中国、「米が制裁」北朝鮮問題飛び火「知的所有権侵害」で | 勝又壽良の経済時評

中国、「米が制裁」北朝鮮問題飛び火「知的所有権侵害」で

 

 

米ハイテク企業からの技術窃取を阻止へ

 

米中は最近、北朝鮮問題を巡って関係が悪化しつつある。中国が、米国の期待するような北朝鮮制裁をしないことに痺れをきらしたものだ。米国の言い分は、中国が対米貿易で膨大な黒字を出しているのだから、その見返りに北朝鮮制裁を真剣に行なえという、「バーター取引」の理屈だ。

 

確かに、今年4月初めの米中首脳会談は、両国が北朝鮮問題で共同歩調を取ることで合意していた。習近平氏も本心で、北朝鮮の核放棄に向け米国と協力する意思を固めていたと思われる。だが、中国国内の「北朝鮮擁護派」の巻き返しもあったのか、当初の米中合意は宙に浮いた形だ。習氏の苦悩は深いと思われる。そこで先ず、米中首脳会談で見せた習氏の心境を傍証する記事を取り上げたい。

 

『朝鮮日報』(5月7日付)は、「環球時報に込められた習近平の内心」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙編集局の崔有植(チェ・ユシク)国際部長である。

 

このコラムによって明かな点は、中国が米国と協力して北に核放棄させる意向をはっきりと見せていたことである。それがなぜ、腰砕けになってしまったのか。その理由は不明だが、トランプ大統領は少し時間をかけて中国の本心を探るべきだという感じも受ける。中国は、せっかくの米中首脳が胸襟を開いて話合ったのだから、米国と密接な事後連絡をすべきであったと思う。ということは、真の相互理解はなかったのか。そう判断せざるを得ない。

 

(1)「環球時報は米中首脳会談の5日後の4月12日付社説で、初めて北朝鮮に対する原油供給制限に言及した。『北朝鮮が核・ミサイルによる挑発を強行するならば、国連の原油供給制限制裁に賛成せざるを得ない』と書いた。翌日には『核を放棄すれば、金正恩(キム・ジョンウン)政権の安全を保障し、経済的に支援を行う』とした。北朝鮮の朝鮮人民軍創建記念日を3日後に控えた4月22日付の社説はさらに異例で、『米国が北朝鮮の核施設に対する外科手術的な攻撃を加えても、中国は軍事的に介入する必要はない』というものだった」

 

環球時報の社説では、「北朝鮮が核・ミサイルによる挑発を強行するならば、国連の原油供給制限制裁に賛成せざるを得ない」と書いている。北朝鮮はその後もミサイル実験を続け、ICBM(大陸間弾道ミサイル)まで成功させてしまった。前記の約束に従えば、中国は、原油供給制限に踏み切らなければならないはずだ。また、「米国が北朝鮮の核施設に対する外科手術的な攻撃を加えても、中国は軍事的に介入する必要はない」と、北朝鮮を見捨てる最後通牒を発した形でもあった。米国への「約束」は、いまなお生きているのか。

 

この社説の出た後、中国は北朝鮮への制裁カードを引っ込めてしまった形である。最近は、中国の言い訳が目立っている。中国国内に何か重大な変化が起こっているに違いない。そこで、米国は、中国の「変心」に怒っているのだ。ならば、中国の対米貿易赤字問題をテーブルに載せて、議論を振り出しにもどす、という「ビジネスライク」な姿勢に変わったと言える。

 

『ブルームバーグ』(8月3日付)は、「米、対中調査開始を準備 知的所有権侵害の疑いで」と題して、次のように伝えた。

 

1980年代後半の日米経済摩擦の頃を記憶している者には、「米通商法301条」は懐かしい言葉だ。連日、日本の新聞1面に報じられたニュースである。日本は、米国から一方的に攻め立てられ防戦一方であった。今度は、その刃が中国に向けられる。中国も腹を決めて対応すべきだろう。それほど、「301条」には威力がある。

 

(2)「トランプ米政権は通商問題を巡り中国に対する姿勢を一段と強める構えだ。政権内の議論が実行に移されれば、世界経済に深刻な事態をもたらしかねない。中国による知的所有権(IP)侵害の疑いがあるとトランプ政権が受け止める問題で、米当局は調査開始の準備をしている。米紙『ニューヨーク・タイムズ』は2日、トランプ政権が米通商代表部(USTR)に1974年通商法301条に基づく調査実施を検討していると報じた。同条では、外国の不公正な貿易慣行から米国の産業を守るため、大統領が関税を課すことを認めている」

 

米国は、中国による知的所有権(IP)侵害をやり玉に挙げようとしている。この問題については後で議論するが、中国は米国企業に対して執拗なまでに技術の開示を要求している。中国企業には技術開発能力がないので、「他人の褌で相撲を取る」という下劣な要求をしているのだ。口では「技術強国」などと叫んでいるが、実態は外国企業の技術を窃取しようという浅ましい考えである。米国政府は、ここを衝いて中国に一泡吹かせようという狙いである。

 

(3)「トランプ政権はこれまで、中国に対して寛容な態度を示してきたが、ここに来て中国政府に政策を変えるよう圧力をかけているように見える。トランプ大統領は中国を為替操作国に認定しない理由として、北朝鮮問題での中国当局者の協力約束を挙げていた。ワシントンにある戦略国際問題研究所(CSIS)の中国事業・政治経済プロジェクト担当ディレクター、スコット・ケネディ氏は、『これまでのところ(中国による北朝鮮への圧力は)見せかけだけで、実際の行動はほとんどない』としつつも、『何かするよう圧力が高まっており、米国が完全に張り子の虎であるとは見受けられない』と話した」

 

中国が、北朝鮮に圧力を掛けたような具体的な動きは見られないという。そこで、米国が「張り子の虎」でないことを見せつけるためにも、中国に対して強硬策を取らざるを得ないと、している。ただ、米中は世界経済1位と2位の規模だけに、両国が四つに組んで貿易紛争に突入すれば、世界経済への影響が大きくなると懸念されるのだ。そうかといって、北朝鮮の核とミサイルを野放しにはできない。一時的な経済摩擦を覚悟するか、永遠の平和体制を構築するか。その選択の問題とも言える。事なかれ主義でここまで事態を悪化させた。それも事実なのだ。

 

(4)「米国は他国を相手取り世界貿易機関(WTO)に提訴するのに通商法301条を活用してきた。だが、元USTR法律顧問で現在は法律事務所ホーガン・ロベルズのパートナー、ウォーレン・マルヤマ氏によれば、同法ではWTOに提訴しなくても報復関税を課すことができる広範な権限が政権に認められているという」

 

米国の通商法301条を活用すれば、WTOに提訴しなくても報復関税を課すことができる広範な権限が政権に認められているという。先のパラグラフでは、中国に対して知的所有権侵害で対応するほか、報復関税で中国に対応するとしている。いわゆる、「2本立て」によって中国を北朝鮮問題に真剣に対応させる狙いを込めている。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月3日付)は、「中国の報復懸念、米国の強硬貿易措置の障害に」と題して、次のように報じた。

 

この記事では、米国が中国による知的所有権侵害への措置を取ることに触れている。中国は、米企業の技術に群がっているので、ここで米国から「ノー」という拒否姿勢が鮮明になると、中国のハイテクビジネスは立ちゆかぬ恐れが出てくる。これまで中国は、米企業に対して、こっそりと、隠微な形の嫌がらせをしつつ技術を盗んできた。その事実がおおっぴらにされると、中国は世界に対して大恥をかく。メンツの国・中国だけに、その場合は大掛かりな報復に出てくるだろうと予想されるのだ。

 

(5)「中国が米国の知的財産を貪欲に手に入れようとしていることに対し、ドナルド・トランプ米政権が貿易面で強硬な措置に出ようとしている。米国では民主党や共和党、自由貿易主義者、保護貿易主義者、経済団体がそろって、中国が国内市場へのアクセスと引き換えに技術移転を要求していることを非難し、より厳しい対応を取るようワシントンに要求している」

 

中国は、口で立派なことを宣(のたま)うが、常にそれに裏がある。自らの実力不足を糊塗するために背伸びしており、こっそりと「カンニング」(技術窃取)を試みている国である。中国の常套句は、「技術と市場を交換する」ということだ。中国への進出を認めてやる代わりに、技術を開示しろと迫ってくるのだ。それを拒否すると大変なことになる。嫌がらせを受ける羽目になるのだ。ある程度の技術を窃取して、中国企業の経営が一本立ちできる自信がつくと、中国政府は国内企業を保護し外資系企業を圧迫する。外資系企業は、この仕打ちに泣かされてきた。こういう矛盾が今や、一挙に表面化する機会が来たとも言える。

 

(6)「トランプ政権はビジネスを犠牲にすることなく、また世界の貿易体制を揺るがすことなくハイテク業界の未来を守るための措置を強化する政策を策定しようとしているため、前途には数々の困難が待ち受けている。ワシントンで活動している米大手ハイテク企業のロビイストは、『中国の態度を問題視していないハイテク企業はない。だが、米政府に対して望む対応については意見が分かれている』と述べた」

 

トランプ政権は、在中国の米国企業のビジネスに障害が出ずに、米国のハイテク業界の利益を守るためには、どのような手を打つべきか悩んでいるという。問題が公になると、中国の報復は明らかである。

 

(7)「このロビイストは、『最大の懸念は報復だ。なぜなら、中国は今や世界2位の経済大国になっているからだ』と語った。多国籍企業は中国市場へのアクセスを失うわけにはいかないと考えている。だが、ワシントンのシンクタンク、情報技術イノベーション財団(ITIF)のロブ・アトキンソン代表は、米政府は産業界の長期的な利益を守るために、短期的な痛手を被るリスクを冒さなければならないかもしれないと指摘した。同財団は以前から中国の技術移転要求に警鐘を鳴らしている」

 

米企業は、短期的な摩擦を恐れて泣き寝入りしていると、将来の損害はさらに大きくなる。要するに、短期的な損か長期的な利益の選択である。中国の技術移転要求は凄まじいものがあるのだ。これが中国企業の実態かと知ると、腰が抜けるほど落胆する。「大言壮語」(ほら吹き)して、「2025年に産業強国」とうそぶいているが、外国企業の技術を窃取して、あたかも自国開発技術という顔をする。日本の新幹線技術を使いながら、「中国の独創技術」と言い募っている国である。真面目に相手をするのもいやになるほどだ。

 

(8)「トランプ政権の当局者らは、中国の知的財産政策に対する強硬姿勢を強める計画を慎重に練っており、企業や連邦議員と協議している。検討されている選択肢の1つは、米通商代表部(USTR)のロバート・ライトハイザー代表に、中国による無数の公式・非公式の技術移転要求に関する正式な調査を命じる大統領令を出すことだ。当局者らは、今週中にも何らかの発表が行われることを示唆しているが、公の場でのコメントは控えている」

 

中国による無数の公式・非公式の技術移転要求に関する正式な調査を命じる大統領令を出すことになりそうだという。これが実現すると、中国政府は過去の「悪事」が表面化する。今後、中国政府は外資系企業に対して、技術を教えろと強制しにくくなろう。いつまでも、R&Dへの真面目な努力もせずに、果実だけを狙う「サルカニ合戦」を終わりにすることだ。それが回り回って、中国の軍拡を阻止する道につながる。中国の理不尽な要求を全て拒否しないと将来、大変な災いが及ぶであろう。中国とは、そういう腹黒い国である。片時も、この事実を忘れてはならない。

 

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(2017年8月5日)

 

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