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