韓国、「半導体好況の裏」重厚長大産業は不振「構造転換遅れ」
バブルで衰退する中国 技術力で復活する日本
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3割過剰の生産設備
半導体の「片肺飛行」
韓国産業は、明暗が判で押したようにはっきりと分かれている。「明」は、半導体のメモリーである。「暗」は、重厚長大という伝統産業である。これが軒並み不振の原因は、中国に追い上げられている結果だ。これまで、日・中・韓の三カ国の産業は、上手く棲み分けができていた。高級品が日本。中級品は韓国。低級品が中国というもの。だが、時間の経過とともに、中国の技術レベルが上がっており、韓国は中国に猛烈な追い上げを受ける立場に変わった。
韓国経済は、日本経済よりも約20年遅れでその後を追っている。現在の韓国は、1997年の日本経済と言える。バブル経済の後遺症に苦しんでいた。具体的な脱出策が見つからず、右往左往していた段階である。ちなみに、当時の日本の経済成長率は1990年、バブル経済のピークを経て一転して低迷状態に陥った。ここで、20年前の日本経済の実質成長率を手がかりに、韓国の経済成長率を見ておきたい。
日本経済 韓国経済
1995年 2.74% 2012年 2.29%
96年 3.10% 13年 2.90%
97年 1.08% 14年 3.34%
98年-1.13% 15年 2.79%
99年-0.25% 16年 2.83%
2000年 2.78% 17年 2.68%(IMFの2017年4月予測)
韓国経済が、日本経済の20年遅れとすれば、日本経済の1997年以降の実質成長率が参考になる。日本はこの時期、バブル経済崩壊後の不良債権処理が遅れており、経済政策の方向性が定まらなかった。国債発行を積極的に行なえば、景気回復が可能という誤った判断に凝り固まっていたのである。
韓国経済にバブルは発生していない。だが、人口動態的には日本を上回る速度で人口高齢化が進んでいる。もう一つ、産業構造の転換が遅れている。これら要因によって、今後の韓国経済は茨の道が待っている。半導体(メモリー)という汎用品が現在、循環的な大好況局面を迎えている。致命的なのは、他の産業が約3割の過剰設備を抱えており、これの処理が上手くいかないと、これから「泥沼」に陥る危険性が高い。
3割過剰の生産設備
『中央日報』(9月25日付け)は、「製造業の生産設備3割過剰、煙突・非煙突の不均衡深化」と題して、次のように伝えた。
この記事では、韓国産業の苦悩がはっきりと浮かび上がっている。韓国は、製造業中心の経済であり、サービス業が未発達である。サービス業といっても範囲は広いが、高度のサービス業は製造業の発展のなかから生まれてくる。その点、韓国サービス業は、「小売りか日雇い」と言った低生産性という限界を抱えている。雇用吸収力の広がりが狭い。
ここで、日本の産業構造を概観しておきたい。経済活動別GDP(産業別GDP)統計で、
各業種が生み出した付加価値のシェアをみると現在、サービス業のシェアが20%台で、製造業シェアを上回っている。リーマン危機後の2009年、製造業がサービス業のシェアを一時的に上回った。だが、2011年以降はサービス業が製造業を継続的に上回っている。経済のサービス化が一段と進展して、製造業シェアは長期的な低下傾向にある。
経済のサービス化とは、製造業が高度に発展した過程から自然に発生するもの。その点で、韓国製造業はハイテク化していないので、サービス化が進まないという基本的な欠陥を抱えている。未だに、重厚長大産業が韓国経済の主力であることが、経済のサービス化を阻んでいる要因であろう。
(1)「韓国製造業は、4~6月期の平均稼動率が71.6%。前年同期比1.6ポイント下落した。金融危機直後である2009年1-3月期の66.5%以降8年3カ月ぶりの最低水準だ。製造業は韓国経済の核心成長エンジンであり輸出コリアを率いるテコだ。鉄鋼・石油化学・造船・自動車・繊維など製造業が数十年間韓国経済を引っ張ってきたと言っても過言ではない。製造業は安定した雇用の供給源でもある。サービス業は自営業者と日雇いが就業者数を増やすだけで雇用の質は低い」
4~6月期の製造業全体の稼働率は、71.6%である。理想的な稼働率は80%台とされるから、これでは損益分岐点が高くなり、損失を出しやすい状況に追い込まれている。製造業は安定した雇用の供給源である。サービス業は、「自営業者と日雇いが就業者数を増やすだけで雇用の質は低い」と切り捨てられている。だが、サービス業を一方的に無視するのは、韓国産業構造の転換が遅れている証明である。
(2)「韓国経済研究院の権泰信(クォン・テシン)院長は、『製造業は雇用創出・付加価値・生産誘発と付加価値効果が大きいため製造業が発展すれば他の分野の産業がともに発展する効果がある。米国・ドイツ・日本などが製造業振興に努める理由も製造業が経済基礎体力の根幹と判断しているため』と診断した。しかし、韓国の鉄鋼・石油化学・繊維などは供給過剰で構造調整の手術台に上がった。造船・自動車などは競争国の追撃で四面楚歌に陥った。延世(ヨンセ)大学経済学部のソン・テユン教授は『製造業の不振は韓国の生産性と価格競争力低下、中国など新興工業国の追撃、生産基地の海外移転などが複合的に作用した結果。半導体を除いた残りの製造業の大部分が厳しい状態に陥っている』と指摘した」
製造業のIT化は、高度のサービス業を産み出す基盤である。IoT(モノとモノをインターネットでつなぐ)は、必ずここから新たな産業を産み出すはずである。さらにAI(人工知能)が結びつくと、大量のデータ処理が新たな産業誕生の契機となり得る。最近、データアナリストなる存在が注目されている。これが、新たな雇用を産み出す貴重な機会を提供する。韓国産業にそういったビジネスチャンスがないとすれば、重厚長大産業から一歩も出ていないことになろう。
(3)「今年上半期の貿易黒字458億ドルは、半導体を除くと黒字規模は216億ドルだ。昨年の半導体を除いた黒字規模375億ドルの58%にすぎない。今年4~6月期の半導体製造業の生産能力指数は2000年を基準値の100とすると256.5にもなる。だが『一般目的用機械製造業』は106.7、『船舶とボート建造業』は105.1、『化学繊維製造業』は100.4、『自動車用エンジンと自動車製造業』は99.6などで、平均の112.8に至らなかった。半導体・情報技術(IT)に代表されるいわゆる『非煙突』と伝統製造業である『煙突』産業間の不均衡が深刻化している」
韓国の貿易黒字(今年上半期)の52.8%は半導体が占めている。この点については、後で取り上げる。世界的な「半導体ブーム」が起こっており、韓国半導体はそれに乗っているのだ。現在の半導体の生産能力指数は、2000年当時の2.5倍にも達している。まさにブームに相応しい生産能力の拡張である。だが、これまでも半導体ブームの後には、大きな落ち込みがあった。いつ、このブームが消えるか分からない不安がある。
半導体以外の産業の生産能力は、ほぼ横ばい状態である。2000年を基準にすれば、造船・化学繊維が横ばい、自動車は微減となっている。前記産業は、明らかにこの間の17年の歳月において、発展したとは言いがたい。むろん、海外に生産基地を移転した結果であるが、韓国の国内雇用はそれだけ失われている。それを補う対策が打たれなかったのだ。具体的には、労働市場の改革が見送られていたことにある。
(4)「問題は、このように煙突産業が冷め、『製造業の衰退→雇用減少→失業率上昇→消費萎縮→経済成長率下落」という悪循環につながりかねないという点だ。韓国銀行によると、化学・機械装備・金属分野はこの数年間で海外生産が国内生産を上回った。化学と化学製品の海外生産割合は2011年の45.5%から2015年には52.2%に、機械装備は43.2%から51.8%に高まった。韓国経済の主軸であるIT・自動車産業は2000年代半ばから海外市場開拓と費用削減を掲げて海外生産拠点を増やした』
重厚長大産業は煙突産業とも言われる。このパラグラフでは、煙突産業部門の生産能力横ばいは、「製造業の衰退→雇用減少→失業率上昇→消費萎縮→経済成長率下落」を招いたと強調している。この分析は正しいだろうか。17年間の時間を無駄にしたという側面の方が大きいと思われる。産業構造の転換、あるいはサービス経済化という製造業の高度化を怠ってきた。
企業が、生産コストの安い立地を求めて海外へ移転することは、企業行動として当然であろう。政府が、その移転した後の雇用減少を補う対策を打たなかった方が責められるべきであろう。政府は、そのために存在しているからだ。あるいは、国内の立地条件が海外のそれに比べて遜色ないようにする政策努力が求められる。韓国ではそれが逆になっている。硬直的な労組の存在が皮肉にも、企業の海外移転を促進させたのだ。
文政権では、法人税率を引上げる。ボーナスを通常賃金に算入して、残業料などの賃金を引き上げるなど、企業の海外移転を促進させる方向に傾斜している。これでは、国内雇用はさらに減少するだろう。国内雇用を増やすには、整合的な政策が求められる。反企業的な視点では不可能である。
(5)「製造業の脱韓国の流れが速まれば、韓国国内の雇用は減るだろう。大韓商工会議所によると韓国企業の海外現地雇用は2005年の53万件から2015年は163万件に増えた。企業の海外移転により、韓国国内で100万件以上の雇用ができる機会を失ったという意味だ。また、企業が出て行っただけ税収が減少し、工場があった場所の周辺商圏や地域経済も打撃を受ける。そのため韓国の製造業の経済成長寄与度は2015年が0.3ポイント、昨年が0.5ポイントと2009年以降初めて2年連続0%台を記録した。製造業が経済成長に寄与する割合がわずかだという意味だ」
日本の産業別の付加価値統計が示すように、サービス業の発展は製造業の落ち込みを十分にカバーしている。とくに、製造部門の海外進出があっても、研究部門は国内に残す例が圧倒的である。この場合、製造部門を海外移転しない企業と比べ、雇用が増えているというのが日本のケースである。したがって、このパラグラフで、「製造業の脱韓国の流れが速まれば、韓国国内の雇用は減るだろう」と指摘するのは納得がいかない。あるいは、韓国企業の研究開発部門が十分、その成果を上げていない結果かも知れない。いずれにしても、韓国産業の発展が未成熟であることは疑いない。
(6)「韓国政府は製造業復活のため2013年に『海外進出企業の国内復帰支援に関する法律(Uターン法)』を作った。補助金と税金減免などの恩恵を与え海外に出ていった製造業企業を再び呼び戻すという趣旨だ。しかし法律が作られた直後の2014年に22社と輝きを放ったが、今年は上半期現在2社だけがUターンし、累積企業数は40社にとどまっている。これに対し日本は違う雰囲気だ。経済産業省の昨年12月の調査によると、海外に工場を置いている調査対象企業834社のうち11.8%が1年間に生産拠点を海外から日本に移した。日本貿易振興会(JETRO)の今年初めの調査では最近工場を他の国に移転した企業のうち中国から日本に帰還した割合は8.5%で、日本から中国に移動した割合の6.8%を上回った」
韓国企業でUターン例が少ない背景は、国内のサービス部門が発展していない結果であろう。中国を例にすると、中国の生産性が低く賃金が高いために賃金コストが上がっている。そこで、先進国企業は母国へUターンしている。韓国でUターンのケースが少ないのは、韓国の賃金コストが高いことを証明している。AIやロボット活用による生産性上昇を実現できない要因があるはずだ。世界一強硬な労組が、それを阻んでいるのであろう。結局、柔軟性に欠ける労組が相手では、韓国企業のUターンは掛け声だけで実現はしないのだ。
半導体の「片肺飛行」
『朝鮮日報』(9月25日付け)は、「ますます高まる半導体依存、いびつな韓国経済に懸念の声」と題して、次のように伝えた。
韓国経済は、半導体という単一製品に依存する異常な状態である。つまり、「片肺飛行」である。従来は、自動車も健闘してきたが、米国と中国での競争力を急速に失ってきた。その裏には、賃金コストの上昇で研究開発費を削減している事実がある。こうして、韓国は半導体の「片肺飛行」となった。それがもたらす危機感を持たねばならない。
(7)「韓国経済の半導体依存度がますます高まり、半導体の好況が他の産業分野の不振を覆い隠す『好景気の錯覚』を懸念する声も上がっている。市場調査会社IHSマークイットによると、全世界のメモリー市場の規模は昨年の783億ドルから今年は1117億ドルに拡大が見込まれる。台湾の市場調査会社、DRAMエクスチェンジは、来年のDRAM需要が前年比20.6%増えるのに対し、供給は19.6%の増加にとどまり、供給不足でDRAM価格の上昇が続くと予想した。また、ICインサイツは2021年までメモリー半導体市場が年平均7.3%成長すると予想した。サムスン電子とSKハイニックスは市場で2強体制を固めている。DRAM市場の場合、4~6月期のシェアはサムスン電子が45.1%、SKハイニックスが26.8%だ。両社が全世界のDRAM市場の4分の3を掌握していることになる」
世界の半導体メモリー市場は、韓国のサムスン電子とSKハイニックスの2社で、71.9%(今年4~6月期)という圧倒的なシェアを占めている。半導体でもメモリーは汎用品である。高級品(システム半導体)ではない。全自動運転車では、システム半導体が使われるので、この分野では日本が強みを持っている。
(8)「韓国経済に占める両社の割合が高くなり過ぎたとの声も一部にある。ハナ金融投資のアナリスト、イ・ヨンゴン氏は『サムスン電子、SKハイニックスのようなIT・半導体業種は特にトレンドが急変し、景気に敏感なので、不況になれば韓国の株式市場全体が揺らぎかねない』と指摘した。ソウル大経営学科の呉政錫(オ・ジョンソク)教授は、『半導体メーカーが工場増設を進めており、2019年以降は現在のような超好況は続かないかもしれない。ポスト半導体業種が見当たらない懸念すべき状況だ』と話した」
メモリー半導体の単品が、韓国経済を支える訳にはいかない。いずれは、ブームも去る。過去の半導体市況の変動が、それを物語っているのだ。となると、韓国はここ1~2年のうちに、国内体制を整えて来たるべき輸出減に備える時期である。文政権に、それは可能だろうか。「所得主導経済」で最低賃金を引上げれば、個人消費が増え韓国経済は安泰である。こういう夢を描いている文政権が、厳しい現実をどこまで認識しているか疑問である。
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(2017年10月2日)
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