中国、日本が米抜き11ヶ国で「TPP推進」RCEPは不利 | 勝又壽良の経済時評

中国、日本が米抜き11ヶ国で「TPP推進」RCEPは不利

 

 

新TPPに日本の活路

RCEP空中分解寸前

 

米トランプ大統領が、TPP(環太平洋経済連携協定)離脱を表明して以来、TPPは漂流を続けていた。TPP加盟予定国から外れていた中国は、いよいよ中国の出番とばかりRCEP(東アジア地域包括的経済連携)推進に力を入れている。米国の抜けたTPPは立ち往生すると見ていたのだ。

 

私は、1月5日のブログで、「日本、『安倍首相!』米抜きでもTPP実現して難局打開へ」と主張した。この思いが通ったわけでないが、日本政府はついに米国抜き11ヶ国でTPPの仕切り直しに着手するという。安倍首相の決断に大きな拍手を送りたい。

 

安倍首相は当初、米国抜きのTPPには慎重な姿勢を見せていた。あくまでも、米国を含めた12ヶ国が一緒にTPP結成という原則を貫いていた。これは、米政府への「心遣い」であったという。米国がTPPを離脱したから、あっさりと「米抜き」のTPPを推進するよりも、タイミングを置いて米国の了承を取り付けた後、「米抜き」を決断したと報じられている。米国が、勝手にTPPを離脱したとはいえ、将来の復帰を見据え礼を尽くし、日本が次の道を選択したことは良かったと思う。これが、同盟国への礼儀というものだろう。

 

米国抜きのTPP推進を強調したのは、次に引用する山下一仁氏である。私も氏の主張に啓発されて、1月5日のブログで賛意を表したものだ。それが、このような形で進むことに、喜びを感じるものだ。

 

新TPPに日本の活路

『ロイター』(2016年12月22日付)は、「米国抜きの新TPPに日本の活路」と題して、山下一仁氏がその実現性を提案している。筆者は、キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹  12月22日、キヤノングローバル戦略研究所・研究主幹の山下一仁氏は、トランプ次期米大統領の予告通り、米国が環太平洋連携協定(TPP)から離脱したとしても、日本は米国抜きの新TPPを通商戦略の根幹に据えるべきだと指摘。提供写真(2016年 ロイター) (元農水省国際部参事官や農村振興局次長)である。日本農業の表と裏を知り抜いた、数少ない市場経済を理解する専門家である。

 

この記事は、元農水省官僚であった山下氏が、TPPこそ日本経済にとって再生の切り札になるという確信から、TPPの精神を引き継ぎ米国が参加しなければ、米国抜きでTPPを先へ進めさせることを提案している。RCEP(東アジア地域包括的経済連携)ごときものでは、とてもTPPの代役は務まらず、TPPに優る多角的な貿易協定はほかにないと指摘している。

 

日本のTPP反対論は、日本農業が米国の影響を強く受けて、農産物や畜産物の発展を阻害されるという点にあった。だが、米国抜きのTPPであれば、米国から受けるマイナス面を遮断できる。国内のTPP反対論者を説得できるとも指摘する。ただ、TPP法は国会で成立しているから、反対論が存在しても実質的な影響はない。米国抜きでもTPPが発効できれば、国内のTPPに対する受け止め方は、ぐっと変わってくるはずだ。

 

TPPは域内のGDPの6割強を米国、日本が2割弱を占める。TPPについて日本は、これまで「事実上の日米自由貿易協定(FTA)」(交渉担当者)とみてきた。だが、TPPですでに合意したルールが新TPPで維持されれば、米抜きでもメリットは大きいと判断されている。成長が続くアジア市場で、外資規制や国有企業の優遇緩和が進めば、日本企業の海外進出に当たって環境整備が進むからだ。縮小する日本国内の市場を考えれば、新TPPが日本に与えるメリットは死活的な重要性を持っている。

 

(1)「トランプ氏が米大統領でいる間は、米国のTPP参加はないものとして、日本は通商戦略を再構築する必要がある。とはいえ、私は、TPPがダメだから、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉に軸足を移すべきだとの考えには賛同できない。むしろ、その逆だ。米国抜きの新TPPを進めることを、日本の通商戦略の根幹に据えるべきだと考えている」。

 

日本の通商戦略の基本にTPPを置くべきだとしている。これは、現在の多国間貿易協定のなかで、TPPが最も高度の内容を持っているからだ。RCEPはその意味で、自由化率が低い点でも遅れており、TPPに匹敵できる内容でない。日本の野党は、米国がTPPから離脱するのだから国会審議は無意味とした反対論を述べてきた。それは、日本の経済戦略を弁えない、無責任な意見と言うべきだろう。

 

(2)「(脱米国でも)TPPを促進すべき理由は2つある。1つはその規模だ。米国が離脱しても、TPPにはカナダ、オーストラリア、メキシコなど比較的大きな国が多数参加している。しかも、フィリピン、インドネシア、台湾など、他にも多くの国や地域が参加の意向を示している。個々の国・地域と結んできた通商協定よりも大きなスケールメリットを追求できる」。

 

米国抜きでもTPPを推進すべき理由の一つは、米国を除く参加11ヶ国や、これまで参加したいと意志表示してきた国のGDPの規模が大きく、自由貿易のメリットが十分に期待できることにある。

 

(3)「もう1つの理由は、TPPが既存のいかなる多国間通商協定よりも高いレベルの内容であるということだ。関税撤廃やサービス貿易拡大など自由化の取り組みは、世界貿易機関(WTO)以上に進んでいる。また、投資、貿易と環境、貿易と労働などWTOがこれまで網羅してこなかった分野についても、新たなルール作りに踏み込んでいる。さらに、将来の中国加入をにらんで、国有企業のあり方についても細かく定めた」。

 

米国抜きでもTPPを推進する理由の二つ目は、TPPの協定内容が高いレベルの内容であることだ。関税撤廃やサービス貿易拡大など自由化の取り組みのほか、これまでWTO(世界貿易機関)が網羅してこなかった投資、貿易と環境、貿易と労働などのルールが含まれている。これは、TPP参加国の経済体質を高度化させるもので、他の自由貿易協定には存在しない項目である。こうなると、中国は将来ともTPP加盟が極めて困難であることが分かる。さらに踏み込んで言えば、共産党政権下の中国は、永遠にTPP加入が不可能である。近代化した経済構造にはなれないのだ。

 

(4)「これらはいずれも中国主導のRCEPでは、実現不可能な内容だ。例えば、TPPでは、労働者に労働三権(団結権、団体交渉権、団体行動権)を法的に保障することが参加国に義務付けられているが、現在の中国政府には到底受け入れられる項目ではないだろう。また、RCEP交渉には、高関税国のインドも入っており、関税引き下げはほとんど進まない可能性が高い。TPPの空白をRCEPが埋められるとは、いずれのTPP交渉参加国も考えていないのではないだろうか」。

 

RCEPは、関税率引き下げが目的である。インドのように引き下げ困難な国までが、RCEPで参加交渉をしている。前途は、多難である。TPPという高度の多国間貿易協定を議決した日本にとって、RCEPの魅力は著しく劣っているのだ。

 

日本から見れば、質の落ちるRCEPに対して、中国は高い評価を与えている。この辺りにも、中国の産業構造の脆弱性が見て取れるのだ。中国の産業構造は、程度の低い人海戦術的な要因が大きい。

 

RCEPは2013年に交渉が始まった。強みは中国やインドが参加し、域内の人口が世界の約半分、貿易額も3割を占める大型の自由貿易協定となる。だが、中印の参加はRCEPの弱みでもある、とされている。欧米先進国に比べて貿易自由化に消極的で、95%の関税撤廃や最先端の貿易ルールで合意したTPPに比べ、自由化率は低くならざるを得ないと予測されている。

 

RCEPは空中分解寸前

交渉全体を通して各国の立ち位置は大きく3つに分けられる。以下の記述は、『日本経済新聞』(2月25日付)による。

 

RCEPは、産業構造の高度化が象徴するように3つのグループに分かれている。

 

1つ目は日本やオーストラリア、シンガポールなどTPPの参加国を中心とした「質の高さを重視する」グループ。TPPの自由化率を念頭に、内容の伴わない合意には反対する。

 

2つ目はフィリピンや中国など、「早期合意が最優先」の立場。米国が保護主義に向かい、アジア太平洋地域に空白が生まれた間隙を突いて主導権を握ろうと、協定内容よりも早期合意を求める。

 

3つ目のグループが、ラオスやカンボジア、ミャンマーといった途上国だ。保護主義の台頭を受けて、第1グループと第2グループの対立が鮮明化しつつあるなか、カギを握るのは第3グループだ。ミャンマーなどは「高いレベルの自由化では国内産業が守れない」と主張。高度技術を持つ人材の派遣やインフラ整備などの経済協力を見返りに求め、RCEPをテコに経済発展を進めるしたたかさを発揮している。

 

これら3グループは、「同床異夢」状態である。中でも、インドがRCEPへの熱意が感じられないと見られている。

 

『ブルームバーグ』(4月5日付)は、次のように報じた。

 

(5)「アジア第3位の経済国であるインドが、関税の引き下げなどに消極的な姿勢を示している。専門家らは、インドがRCEP交渉から離脱するか、協定内容が妥協の産物に終わる可能性を指摘している。米ワシントンのシンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)で米印関係を担当するリチャード・ロッソー氏は、『インドの通商に対する意欲が感じられない。インドは、協定を骨抜きにし、ほとんど無意味なものにできるなら署名するだろう。だが、他国が一歩も引かない場合は署名しない』と予測する」。

 

インドが、RCEPに対して全く熱意を失っている。これは、国内産業の保護が目的である。この状態では、RCEPは空中分解必至である。日本が米国抜きのTPP11ヶ国へと大きく舵を切った理由もRCEP交渉の体たらくに呆れかえっていることもあろう。こういう国々と交渉でだらだらと付き合っていても、埒(らち)は明かないのだ。

 

『人民網』(2016年12月9日付)は、「TPPとRCEP、なぜこれほどの違いが生まれたか」と題して、次のように報じていた。

 

この記事は、米大統領選でトランプ氏が当選したあと、TPPからの離脱宣言をしていたことを受けたもの。TPPの敗北、RCEPが勝利という感覚で執筆されたことは疑いない。日本でもRCEPへ力を入れろという議論があった。TPPという高い理想を捨てて、低レベルのRCEPでお茶を濁して時間を空費するより、新TPPに切り替えたのは賢明な選択である。

 

(6)「地域一体化プロセスのさまざまな構想をながめると、環太平洋経済連携協定(TPP)は成功する可能性が低くなり、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)は人気が急上昇している。なぜこれほどの違いが生まれたのだろうか。RCEPはASEAN10ヶ国が提起し、中国、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インドに参加を呼びかけ(10+6)、関税と非関税障壁の削減を通じて、16ヶ国の統一市場を構築することを目指す自由貿易協定(FTA)だ。RCEPが妥結すれば、人口で約35億人をカバーし、国内総生産(GDP)で世界の3分の1にあたる23兆ドルを擁し、カバーする地域が世界で最も大きなFTAになる」。

 

中国は、TPP不発の後でRCEPを最大の拠り所として、アジア経済圏の盟主を狙っていたことは間違いない。だが、RCEPがどのような経済効果を上げるかについて、この記事では何も触れない大雑把な内容である。玉石混淆でバラバラというのが、RCEPの実情であろう。

 

オバマ前米国大統領は、TPP促進の立場からTPPが不首尾だと、中国がRCEPでリーダーシップを確立するだろうと警告していた。RCEPの内情が、前述の程度である以上、中国のリーダーシップ確立はさして大きな意味を持たなくなった。

 

(7)「RCEPが注目を集めるのは、そのスケールの大きさだけが原因でなく、交渉プロセスが順調で、地域経済一体化の成功モデルを体現しているからでもある。RCEPには4つの利点がある。①歴史的な基盤がある。②現実的な基盤がある。③ 順序よく徐々に進展している。④包容力がある。このようにみると、RCEPの順調な進展ぶりは偶然ではないといえる。最終的な成功が期待でき、ここには中国が長年にわたり主張してきたASEANが東アジア地域の一体化プロセスを牽引するという英知が反映されており、他の地域一体化プロセスの手本になることが予想される」。

 

RCEPには4つの利点があると指摘している。

①  歴史的な基盤がある

②  現実的な基盤がある

③  順序よく徐々に進展している

④  包容力がある

ここで取り上げられた4点は、多角的な自由貿易協定のRCEPにとって、経済的なメリットをどれだけ上げられるか、その具体的な内容が不明である。総合的なイメージは、昔ながらの集落がいくつか集まって「郷」を形成するという感じだ。高度の産業が起こるという印象はゼロである。RCEPは、発展途上国として生活共同体の域を超えられないことを示唆している。これを経済共同体にまで引き揚げるには、TPPのような制度的なイノベーションが不可欠である。その勇気がないのだ。

 

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(2017年4月29日)

 

 

 

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