中国、「科学技術の華」航空機エンジン開発できない「大国」 | 勝又壽良の経済時評

中国、「科学技術の華」航空機エンジン開発できない「大国」



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航空エンジンに3千億ドル
越すに越せない技術の壁

国連常任理事国五ヶ国の中で、航空機エンジンを自力開発できない国は中国だけである。普段は、大層なことを言っているものの、肝心の科学技術では劣等生なのだ。昨年11月、三菱重工業が小型ジェット旅客機MRJの試験飛行に成功した際、『人民網』は普段の論調とがらりと変わって賛美の記事を書いた。やっぱり、羨ましかったのだ。

航空機エンジンは、科学技術の粋を集めたものである。中国は、何十年も開発に取り組んでいるが、一向に成果が出せずにいる。かつては、新幹線開発でも手も足も出せなかった高嶺の花である。それが、日本をはじめヨーロッパ各国からの技術導入で、ようやく実を結んだ。それ以来、「自主開発」と誇大宣伝して、こともあろうに輸出するという厚かましさだ。

新幹線技術の導入で味をしめたのか、航空機エンジン開発では海外から技術者を集めるというニュースが出てきた。世界の航空機エンジン・メーカーは、どこも中国相手では「秘伝」を教えようという国は現れなかったのだろう。日本の新幹線技術で開発にこぎつけた高速鉄道は、中国人の手にかかると「自主開発」へ変貌する。このカラクリを見ていれば、どこの国も中国とは「技術提携」を断るのだ。

航空エンジンに3千億ドル
『レコードチャイナ』(4月7日付)は。「中国、航空機エンジン開発、海外から専門家を33兆円投じて招聘へ」と題して、次のように伝えた。

①「米誌『ナショナル・インタレスト』(4月5日付)によると、中国は、民間・軍用機エンジン開発に今後20年で、約3000億ドル(約33兆1700億円)を投じて海外から専門家を呼び寄せる計画だ。環球時報(電子版)が伝えた。米メディアによると、中国の航空業界は海外のエンジニア、空軍の退役軍人らを招聘。エンジンの研究開発を後押しする。最終的には国産エンジンの開発を成功させ、国産爆撃機の実現につなげたい考えだ。軍事専門家によると、中国は長く新型爆撃機の開発に取り組んできたが、今のところ成功の見通しは立っていない。中国によると最大の障害は資金難とエンジン、素材開発。これらを克服できれば、開発が現実味を帯びるという」。

恥も外聞もなく、今後20年間で約3000億ドルを投じて、海外のエンジニア、空軍の退役軍人らを招聘して、航空機エンジンの開発につなげる計画という。中国は長く新型爆撃機の開発に取り組んできたが、今のところ成功の見通しは立っていないという。脆弱な基礎科学技術力の中国で、航空機エンジンの開発ができないのは当然であろう。新幹線技術すらなかった国である。それが、他人の褌で相撲を取る味を覚えてからは豹変した。

私がブログ(4月2日)で、中国の高速列車の故障問題を取り上げた際、中国技術を擁護するコメントがついた。私は違うと思う。中国の「徹底しない」技術開発が、さらなる高水準技術を生み出せない原因である。日本は「ガラパゴス」と揶揄されながらも、世界最先端の技術を生み出してきた。それは、「徹底する」技術者魂があるからだ。中途半端な技術開発よりも、徹底してやり抜く技術開発の日本が、有利な立場を得るのは当然であろう。

自動車メーカーのホンダは、独自の設計で航空機エンジンを開発した。米国GEの協力を得たものの設計はホンダである。

『朝鮮日報』(2014年10月31日付)で、次のように伝えていた。

②「1948年に自転車に発電用エンジンを付けたオートバイメーカーとしてスタートしたホンダが、60年を経てビジネスジェット機市場に進出することになった。2003年に試験飛行に成功したホンダは、11年後には量産システムを整え、15年初めに米連邦航空局(FAA)の最終的な承認を得次第、本格的な販売を開始する」。

14年12月10日(米国時間9日)、ホンダは小型ビジネスジェット機「ホンダジェット」について、米連邦航空局(FAA)から安全性のお墨付きとなる型式認証を取得した。1986年に開発を始めてから30年、先行する米セスナやブラジルのエンブラエルに挑むことになった。

この間、中国は国を挙げて航空機エンジン開発に取り組みながら、ついにモノにできなかったのだ。中国にとっては、これにまさる屈辱はあるまい。自力開発ができないために、今後20年間で約3000億ドルを費やして海外から技術者を招聘するという。ホンダ一社の技術開発力に及ばないとは驚くほかない。

ホンダジェットは、政府の援助なしでも商品として高い国際競争力が発揮できる潜在能力を示した。これは、日本企業の持つ研究開発能力と、それを実現する企業挙げての目標達成力の高さを示した。「ガラパコス」と揶揄される日本だが、もの作りへの執念が生んだ成果であろう。中国には、こうした能力も志の高さもないのだろう。

③「米国CNBC放送など海外メディアは、ホンダについて『二輪→四輪→二翼へ、歩き→走り→飛ぶことになった』と報じている。日本ではホンダが初めて航空機を市販することについて、創業者・本田宗一郎氏(1906~91年)の夢が実現したと伝えている。本田氏が最初に夢見たのが飛行機会社だったからだ。日本経済新聞は、1986年に自社のエンジニア5人を米国に送り、ひそかに航空機製造技術を学ばせた本田氏の試みが30年を経て実を結んだ、と書いている」。

ホンダには、もともと航空機製造のノウハウなどあるはずもない。1948年、自転車に発電用エンジンを付けたオートバイメーカーとしてスタートした。この企業史が示すように、唯一の航空機エンジンの関連性は自動車エンジンだが、似て非なる物である。別次元である。ホンダにあったものは「情熱」だけである。中国には、それすらなかったのだろう。ホンダは、1986年に自社のエンジニア5人を米国に送り、ひそかに航空機製造技術を学ばせたのだ。この5人が核になってジェット機をつくり上げた。中国は、完全な脱帽であろう。今後、日本に対して「大言壮語」(ほら吹き)してはなるまい。

④「ホンダは小型ジェット機の販売だけでなく、独自開発したエンジンを前面に押し出し、5~15人乗り航空機エンジン市場も狙っている。小型航空機エンジン市場を二分しているプラット・アンド・ホイットニーとウィリアムズ・インターナショナルの2社は、エンジンの生産だけで航空機そのものは生産していない。そこにホンダがエンジンも機体も生産するノウハウを基に、これら2社の高い壁を切り崩そうと乗り出したのだ」。

ホンダは、エンジンを胴体ではなく主翼上面に取り付けるという、航空界の常識を覆す技術を発案した。これによって、空力性能と客室スペースを格段に向上させる副産物を生み出した。ホンダジェットの開発過程では、1997年に一度解散しかけ危機がある。この危機を救ったのは、前記のエンジンを主翼上面に取り付けるアイデアである。この「一発逆転」のアイデアこそ、日本企業がもつ「技術者魂」であろう。「ガラパコス」が生み出した世紀の大ヒットである。

航空機製造技術は、自動車産業よりも部品の数で10倍以上と言われている。それだけに航空機関連産業の裾野は必然的に広がり、製造業の基盤そのものを強化する。ホンダジェットは米国で生産する。日本国内では、三菱MRJ(小型ジェット旅客機で70席)が現在、形式認定を受けるべく試験飛行を続けている。日本政府は、2030年の訪日外国人観光客目標を6000万人としている。アジア各国からの集客を増やして行けば、小型旅客機需要が増えるのは必至である。MRJは、この集客上で大きな貢献が予想されるのだ。日本にとっては、MRJで訪日観光客を運ぶことができれば、「オール・ジャパン」の力を結集する形になる。

前記のMRJについて、中国の見せた反応を紹介したい。これは、昨年11月27日のブログで取り上げた。その再録である。

『人民網』(2015年11月12日付)は、次のように報じた。

⑤「MRJは三菱重工傘下の三菱航空機が開発した双発のリージョナル・ジェット旅客機で、90席クラスのMRJ90と、70席クラスのMRJ70の2種類からなる。MRJは中国のジェット旅客機ARJ21『翔鳳』と乗客定員がほぼ同じだ。『翔鳳』の初号機は11月末あるいは12月初旬に中国商用飛機有限責任公司(中国商飛)から成都航空公司に納入される。三菱航空機は同機で世界市場に進出することを望んでいる。ブラジルのエンブラエル社、カナダのボンバルディア社と中小型ジェット機市場を奪い合うことになる。MRJは運航経済性、客室快適性、環境適合性などを売りとする。米航空機エンジン・メーカー大手プラット・アンド・ホイットニー社(P&W)製のエンジンを搭載し、同タイプの旅客機より20%以上も燃費性能が高い。最大航続距離は約4000キロメートル」。

⑥「三菱重工は第二次世界大戦中、零式艦上戦闘機(ゼロ戦)を製造したことで有名だ。同社は戦後も引き続き日本の軍需産業の巨頭であり続け、自衛隊の戦闘機やその他の兵器を製造している。同社は今回、米ボーイング社の協力および日本政府・企業界からのサポートを受けてMRJを開発した。『YS―11』の後、日本企業は後続の大中型旅客機を開発していない。三菱重工はその他の製造業者やボーイング社と協力関係を保ち続けている。例えば、ボーイング787型機は機体の35%を日本のメーカーが製造している。今回のMRJ開発では、ボーイング社が主な部品サプライヤーとなった」。

以上の記事を読むと、客観的な記述である。いつも見られる、日本への批判ややっかみは全く消えている。中国のARJ21と比べることもしていない。「ブラジルのエンブラエル社、カナダのボンバルディア社と中小型ジェット機市場を奪い合うことになる。MRJは運航経済性、客室快適性、環境適合性などを売りとする」と淡々とした記事だ。ARJ21は、「型式証明」を取りたくても取れないことから、MRJがリージョナル・ジェット機分野では、世界の二強に割ってはいるであろうことを示唆している。なにやら自らの力不足を自覚したような温和しい記事だ。これが、かえって痛々しさを伝えている。中国の旅客機の製造能力はどの程度のものなのか。

中国の航空機エンジン開発能力について過去、次のようなニュースがあった。

越すに越せない技術の壁
『レコードチャイナ』(2012年6月27日付)は、「航空エンジン自主開発できない中国、大国と呼べるのか」と題して、次のように伝えた。

この記事は、今から4年前である。中国が国連常任理事国5ヶ国のなかで唯一、航空機エンジンの開発能力がないことを認めている。現在もなお開発能力を持たずに、周辺国を軍事威嚇している。これでは、何か間抜けな役割を演じている喜劇に見えるのだ。自らの技術開発能力がないにもかかわらず、米国へ「新しい大国関係を築こう」と呼びかける当たりは、なかなかの「役者」である。歌舞伎で大見得を切っている感じなのだ。

⑦「露軍事ニュースサイトによると、中国科学院博士で工程熱物理研究所研究員の徐建中(シュー・ジエンジョン)氏は、このほど出席した学術大会で、中国の航空開発技術について次のように語った『国連安保理常任理事国5カ国のうち、近代的航空エンジンの自主開発能力がないのは中国だけである。大国と呼ぶにふさわしくない。しかし、今後の基礎研究・基幹技術の強化により、他国との差は縮められる』と述べた」。

2012年の時点でもまだ、航空機エンジンの開発目途は立っていなかった。そして16年の現在、今後の20年計画で3000億ドルをかけて世界中から技術者を招聘するというのだ。未だに、うろうろしているのだ。一体、中国の技術開発能力全般は、どの程度であろうか。ホンダ一社の5人による、航空機エンジン開発力にも及ばないことが暴露されたのだ。国辱ものであろう。「反日」などと騒いでいる暇はないのだ。

⑧「徐氏は、エンジン開発技術が国家の科学技術水準、軍事力を示す重要な指標になると指摘。先進国は航空エンジン核心技術の外部流出を厳格に禁じている。その上で、現在の中国のエンジン開発は基礎技術分野で先進国に大きく後れを取っている。さらに徐氏は、中国の航空エンジン開発が外国製品の模倣から始まったことを指摘。過去60年以上にわたり、外国製品の模倣と改良を重ねることで、これまでに数十種類6万台近いエンジン生産を達成したと強調。今後は基礎・核心技術の開発に力を入れることで、先進国との技術の差は埋められるとした」。

中国は、過去60年以上にわたり、外国製品の模倣と改良を重ねることで、数十種類6万台近いエンジンを生産してきたという。だが、模倣ゆえに「近代航空エンジン」は製造できずにいるのだ。基礎技術力不足の上に、材質の問題点などが重なって、先進の航空機エンジンを作り出せないのであろう。まさに、近代科学技術の粋を集めたものが航空機エンジンである。これでは、中国空軍機の能力も自ずと程度が分かる。中国が民間ジェット機について、米国での「型式証明」取得を諦めている理由は、中国の航空機製造能力が低いことの暴露を恐れている結果であろう。

中国人の訪日観光客が、「爆買い」した商品の一つに自動炊飯器がある。これは、材質や技術面で、中国メーカーにはとても作れないとされている。最近、中国で炊飯器の新製品を発売して、日本製を上回っているとい宣伝している。実は、スマホでヒットを飛ばした小米が、圧力IH技術を開発した元三洋電機事業部の内藤毅氏を招へいし、2年にわたって研究開発を続けたものだという。「製品紹介では、『炊き上がりの食感は日本の高級炊飯器に追いついている』とされている。価格は、999元(約1万7000円)だ。日本製品の3分の1 である」(『レコードチャイナ』4月1日付)。この炊飯器も日本技術者の力を借りているのだ。

(2016年4月20日付)