中国、「GDPの大嘘」1~3月期は前期比で5.7%成長へ減速 | 勝又壽良の経済時評

中国、「GDPの大嘘」1~3月期は前期比で5.7%成長へ減速

 

 

6.8%成長率の噓を暴く

持家から賃貸住宅へ変化

 

 

中国政府は、GDP統計発表でもなかなか実態が分らないように細工をしている。今年1~3月期のGDPが発表されたが、相変わらず「前年同期比」を前面に立てている。それによると、「6.8%」成長になる。マスコミ報道では、「予想を上回り好調」という活字が踊った。言葉は悪いが、読者もこれに騙されている。

 

この「前年同期比」の増減率が曲者である。先進国では、どこでも「前期比」の増減率を年率換算しGDP成長率として発表する。中国も、この先進国形式を踏襲して、「前期比」を計算すると1.4%の伸び率である。17年10~12月期が1.6%増であるからはっきりと減速している。よって、これを年率換算した1~3月期の実質成長率は5.7%になる。

 

数字遊びを止めて、中国経済の実態を見ると明らかに減速傾向を強めている。

 

1~3月期の前期比ベースのGDP成長率は5.7%である。前年同期比の6.8%を1.1%ポイントも下回っている。この現実から目を逸らしてはならない。不動産バブル崩壊の傷跡が表面化してきた。中国経済は不死身でないのだ。

 

6.8%成長率の噓を暴く

『ロイター』(4月17日付)から、1~3月期のGDP関連の主要経済データを摘出したい。

 

① 「第1・四半期のGDPは前期比では1.4%増加した。予想は1.5%増だった。2017年第4・四半期は1.6%増に改定された」

 

② 「3月の鉱工業生産は前年比6.0%増と、予想の6.2%増を下回った。1~2月の7.2%増から伸びが減速した」

 

鉱工業生産の伸び率は、3月が1~2月より鈍化している。これは、4月以降の一段の減速を示唆している。

 

③ 「1~3月の固定資産投資は前年比7.5%増と、予想(7.6%増)を若干下回った。1~2月は前年比7.9%増だった」

 

1~3月の固定資産投資の伸び率は、1~2月のそれよりも鈍化している。このことから、趨勢線は下降に向かっていることがはっきりしている。こうして、固定資産投資の伸び率は前年同期(9.2%)より縮小した。道路や空港などインフラ投資の伸び率が前年同期の23.5%から13%まで縮小したことが主な原因である。不動産販売も低迷した。1~3月の販売面積は前年同期比3.6%増にとどまり、前年同期(19.5%増)より大幅に減速した。

 

中国の固定資産投資は、GDPの40%台を占める最大の需要項目である。これが、右下がり状態になったことは、中国経済の支え棒が細くなっている証拠だ。インフラ投資が限界に達しっていることの証明であろう。だが、中国政府はこれに諦めることはなさそうだ。「貸家建設」という奥の手を使い始めた。いわゆる、「賃貸住宅」を「持家住宅」に代わって建設する意向を見せている。この点については、後で取り上げたい。

 

④ 「1~3月の民間部門の固定資産投資は8.9%増加し、1~2月の8.1%増から伸びが加速した。中国では民間の投資が全体の約60%を占めている」 

 

前記の固定資産投資の60%が民間投資である。これは、人手不足を反映した省力投資が増えているので、民間投資を支えている。ただ、インフラ投資の落ち込み分をカバーするまでにはいたっていない。

 

⑤ 「3月の小売売上高は前年比10.1%増となり、予想(9.9%増)を上回った。1~2月は9.7%増だった」 

 

個人消費は底堅いが力強さは薄れつつある。百貨店、スーパーの売り上げやインターネット販売などを合計した社会消費品小売総額は、1~3月に前年同期比9.8%増えた。伸び率は前年同期の10.0%から縮小した。

 

ここで奇妙な経済データの動きがあるので取り上げたい。

 

1~3月の不動産投資が、前年同期比10.4%増加した。前年同期の9.1%増も上回った。新築着工が加速した結果だ。1~3月は、新築着工(床面積ベース)が9.7%増加し、1~2月の2.9%増から加速している。

一方、政府による住宅過熱抑制策を受け、不動産販売の伸びが鈍化した。1~3月の不動産販売(床面積ベース)は3.6%増で、1~2月の4.1%増を下回った。

 

このチグハグナ動きの裏に何があるかだ。普通であれば、住宅販売が低下すれば、不動産業者は住宅建設を手控えるはずである。政府が、住宅価格の抑制に動き出しており、販売は抽選制にしているほど。投機家は、住宅価格抑制は一時的な措置と見ている。だが、こうした投機家による住宅価格先高見通しは実現しない公算が強くなってきた。

 

習氏が、「住宅は住む目的であり、投機目的ではない」と繰り返し発言している事実を忘れてはならない。投機家は、従来感覚でこの意味を考えず、住宅投機へ走っているに違いない。習氏にとっては、住宅投資がGDP押上げ効果さえ持てば目的を達成できる。「持家住宅から貸家住宅」へと目標を変えたのだ。絶妙な切り替えである。皮肉だが、「お見事」と声を掛けたいほどだ。

 

住宅が、持家から貸家へと目的を変えても住宅建設を継続する背景には、地方政府による土地利用権譲渡益を維持しなければならない切羽詰まった財政事情が控えている。次の記事がそれを証明している。

 

「2018年第1四半期、中国の土地市場では取引が盛んに行われた。中国指数研究院によれば、300都市の土地使用権譲渡料の総額は、前年同期比37%増の9661億元(約16兆4000億円)だった。このうち住宅用地は同34%増の7683億元。土地使用権譲渡料が増えたのは各地で土地の供給量、取引件数が増加したため。同期間に供給された土地は同20%増の6387区画で、面積にして同38%増の2億8190万平方メートルである」(『中国新聞社』4月6日付)

 

習氏が、貸家住宅建設に目をつけたのは、GDP押上げ目的を継続できること。もう一つは、地方政府の財源対策目的だ。貸家住宅建設が、土地譲渡益を確保させる道である。土地譲渡益確保目的で行なう貸家住宅建設が、邪道であるのは言うまでもない。それでも、背に腹はかえられないのだ。

 

持家から賃貸住宅へ変化

『ロイター』(4月10日付)は、「中国賃貸住宅の供給拡大、当局の圧力で業界は収益性犠牲」と題する記事を掲載した。

 

中国の不動産開発会社が、ようやく脱「持家政策」によって貸家に目が向き始めた。「70後」(1970年代生まれ)や「80後」(1980年代生まれ)は、「所有」にこだわらないという新たな感覚を持ち込んでいる。これは、住宅についても当てはまること。持家主体から貸家の利用という形に住居スタイルが変われば、「住宅高騰」という異常現象に転換点がくる兆しかもしれない。

 

これは、「諸刃の剣」となろう。貸家が増えるとともに新築住宅価格の頭を抑える現象に転じる可能性が強いことだ。新築住宅購入(ローン利用)で月々に支払う金額と、貸家の家賃が競争関係になるはずだ。もう一つ、持家にとっての「悪材料」は、2020年を目途とする「不動産税」(日本の固定資産税)が導入される見通しであることだ。具体的な金額は不明だが、持家にはさらなる負担になろう。もっとも、不動産税が存在しないこと自体、富裕層優遇という批判が付きまとっている。多数の住宅を利殖目的で所有する富裕層には、なんとも頭の痛い負の材料が登場するのだ。

 

こう見てくると、時代の趨勢は資産対策において持家有利という、これまでの流れは大きく修正される状況になってきた。貸家と不動産税が重荷になって、これまで持家にもたらされたメリットは減少に向かうであろう。これが現実化すれば、一挙に利殖目的で保有する住宅売却が進む可能性も考えられる。中国経済を象徴してきた住宅バブルは、貸家の登場でその位相を大きく変えそうだ。

 

(1)「中国の主要不動産各社は、賃貸住宅の供給を増やしつつある。投機用ではなく居住用の住宅を建設すべきだという習近平国家主席の要求に応じた動きだ。ただ各社は当局のご機嫌を取るために、収益減少という犠牲を払っている。最大手クラスの場合でも賃貸住宅から得られる利回りは5~6%にとどまり、中小勢なら赤字に陥るケースさえある、というのが業界関係者や不動産アナリストの見方だ。対照的に住宅販売の利益率は近年では平均20~30%に達する。現在は中央政府だけでなく、多くの都市も不動産会社に販売用よりも賃貸用の住宅を建設するよう圧力をかけている。これにより各社はリターン低下のみならず、賃貸に回した住宅をバランスシートに計上し続けなければならないというリスクにもさらされる」 

 

地方政府は、不動産開発会社に対して貸家住宅の建設に圧力を掛けているという。持家であれば、20~30%の利益率を確保できるが、賃貸住宅から得られる利回りは5~6%にとどまる。これでは、不動産開発会社も二の足を踏む。だが、奨励対策として支援を受けられるというので、やむなく協力するという姿勢に転じている。ただ、不動産開発会社にとっては、利益率低下は不可避であるので株価にも影響を与えるはずだ。

 

(2)「こうした中で、売上高国内2位の万科企業の郁亮会長は、賃貸住宅が最初は大きなもうけを生み出すと想定されないと語った上で、当局が政策面で十分な後押しをしてくれれば長期的には収益が得られる可能性があると付け加えた。実際、最近では地方政府が、不動産会社に優遇貸出金利を提供することや、社債発行や証券化による新たな資金調達方法を認めるなどの賃貸住宅事業支援措置を講じている。もっとも賃貸住宅の需要があることは明白だ」

 

新築住宅価格は高騰しすぎて、すでに庶民の手が届く範囲ではなくなっている。その意味では、賃貸住宅がその代役を果たさざるを得ない事情にある。不動産開発会社にとっては、後から振り返れば「渡りに船」ということかも知れない。ただ、収益力低下は免れない。それが、事業拡張のペースを鈍らせるので、GDPへの寄与度を引下げる。これまで、GDPに大きく寄与してきた不動産開発事業が、貸家建設に舵を切るとともに、そのウエイトが低下するのだ。

 

(3)「不動産仲介の鏈家の調査部門L+リサーチ・インスティテュートは、2015年に1億6000万人だった賃貸利用者数は、25年までに2億3000万人に増加し、賃貸住宅市場の規模は15年の1兆元から25年には2兆9000億元まで拡大すると予想する。前記の鏈家によると、中国国内の賃貸住宅戸数の増加率も15年の15%弱から昨年は40%に高まった。売上高国内トップの碧桂園控股は、昨年終盤になって賃貸事業部門を立ち上げ、3年で100万戸を供給する計画を発表した。同社幹部は2月の報道陣との会合で、賃貸住宅の収益性は販売物件より低いとしながらも、政府の支援があれば業界で一般的な事業になるだろうと述べた」

 

2015年に1億6000万人だった賃貸利用者数は、25年までに2億3000万人に増加する見込みだという。賃貸住宅戸数の増加率は、15年の15%弱から昨年は40%に高まってきた。持ち家の購入を断念した層が、賃貸住宅に回っているのだろう。この流れは今後、ますます強まる気配である。これは、中国経済にとって新たな波乱要因になろう。これまでの持家主流が、変化を起こすことは必至だ。

 

(4)「アナリストや業界関係者によると、賃貸住宅がもうかりにくいのは資金回収に時間がかかる上に、ターゲットの収入が限定されている若年層なので、希望するような高い家賃を常に設定できるとは限らないからだ。万科企業など一部の業者は、ホテルやオフィス、倉庫などのために購入したり借り入れていた資産をリノベーションして賃貸住宅にする方法を採用している。その方が土地購入から始めて新たに賃貸物件を建てるよりずっと利益率が高くなる」 

 

賃貸住宅が増えてくればその分、持家需要が減ることを意味する。これは、個人消費にも影響するだろう。持家購入で高額商品が飛ぶように売れた時代から、貸家では地道な商品が選択される時代に切り替わるに違いない。ここに、中国の経済成長率は一段と低下するであろう。今年の1~3月期は、先進国並みの前期比ベースで見た実質成長率は5.7%に低下している。この流れが一段と定着して、やがて「普通の国」並みの成長率になるはずだ。怒濤の成長時代は終わったのだ。

 

(2018年4月23日)

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