中国、「米の逆襲」産業スパイ行為へ高関税の「厳罰」受ける | 勝又壽良の経済時評

中国、「米の逆襲」産業スパイ行為へ高関税の「厳罰」受ける

 

 

米は技術盗用に年間6兆円科す

中国製造2025が諸悪の根源

TPP復帰で大経済圏から除外

 

 

米国トランプ大統領が、中国へ向けて再び「トランプ砲」を打ち込んだ。今回は、ハイテク製品の関税を上げるというもの。根拠は、中国企業が米国企業のハイテク技術を盗用したことが理由である。前回の関税引き上げは、鉄鋼とアルミである。

 

トランプ米大統領は3月22日、中国が米国の知的財産権を侵害しているとして、最大600億ドル(約6.3兆円)規模の中国製品に対し関税を課す大統領覚書に署名した。中国は強く反発している。「在米中国大使館は、米国との貿易戦争に『最後まで戦う』と強く宣言。崔天凱駐米大使は『われわれは報復措置を取る。相手が断固として挑むなら、こちらもそうする。どちらが長く耐えられるかだ』と、フェイスブックに投稿した動画で語った」(『ロイター』3月22日付)

 

中国の感情的な反発が大きいものの、米国のロス商務長官は次のように発言した。

 

「ロス米商務長官は22日にブルームバーグテレビジョンのインタビューで、『中国の反応があると予想する。ただ、慎重な反応だろうと思う』とし、『極めて思慮深く、真面目な人々であり、大統領が非常によく考え真剣であることを承知している』と指摘した」(『ブルームバーグ』3月23日付)。

 

前記記事の中で、「極めて思慮深く、真面目な人々であり、大統領が非常によく考え真剣であることを承知している」との発言は、どういう意味なのか。これは、2月に訪米した習近平氏の経済顧問、劉鶴氏(現・副首相)が、トランプ政権から中国による知財権侵害の実情をつぶさに説明を受けたからだ。劉氏は、米側の説明に理解した様子のように見受けられたという。米側は、中国の改善を期待している面もあるのだ。

 

米国は技術盗用に年間6兆円科す

『大紀元』(3月23日付)は、「トランプ米大統領、対中制裁措置に署名、年間6兆円規模」と題する記事を掲載した。

 

中国が、海外企業の進出にあたり、技術の伝授を条件にしていたことは有名である。単独進出を認めず、中国企業との合弁を条件にしたのは、技術窃取が目的であった。電子製品については、設計図を開示せよとエスカレートするほど際限のない要求になった。だが、これは序の口である。違法な手段を用い先進技術を狙いモノにしてきた。その具体的な手口については、次のパラグラフで説明されている。

 

(1)「トランプ米大統領は22日、中国が米国の知的財産権を侵害しているとして、幅広い中国製品に対して追加関税を課す制裁措置を決定し、大統領覚書に署名した。年間最大600億ドル(約6兆3000億円)規模。トランプ大統領は大統領覚書に署名する際、中国による知的財産権侵害が『コントロールが効かない深刻な状況に陥った』と指摘し、将来様々な制裁措置を実施していく姿勢を示した。大統領は、同制裁措置は米国の雇用を守る目的にあると強調した。追加関税の対象となる中国製品は、宇宙航空産業、通信技術などのハイテク産業を含む1300品目に及ぶとみられる。税率は25%である」

 

トランプ大統領は大統領覚書に署名の際に、中国による知的財産権侵害がコントロールの効かない深刻な状況に陥った、と指摘するほど悪辣を極めていた。もともと、中国では知的財産権という認識がゼロの国である。現在も、世界一の「ニセ物づくり」の国だ。こういう風土の中で、中国政府が積極的に技術窃取を薦めてきた。

 

次の記事が、それを裏付けている。

 

「中国の知財事情に詳しい専門家は、『中国企業の模倣活動は単なるモノマネではない。官民を挙げ計画的に実施してきたプロジェクトだ」と話す。専門家によると、中国の模倣は段階的になされている。①他国の特許公開情報を読み込み、技術を学ぶ、②機器やソフトを解析するリバースエンジニアリングによって実際に模倣してみる、③うまくできない場合、先進国に研究者を送り込んだり技術者をヘッドハンティングしたりしてノウハウを補う――の3段階だ』(『日本経済新聞』3月23日付)

 

ここでは一見、合法的に見えるがそうではない。他国の特許を真似して製品をつくる。上手くいかなければ、先進国へ技術者を派遣して技術を手に入れる。ここでは、特許権への使用許諾を得ているわけでなく、全て闇の中で相手国技術者にコンタクトを取って安く技術を取得するのだ。かつて、韓国のサムスンが半導体技術を日本企業から手に入れる時(1980~90年代)に使った手段と酷似している。当時、日本企業はこの技術窃取に気づかなかった。中国も韓国と同じ手法で安価に先進技術を入手しているのだ。

 

(2)「大統領覚書では、米政府の調査結果が記された。米側は、中国当局が許可のないまま米企業のコンピューター・ネットワークに侵入し、知的財産権・商業機密・重要商談情報などを盗み出したこと、ハイテク技術を入手するために米企業への大規模な買収を指示したことなど、4つの知的財産権侵害行為がある、と指摘した。ビーター・ナヴァロ通商製造業政策局長は22日、ホワイトハウスの記者会見で対中貿易制裁を発表した際、中国当局の産業振興策『中国製造2025』に言及した。中国当局は今後人工知能、量子コンピュータなどの先端技術分野の世界的なリーダー地位を狙っていると指摘し、米の国家安全保障や軍事力に大きな脅威となっていると強調した。慣例として、トランプ大統領が同覚書に署名した後の60日間は、米中の貿易再交渉期間となる。交渉の結果次第で、具体的な制裁措置の実施が決まるという」

 

ここでは、中国の産業スパイの実態が説明されている。「中国当局が許可のないまま米企業のコンピューター・ネットワークに侵入し、知的財産権・商業機密・重要商談情報などを盗み出したこと、ハイテク技術を入手するために米企業への大規模な買収を指示したこと」が証拠となっている。こういう犯罪行為に手を染めて現在、「中国製造2025」という野心的な産業計画を遂行中である。この「中国製造2025」こそ、中国が米国を経済面で追い抜く根幹計画である。

 

「中国製造2025」については、3月16日のブログで取り上げている。中国政府は、人工知能、量子コンピュータなどの先端技術分野で米国を抜く。そして、世界リーダーの地位を狙っているが、それを支える技術を米国から盗み出す。そういう国家ぐるみの犯罪計画を練ってきたのだ。米国はこれに気づいて、「中国の技術泥棒」といきりたっているのが、今回の「知財権侵害事件」の真相である。米中どちらが悪いのか。言うまでもあるまい。それは中国の技術窃取にある。

 

中国製造2025が諸悪の根源

『大紀元』(3月7日付)は、「中国、『中国製造2025』を推進へ、欧米で懸念強まる」と題する記事を掲載した。

 

この記事によれば、「中国製造2025」がいかに問題を含んでいるかを説明している。二つの問題点が指摘されているのだ。①は、政府主導の産業計画でありWTO(世界貿易機関)のルールに違反すること。②先進国の技術窃取を前提にしていること。中国へ進出する海外企業に対して強引に技術の開示を求める違法行為を行なっている。

 

2月末に訪米した中国高官は、この「中国製造2025」によってもたらされる過剰生産の危険性について認識を新たにしている様子であったという。すでに、鉄鋼とアルミで過剰生産問題を引き起こしているのだ。その二の舞になることは必至であろう。

 

(3)「中国当局は2015年、ロボット、バイオなど10の分野で、国内生産比率を大幅に引き上げる『中国製造2025』計画を発表した。2025年までに日本、米国、ドイツなどの世界の製造強国に仲間入りし、2035年までに中級レベルへアップ、2049年には技術・品質などの総合力で、世界製造強国のトップに立つとの目標を掲げる。また、イノベーション能力の向上は最優先課題として位置付けられている。中国当局は現在、2030年までに人工知能(AI)関連産業リーダーを目指し、国内で集積回路(IC)の生産力を拡大させている」

 

主として米国の「虎の子技術」を盗み出して、世界一の高度産業構造を目指すという発想法はどこから出てくるのか。これは、中国に経済倫理が存在しない証明である。中国では始皇帝以来、農本主義であり商工業に圧迫を加えてきた。商工業は利益率が高く、商人が財産を蓄えると謀反を起こすという理由である。だから、農業の発展だけに尽くすことが歴代政権の主要政策になった。

 

こういう次第で、経済倫理を説く書籍の発刊も御法度にされてきた。わずかに、『史記』を執筆した司馬遷が死後に公刊した『貨殖列伝』によって、商業倫理が説かれているだけである。もう一つ、中国には来世を信じる信仰そのものが存在しない。これが、道徳を未発達にさせた要因である。こうして後世、習近平氏が外国技術を盗用した「産業強国論」を世界に発表するという大醜態を演じる結果になった。

 

(4)「米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(WSJ)3月6日付によると、米通商代表部などの政府高官は、中国当局主導の振興策は公正な競争を損なうと批判した。米政府関係者は、中国当局は国内企業に補助金を給付するほか、外国企業に対して技術移転を強いる可能性が高いとの認識を示した。トランプ政権は昨年から、中国による知的財産侵害の疑いで調査を行っている。米中貿易摩擦を回避する目的で、習近平国家主席の経済ブレーンの劉鶴・中央財経領導小組弁公室主任が2月末に訪米した」

 

中国が、自国の技術発展によって「産業強国」を目指すならば、米国から文句を言われる筋合いはない。だが、中国政府の与える補助金や米国企業の技術を窃取することで産業発展を目指すのが、国際ルールに著しく反することである。知的財産権は尊重されるものだ。中国政府は、それを率先して破ろうとしているわけで、米国からペナルティーを科せられて当然である。申し開きはできない事件だ。

 

(5)「WSJによると、劉氏は米政府や財界関係者との会合では、『中国製造2025』が経済成長を促進するという重要性を強調しなかった。また、劉氏は同計画がすでに過剰すぎる生産能力をさらに悪化させる可能性に言及したという。また、中国当局内部の一部の高官が、劉鶴氏と同じ懸念を示しているという。在中国の欧州連合(EU)商工会議所が2017年、『中国製造2025』について、『極めて問題』があり、海外企業の差別につながりかねないとの報告書をまとめた。『海外企業の間では、中国市場に参入する条件として、技術の譲渡を迫られるのではないかとの懸念が浮上している』と指摘した」

 

中国政府の副首相に昇格した劉鶴氏は、「中国製造2025」の問題点について、米国政府から懇々と説明を受けたという。計画通りに「中国製造2025」を進めれば、世界的な過剰生産に拍車を掛ける懸念を感じ取った様子に見られたという。だが、明言したのではあるまい。米国政府が知財権保護で強い姿勢を見せているのは、劉氏の帰国後に何らの反応も見せなかったのであろう。

 

TPP復帰で大経済圏から除外

問題は、今回の米国政府の強い対応で中国が技術盗用という下劣な手段を改めるかである。

 

『ロイター』(3月22日付)は、「トランプ氏の手に余る米中貿易問題の根深さ」と題するコラムを掲載した。

 

このコラムでは今回、米国政府が技術盗用にペナルティーを科しても、事態は改善しまいという悲観論である。技術盗用が悪だと考えていない中国指導部である。南シナ海の9割は中国領海という噓八百を並び立てる国なのだ。こういう善悪の判断がつかない国家には、いかなる対応をとっても無駄に終わる恐れが強い。適当に対応してお茶を濁す。根本的な改善は望めまい。

 

(6)「トランプ氏は米通商代表部(USTR)に関税対象となる中国製品のリストを公表するよう命じ、最大600億ドル相当の中国製品に影響が及ぶと説明した。米財務省は、米国資産を購入する中国の買い手に対する新たな規制を策定する。いずれも中国が米国の知的財政権を侵害しているとされることへの対応で、この問題は中国が2001年に世界貿易機関(WTO)に加盟する前から懸念されていた」

 

技術盗用は、中国のWTO加入時の2001年から懸念されていた事柄である。中国という国家は、ここまで信用されていないのだ。中国が倫理的な国家になる望みは最初からなかった、と切り捨てている。過大な期待を寄せて、中国が民主化される夢を持ち続けた米国が短慮であった。

 

(7)「今後、中国側はいくつかの対抗策を打ち出すとともに、トランプ政権をなだめる提案をしてくると考えられる。例えば合弁の基準に関する法令を改正したり、自動車分野の関税引き下げ、あるいは何らかの自主的な輸出・投資規制などを申し出てくるかもしれない。あるいは2015年に米中両国が政府による産業スパイ行為の禁止で合意に成功した事例を持ち出すだろう。この合意の履行はほぼ停滞しているように見えるが。

 

中国は、2015年に米国との間で産業スパイを禁止するという合意を結んでいる。空約束であり、なんら実行に移されなかった。経済倫理感の乏しい中国が、守るはずもない。米国は余りにも迂闊であった。中国は、約束を守る国家と信じていたのだ。見事に外れた。

 

(8)「問題は、ワシントンの政策担当者を最もいら立たせていると思われる要素のほとんどは、根が深いことにある。中国政府が、国家主導の企業政策や産業政策を放棄する可能性は極めて乏しい。つまり、習近平国家主席と官僚集団はこれからも、経済各層に対して圧力の程度に差はあるにしても介入を続ける必要があるという話だ。米国による関税や投資制限は多少痛みを与えるだろうが、中国の姿勢を全面的に変えられそうにはない。中国が変わる日々が訪れるころには、トランプ氏が大統領だった時代など遠い昔になっているかもしれない」

 

中国の最終目標は、世界覇権の実現である。米国をGDPで抜き去ることだ。この夢を捨てるはずがない。習近平氏が終身国家主席を意図し、世界覇権を手にするまで、手段を選ばないであろう。中国4000年の興亡史では、手練手管を使ってもライバルを蹴落とす者が勝利を収めた歴史である。この歴史をひもとけば、習氏があらゆる手段を用いて米国をだまし討ちにするだろう。一瞬たりも忘れない大命題のはずだ。

 

こう見てくると、米国はTPP(環太平洋経済連携協定)へ復帰して、加盟国全体で中国に対峙するしか方法はない。米国がTPPへ戻れば、それだけで世界のGDPの4割弱の市場シェアになる。このほか、台湾、韓国、タイ、インドネシア、英国などが加われば世界シェエアは5割になろう。この一大経済圏になると、中国がいくらあがいてもどうにもならないはずだ。こういう実績をテコに、中国の経済改革を求めるしか道はない。その道は遠いのだ。

 

(2018年3月29日)

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