中国、「庶民の重税」高い税金は福祉に使わず軍事費へ回す | 勝又壽良の経済時評

中国、「庶民の重税」高い税金は福祉に使わず軍事費へ回す

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マルクスが描いた「労働者天国」は、いつになったら実現するだろうか。中国庶民は高い税金を負担しながら、それに見合った福祉を与えられずにいる。中国の庶民が、どれだけ税金を負担しているか、その実態を知らないままに過ごしてきた。富裕階級にとって中国は、相続税も固定資産税も存在しない「金持天国」である。この中国式「社会主義」は、庶民を食い物にするモンスターである。

税金の話しは、小難しくてどこでも敬遠される。だが、高齢社会になると社会福祉の充実が深刻な問題になる。日本でも、「老人ホーム」の不足が日々の話題になっている。中国はこれまで、社会福祉問題は二の次、三の次にされて、軍事費拡大が最大の眼目になってきた。事情を知らされていない国民は、「国威発揚」の証と軍事費膨張を喜んでいる。国民は、満足に病気治療も受けられない。その矛盾に気づかずにいるのだ。お気の毒と言うほかない。

『大紀元』(7月15日付)は、次のように伝えた。

この記事では指摘していないが、中国政府は4月1日から国内景気のてこ入れで大規模な減税に乗り出した。企業の売り上げにかける「営業税」を廃止し、売り上げから仕入れを引いた粗利にかける「増値税」に一本化する税制改革を実施している。今年の減税規模は5000億元(約8兆2000億円)超を見込んでいるという。景気を下支えするとともに先進国並みの税制導入で、産業の高度化につなげる目的と言われる。

記事で出てくる「営業税」は、すでに廃止されているからそのつもりで読んでいただきたい。なお、「税金の話しは苦手」とする方は、私のコメントだけでも読んでいただきたい。中国の税制が「庶民重税」である現実を理解してもらいたい。「社会主義」とは、民の生活が楽になるのが原則であろう。それとは逆行している事実を知って、社会主義の放つ幻想から目を覚ましていただきたいのだ。

(1)「『南都週刊』が2010年に報じた『中国の隠れた税収一覧 驚愕の事実』と題した記事によると、中国人の多くは、個人に納付義務のあるのは所得税だけだと考えている。それは誤りで、複雑な税制度のなかで多く徴収されている。世界銀行によると、2012年で中国人労働者の収入に対する税率が45%にも達するという」。

世界銀行の調査では、中国人労働者の収入への税率が45%(2012年)にもなっている。ここで日本、ドイツ、スウェーデン3ヶ国の国民負担率(対国民所得:2013年)を見ておきたい。

日本     ドイツ    スウェーデン
個人所得課税   7.8   12.8    18.5
法人所得課税   5.4    2.4     4.0
消費課税     7.2   13.9    18.8
資産課税     3.7    1.2     8.7
社会保障負担率 17.5   22.2     5.7
合計      41.6   52.6    55.7
(老人人口比率)25.1   20.6    18.6

中国の老人人口比率は9.6%(2015年)である。上記の3ヶ国の老人人口比率は2013年であるから、厳密な比較はできないものの、おおよその比較が可能である。私が言いたいのは、中国の老人人口比率が10%以下にもかかわらず、中国人労働者収入への税率が45%と高いことである。日本の老人人口比率はざっと中国の2.5倍である。それでも日本の国民負担率は41.6%であり、中国を下まわっているのだ。

なぜ、中国の負担率が高いのかである。老人人口比率が10%以下の段階で、日本以上の負担率になっている理由は、軍事費の負担が大きいことであろう。私が、ブログで繰り返し指摘してきたように、中国はこれからの高齢社会で、軍事費と社会保障費の負担によって「財政破綻」に陥る危険性が高い。こういう事態をまったく想定しないで、中国は軍拡につとめている。典型的な「帝国主義国家」として振る舞っているのだ。

(2)「中国の税金は個人所得税と流通税に大別できる。個人所得税は全税収の7%を占めており(2014年の統計)、流通税とは商品の流通過程で課税される諸々の税金の総称で、増値税、営業税、消費税、関税からなる。間接税である流通税は一般市民には課税額が分かりにくいため、『隠形税(隠れた税、ステルス税)』とも呼ばれている。実は中国人は日常生活を送りながら様々な形で納税している。住宅や車の購入といった金額の大きなものから、食べ物や衣類といった生活必需品の購入まであらゆる消費活動が納税している。自宅で一口の水道水を飲んでも、そこには6%の増値税が課税されている。ただお金を使うだけで、納税の義務が発生する」。

中国の税金は個人所得税と流通税に分けられる。前者は直接税であり、後者は間接税である。個人所得税は、直接税であって所得金額に応じて課税される。流通税は間接税であり、所得金額に関わらず一律に課税される点で不公平感をもたらす。高所得者には負担が軽く、低所得者には負担が重くなるのだ。日本では消費税率が8%であるが、別枠であるから重税感が強くかかる。来年4月から消費税10%への引き上げを延期した理由は、重税感が消費を圧迫するという懸念である。中国の場合、販売価格に一本化されているので、どれが消費税分か。営業税(売上に課税される)分はどれだけかという区分が不明になっている。

(3)「増値税、営業税(注:4月から廃止)、消費税の税金3本柱に加え、中国人は買い物をするたびに1%から7%の都市建設維持税を納付している。例えば、街中で100元のCD1枚を購入した場合、増値税の17元に7%を乗じた1.19元(約19円)が都市建設税として販売価格に含まれている。文末にはAさん一家の3年分の平均課税額が計算(省略)されているが、そこには課税額が収入の51.6%を占めるという驚くべき結果が記されている。このように、中国では諸々の物品に世界でも類を見ないほど高額の税金が課せられているが、増値税や消費税といった間接税は表示価格にあらかじめ転嫁されているため、消費者が税を負担していると実感しづらい。このため、徴収する側にとっては非常に都合のよい制度だといえる」。

中国では、増値税や消費税のほかに、「1%から7%の都市建設維持税」が課されている。ある家計をモデルにした課税額を計算すると、収入の51.6%を占めるという結果になった。世銀の調査では45%であったが、ここでは50%強の負担率になっている。前記の3ヵヶ国比較では、ドイツやスウェーデン並みの負担である。だが、中国は「豊かになる前に老いる」状態だ。社会保障費負担が、それだけ大きくのしかかる。

中国は社会保障費負担が低い段階で、先進国並みの税負担率とは、財政政策がいかに歪んでいるかを証明している。①国有企業への手厚い補助金、②中国共産党員8800万人(2014年末)の扶養、さらに③膨大な軍事費負担が、こうした財政状態を生み出しているのだ。今後はさらに、④社会保障費がうなぎ上りに増えて行く。⑤不良債権処理問題もこれに加わる。どうやってこの財源を捻出するのか。他国を軍事威嚇し、それが国威発揚の証などと誤解していると、中国財政はいずれ破綻するだろう。

(4)「中国作家協会発行の文芸雑誌『作家文摘』のバックナンバーに、中国と米国の物価を比較する記事が載せられていた。そこでは、中国国内の商品にかけられる税率は、米国の4.17倍、日本の3.76倍、EU15ヵ国の2.33倍に相当し、世界一高額だと結論付けられている。『中国の税率がここまで高いのは、国家予算のほとんどが間接税でまかなわれているからというごく単純な話だ。様々な名目の税金が物品の流通過程で次々と価格に転嫁され続け、最終的には消費者にそのツケが回ってくる』と記事は指摘する」。

中国国内の商品にかけられる税率は、米国の4.17倍、日本の3.76倍、EU15ヵ国の2.33倍に相当し、世界一高額だとされている。中国人観光客が、海外で「爆買い」する事情がよくわかるのだ。中国政府は、必死になって「爆買い」抑制に動き出している。だが、中国国内の商品価格が「税金の塊」であれば、海外で安く買おうというのは、ごく自然な動きであろう。

(5)「『南都週刊』が2010年に報じた記事で、中国国民は複雑な税制度のなかで、知らぬ間に収入の約半分を納税していることが暴かれた。最近、ネットにこの記事が再転載されたことで、政府による『ステルス税(隠された税)』制度に対してネットユーザーが次々と怒りのコメントを書き込んだ」。
①中国人は世界一の高額納税者にもかかわらず、世界最低水準の社会保障しか受けることができない。そして、基本的な自由や権利も与えられていない。
②われわれの収入の半分を、政府が横取りしているということだ。だが、徴集された税金がどう使われているか、我々に知るすべはない。
③人民から取り立てて、それを使う?国家機密だと?
④国は富み、民が窮乏する根源だ!」

中国の税体系が「ステルス税(隠された税)」とは、実に言い得て妙である。国民が知らない間に財布から現金が抜き取られているに等しい。この事実を知った現在、軍拡がもはや「国威発揚」の手段で万歳とは言えないはずだ。中国人は高い税負担者にもかかわらず、世界最低水準の社会保障しか受けられないのだ。そして、基本的な自由や権利も与えられていない。こう嘆くのは、もっともなことであろう。ただ、同情はしても、外国人にとってはどうにもならないのだ。

中国が世界覇権を目指して、東シナ海や南シナ海で莫大な軍事費を使っている。その影で、迫り来る高齢社会への準備はないままに放置されている。これでは、必ず財政破綻を迎えるに決まっている。土地を使った打ち出の小槌は、もはや機能不全である。その副作用によって、不良債権が累積し続けている。習近平氏にとって、絶体絶命のピンチが迫っているのだが、「知らぬは亭主ばかりなり」である。

お知らせ:拙著『日本経済入門の入門』(定価税込み1512円 アイバス出版)が発売されました。本書は、書き下ろしで日本経済の発展過程から将来を見通した、異色の内容です。中国経済や韓国経済の将来性に触れており、両国とも発展力はゼロとの判断を下しました。日本経済にはイノベーション能力があり、伸び代はあると見ています。ぜひ、ご一読をお願い申し上げます。

(2016年7月24日)