中国、「ダンピング大国」欧米日から市場経済国を拒否される | 勝又壽良の経済時評

中国、「ダンピング大国」欧米日から市場経済国を拒否される

 

 

 

米は7月に拒否の返事

 

中国は経済覇権を断念

 

 

「図々しいにもほどがある」、と言うところだろうか。中国は、12月11日で期限の切れるWTO(世界貿易機関)の「非市場経済国」から、念願の「市場経済国」への移行を要求している。その回答が、先ごろ米国からもたらされた。「ノー」というのだ。

 

米国政府の腹の内は、冒頭の「図々しいにもほどがある」という一言に尽きる。中国は、過剰生産を続ける鉄鋼などの素材産業で、超安値輸出を改めない。中国政府はまた、自国企業に大ぴらな輸出補助金もつけるなど、WTOのルール違反を続けているのだ。これでちゃっかりと、約束だから「市場経済国認定」を要求しても無理。厚顔無恥そのものの行動なのだ。

 

IMF(国際通貨基金)は今年10月、中国人民元をSDR(特別引き出し権)という国際通貨の一つに昇格させた。この決定が出るまで、人民元の国際化への努力を約束したが、SDR移行後は素知らぬ顔で国際化の約束と逆のことを始めている。資本規制の強化や人民元相場の安値誘導である。ともかく、約束しても守らない国が中国なのだ。

 

こういう「前科」を持つ中国である。「市場経済国」への移行が、どんなデメリットを世界経済に与えるかも知れない。ここは、従来通りの「非市場経済国」として保護観察処分にしておけば、世界は少し枕を高くしていられるのだ。

 

「非市場経済国」とは何か。第三国の価格を基準にして、ダンピング(不当廉売)かどうか判断し、高関税で防御できるという内容である。「市場経済国」になると輸出価格が、中国国内に比べ不当に安い場合しか課税できないのだ。先進国にとっては、中国を「非市場経済国」に認定したままにしておけば、第三国の価格を基準にして、ダンピング(不当廉売)かどうかを判定できるから機動的に動ける。ところが、「市場経済国」なら輸出価格が、中国国内に比べ不当に安い場合しか対応できない。調査に時間がかかって、手遅れになる危険性が高いのだ。

 

米政府は11月23日、中国を世界貿易機関(WTO)協定上の「市場経済国」に認定しない方針を表明。欧州連合(EU)も同様で、日本も追随する公算が大きいと予測されている。世界の3大経済圏から肘鉄を食わされた感じだ。ところで、米政府は今回初めて公式発表したわけでない。すでに7月段階で中国へ予備的に通告していた。

 

米は7月に拒否の返事

『大紀元』(7月18日付)で、次のように伝えていた。

 

(1)「米通商代表部(USTR)は7月13日、世界貿易機関(WTO)に対して、中国が銅など9種類の鉱物に不当輸出関税を徴収したことで米国企業に打撃を与えた、と提訴したことを発表。USTRは、米自動車産業や化学産業などが必要とする銅、鉛、黒鉛、アンチモン、タルク、タンタル、スズ、酸化マグネシウム、コバルトの9種類の鉱物に対して中国が5%~20%の輸出税を課したことで、米企業の生産コストが大幅に上昇したとし、価格の面で中国企業に対して有利にしていると非難した。ロイター通信によると、米国は中国に対して、『今年12月に中国が市場経済国として自動的に認定されるとは限らない』と通告した。米当局が、中国政府の鉄鋼市場などへの干渉で過剰生産と供給過剰を招き、他の国の企業に打撃を与えたと主張した」。

 

中国政府は、なりふり構わずという言葉通りに、好き勝手なことを続けている。全て国際ルールを無視したやり方だ。先進国が監視していることを忘れたような振る舞いである。こういう中国が、「市場経済国」に認定されると、各国へさらに被害が拡大することは明らかである。「非市場経済国」としての縛りをつけておくことが欠かせない。

 

(2)「欧州議会は5月12日に、中国を『市場経済国』に認定することに反対する決議を、定数751議席のうち賛成546票の圧倒的多数で採択した。一方で、欧州委員会は7月20日に中国の『市場経済国』認定について議論を始める。同委員会ジャン=クロード・ユンケル委員長は、EUが中国を『市場経済国』と認定するには、中国の鉄鋼生産能力の削減努力にかかっていると示唆した」。

 

欧州議会は、5月の時点で中国の「市場経済国」移行への反対決議をしていた。欧州へも中国の「ダンピング製品」が大量に流れ込んでいるからだ。欧州委員会では、中国との政治的な関係を考慮する意見もあったが、中国製品輸入の「実損」に基づき欧州議会と同一歩調をとったと見られる。日本政府は、表面的には沈黙しているが、欧米に同調して「市場経済国」移行拒否と見られている。

 

現状の中国は、いくら力んでみたところで、世界では「子ども扱い」されていることが分かる。「中華帝国の夢」とか言っていても所詮、ローカルの戯言扱いに過ぎないのだ。それでも、米国の次期大統領がTPP(環太平洋経済連携協定)不参加を正式表明した後、にわかにその存在が関心を持たれている。中国が例の「大言壮語」(ほら吹き)によって、米国の代役になれるかも知れないポーズを見せるからだ。

 

『フィナンシャル・タイムズ』(11月23日付)は、「貿易主導、中国は力不足」と題するコラムを掲載した。

 

(3)「中国はトランプ次期米大統領の米国に否定された貿易のグローバル化を救うことができるのか。その質問の答えは『ある程度まで』だ。中国は望んでも米国の代わりにはなれない。トランプ氏は環太平洋経済連携協定(TPP)からの脱退を明言したが、これはTPPの代わりとなる東アジア地域包括的経済連携(RCEP)を中国が前進させる道を開く。TPPの12カ国のうち7カ国がRCEPの潜在的メンバーだ」。

 

中国は、仮に望んだとしても米国の代わりは務まらない。これは、誰も否定できない事実だ。せいぜいRCEPの旗振り役の一つにはなれても、リードする力はない。それは、中国が国内産業保護の親玉であることだ。産業高度化を目指しており、中国に進出した他国企業の製品に対してすら差別的行動を取っている。

 

例えば、中韓自由貿易協定(FT)を締結しているにもかかわらず、韓国企業が中国で生産している電池製品に国内製品並みの補助対象から外しているのだ。こういう非情なことをする中国政府が、他国製品に対して無差別一律の対応をするはずがない。中国経済は「柄」は大きくても「中味」がガラガラの状態である。身体は横綱級でも実力は平幕以下である。

 

(4)「世界貿易で中国が米国にとって代わるには限界がある。世界の国内総生産(GDP)シェアを見ると、中国は2016年に15%まで伸びたが、日本も含むアジアは31%、米国と欧州連合(EU)の合計は47%だ。こうした数字も、世界貿易における高所得国の役割を十分に説明しきれていない。まず世界の最終的な需要の大部分は、高所得国によるものだ。さらに重要なのは、現代の貿易を支配するノウハウは高所得国の企業が発展させた。中国企業は匹敵するノウハウをまだ持ち合わせていない」。

 

世界のGDPで、中国の占める比率は15%である。日本も含むアジアは31%、米国と欧州連合(EU)の合計は47%である。このGDPでのシェアを見ると、高所得国の「横綱」に対して、中国は15%にすぎず「平幕」以下である。これでは、力の入った大相撲にならないであろう。中国がいくら頑張ったところで現代の世界貿易に質的な影響を与える位置にはいないのだ。

 

中国は経済覇権を断念

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(11月26日付)は、「米国が抜けた世界貿易のリーダーはだれか」と題する寄稿を掲載した。筆者は、マイケル・ペティス北京大学光華管理学院の金融論教授である。

 

マイケル・ペティス教授は、私のブログでは何回か登場したが、西側の研究者で最も早く中国経済の急減速を予測していた。私も及ばずながら、その立場にあったが、教授の論考に接したとき、「百万力の味方」にあったような気持ちで、うれしさがこみ上げたことを鮮明に覚えている。きょう再び、こうして紹介できることは喜ばしい限りである。

 

(5)「中国経済に必要な条件を考えると、同国が米国の代わりに世界貿易の中心的存在になることはほぼ不可能だ。共産党機関紙の人民日報でさえ、中国が『米国を抜いて世界のリーダーになる』ことはまずないだろうと11月21日に指摘した。それは中国が、失業率の上昇と債務の増加というトレードオフの関係に対処するために増え続ける大幅な貿易黒字を必要としているからだ。中国では深刻な不均衡と加速する信用拡大が何年も続いている。今年は雇用安定に必要とされる国内総生産(GDP)目標の6.7%を達成したが、そのためにGDP比40%超という水準まで債務が膨らむことになった」。

 

このパラグラフでは、極めて重要な事実を指摘している。11月21日付の『人民日報』は、「中国が米国を抜いて世界のリーダーになる」ことはまずないと指摘した。これは、初めてのことである。これまで2020年代とか2030年代に、中国が世界一の経済規模になると広言してきた。それを、取り下げたとすれば、中国経済の実態が悪化している事実を間接的に認めたものだ。

 

中国経済の悪化は、失業率の上昇と債務の増加という悪循環に現れている。失業率の増加を防ぐためにゾンビ企業に追い貸しをして命脈を保たせている。この悪循環を少しでも防ぐには貿易黒字が必要である。その貿易黒字に水を差すような貿易の「仕切り屋」は、中国にとって荷が重すぎて不適切であると指摘している。

 

ここで、「GDP比40%超という水準まで債務が膨らんだ」としている点について、コメントをしたい。マッキンゼー国際研究所が14年4~6月期現在で推計した、対GDP比の債務は次のようになっている。

 

政府     55%

金融機関   85%

非金融企業 125%

家計     36%

合計     282%

 

この項目別の比率から見ると、前記の「40%超」とは、どの項目を指しているのか。40%に近い数字とすれば、「家計36%」がある。後のパラグラフで、家計債務の増加が、個人消費に悪影響を及ぼすと指摘している。ゆえに、「40%超」とは家計債務が、対GDP比で40%を超えたことを指している。

 

(6)「債務の制約は中国経済の難しい舵取りの主な足かせとなっている。それゆえ貴重な解決手段として貿易黒字に頼らざるを得ない状況がある。貿易黒字の1パーセント分は債務の約10パーセント分を補っている。米国は柔軟な金融システムと資本規制が70年代までにすべて廃止されたことに伴い、まもなく巨額の貿易赤字を計上し始めた。米国は赤字の代償である失業と消費者債務を進んで受け入れることで、政治的な優位性を確立した。中国が米国に代わるリーダーになれない主な理由はそこにある」。

 

中国経済にとって、家計債務の増加が大きな制約条件になっている。この結果、貿易黒字に依存せざるを得ない経済システムである。「貿易黒字の1%分は(家計)債務の約10%分を補っている」と言っている。米国経済は、70年代以降に貿易赤字の代償である失業と消費者債務を進んで受け入れることで、世界の覇権を握ってきた。中国はすでに膨大な家計債務を抱えているので、とうてい、米国の代わりは務まらないと結論づけている。

 

中国がもし、不動産バブルに突入せずに堅実な経済運営であったならば、米国に代わるという可能性もあり得たかもしれない。現在は、「満身創痍」である。債務総額の対GDP比は300%を超えているはずだ。ここまで傷を深くしてもなお、「中華の夢」とは浮世離れした話である。中国もようやく目が醒めて、この厳しい現実を受け入れたのだろう。

 

(7)「米国のように指導的メンバーが、巨額の赤字を出し続ける貿易システムでは、参加国が純輸出を増やすことで成長を加速させられる。これに対し、中国のような指導的メンバーが巨額の黒字を抱える貿易システムでは、参加国が純輸入を吸収し、低成長に甘んじなければならない。後者に喜んで参加するのは、どうしても資本が必要な発展途上国くらいだろう。しかし、中国が求めるような貿易黒字国を中心としたシステムの再編ではなく、世界貿易は次第に不安定となり、争いごとが頻発する公算が大きい。それはむしろ歴史的な標準に近く、数十年間続いた安定期のほうが異例だといえる」。

 

これまでの米国経済は、巨額な貿易赤字を出しながら、世界各国の純輸出を吸収して世界経済の潤滑油になってきた。中国がその代役を勤めるには、すでに失業率が高く家計債務が増加して不可能である、こうなると、米国の巨額貿易赤字を吸収する先がなくなったのだ。よって、世界貿易は次第に不安定となり、争いごとが頻発する公算が大きい、と指摘しているのだ。マイケル・ペティス教授は、これから世界が不安定になるという不気味な予測をしている。私は各国において、安全保障が極めて重要な国家安泰の装置になるだろうと見る。日本もその例外でない。

 

(2016年12月5日)

 

 

 

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