日本、「円」全天候型の通貨で世界が注目「企業は為替の壁破る」 | 勝又壽良の経済時評

日本、「円」全天候型の通貨で世界が注目「企業は為替の壁破る」

 

 

 

円が重視される理由は経常収支

円高の壁を破る多国籍化が成功

「新たに、『勝又壽良のワールドビュー』を開設します」

http://hisayoshi-katsumata-worldview.livedoor.biz/

 

中国の人民元相場は、米中貿易戦争で大揺れである。政府管理による管理型変動相場制によってガードされている通貨だ。資本移動には規制が掛かっており、人民元はビジネスに不向きな通貨である。それでも、中国の並外れた「メンツ」によって、強引にIMFのSDR(特別引出権)という名誉だけは手に入れている。ある意味で、図々しい通貨と言える。人民元は今後、1ドル=6.9元台に向けてじり安基調を辿ると見られている。7月12日終値は6.66元だ。

 

中国の人民元に比べて、円は世界経済に動揺が走ると、何はともあれ「円を買う」ということで「安全通貨」として見られている。この日中の差はどこから来るのか。中国の経常収支構造が脆弱であることだ。貿易黒字は巨額でも、所得収支とサービス収支が大幅赤字基調から抜け出せないでいる。次に、日中の対GDP比での経常収支を見ておきたい。

 

        日本    中国

2018年  3.76%  1.18%

2017年  4.01%  1.37%

2016年  3.80%  1.80%

2015年  3.05%  2.71%

(IMF資料)

 

対GDP比での経常収支は、対外経済活動での「稼ぐ力」を示している。企業で言えば、売上高営業利益率のようなものだ。この点で、中国が傾向的に低下局面にあるのは、暗い予感をさせる。少なくとも発展する経済の形態を示していないのだ。この中国が、なぜ外貨準備高を3兆1000億ドル台も維持しているのか。この中には、約1兆ドルの借入金でドレッシングしていると指摘されている。GDPも改ざん、外貨準備高も債務で嵩上げする。こういう「竹馬経済」が中国の実態である。見栄を張っている中国の哀れな姿が透視できるのだ。

 

習近平氏は、それでも内部的には強気発言をしている。

 

「習氏は6月下旬に4年ぶりに開いた『中央外事工作会議』で、次のように演説した。『現在の国際情勢を見るだけでなく、歴史の望遠鏡を使って歴史の法則を理解し歴史が向かう大勢をとらえる』ことが必要だと説いた部分だ。内部説明を聞いた人物によると、発言の意味するところは次のような趣旨だ。大国は歴史の中で興亡を繰り返してきた。米国も衰退期に入り、いずれ中国の時代が来る。ただ、現時点では米国の方が強大だ。周辺国や発展途上国と連携して国力を高め、機が熟すのを待つ――。わざわざ重要会議を開いたのは、この方針を党や政府はもちろん、軍や民間企業にも徹底させるためだったという」(『日本経済新聞』7月11日付「習氏、周辺国に融和サイン」)

 

習氏は、わざわざ「大国興亡論」を持出している。私もこの種の歴史分析書籍は何冊か読んでいる。共通の結論は、独裁体制=計画経済=軍事国家が歴史の波にのまれて没していくのがパターンである。特に重要な点は、独裁体制によって一時的に経済は急成長を実現するが、長続きしないことだ。

 

かつてのソ連経済もそうだった。1960年代は米国を激しく追い上げた。この余勢を駆って、フルシチョフは国連総会において自の靴で演説のテーブルを叩きながら、米国経済の打倒を宣言したことがある。そのソ連経済が、米国の前に膝を屈して崩壊。ソ連共産党が消えた。独裁体制とは、こういう脆さを抱えている。

 

中国経済が急成長できた裏には、「一人っ子政策」によって主婦の就職が可能になった事実がある。幼年人口低下に伴う「生産年齢人口比率」の上昇が、労働力供給を増やしたもの。いわゆる、「人口ボーナス現象」である。これが、中国へ贈ったプレゼントである急成長の秘密である。現状は、「生産年齢人口比率」がピークアウト(2010年)して、「人口オーナス現象」へと逆転している。どうあがいても、ここからの脱出は不可能である。中国経済は停滞化を避けられない。

 

米国は移民経済である。トランプ大統領が勘違いして「移民抑制」政策だが、いつまでも続くはずがない。いずれ、移民問題は正常化する。こういう人口動態から見ても、中国は米国に及ばない決定的なハンディキャップを背負っている。習氏の側近は、大国興亡論を読み違え、さらに米中の人口動態という最新経済分析への疎さを暴露している。即刻、こういう側近の再教育が必要だろう。

 

もう一つ重要なのは、独裁国家の中国が発展する一方、民主国家(市場経済)の米国が衰退することは、「制度的イノベーション能力」から見てあり得ないことだ。この能力は、民主主議政治と深い関係にある。これを支援するのが市場経済である。中国は、「制度的イノベーション能力」が、共産党にとって利益になるかどうかで判断する。ここに、最初の障害があるのだ。共産党を否定するようなイノベーションは却下されるに違いない。こういう中国が、米国よりも柔軟であるはずがない。習氏は、側近の書いた間違いの歴史分析草稿を読まされた。一大恥辱と言うべきで心から同情したい。

 

これまで、中国経済の発展段階がリスクをはらんだ状況にあることを指摘してきた。ここから、本論に入りたい。

 

円が重視される理由は経常収支

『ウォールストリートジャーナル』(6月22日付)は、「円は『全天候型』の投資先か、他国通貨しのぐ底堅さ 急速なドル高でも年初水準上回る」と題する記事を掲載した。

 

円は、なぜ強い通貨であるかを取り上げた記事である。対GDP比の経常収支が3%台を維持していることを根拠にしているようだ。ここでは、人民元については触れていないが、円との比較論において間接的に人民元の弱さに言及している点に注意をして頂きたい。

 

(1)「2018年の市場は荒れ模様となっている。ボラティリティーが復活し、貿易を巡る緊張も高まる中、世界の成長には期待ほどの堅調さが見られない。全天候型の装備に匹敵する金融資産を求める投資家には、円がうってつけかもしれない。4月以降のドル高は急速に進んだ。ユーロは今や年初来3.7%安に沈んでいる。だが円は、高値圏からは大きく下げたものの底堅さを発揮し、依然として年初の水準を上回る。足元ではカナダドルやスウェーデンクローナなど一連の先進国通貨を尻目に、対ドルで年初から1.9%上昇している」

 

ドルが、米国の利上げを背景に値上がりしている中で、先進国通貨は一斉に売られている。だが、円は別格である。米中貿易戦争という事態を受けて、円が安全通貨としての魅力を発揮している結果であろう。対GDPの経常収支比率も安定しており、「全天候型通貨」になっている。「失われた20年」と言われながら、TPP11や日欧EPAも調印にまでこぎ着けている。いずれも年内か来年初めには発効という好環境を迎えたことが、日本経済の底力を高める要因になっている。これが評価されたものと思われる。

 

(2)「こうした動きは、昨今の市場でまれに見る投資妙味の現れかもしれない。円は市場混乱期の安全資産として知られている。高利回りを求めて海外資産に投資する日本の投資家が、市場の乱高下リスクが浮上した際に資金を引き揚げるため、円相場が押し上げられるからだ。そのうえ、円には巨額の経常黒字という後ろ盾がある。国際通貨基金(IMF)は日本の経常黒字について、18年の国内総生産(GDP)比で3.8%に達すると予測している。資本を呼び込む必要がある財政赤字の国々に対して投資家が不安を募らせれば、経常黒字は円の支援材料となる。米中の貿易摩擦が激しさを増す中、円が底堅く推移しているのはそのためだ」

 

日本が、恒常的な経常黒字を計上できる理由は、輸出依存度が高い結果ではない。為替に影響受けない態勢を築いた結果だ。つまり、海外進出に成功しており、現地企業として基盤ができあがったことである。この対外直接投資の上げる配当金や特許使用料などが、多額の所得収支の黒字を生んでいる。バブル崩壊後の円高時代に、産業空洞化として騒がれたほど、日本企業は海外進出した。今これが、実を結んで経常収支黒字に貢献している。「先憂後楽」の典型的な形だ。中国は、全くこの逆である。不動産バブルでGDPを無理矢理押上げ、いまその処理に手がつかないほどの状態に追込まれている。

 

(3)「モルガン・スタンレーは、社会構造的にも、日本の人口高齢化に伴い円はさらに押し上げられると考える理由があると指摘する。老後の生活を支えるために海外資産を売却する必要が生じるためだ。それに何より、円は割安との見方が広がっている。ドイツ銀行は6月上旬、一連の指標の平均に基づき31通貨を分析したところ、円が最も割安との結論に至った」

 

このパラグラフでは、奇妙な円高要因を上げている。「日本の人口高齢化に伴い、老後の生活を支えるために海外資産を売却する必要がある」というのだ。こういう「珍奇」な説明を初めて聞く。この状態に陥れば、円高どころか円安基調に転じるはずである。海外資産の売り食いである。これが起こる状態では、経常収支は悪化しているはずだ。事前に、これを反映して円安に転じているだろう。人口の高齢化と経常収支に関係はない。

 

ドイツ銀行は、31通貨の中で円が最割安という評価をしているという。これは、日銀による異次元金融緩和の結果である。この「囲い」はいずれ取り外される。その暁は円高に振れるのは当然であろう。その意味では、海外投資家が円に注目するのはごく自然であろう。円が将来、値上がり要因を抱えていることが一層、円への魅力を高めているに違いない。

 

(4)「円について想定される危険性の1つは、米金利の上昇に伴うリスク志向の高まりだ。こうした想定は行き過ぎかもしれない。米連邦準備制度理事会(FRB)の動きを踏まえ、一部の投資家は金融サイクル終盤に絡むリスクに懐疑的な見方を強めている。17年のような平穏さが舞い戻ることはなさそうだ。円はすでに今年のレースの先頭に立っている。このまま順位を維持する気配だ」

 

米金利が上昇すれば、日本との金利差は拡大する。それが、円へのリスク志向を高めるという。つまり、さらに円安になるという想定であろう。しかし、円相場は1ドル=110円前後で安定した動きだ。米中貿易戦争が激しくなる中で、円は「安全通貨」となって待避港の役割を担い、円高に振れやすい状況である。円へのリスク志向は考えにくいのではないか。ブレーキ操作が自動的に動き出す環境になっている。

 

私は7月4日のブログで「日本、『成長への礎石』TPPと日欧EPAが『ダブル効果』」と題する記事を掲載した。その中で、日本企業が円高の壁を越えた事実を指摘した。円が、世界の安全通貨になっている理由をさらに補強するものとして、一部を再録したい。

 

円高の壁を破る多国籍化が成功

『日本経済新聞』(6月25日付)は、「日本の製造業、為替の壁破る」と題する記事を掲載した。

 

(5)「日本の製造業が為替への耐久力を強めている。かつては円高になると輸出に大きな影響が出たが、日銀の分析ではついに為替相場の『感応度』がゼロになった。後押しするのは輸出財の高付加価値化。つまり、価格によらず売れ続ける製品へのシフトだ。為替の壁をようやく乗り越えた日本の製造業だが、今また、さらに大きな別の課題も浮上してきた」

 

日常の新聞報道では、「円高になったので企業利益はいくら減る」という類いのものが多い。かつてはそういう事実が認められた。現在は、製品の高付加価値化によって為替相場の変動を吸収していると指摘している。これは、日本の産業構造が予想以上のスピードで進化していることの証明でもあろう。

 

(6)「日本企業の輸出が堅調だ。2015年を100とする輸出の指数(実質輸出)は4月に115.4と、統計が始まった75年以降で最高となった。5月も111と高水準を維持している。特徴的なのは為替の変動にかかわらず輸出の増加傾向が変わらない点だ。それは日銀が分析を続けている『輸出の為替感応度』に表れている。感応度は、円相場の変動が全体の輸出にどう影響しているかを示す。00年代半ばはドルに対して10%円高になると、輸出は3%程度減っていた。だが10年前後から急低下した後、16年は0.2~0.4%の間で推移。17年は0~マイナス0.1%になった。つまり『円高・円安と輸出の増減がほぼ無関係』(日銀調査統計局)の状態だ」

 

日銀は、「輸出の為替感応度」なるものを計算している。円相場の変動が全体の輸出にどう影響しているかを示すものだ。それが、次のように低下し、現在はほぼ無視しうる水準にまでなってきた。

00年代半ばはドルに対して10%の円高で輸出は3%程度減。

10年前後から急低下した後、16年は0.2~0.4%減。

17年は0~マイナス0.1%。

このような変化は、これまで発表されたことがなく、日本産業が新しい次元へ進んでいることを示すものだ。

 

(7)「効いているのは、まず『生産の現地化と国際的な通貨管理』(大和総研の小林俊介エコノミスト)。これまでの円高局面を経て、各社はアジアなどで現地生産の拡大や生産委託を進めた。決済も海外通貨建てを増やし、財務省によるとドル建て輸出の比率は17年上半期で51%。ユーロや人民元の取引も増えている」

 

日本の経常収支構造が物語るように、所得収支の大幅黒字は日本企業の現地生産体制が完成している結果だ。実は、TPPが発効した暁は加盟国で生産された部品を一定比率まで組み込んだ製品は「メードインジャパン」として関税面で恩恵を受ける。日本は、海外生産基地を多数擁しているので、原産地証明で大きなメリットが確保可能だ。

 

(8)「さらに、ここに来て感応度ゼロを後押ししているのが、輸出品の中身が価格に関係なく売れる製品に移っていることだ。経済財政白書などに使われる『高付加価値化指数』というデータがある。財務省が算出する『輸出価格』を、日銀の『輸出物価』で割ったもの。前者は単純な一単位あたりの輸出額を示し、後者は輸出品の質や中身で調整を加えている。この指数が右肩上がりで上昇し、付加価値の高い輸出比率が高まっている」

 

財務省の「輸出価格指数」を日銀の「輸出物価指数」で割ると、右肩上がりで付加価値の高い輸出比率が高まっていることが確認できるという。これは、「高付加価値化指数」と呼ばれるもの。日本企業が、「B2C」(対消費者向け製品)から「B2B」(対企業向け製品)へ転換して付加価値が高まっていることを証明するものだ。「B2C」は価格競争が激しく利益率が低下する。一方、「B2B」では、技術が勝負であり値崩れの懸念は少ない。こういう業態転換が見事に成功した結果であろう。

 

以上が、7月4日のブログの一部である。日本企業が多国籍化しており、為替相場の壁を破った安定的経営を展開している。これが、国際収支における所得収支の黒字を拡大させ、経常収支の安定化に寄与している要因である。日本の高齢化が海外資産を売却するから円高となる。こういう指摘が的を得ていない点を再度、指摘したい。日本の国際収支構造は、為替相場の変動を克服した、と言える。

 

【お知らせ】

ライブドアで「勝又壽良のワールドビュー」と題するブログを開設しました。「勝又壽良の経済時評」で取り上げられなかったテーマに焦点を合わせます。「経済時評」が中国論であれば、「ワールドビュー」で韓国論を取り上げるように工夫します。両ブログのご愛読をお願い申し上げます。『勝又壽良のワールドビュー

 

(2018年7月14日)

 

韓国破産  こうして反日国は、政治も経済も壊滅する 韓国破産 こうして反日国は、政治も経済も壊滅する

 

Amazon

 


勝又ブログをより深くご理解いただくため、近著一覧を紹介

させていただきます。よろしくお願い申し上げます。

勝又壽良の著書一覧