韓国、「大統領候補5人」慰安婦合意撤回を要求「反日」再び | 勝又壽良の経済時評

韓国、「大統領候補5人」慰安婦合意撤回を要求「反日」再び

 

 

大衆迎合の典型例

安保の立場考えよ

 

大統領選候補者5人が出そろった。5月9日の投票日まで舌戦を繰り広げる。候補者全員が、一昨年12月の日韓慰安婦合意をめぐって、撤回・再合意を日本に要求するという。政権が変わったからと言って、一度結ばれた政府間協定を破棄するとは、国際慣例に照らしても珍しい話だ。革命政権ができた場合は、こういうケースはままあるが、正統な選挙での政権交代において、協定破棄とは驚きである。

 

協定・条約の締結は相手国あっての話である。日本側の意向も聞かずに一方的に破棄・再協定を申し入れることが法的に可能なのか。「感情8割・理性2割」の韓国人の価値基準から言えば、簡単にできる話かも知れないが、日本側にはあり得ないことだ。日本側が協定によってすでに10億円を支払い済みである。元慰安婦の人々に日本側の提供資金が配布されているのだ。実行段階に入っている協定を破棄するとは、正気の沙汰と思えない。

 

韓国側は、日本公館前から少女像を撤去する約束である。韓国は未だその約束を果たしていないのだ。それにも関わらず、協定を破棄とは、韓国の信頼を著しく損ねる事態である。今後は、韓国相手のいかなる政府間交渉も不可能である。韓国は、ここまで事態の深刻さを気づいているのか。ただ、感情にまかせて言っているという感じが強い。

 

大衆迎合の典型例

『朝鮮日報』(4月4日付)は、「日本との慰安婦合意、韓国大統領選5候補全員が反対」と題して、次のように報じた。

 

この記事を読むと、日韓慰安婦合意破棄・再交渉を求める根拠は2つあるようだ。

①    朴槿恵前大統領が主導して締結した協定であるから無効である。なぜなら、朴氏は弾劾された大統領であるからだ。

②    安倍首相が、元慰安婦に手紙を出すことについて「毛頭考えていない」と否定したこと。駐韓日本大使を帰国させ、日韓通貨スワップ協定の交渉を中断するなど、韓国人の感情を害したから破棄する。

 

この2つの理由を読むと、韓国が法治国家でなく人治国家であることを証明している。国家間で結ばれた協定は、その時の責任者が誰であろうと国家を代表する者が合意した政府間協定は有効である。その時の責任者の一方が、その地位を去った。また、一方の責任者が発言した言葉尻を捕まえて、政府間協定を破棄できるものでない。韓国は、こういう厳然たる事実を無視した、国際的にも稀な行動を始めようとしている。

 

(1)「岸田文雄外相は4月3日、長嶺大使を帰任させる背景の一つとして、次期政権に慰安婦合意の履行を継承してもらう必要があることを取り上げた。長嶺大使らは現政権と各大統領選候補を対象に、慰安婦合意を継承するよう働きかけを強めるとみられる。だが、中道系『国民の党』の候補に事実上決まっている安哲秀(アン・チョルス)氏を含め、各政党の大統領選候補5人はいずれも慰安婦合意の再交渉か破棄を主張している」。

 

(2)「進歩(革新)系の最大野党『共に民主党』の文在寅(ムン・ジェイン)候補は3月5日の懇談会で、『日本の法的責任や公式謝罪が盛り込まれていない合意は無効であり、正しい合意が行われるよう、日本に再交渉を促したい』との考えを示した。安氏も3月18日の討論会で、『この問題はほかの安全保障問題と異なる』として、『当事者たちが生きている。その方々と意思疎通を図り、再交渉しなければならない』と述べた。慰安婦合意は朴槿恵(パク・クネ)政権の外交的失敗として受け止められており、各候補の立場は一層強硬になっている」。

 

一度、合意して協定を結んだものが、韓国の政情変化で破棄できると考えているところに、韓国の日本への甘えを感じる、日本に対しては何を要求しても叶えられる。そう思いこんでいるから始末が悪い。慰安婦問題が、「安全保障問題と異なる」から再交渉を要求しても問題ないという姿勢も不条理だ。政府間協定はいかなる内容でも、誠実に履行する義務を負うものである。政府間協定の内容に軽重の差はない。

 

韓国の安全保障問題は、日本がその責任を負う立場にない。ただ、日米同盟の「お付き合い」で日韓関係がある。本来は「他人行儀」の薄い関係である。それにも関わらず日本は、韓国の安保体制を背後から支える役割(在日米軍基地の利用)を果たしている。この重要な相手の日本に対して、余りにも言いたい放題である。安保面での日韓関係の重要さを認識すべきなのだ。

 

(3)「安倍晋三首相の謝罪や日本政府の責任認定が明示されたこと、日本政府の予算で被害者支援財団に10億円を拠出したことなどは、従来の協議では合意できなかった点だったことは否定できない。だが、安倍首相が被害者におわびの手紙を送る可能性について『毛頭考えていない』と発言したことで謝罪の真意を自ら否定。昨年末、釜山の日本総領事館前に慰安婦被害者を象徴する少女像が設置されたことを受け、長嶺大使の一時帰国や通貨交換(スワップ)協定の再開協議中断などの対抗措置を取り、韓国内の世論をさらに悪化させた。韓国の多くの国民が歴史の被害者と加害者が入れ替わったような屈辱感を覚えていることが合意への反対世論の背景にあるとみられる。現段階では大統領選でどの候補が当選しても、日本に慰安婦合意の破棄か再交渉を求めるとみられる」。

 

韓国は、安倍首相が被害者におわびの手紙を送る可能性について、「毛頭考えていない」と発言した言葉尻を捉えて問題にしている。すでに日韓慰安婦合意の協定が成立し、「最終的かつ非可逆的」という文言が入っている。この一文から言えば、日本にとって慰安婦問題は終わった問題である。そこへさらに、「お詫び」の手紙を出すことの要求は協定違反に当たる。韓国はそういう追加的な要求を日本へ出す前に、自らが約束した日本の公館前からの少女像を撤去することだ。これが、法的な義務である。

 

駐韓長嶺日本大使の一時帰国や日韓通貨交換(スワップ)協定の再開協議中断など、日本が対抗措置を取り、韓国内の世論をさらに悪化させた。韓国は、これも慰安婦合意協定の破棄理由に上げている。この問題は、韓国が日本の公館前から少女像を撤去しないことへの外交的に認められた措置を取っただけのことだ。日韓通貨交換(スワップ)協定の中断も、外交的な雰囲気が悪化している中では、正常に話し合いが進まないので中断したにすぎない。韓国は全て自国本位で考えている。外交には相手国の合意が必要である。この原則を考え直すべきである。

 

韓国の主張によれば、日本は一切、韓国の意向に逆らわず、属国のように全て受け入れろという要求である。これは、対等であるべき国家関係においてあり得ない話だ。韓国はいま、中国からTHAAD設置をめぐって経済報復を受けている。中国は、問答無用で韓国に要求・報復しているが、それと同じことを日本に向けやろうとしている。日本が国際法上、韓国の要求を受け入れることはあり得ない。

 

(4)「安倍政権が続く間は韓国の再交渉要求を受け入れない公算が大きく、両国関係は歴史問題で冷え込んだ慰安婦合意以前の状態に戻る可能性を排除できない。韓国の次期大統領は慰安婦合意に反対する国民の世論と、再交渉は難しい現実、両国関係悪化のリスクなどを総合的に判断し、慰安婦合意に関する立場を決めるとみられる」。

 

韓国の次期大統領が、「大衆迎合」に基づき感情的な要求を日本に行っても、日本はこれに応じる義務はない。韓国が、ウイーン条約によって日本公館前から少女像を撤去すべきである。日本は、合意に従い義務を果たした以上、新たな義務はない。後は、韓国が粛々と撤去の義務を実行することだ。

 

仮に、韓国は日本が再交渉に応じないことを理由に、何か行動を起こしても関知しないで、勝手にやらせておけば良い。その代わり、日韓通貨スワップ交渉も中断したままにする。日韓経済界の交流も積極的に進めないことだ。日本企業との情報交換を必要とするのは韓国企業である。日韓に外交的溝ができても、日本にとって困る事態は何一つあるわけでない。韓国に「一人相撲」をとらせておけば、そのうちに無益を悟るであろう。

 

安保の立場考えよ

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月4日付)は、社説で「日本が韓国に差しのべた手」と題して、次のように論じた。

 

(5)「日韓両国は、北朝鮮の脅威に対抗するための緊急な協力関係を改善する必要に迫られている。両国は昨年、軍事機密を共有できるようにする軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を締結した。小田原潔外務政務官は1月のWSJへの寄稿で、『われわれが築き上げた友好への期待と信頼を根底から崩す活動家の振る舞いは容認しがたいものがある』と述べた。日本政府が責任ある行動をとり和解を提示し続けている以上、韓国にはそれに報いる責任がある」。

 

韓国の市民活動家は、「反日」で凝り固まっている。世界中に「慰安婦像」を設置するという団体である。これは、政治的な意図を持っているから日本としても対応が不可能である。ただ、このバックには韓国政府が控えていると疑われている。ここまで、反日に徹する国家とは、日本も外交的に一線を引かざるを得ない国かも知れない。

 

北朝鮮の核とミサイルの開発は、日米韓の三国間の安保体制に大きな脅威を与えている。実は、次期大統領選での立候補者は、この安保面での明確なビジョンを提示していないのだ。革新派候補者は、THAAD設置に消極的姿勢すら見せるという「親中・親朝」という雰囲気を漂わせている。これでは、安保問題にどこまで真剣であるか疑わしい。安保問題すらこの程度の認識であるから、日韓関係の重要性など考えたこともないのだろう。

 

『朝鮮日報』(4月1日付)は、「不可逆的な韓日慰安婦合意は破棄できるのか」と題して次のよう論じている。

 

15年12月の日韓慰安婦合意で、「最終的かつ非可逆的」なる文言が入っている。この意味は、今回の合意が最後であることを日韓両政府が認めたもの。とりわけ、「非可逆的」は韓国政府の意向で挿入された。それにも関わらず、韓国では破棄して再交渉すると息巻いている。信じられない要求をしているのだ。

 

(6)「(韓日)両国政府は、再び慰安婦問題を取りざたしないという意味で『不可逆的合意』と述べた。しかし、韓国国内の元慰安婦たちが『合意の効力』を問題視する訴訟を起こすと、ソウル中央地裁は昨年12月2日、この合意について、『“外交的修辞”でなく法律的にどのような意味があるのかもう少し具体的に説明ほしい』と要求した。これに対して政府も今年1月と3月17日に裁判所に提出した準備書面で、『法的拘束力のある合意に該当せず、相互間の信義に基づいた政策遂行上の合意』『法律的なものではなく、政治的または道義的なもの』と述べている。国家間の法的拘束力を持ち、国会の批准を求める『条約(treaty)』とは距離がある」。

 

韓国政府は、ソウル地裁から「日韓慰安婦合意」についての法的な意味を問われて、「法律的なものではなく、政治的または道義的なもの」と回答した。韓国では、これを理由にして、破棄して再交渉できると言い出している。しかし、日本が提供した10億円は、元慰安婦の半分以上に配分されている。当人が受領しているにもかかわらず、慰安婦合意を破棄とは、理屈に合わない話であろう。当事者の大半は、慰安婦合意を受け入れているのだ。第三者が、とやかく発言して介入すべきではあるまい。

 

(7)「韓日従軍慰安婦合意は、『政治的宣言(statement)』なので、次期政権で破棄できる。国際法上の制約を受けたり訴訟を起こされたりする可能性はほとんどない。しかし、いずれにせよ韓日両政府間で『合意』したことなので、『破棄』『再交渉』をするにしても慎重なアプローチが必要だという意見もある」。

 

次期大統領が、現実に「日韓慰安婦合意」の破棄を言い出してきたら、それは日韓関係の終わりを意味する。安保面で日本に大きく依存している事実を忘れた、傲慢な発言と言わざるを得ない。日本は絶対にこういう要求を受け入れてはならない。即刻、拒絶すべきである。

 

(8)「韓国外交部(省に相当)は4月4日、釜山の日本総領事館前に日本軍慰安婦を象徴する少女像が設置された問題に関連し『少女像設置は不適切』という認識の下で日本と協議するとの立場を明らかにした。外交部は釜山の少女像設置をめぐって韓日関係が悪化した後、重ねて『外交・領事公館前に造形物を設置するのは国際的に望ましくないと考えるのが一般的立場』として、少女像設置に否定的な認識を示してきた。また『場所の問題については知恵を出し合う必要がある』として、事実上の移転を求めていた」。

 

韓国外交部は、日韓慰安婦合意を誠実に履行する姿勢である。これが、日本にとっては唯一の救いである。次期政権でもこの立場を貫けるだろうか。外交と安保は超党派的な結束が原則である。韓国外交部もいまは、合意破棄という「妄言」を退けているが、いつまでこの姿勢が保てるか。次期大統領の意向次第で変わらざるを得まい。

 

(9)「韓国外交部の趙報道官は、『重要なのは全ての当事者が慰安婦合意の精神と趣旨を尊重することだ』として、『韓国政府は慰安婦合意を適切に履行していくという立場だ』と重ねて強調した。次期大統領選の有力候補者たちは一様に、『慰安婦合意の破棄または再交渉』を主張しているが、外交部としては次期政権が発足しても合意の破棄や再交渉は受け入れられないという立場を明白にしたわけだ」。

 

韓国外交部が、日本との再交渉を拒否する場合、次期大統領はどうする積もりだろうか。自らの方針が実現できないのだから、撤回するか方針を変えるしかあるまい。今は、大統領選挙戦中であるから「ポピュリズム」を利用しているが、いざ大統領就任の暁は大きなジレンマに立たされるに違いない。人気取りを目的にした安易な発言をすべきでない。

 

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(2017年4月13日)

 

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