中国、「反撃開始?」貿易戦争で米国の急所を突く戦術とは何か | 勝又壽良の経済時評

中国、「反撃開始?」貿易戦争で米国の急所を突く戦術とは何か

 

 

不買運動という古典的手法

大型商談でEU接近始める

 

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米中貿易摩擦は、すでに「貿易戦争」の段階に突入してきた。この裏には、未来の世界覇権争いの様相が感じられる。中国は、「中国製造2025」によってハイテク産業を育成し、これを基盤に米国の牙城を狙う戦略である。問題は、中国がアンフェアな手段で先端技術を取得し、国家の巨額な補助金で産業化を実現させようとする点にある。要するに、膨大な「技術泥棒計画」をひっさげて、米国と覇権争いをすると名乗り出たことが発端だ。

 

  米国の発表によると、中国外交部は海外に4万人以上の「産業スパイ」を浸透させ、各種先端技術と知的財産権を狙っているという。米国政府が、この事実が公表した以上は、防止手段に出るのは当然であろう。こうして、米中のチキンレースを予測するニュースが登場するほどだ。

 

「今後に多大な経済的影響を及ぼし得る貿易摩擦を巡る米中のチキンレース(度胸試し)は今後2週間内に重要な節目を迎え、どちらが先に勝負を降りるかを決めることになりそうだ。米財務省は6月29日、中国による知的財産権侵害問題で、米通商法301条に基づき米政府が講じる措置の一環として、輸出規制強化に加え、中国の対米投資の制限を公表する予定」(『ブルームバーグ』(6月25日付)、「米中のチキンレース、向こう2週間内に勝者決める重要な節目到来」

 

この記事では、米中の「チキンレース」という形容詞を付けるほど、両国は緊迫した関係になっている。このレースか脱落した方が不利というニュアンスである。7月第1週までが、チキンレースのヤマ場と見ている。だが、それほど簡単に決着がつくはずもあるまい。米中が、「国運」を賭けた争いであるからだ。

 

シンガポール副首相のテオ・チーヒエン氏は、次のように指摘している。

 

「米中関係が今後どう進化するか、それが今後数十年にわたり世界の秩序を形作るだろう。自由貿易を推進してきた米国だが、今では多くの米国人が貿易構造の見直しによる利益の再配分を求め、米国政府にとっては中国との貿易不均衡が最重要課題になっている。

私たちが共通の課題に対処して、平和で安定したアジア太平洋地域のための協力を促進するため、(1)オープンで連携した世界に向けた責任、(2)国連や世界貿易機関(WTO)などの国際機関のサポート、(3)人的・文化的交流の促進――の3つの原則を提案したい」(『日本経済新聞』6月26日付)

 

テオ・チーヒエン氏は、中立的な立場で米中関係を見ている。現在の米中問題は、「今後数十年にわたり世界の秩序を形作るだろう」と指摘するように、世界覇権の行方に関わっている。それだけに、短期間で決着がつく問題ではない。米中どちらに「義」があるか。その義を貫くためにどれだけの「政治的耐性」があるかが問われている。

 

「義」では、中国が劣勢に立たされよう。世界中に4万人もの産業スパイを放っている現実は、どう見ても非難の対象になるのだ。技術窃取の「常習犯」が、中国であることを証明するもの。他国の知財権窃取という犯罪行為を行なうからだ。

 

「政治的耐性」はどうか。長丁場の圧力に米中どちらが耐え抜けるかである。この問題は、政治体制から言えば、中国の独裁制に歩がある。米国は4年に一度の大統領選と2年に一度の中間選挙がある。選挙結果が貿易戦争の帰趨に影響を与える。

 

ただ米国民は、「全体主義」との闘いという思想・信条に関わる問題では、団結する特性がある。第二次世界大戦でも米国民は当初、「中立主義」を守って、参戦に否定的であった。それが、ドイツ軍のフランス侵略と英国攻撃作戦に危機感を持ち、欧州戦線に加わった経緯がある。それに、真珠湾の日本軍による奇襲攻撃も国民の戦意を高揚させた。米国民は、共産主義=全体主義を蛇蝎のように嫌う特性を持っている。中国は、この点を見落としてはならない。

 

米国政府が、米中経済摩擦の意義を国民に向けて説明し、中国が米国の覇権に対抗すべく、大掛かりな技術窃取に踏み切っている事実を説明すれば納得して、政府に協力するであろう。

 

以上のような、「義」と「政治的耐性」の二点からみれば、米国が有利と見られる。だが、中国政府の国民を煽る術はすごいものがある。政府が音頭をとって、米企業製品の「不買運動」や米企業への立ち入り調査など嫌がらせ戦術は手慣れたものだ。韓国企業は、「THAAD」問題で、徹底的に痛み付けられた経験がある。米国企業に対しても、それに近いことを始めるのでないか、と思われる。

 

不買運動という古典的手法

『フィナンシャルタイムズ』(6月21日付)は、「中国が狙う米の急所」と題する記事を掲載した。

 

この記事は、FT(フィナンシャルタイムズ)らしからぬ内容である。米中貿易摩擦の原因が、技術の窃取に関わっている点を完全に捨象しているからだ。この技術窃取を除外して、米中貿易摩擦問題の本質は語れないであろう。まさに、将来に見られるかも知れない「米中覇権争い」の第一歩となるほどの重要性を持っているのだ。そういう認識を欠いての記事では、価値を低めるであろう。

 

(1)「米中間で高まりつつある『貿易戦争』の懸念の陰に大きな皮肉が潜んでいる。経済統計を概観すると、トランプ米大統領をあれほど激怒させた巨額の対中貿易赤字が、それほどのものとは思えなくなってくる。政府統計では昨年の米国の対中貿易赤字は3750億ドル(約41兆3000億円)だった。だが、この数字だけでは両国の経済関係の重要な側面を見落としてしまう。米企業が中国に進出して40年近く。中国現法は現地の消費者向けに製品やサービスを販売し、非常に潤っているのだ」

 

このパラグラフの指摘は、その通りであろう。在中の米国企業が上げている利益(配当金・雇用者所得・知財権収入)を勘案すれば、米国の対中貿易赤字3750億ドル(2017年)は大幅に減る。米国の統計処理としては、対中貿易赤字に対中の所得収入やサービス収入を加えるべきだ。手元に、それを調べるデータがないのは残念だが、前記の対中貿易赤字は相当に圧縮される。

 

この論法で言えば、米中貿易摩擦の度合いは小さくなるから、米中が争うこともあるまいという含意になろう。だが、問題の焦点はこれを超えている。米国の先端技術をこれまで窃取してきたが、さらに本格化させてきた点に米国が危機感を募らせているのだ。そして、2050年には米国覇権へ挑戦するとまで言い出してきた。「庇を貸して母屋を取られる」ことになりかねない。米国が、名うての「技術泥簿」の中国に警戒感を持つのは致し方あるまい。しかも、全体主義の中国が相手である。

 

(2)「米企業の中国子会社の売り上げは、貿易収支や経常収支には表れないが、米国の対中輸出額を大幅に上回ると指摘されている。米国の直近の公式統計によると、米企業の中国子会社は2015年、中国国内で総額2219億ドル売り上げた。これらの製品やサービスは、170万人もの現地従業員により生み出されたものだ。対照的に、米国では中国企業の存在感は薄い。中国企業の米国子会社の売上高に関する公式統計はないが、中国の対米輸出額と比べ、ほとんど取るに足りない額だろうとアナリストらはいう」

 

米企業の中国子会社は2015年、中国国内で総額2219億ドル売り上げたという。この中から、配当金・米国人出向者の給与・知財権収入などを得ている。対中貿易赤字は、昨年3750億ドルである。これが、どれだけ圧縮されるかである。

 

(3)「貿易をめぐり米中の緊張が高まれば、中国内の米企業は格好の攻撃対象となる可能性がある。以前、日本や韓国との関係が悪化したとき、中国では日本製品や韓国製品の不買運動が起きた。中国政府は国営メディアの論調を抑えていたが、6月19日にはそうした抑制が外れたようだ。トランプ氏が中国への制裁措置として、さらに2000億ドル分の中国製品に追加関税を課す検討を指示したことに対し、中国商務省は『米国が追加関税の対象品目を公表したら、中国は量の面でも質の面でも総合的な対策を講じざるを得ない』との声明を出した」

 

中国政府は、巧妙に不買運動を仕掛けるノウハウを持っている。絶対に、中国政府が尻尾を掴まれないように、文書での通達はしないのが原則である。口頭で不買指示をするから証拠は残らないのだ。韓国政府が、この手に泣かされた。韓国政府が抗議すると、のらりくらりと逃げ回る。狡い官僚機構である。

 

(4)「中国現法を持つ米企業にとって目下の懸念は、中国が貿易制限措置だけでなくナショナリズムにも訴えて報復してきそうなことだ。エコノミスト、アレックス・ウルフ氏は『GMやフォード、ナイキなどの中国現法に対し、中国は非公式に大きな影響を与えられる』とし『中国メディアが米国は中国人の感情を傷つけたと報じれば、こうした企業は政府の措置に加え、消費者の不買運動によっても打撃を受ける』と予想する」

 

中国政府は、韓国企業を痛めつけたような手法で米国企業を追い詰めるのだろうか。その場合は、トランプ大統領の猛反発を受けること請け合いだ。ホワイトハウス内では、米国企業が不法な扱いを受け嫌気がさせば、「脱中国」を図って他国へ移転して好都合、という見方もあるほど。製造業では移転も可能だが、サービス業ではそういうことにはならない。米国政府が前面に出て、中国政府と交渉することになろう。ここまで来れば、米中対立は抜き差しならぬ事態になろう。

 

 

中国は、対米関係が悪化すればEUへ触手を延ばすはずだ。そのEUも、すでに技術窃取対策で米国や日本と共同歩調を取っている。日米欧の世界3極が、中国を技術面で囲い込む方針であるから、中国がもがけばもがくほど、EUに上手く「扱われる」公算が強まる。かつてのように、中国へ馳せ参じるという雰囲気はゼロである。中国の存在を「胡散臭い」目で見始めたからだ。

 

大型商談でEUへ接近始める

『ロイター』(6月25日付)は、「中国、フランス産牛肉輸入解禁、エアバス機購入にも前向き」と題する記事を掲載した。

 

この記事では、中国がEUとフランスと商談を進めていると報じている。「米国がダメならEUがある」と言わんばかりのビジネスである。EU側は、米国が問題にしている「政府補助金や技術移転の強要」にも、しっかりと触れている。中国にとっては、「甘い水」がなくなってきた。ビジネスはビジネス、通商慣行の是正とは別次元という割り切り方をしている。中国流の「大型商談をまとめるから違法ビジネスに目を瞑れ」というわけにはいかないのだ。

 

(5)「中国政府は5月25日、フランス政府に対し、同国からの農作物の輸入を増やす方針を示すとともに、エアバス製航空機の購入に向けた協議を継続する意思を伝えた。また、米国との貿易摩擦が深刻化する中、市場アクセスの改善に取り組み、欧州との通商関係の強化を図る姿勢も示した。フィリップ首相は、李首相とともに臨んだ記者会見で、エアバス機購入を巡る1月のコミットメントについて、中国側が前向きな姿勢を示したことを喜ばしく思うと述べた」

 

中国商談の切り札は、航空機購入である。昨年11月、米国のトランプ大統領が訪中の際も同様な航空機大型商談がメニューに載っていた。だが、納入は何年も先のこと。購入約束が守られるかどうかは分らない話なのだ。当時、米国側はこの大型商談に何の反応も示さなかった。EUも同じ轍を踏むのであろう。

 

(6)「フランスのマクロン大統領は1月に訪中した際、エアバスの『A320』184機について、中国との契約が間もなくまとまると発言。複数の関係筋がこれまでに明らかにしたところによると、先走った発言だとして、中国側の怒りを招いていた。中国と欧州連合(EU)はそれぞれ米国との貿易摩擦の渦中にある。中国は米国の通商政策を保護主義と批判し、これに対抗するため、EUと共通の立場を見いだそうとしている。李首相は米国との貿易摩擦について『関連する摩擦や論争は対話を通じて解決可能だと信じている。貿易戦争に勝者はいない』と述べた」 

 

中国は、通商問題でEUを抱き込む戦術に出ている。だが、EUは中国の技術窃取問題で、日米と共同歩調を取っている。中国は、自らの罪(技術窃取)を悔い改めない限り、「三界に家なし」である。中国外交は、始皇帝時代の戦略で現代世界に立ち向かっている。時代錯誤も甚だしいのだ。今時、選挙制度もない国は中国ぐらいである。その「骨董」国家が世界覇権に挑むこと自体、狂っているとしか言いようがない。

 

(7)「一方、欧州委員会のカタイネン副委員長は会見で、EUと中国は政府補助金や技術移転の強要、サイバーセキュリティーなどの『難しい課題』を協議したと説明。中国とEUは鉄鋼やアルミニウムなどの過剰生産能力の問題を解消する必要があるとも述べた」 

 

EUは、すでに中国の通商上の間違いをハッキリ指摘している。中国政府に遵法精神がない理由は、法治国家の意識が希薄であるからだ。中国が、世界の中心であるという2200年前の意識に囚われた不思議な歴史感覚である。この感覚で、米国覇権に挑戦しようとしている。勝敗の帰趨は明らかだろう。

 

(2028年6月30日)

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