韓国、「経済停滞」人口構造は老齢化「新技術育たず呆然」 | 勝又壽良の経済時評

韓国、「経済停滞」人口構造は老齢化「新技術育たず呆然」



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老いる経済に有効打なし
脆弱な革新能力に問題


韓国経済に逼塞感が強くなっている。このままだと、「日本の失われた20年」再現になりかねないと恐れている。問題なのは、その突破口が見あたらないことである。騒ぎ立ててはいるが、具体策が分からないというのが実態である。日本という端から見ていて、頭をひねらざるを得ない。感情論を抜きにして、理性を100%生かせば、解決策はあるのだ。

慰安婦問題を例にして見れば明らかだが、あれだけ世界に向かって日本批判をやった国である。「少女の像」を韓国内外につくって嫌がらせをしてきた。朴大統領は外国首脳と会談の際、必ず日本批判をするという「告げ口外交」も精力的に行ってきた。このように、「感情面」では、ありとあらゆることを考えつく国民である。だが、経済問題という「理性問題」ではお手上げである。日本に支援を求めるワケにもいかなくなっているのだ。

12月3日のブログで取り上げたように、韓国は「感情8割」で物事を判断する。理性に基づく判断はたったの2割にすぎない。この「2割の頭脳」で、停滞する韓国経済の突破策を探しても立ち往生するのは当然であろう。ならば、この韓国が「中進国の罠」に陥らずに、これまで経済成長できた背景は何だったのか。それが今問われる。

韓国から見て「憎い」日本が、技術と資本で支援した結果である。韓国は、そのことを完全に忘れ去ってきた。現在の苦境に直面して、改めてそれを浮き上がらせている。日本あっての韓国であった。これが、偽らざる現実である。この事実を再認識するならば、日韓での話し合い気運も醸成されようが、現在の「反日」姿勢が改まらない限り不可能であろう。韓国経済は、落ちるところまで落ちる。これが、私の韓国経済観である。

経済協力開発機構(OECD)が12月6日発表した『2015年版税収統計』によると、韓国の租税負担率(国民負担率)は14年が24.6%で、OECD加盟国30ヶ国のうち28位である。租税負担率は国内総生産(GDP)に対する全税収の割合を示す。全税収には、税金のほか国民年金保険料、医療保険料、労災保険料などの社会保障負担が含まれている。

前述の通り、韓国経済は国民負担率が最も低い部類に属している。表面的に見れば、理想的な経済運営をしている形になっている。ちなみに、国民負担率が最も高い国はデンマークの50.9%、次いでフランス(45.2%)、ベルギー(44.7%)、フィンランド(43.9%)、イタリア(43.6%)、オーストリア(43.0%)などである。

韓国の国民負担率が24.6%と低いのは、民間部門が創意工夫できる経済的な環境が整っていることを示している。現実には、折角の機会が生かされずにいるのだ。企業は赤字を垂れ流しており、まともな財閥(企業グループ)と言えば、サムスン電子と現代自動車しかない。後は「ゾンビ」状態である。過去2回(1997年と2008年)も、ウォン暴落という通貨危機に見舞われた背景には、民間の創意工夫する「イノベーション能力」不足が大きな壁になってきた。

振り返って見れば、韓国経済は独立後に訪れた恒常的な「円高=ウォン安相場」に助けられ、日本企業からの資本と技術を両輪に発展してきたことは明白である。日本企業が開発する新製品をいち早く真似し「ウォン安」をテコにして輸出する。この繰り返しであった。日本企業は、「円高」に阻まれて新製品輸出のチャンスを韓国企業に奪われてきた。韓国企業は、日本企業の「小判鮫」商法で儲けていたのだ。

韓国は、この事実を忘れている。いつの間にか堂々と「日本批判」を繰り広げ、日本の存在を目障りなものと見なす振る舞いを演じてきた。その咎めが現在、一挙に表面化しており、右往左往しているに過ぎない。日本企業は現在、韓国に新技術を移転することなど、一切していない。過去の「反日」に愛想が尽きたのだ。韓国は心底、日本を怒らせたのである。それだけに今後、訪れる韓国の経済危機に対して、ただ傍観するだけだろう。

老いる経済に有効打なし
『朝鮮日報』(12月7日付)は、寄稿「『中進国のわな』に陥った韓国経済」と題する論考を掲載した。筆者は、全光宇(チョン・グァンウ)延世大教授(元金融委員長)である。

タイトルで「中進国のわな」という言葉を使っているが、韓国はこの状態にはなく、先進国経済に次ぐ存在に成長している。その意味では、このタイトルは正確ではない。ただ、韓国が過去、難なく「中進国のわな」を脱した背景には、日本の技術と資本の支援があったことは否定しがたい。韓国が現在、直面する経済停滞の打開において、過去のような日本からの「支援」はあり得ない。よって、韓国は建国以来の危機に遭遇していると言って良い。

①「世界経済の荒波の中で『大韓民国号』は座礁している。成長をけん引してきた輸出が11カ月連続で減少し、企業の売上高は史上初めて前年比で減少した。日本と根源的技術の面で格差が広がり、中国には猛烈に追い上げられ、韓国の主力産業の国際競争力は崖っぷちに追い込まれた。来年をピークに生産年齢人口が減少し、経済は先進国入りを果たせないまま、人口構造だけが先進国型へと悪化し、韓国経済の活力はさらに低下することになる」。

韓国経済が追い込まれているのは、昨年の韓国企業の売上減少に現れている。これについては、12月10日のブログで詳細に取り上げた。韓国は輸出の対前年比での減少が11ヶ月も起こっている。新興国経済の不調を反映したものだ。韓国輸出の60%は新興国向けである。それだけに、来年の韓国経済は復活期待を持てない。

韓国経済の最大の問題は、技術開発が実を結ばないことだ。R&D(研究開発)費用は、対GDP比で4%台と世界最高に躍り出ている。だが、時流の研究ばかりに目が向き、基礎研究がないがしろにされてきた。この結果、「足腰の弱い」研究であり成果が出ないという憾みを抱えている。

韓国ははっきりと、技術開発面で日本の後塵を拝していると認識している。「日本と根源的技術の面で格差が広がり」と認めているように、日韓の差は大きく広がっている。韓国発の技術は存在しない。その理由は、日本が明治維新(1868年)以来、150年近くも営々として築いてきた「国産技術」開発の歴史が存在する。韓国はわずか50年未満の月日で、この日本へ簡単に追いつけるという幻想を抱いた。そのこと自体が間違っている。この現実を冷静に受け止めれば、「反日」などと言う感情論で日本に立ち向かうこともなかったであろう。朴大統領こそ、感情のままに流されたお人である。

②「韓国経済の活力回復は大企業の経営革新なくしては不可能だ。韓国経済で絶対的な割合を占めている財閥系大企業から創業者のチャレンジ精神を学び、国内外で果敢な投資戦略を実行に移し、選択と集中という先制的な構造調整で産業競争力を高めていかねばならない。過去10年間で世界500大企業に入った韓国企業の数が9社から4社に半減したことは、世界競争力低下の深刻さを物語っている。内外の厳しい経済状況で突破口を切り開くためには、中心的大企業による主導的な役割が求められる」。

私は、ここでの主張に反対である。韓国経済がここまで停滞した大きな理由は、財閥制度による寡占経済体制にあるからだ。寡占経済は、技術イノベーションを生み出さないというのが経済学の常識である。寡占によって市場を支配すれば、新たな技術開発に無関心となる。これが、その根拠である。もともと、日本企業の開発した新技術を真似してきたのが韓国大企業である。自らのR&Dに不熱心であった。それが最近、姿勢を改めたところで、すぐに効果が出るはずもないのだ。

先のOECDによるデータで、韓国の租税負担率(対GDP比)は、全加盟国30ヶ国中28位と低い。これは、韓国が民間の創意工夫を発揮できる「理想型」にあることの証明であろう。韓国には財閥制度を解体して、経済の活性化を進められる基盤が存在する。それに全く目が向かず、ただ騒ぎ立てて時間を空費しているから不思議である。感情論を捨てて、理性型思考に回帰することだ。

脆弱な革新能力に問題
韓国経済を活性化させるには、銀行が「イノベーション能力」を発揮する以外に方法はない。この寄稿の筆者である全光宇(チョン・グァンウ)延世大教授は、元金融委員長でもあった。職掌柄、韓国金融の表も裏も熟知できる立場である。その経験から言えば、韓国の金融業がいかに「惰眠」を貪り、「高利貸し」まがいの存在であったか。ご存じのはずである。

ドイツ人経済学者のジョセフ・シュンペーターは、銀行こそ貸し出し業務を通じて「イノベーション」を実行できると指摘している。私はこのブログで、再三にわたって韓国金融業の「イノベーション能力」欠如を指摘してきた。韓国大企業に「イノベーション能力」を求めるのでなく、韓国金融界こそ覚醒が求められるのだ。韓国金融界がどれだけ惰眠を貪っているか。その実例を示したい。

「韓国金融研究院などが調査した資料によると、韓国の銀行の賃金体系はおかしな点だらけだ。まず、米国や日本より賃金が高い。米国や日本の銀行よりも生産性ははるかに低いのに、賃金は高いのだ。成果給制度を導入したとはいえ、形だけだ。韓国の銀行員の賃金のうち成果給が占める割合はわずか15%ほどだ。85%は年功序列に基づく基本給なのだ。さらに評価も形式的なものにすぎない。支店や部署単位の集団評価にとどまり、個人に対する評価は行われない。そのため、同じ支店に勤務している行員は、仕事のよくできる行員も顧客応対に優れた行員も怠けている行員も、成果給に関しては全く同じ等級がつけられる。こうした理由から、怠け者のキリギリス行員たちが「ただ乗り」できるようになり、今でも銀行の競争力を食い荒らしているのだ」(『朝鮮日報』12月6日付)。

上記の記事を読めば、韓国の金融マンは仕事をしてもしなくても、ほぼ同じ給与を貰えるシステムである。これでは、真面目に働こうというインセンティブに欠けて当然である。しかも、日米よりも高い給与水準である。韓国経済の「ガン」は金融界の「イノベーション能力」欠如にあると見るのだ。筆者の全光宇(チョン・グァンウ)延世大教授に、この点をぜひ指摘して貰いたかった。

③「積極的な経営リーダーシップを取れるというオーナー経営のメリットは生かしつつ、改善も急ぐべきだ。株式時価総額がかつての2位から20位近くにまで後退した鉄鋼大手ポスコは韓国企業の限界を如実に示している。一方、最近のロッテ経営者一族で兄弟間の経営権争いが起きたことからも分かるように、経営システムの透明性欠如というぜい弱な支配構造は投資家の信頼を失い、企業の推進力を低下させる」。

これまで韓国財閥のメリットでは、財閥オーナーが積極果敢な投資をするという点が指摘されてきた。具体的には、サムスンが積極的な半導体投資を行い、日本の生産シェアを奪ったことだ。日本が超円高に苦しみ、米国から「半導体戦争」を仕掛けられていたという特殊な時代背景があった。いつも、財閥オーナーが積極果敢な投資をして成功する保証はどこにもない。それよりも、「コーポレートガバナンス」(企業統治)の確立が先決である。独断専行でなく、合理的な企業行動の決定が求められている。

鉄鋼大手ポスコが凋落した理由は、技術開発の遅れであろう。ポスコ自体が、日本財界の支援を受けて発展したという事情がある。技術面では完全に旧八幡製鉄(現・新日鉄住金)に依存していた。そうした弊害が、同社の技術的な独立を疎外したのであろう。

④「2015年も暮れを迎え、韓国経済が『中進国のわな』にはまるのではないかという警告音が高まっている。このままでは20代と30代の人が社会の主役となる2030年代の潜在成長率は1%台に落ち込み、政府債務が急増してしまう。青年たちの間では『ヘル朝鮮』(地獄という意味のhellと朝鮮の合成語)、『泥のスプーン』(不平等の最下層という意味)といった流行語が広まっている。そうした言葉に込められた青年たちの怒りと挫折を熱情と勇気に変える責任が上の世代にはある。国を生き返らせ、未来の世代の希望を与えるためには企業経営だけでなく国家経営も真の起業家精神へと生まれ変わらなければならない」。

韓国経済の根本的な脆弱性は、制度に関する「イノベーション能力」の欠如である。イノベーションは制度から技術、販路の開拓など幅広い概念である。前例にこだわらず、改革を続ける土壌が「文化」として存在するか否かである。その点で、米国は「イノベーション能力」100%の国家だ。失敗から学ぶという点で、米国を上回る国は存在しない。まさに、実践的「プロテスタンティズム」の母国である。

韓国は儒教国である。儒教は伝統を重んじる。前例を尊重するから改革は極めて難しい国である。日本が戦後に放棄した財閥制度を、韓国はそのまま採用するなど前例に倣っているのだ。韓国経済は制度疲労に陥っている。独立後の経済制度を全て洗い直す勇気を持たぬ限り、現在の苦境からの脱出は不可能であろう。

韓国は、日本以上の「少子高齢化」が進んでいる。2013年に、総人口に占める「生産年齢人口(15~64歳)比率がピークを付けた。今後は、「人口オーナス期」に入って行く。労働力不足が、韓国経済の潜在成長率を引き下げる方向に作用するのだ。この待ったなしの時代において、過去の経済制度を固守して行けば摩擦を生むのは当然である。それを解決するには、現在のような国内政治の対立を超えなければならない。実は、そこが最大の障害になっている。12月17日のブログでは、この問題を取り上げる。


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(2015年12月15日)