中国、「世界覇権」この野望が無理な経済成長を求めている | 勝又壽良の経済時評

中国、「世界覇権」この野望が無理な経済成長を求めている



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16年デフォルト頻発
実現不可能な夢を追う

後から振り返って、これからの5年間(2016~20年)は、中国経済にとって極めて重要な時期になろう。中国経済が今後、「秩序」を保ちながら減速過程に入るのか、急減速過程に突入して政治的・社会的な混乱過程に入るのか。その分かれ道になる5年間である。

習近平氏は、国家主席就任にあたって「中華の夢」を高々と打ち上げた。それは、かつての「中華帝国の夢」を実現することである。中国政府には、中国共産党結党時から100周年にあたる2049年、世界覇権を握る計画を持っている。経済・軍事の両面で、米国を圧倒して世界の頂点に立とうという「野望」である。習近平氏の「中華の夢」は、「世界覇権計画」の一環なのだ。

この野望を実現する上で、これからの5年間は重要な時期に当たる。「中所得国の罠」に陥ったのでは、夢はただの夢に終わる。不動産バブル崩壊後の後遺症を克服しながら、高付加価値産業を育成し産業構造の転換を図る。そういう「綱渡り」を要求されているのだ。この「綱渡り」を乗り切って初めて、「世界覇権計画」の第一歩は始まると言える。だが、前途は多難である。現実は、その基礎すら出来上がっていない。

次の記述は、イ・チャンヨン国際通貨基金(IMF)アジア太平洋担当局長が、韓国の柳一鎬(ユ・イルホ)副首相兼企画財政部長官候補に会って、中国経済について興味ある発言をしたので紹介したい。イ・チャンヨン氏は、「韓国経済に大きな影響を及ぼす中国経済の軟着陸の可能性は高くない。中国は、国有企業を中心に企業負債が非常に多い。また、非効率的な投資が続いて成長率を引き下げている。これらの点が最も大きな問題である」(『韓国経済新聞』12月28日付)。

イ・チャンヨン氏は韓国出身である。それだけに韓国の次期副首相兼企画財政部長官候補のユ・イルホ氏に、中国経済の危機をぽろりと漏らしたのであろう。IMF高官が、これだけの「本音」を語ったのは初めてである。私は、中国経済について「泥船経済」と言い続けてきたから、前記の発言に違和感を持たないが、初めて聞く人には衝撃であろう。中国経済は、ここまで危機に直面している。

「中国経済の軟着陸の可能性は高くない」、「国有企業を中心に企業負債が非常に多い。また、非効率的な投資が続いて成長率を引き下げている」。以上の2点は、私のブログで再三、取り上げているから、読者はご承知のはずである。中国経済が「ソフトランディング」できる条件は、一つもないのだ。累増する不良債権処理を行わず、国有企業の赤字を隠して大型合併をさせ、さらに借金させてインフラ投資を強行する。

過剰投資によって、すでに投資効果は低下しており、借入債務も払えない状態に追い込まれている。この実態を知れば、誰でも「ハードランニング」は不可避と判断するであろう。ただ、政治的な理由でそれを避けているだけである。「ソフトランディング」に持ち込めばその期間、回復時期が先へずれるに過ぎない。

16年デフォルト頻発
『大紀元』(12月27日付)は、次のように報じた。

この記事は、中国のデフォルト(債務不履行)が増えている状況を分析している。これまで、民間企業のデフォルトは多発したが、16年は国有企業のデフォルトが見られるという不気味な予測だ。

①「中国経済の低迷によって2015年は債務不履行が増えている。専門家は、『16年はラッシュが訪れる」と予測している。経済アナリストは16年の中国経済の動向について、民間及び国営企業の信用リスクは確実にさらに上昇すると予測している。中国経済紙『経済参考報』は、これまで債券市場で債務不履行を起こしていたのは主に民間企業だったが、今後は一般の国営企業や中央政府直轄の大手国有企業まで広がると指摘する』。

2016年以降の中国経済は、予断を許さない状況に踏み込んでいることが分かる。16年は「デフォルト・ラッシュ」というのだ。先に、イ・チャンヨンIMFアジア太平洋担当局長が指摘した「中国経済の問題」とは、まさにこれらの点をズバリ指摘していたのだ。習近平氏が描く「中華の夢」は、「悪夢」となる不吉な前兆を示している。デフォルトが、民間企業から一般の国営企業や中央政府直轄の大手国有企業まで拡大する背景には、いかんともし難い「需要不足」の存在がある。

通常の「需要不足」は、財政支出増加で解決可能である。中国では、そういった状況を飛び越えた「供給過剰」に陥っている。とても、通常の財政支出拡大では追いつかないほどの過剰生産設備を抱えてしまっている。最終的に、デフォルトしか道がなくなったと言うべきであろう。

②「経済専門家の見解として、『15年は債務不履行多発、16年には同ラッシュが訪れる』と報じた。信用リスクがもっとも高いのは、鉄鋼、コンクリート、石炭、化学工業、非鉄金属などの生産過剰な業界である。中国の銀行各社の第3四半期の不良債権残高は、前期より10%増加したとの情報も出ている」。

信用リスクがもっとも高い業種は、鉄鋼、コンクリート、石炭、化学工業、非鉄金属などの素材産業である。いずれも、不動産バブルと深く関わった業種である。「社会主義市場経済」によって、各地方政府の地域経済圏で重複投資を行ってきた産業である。1978年の改革開放政策以来の「社会主義市場経済」が生み出した過剰投資が、最後にたどり着いた「破局の淵」である。過去の高い経済成長率を相殺する、強力な「破壊エネルギー」を放つと見るべきだろう。安易な「ソフトランディング論」を一蹴するに十分なエネルギーである。

前述の通り、鉄鋼、コンクリート、石炭、化学工業、非鉄金属などの素材産業が、中国経済の骨格を形成してきた。これら業種は、低付加価値産業である。中国では、これら素材産業に代わるべき高付加価値産業が未生育である。サービス産業が育ってきたと言うが、労働生産性は低いのだ。高付加価値産業こそ、中国が「中所得国の綿」を脱出する頼みの綱である。

中国メディア『中国商界網』(12月27日付)は、次のように伝えた。

③「トムソン・ロイターが発表した世界で最も革新的な企業『TOP100グローバル・イノベーター 2015』において、『世界で最も革新的な企業100社中、日本は最多の40社で、中国はゼロ』と報じた。トムソン・ロイターは、独創的な発明のアイデアを知的財産権によって保護し、事業化を成功させることで世界のビジネスをリードする企業・機関を選出するもの。今年で5回目を迎えた」。

④「100社中、日本企業が40社を占め、昨年に続き世界最多で1位。2位は米国の35社。以下、フランス10社、ドイツ4社、韓国とスイスが3社と続いているが、中国は1社も選出されなかった」。

トムソン・ロイターとは、あの有名な「ロイター通信」である。ここが選んだ「TOP100グローバル・イノベーター 2015」は、裏付けが十分ある権威ある調査結果と言える。日本企業は、2015年時点でも100社中40社を占めている。米国は35社であり、日本に次ぐ位置だ。

日本の製造業が、世界最先端を走っていることは紛れもない事実だ。製造業が強い競争力を持っていることが、日本企業強さの証明である。TPP(環太平洋経済連携協定)が発効予定の2017年以降、一層の強みを発揮するはずだ。中国企業は、この100社の中に1社も入っていない。高付加価値産業育成は、絶望的になっている。

中国はこれでも、2049年の「世界覇権計画」を放棄しないのであろう。製造業の足腰が脆弱な状況で、どうやって「製造業強国」になる予定なのか。「絵に描いた餅」であることは間違いない。ただ、空想を追っているにすぎないのだ。その間、民生は圧迫されて「虻蜂取らず」になる。共産党政権の寿命を縮めるだけであろう。

実現不可能な夢を追う
『サーチナー』(12月16日付)は、次のように報じた。

この記事では、中国が2049年「世界覇権計画」への夢を持ち続けている実態を取り上げている。その上で、日本の存在が「世界覇権計画」実現において、無視できないことに気付いたと言うのだ。正直に言って、この程度の国際感覚で「世界王者」などなれるはずがない。そういう思いがさらに強くなるのだ。

⑤「中国で最近、『100年マラソン』という言葉を耳にするようになった。中華人民共和国建国の1949年から100年目に当たる2049年までに、米国を抜いて世界覇権を握ろうとする中国の長期計画を表す言葉だ。こうした中国の世界覇権計画において、日本の存在は無視できないもののようだ。日本の軍事・経済力を圧倒的に超える力を身に着けることは、中国の『100年マラソン』にとって非常に重要なことと言える。

『人民網』(12月8日付)は、日中両国の経済力の展望について、中国社会科学院の関係者の見解を紹介している。

中国社会科学院と言えば、中国を代表する政府直属のシンクタンクである。その関係者が、以下の経済予測をしていることに驚くのだ。それは、「低レベル」という意味である。中国経済が、日米などの先進国技術によって支えられているという現実認識がゼロなのだ。社会科学的な視点から言えば、「100年マラソン」の実現性はあり得ない。と言うほかない。

⑥「中国関係者は、まず過去から現在までの両国のGDP比の変遷を示している。1820年当時、中国のGDPは日本の11倍、1870年当時は7~8倍だった。1980年代に入り日本が逆転、GDPは中国の3.5倍となった。しかし、バブル崩壊後の長期的な経済低迷に加え、中国の急速な経済成長もあり、2010年には中国のGDPは日本を抜いて世界第2位となった。2014年、中国のGDPは日本の2.25倍になった。中国製造業の総生産量は、米国の1.4倍へ。アジア開発銀行(ADB)の11年の予測によれば、2050年に中国のGDPは日本の7倍近くになる」。

1820年当時、中国のGDPは日本の11倍。1870年当時は7~8倍だったという。なぜ、日中の格差が縮まったのか。当時は農業社会である。農産物は国土面積に比例する、だから、国土が広ければ収穫も増えて当然だ。それが1870年当時は縮小したか。日本が農業技術において優れ、生産性が上がった結果であろう。

2010年、中国のGDPは日本を抜いて世界第2位となった。2014年、中国のGDPは日本の2.25倍になった。この理由は、日本を初め先進国企業の中国進出が、寄与したものだろう。中国企業だけが稼ぎ出したGDPではない。その実態認識が欠如している。「能天気」と言われるゆえんだ。

2050年、中国のGDPは日本の7倍近くになる、とは無邪気な推測である。TPPがもたらす日本経済への寄与を忘れているのだ。それは同時に、中国のGDPを減らすことになる。技術的な側面から見ても、中国製造業は「汎用品生産」に止まるであろう。トムソン・ロイターによる「TOP100グローバル・イノベーター」に入る企業がゼロである現実を深刻に受け取るべきである。「夢に酔って」自らの足元をまともに見ようとしないのだ。

⑦「関係者はこうしたデータや予測に対し、『中国の100年マラソンを完走するとき、日本のGDPは1870年当時と同じ、中国の7分の1の状態に戻るということだ』と論じた。同関係者によるデータの扱い方やコメントは、明らかに『100年マラソン』によって中国が世界の覇権を握る野心が浮き彫りとなっている。その計画遂行の途上に『日本を経済面で圧倒する』ことも含まれていることがわかる」。

中国が、「取らぬ狸の皮算用」して一人で悦に入っている。中国が、日本のGDPの7倍の規模になると錯覚しているのだ。先端技術を持たない中国製造業が、何を武器にして成長を図るのか。その青写真があるのか。足りない技術は、サイバー攻撃で日米から「奪取」すれば補えるという認識であろうが、それは不可能だ。自らの頭脳で稼ぎ出すほかない。

⑧「同関係者は、2014年における日本の『技術輸出』と中国のそれとを比較し、日本は中国の54.4倍に達したと指摘、日本の技術力の高さは侮れないとしている。関係者は、『日本は今後武器輸出を通して軍事産業の技術力をさらに強め、中国にとって軍事面での強力なライバルとなる』と見ている。軍事・経済・政治において世界の覇権を握ろうとする中国の100年マラソンは、隣国日本の軍事・経済力を睨みつつ推し進められているとも言える」。

2014年、日本の「技術輸出」は中国の54.4倍になっている。これでは、競争以前である。はっきり言えば、中国は日本の「技術属国」である。属国の中国が。日本に技術的な競争を挑むこと自体がナンセンスである。中国は、無駄な「夢」を見ているよりも、地道な研究開発と内政問題解決に邁進すべきである。2049年に世界覇権計画実現とは、呆れて物も言えない。そんな心境になるのだ。TPPは、確実に中国の夢を「空夢」にするはずである。

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(2016年1月15日)