中国、「貿易戦争」景気失速すれば抗戦意欲失う「来年前半カギ」 | 勝又壽良の経済時評

中国、「貿易戦争」景気失速すれば抗戦意欲失う「来年前半カギ」

 

 

 

米中貿易戦争は、終息どころか拡大の一方である。米国は合計2500ドルもの関税引き上げを行なうという異常事態である。原因は、中国が米国の知財権を侵害したという「ペナルティー」関税だ。この因果関係は、どこかえ吹き飛んでしまい、米国の行動だけが注目されている。

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中国は、これを利用して自らの技術窃取行為を棚上げして、米国批判のトーンを上げている。一方、「2000億ドル」関税引き上げについての報復措置は、すぐに発表せず間合いを取っている感じもする。その理由は、さらに米国を刺激してエスカレートすることになれば、中国の長期的な損害を被るとの計算を始めている節があるからだ。

 

中国商務省の高峰報道官は7月12日の定例会見で、「中国で業務展開する米国企業に対し、米国の通商措置で影響を受ける企業利益を守るため、米国政府へのロビー活動を望む」という発言をしている。従来の強い調子での「米国批判」から一歩下がった印象を受ける。これは、中国で事業を行う米企業の7割近くが、不公平な競争や知的財産権保護不備への報復として、米国が関税引上げに反対している結果だ。在上海米国商工会議所が、7月12日公表した「中国のビジネス環境に関する年次調査」で判明した。中国は、この在中国の米国企業の調査結果に勇気づけられたに違いない。

 

前記の調査報告では、53%の企業が2017年に中国で投資を増やしたと回答し、この割合は前年の55%から低下した。74%が中国投資を拡大したと回答した2012年をピークに、投資の伸びは鈍化傾向にある。この事実は、中国政府として気になるだろう。米国企業の中国投資が、2012年でピークを過ぎていることだ。中国政府が「対米報復措置」で米国企業を虐めれば、将来的に中国撤退の可能性を強めることになりかねないのだ。

 

この点の指摘は、次の引用記事を見て頂きたい。

 

「寧波供応鏈創新学院のシャオシュアン・リュウ教授は、関税による長期的な影響として、すでに一部の産業で始まっている新興国から米国など先進国への生産回帰の流れが加速する可能性があると指摘する。中国に生産拠点を設けている企業はすでに人件費の高騰に直面しており、関税はコストをさらに押し上げるという。リュウ氏は『関税によって変化が生じるのは確実だ』としている」(『ウォール・ストリート・ジャーナル』7月12日付「米国の対中追加関税、電子部品が標的に、水産物なども」)

 

第4次産業革命の波に乗って、製造業の技術革新は日進月歩である。中国で大量生産して、世界中へ輸出するという形態の見直しが始まっている。中国は人件費と地価上昇による賃貸料金の上昇で、生産拠点としてのうま味が消えかけている。米国企業虐めは、「脱中国」の動きを加速しかねないのだ。こうなると、中国の米国への報復措置は限られる。

 

以上、見てきたように中国は、米国の「2000億ドル」関税に対する有効な「対抗措置」がなさそうである。となると、報復合戦に歯止めが掛かるから、トランプ氏がさらにいきり立って、中国への関税引き策を発動する事態は避けられる期待も出てくるだろう。

 

ここで、米中貿易戦争を止めるのは米中の政治家でなく、それぞれの経済が抱える「ブレーキ」であるという極めてオーソドックスな指摘が登場してきたので取り上げたい。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(7月12日付)は、「貿易紛争いつ終わる? 注目すべきは政治家より経済」と題する記事を掲載した。

 

この記事は、米中貿易戦争を終息させるのは、トランプ氏と習氏の政治的な決断ではない。米中の経済状態が、関税引き上げ合戦に耐えられなくなれば、互いに矛を収めるだろうとしている。具体的には、米国が広範囲な品目の関税引き上げによって、物価上昇が起これば、米中貿易戦争を中止せざるを得ない。中国は、米国の関税引き上げにより経済減速が顕著になるケースである。米国の高関税が中国からの輸出を激減させれば、中国経済の成長率は急減速を余儀なくされる。

 

要約すれば、米国のインフレと中国の経済減速のどちらが早く訪れ、当該国の経済運営を攪乱させるかという問題に帰着する。米国は、利上げを急いでいる。今年は合計4回、来年は3回を予定するなど物価状況に即応する体制だ。中国の場合、デフレが懸念される。インフレは金融引締めで対応可能だが、デフレは金融と財政が車の両輪にならなければ解決不能である。したがって、どちらが「重症」かと言えば、中国の経済減速である。中国にとって、2500億ドルの関税引き上げは輸出削減をもたらす。大変な負担が掛かるはずだ。形勢は、中国に著しく不利となっている。

 

(1)「米中双方の大げさな言葉のせいで忘れがちだが、経済が政治家――そして政策――を形作ることが多いのであり、その逆ではない。米国では、最近のふたつの状況が貿易政策にトラブルの種をもたらす恐れがある。まず、連邦準備制度理事会(FRB)が重視するインフレ指標が2011年以降で初めて目標の2%に達したことだ。次に、短期米国債に対する長期債のスプレッドが10年ぶりの低水準にあること。これがマイナスに転じればリセッション(景気後退)が近いしるしだ。FRBがインフレ対策として余儀なくされる急激な利上げがその原因になるケースも多い」

 

長期債と短期債の米国債の利回り格差が、景気の先行きを予告するものとして注目されている。10年債と2年債の利回り差(長短スプレッド)の縮小が関心を集め「逆イールド」と呼ばれている。長短スプレッドは通常、FRBが短期金利を引き上げると縮小する。そして、長短利回りが逆転する「逆イールド化」が起きると、それから1、2年以内にほぼ確実に景気後退入りしてきた。ここにきて、その懸念が緊急性を帯びている。長短スプレッドが2007年以来の低水準となっているためだ。同スプレッドは1年前には1ポイント(100bp=ベーシスポイント)を、3カ月前には50bpを付けていた。それが、7月第1週は30bpを割り込んだ。

 

この長短利回り曲線の「平坦化」が、米国経済のピーク接近を告げるものとして注目されている。まだ「逆イールド化」現象が起こったわけでないが、市場関係者は警戒姿勢を強めている。こうなると、利上げ回数は圧縮されるであろう。インフレ問題を議論することが場違いになるはずだ。

 

(2)「米国には消費者物価を押し上げない品目に対して関税を課す余地は残っていない。今回は衣料品や家具、テレビ部品といった品目が対象だ。インフレの有力な先行指標である国内賃金は既に上昇している。6月には民間部門の週所得(平均)が前年同月比3%近く上昇した(6カ月の移動平均ベース)。2011年以降で最速ペースだ。これは、過去の相関が変わっていなければ、貿易戦争が過熱しなくてもコアインフレ率が2019年半ばまでに年率2.5ポイント上昇し得ることを意味する。まさにドナルド・トランプ大統領が再選を目指している時期にインフレが解き放たれれば、物価を押し上げる対中貿易紛争の継続が愚策に映り始めるかもしれない。原油価格が高止まりしていればなおさらだ」

 

2000億ドルの関税引き上げが実施されると、生活関連商品がかなりの影響を受ける。ただ、関税率は10%ゆえに、輸出・輸入の双方が5%ずつ負担すれば、米国での価格に転嫁されずに済むという意見も出ている。トランプ氏が最近、原油の増産に言及することが多いのは、物価問題への影響を懸念していることは間違いない。トランプ氏は、物価の安定こそ対中貿易戦争を勝利に導く要因と理解している結果だ。

 

(3)「中国には逆の問題がある。インフレは抑えられているが、成長はおぼつかないようなのだ。1~5月の固定資産投資は前年同期比6.1%増にとどまり、今世紀で最悪の水準となった。シャドーバンキングに対する取り締まりを背景に、脆弱な企業では現金が不足している。そして輸出は、関税の打撃がある前から減速している。成長がこのまま低迷に向かえば、中国があらためて大型の刺激策を迫られ、習近平国家主席の金融デレバレッジ(負債圧縮)政策に終止符が打たれる可能性もある。政治的に悲惨な結末だ。その可能性を排除したい中国が本当の譲歩を提案してもいいと感じる時期が早まるかもれない」

 

中国経済を支えてきたものは、不動産開発投資とインフラ投資である。いずれも債務をテコに強引に継続してきた。こうして、債務残高が増え続ける危機的な状態をつくり出している。前記の両投資が、好採算に裏付けられていたならば、債務は順調に返済されて、累積することはあり得ない。現実は、債務の累積を招いてきた。政治的な事情で、それを中止できなかったところに中国経済の基本的な脆弱性が存在する。自由主義国家における市場経済システムでは、こういう採算を度外視した「土木国家経済」の継続はあり得ない。

 

中国の抱える債務総額は、対GDP比で300%接近という異常事態にある。ここまで無軌道に債務を増やし続けられた理由は、国有企業中心体制で国有銀行が融資窓口であったことと無縁でない。国有銀行の信用創造機能をフルに利用して、インフラ投資と不動産開発投資が行なわれてきたのだ。地方政府は、影の銀行(シャドーバンキング)を利用して資金不足を補い、インフラ投資と不動産開発投資に深く関わってきた。

 

中国の高い経済成長率の裏には、債務の累増が切っても切れない附随物として付きまとっている。習氏は、自らの権力基盤を固めるべく、この「附随物」の累増を許してきた。今やその債務が膨れに膨れて、対GDP比300%接近となっている。デレバレッジは不可避だが、景気の落込み救済が第一となれば、こデレバレッジは中止せざるを得ない。これでは、「デレバレッジ」は単なる合い言葉に過ぎず、実現時期が先へズレるほど、中国経済は深刻さを増すであろう。この不動産バブルは2008年以降、10年も続いている。政府の解決意思が希薄であることを証明している

 

(4)「今のところ、米中の経済はいずれも危険域にはない。つまり、目先は貿易摩擦のエスカレートが続く公算が大きい。しかし、トランプ氏や習氏が知っていようといまいと、そうした環境は両国経済の中で変化していく。どちらの国であれ、限界に向かっていると先に気づいた国が、貿易戦争で先に折れる国になるだろう」

 

このパラグラフでは、「今のところ、米中の経済はいずれも危険域にはない」としている。だが、中国については敗色濃厚の「黄信号」が出ている。株価と為替相場の下落がそれだ。米中貿易戦争では、中国にもっとも強く負の影響が現れている。それに引き比べ、米国は無傷の状態である。緒戦で、米国の勝利が決定したのは当然である。中国は過剰な荷物(債務)を背負っており、まともな戦ができる状態にない。習氏が、この現実を理解するならば、いつまでも「メンツ」にこだわらず、無謀な貿易戦争で国力を疲弊させてはならない。技術窃取を止める意思を表わすことが、中国経済の傷を浅くする道であろう。

 

中国経済の成長率鈍化がハッキリするのはいつか。今年の4~6月期に第一波が現れる。輸出の新規受注は、すでに6月から落込んでいる。この状態は、月を追うごとにマイナス幅を拡大するであろう。これを反映して、株価と為替相場が下落する。外貨準備高の取り崩しが顕著になれば、元相場の下落も不可避となり、世界経済全体を巻き込むリスクが顕在化する。その時、米中の話し合いが始まる。その時期は、来年前半当たりに来る可能性を否定できまい。中国経済の疲弊度が、話し合い時期を早めるのでないか。

 

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(2018年7月15日)

 

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