中国、上海株式市場の底値まだ先「介入コスト」は莫大 | 勝又壽良の経済時評

中国、上海株式市場の底値まだ先「介入コスト」は莫大

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韓国経済阿鼻叫喚



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介入資金が続かず
底値は2400?

中国では、数少ない資本市場専門家が数年前、意気に感じて海外から戻ってくれた。惜しいことに、今では呆れて相次いで辞任している。その後は、「素人集団」が株式市場へのテコ入れをやっている。そのカンフル剤は、薬効期間が短いどころか、新たな売りを誘い込むという逆効果を招いている。投資家はすでに、中国当局を信じなくなった。

『人民日報』は、5月に「上海総合指数は4000ポイントからが上げ相場」と買い煽る記事を流したほど。その反動がもろに出ているのだ。当局がテコ入れすれば、そこが新たな「売りチャンス」と見ているほどである。泥沼へカネを投げ込んでいるに等しい。これまでのテコ入れ資金は膨大な額になった。正式発表などないが、いろいろと推計はされている。

介入資金が続かず
韓国紙『中央日報』(9月1日付)は、次のように伝えた。

① 「フィナンシャルタイムズによると、この2カ月間に中国政府が証券市場に注ぎ込んだ資金は2000億ドルと推定される。国有企業が、政府の圧力で買い入れた株式まで考慮すれば総投入額は5434億ドルに達するとゴールドマンサックスは推算した。こうした総力戦でも上海証券市場は、最高値を記録した6月12日以降、先月28日まで市場で4兆5721億ドルが蒸発した。並大抵の失敗ではない」。

ゴールドマンサックスによれば、国有企業まで含めた株式買い入れ総額は5434億ドル(約65兆2080億円)にも上る。一方、この間に値下がりで蒸発した金額は、4兆5721億ドル(約548兆6520億円)にもなる。65兆円を投入し、その8.4倍の548兆円が消えてしまった勘定である。どう見ても割の合わない「逆株価テコ入れ」である。

後先を考えずに、株式市場へ土足で踏み込んだ当局は、改めて自らの行動がいかに軽率であったかを証明した。嗤うに笑えない大失策である。ここで、当局は「悪知恵」を働かし始めている。当局自らが手を染めずに、証券会社や国有企業にテコ入れさせようという「悪あがき」を始めている。

『ブルームバーグ』(9月1日付)は、次のように報じた。

②「中国証券監督管理委員会(証監会)は、証券会社に1000億元(約1兆9000億円)を市場救済基金に追加拠出し、自社株買いを増やすことで、株価下支え策を強化するよう求めた。関係者が明らかにした。証監会は証券会社50社の代表との会合を8月29日に開催。証監会の肖鋼主席も参加したこの会合で追加拠出が命じられた。証監会はまた上場証券会社に、時価総額の最大10%に相当する株式を買い戻すよう促した。中国当局は相場が急落した株式市場への介入を8月27日に再開。中国は北京で今週(注:9月3日)開かれる『抗日戦争勝利記念行事』の軍事パレードを前に株価押し上げを図っている」。

中国当局の証監会が、証券会社に1000億元(約1兆9000億円)を市場救済基金に追加拠出するように命じたという。わずかの1兆9000億円である。過去の介入額の約65兆2080億円から見れば、3%弱である。「二階から目薬」である。効果はほとんどあるまい。ここまでくると、株価介入の「実弾」はゼロ同然になったと言える。後は「漂流相場」であろうが、相場の怖さはここからの下落である。さて、どこまで下がるのか。

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月1日付)は、次のように報じた。

③「すでに大きく売り込まれた中国市場が底を付けるまで、最低でもあと15%下落する可能性があるという予想が、トップレベルのストラテジストやマネーマネジャーから出ている。8月28日に3232.35終値を付けた中国本土株のベンチマークである上海総合指数は、2700近辺で底を付けるまでさらに下落する可能性があるとみられている。逆張り発想の投資家が、絶好の買い場だと考えるのも仕方がないが、過去の株価収益率(PER)から見ると、中国市場の下げ止まりにはもう少し時間がかかりそうだ」。

一時は、当局の想定した「防衛ライン」が3000ポイントであると噂された。だが、簡単にこのラインを突破されると、いつしかそれも話題に上らなくなっている。新たな「底値」は2700近辺でないかとの見方も出ているが、後のパラグラフによってこれも否定された形だ。まだまだ、底値には達していないという判断である。中国株は中味をよく調べる、つまり収益力を洗い直さなければならないのだ。多くの企業が赤字を垂れ流している状態である。この点については、後で取り上げる。

④「上海総合指数のPER(株価収益率)水準は現在、15倍である。6月のピークの約22倍から大きく下がった。しかし、昨年の大幅な上昇相場が始まる前の10倍と比較するとまだ高い。PERで10倍の水準まで戻るには、2700程度まで指数が下落する必要がある。CLSAの中国・香港戦略責任者のフランシス・チュン氏は、信用買いのポジション解消や現金化目的の売りが、上海総合指数を2700まで押し下げるとみている。これは、昨年12月の水準だ。同氏は、その水準で投資するべきだと推奨する。その水準であれば、低金利とファンドマネジャーのバーゲン・ハンティング(安値拾い)によって下げ止まると見ているからだ」。

PERを基準にすれば、6月ピークの22倍から現在は15倍へと下がっている。昨年の大幅な上昇相場が始まる前は10倍であった。それと比較するとまだ高い。PERで10倍の水準まで下がるには、2700程度まで指数が下落する必要がある。そこで、底入れの目途として、2700ポイント説が出てくるのだ。ただ、中国企業の収益力は相当に劣化している。PER10倍が妥当とは言えないとしている。

⑤「さえない利益成長を考慮すると、中国株はまだ買われ過ぎだと言える。また、上海総合指数の平均PERが、非常にウエートが高い優良株によって押し下げられているといった側面を見ることも重要だ。一般的各社のPERは4倍から5倍だ。これら優良銘柄を除外して、上海もしくは深圳に上場されている人民元建てのA株だけで算出してみるとPERは30倍かそれ以上になる。市場全体がまだ過大評価されていることを示唆している」。

中国上場企業の業績の伸び悩みが鮮明になっている。「2015年1~6月期中間決算は最終損益が赤字の企業数が440社となり、過去最多だった前年同期の362社を上回った。上場企業全体の最終利益の伸びは前年同期比8.6%にとどまり、3年ぶりの低水準となった。鉄鋼や石炭など供給過剰業種で最終赤字が相次いだ」(『日本経済新聞』9月1日付)。こうした企業収益の悪化を見ると、「PER10倍説」をもって底入れとは判断できないことが分かる。

「非常にウエートが高い優良株」を元にして計算した平均PERは現在、15倍に低下している。だが、平均的な企業のPERは4倍から5倍である。この乖離幅が大きいことに注意することが必要だ。前記の優良株を除外して、人民元建てのA株だけのPERを算出すると、30倍かそれ以上になる。市場全体がまだまだ過大評価されている、という見解である。上場企業全体の最終利益の伸びは、前年同期比8.6%で3年ぶりの低水準という現実を考えると、中国株への見方はより厳しさが求められるであろう。

底値は2400?
⑥「中国の不安定な株式の評価指標としてPERに頼ることに懸念を表している専門家もいる。スタンダード・ライフ・インベストメンツのポートフォリオマネジャー、マグダレン・ミラー氏は、中国株のより適正な株価水準をとらえるために、投資家は株価純資産倍率(PBR)を見た方がいいと話す。同氏は、PBRはPERより市場変動の影響を受けにくいと考えている。現在、市場のPBRは高値の2.7倍から下落して1.7倍近辺だ。同氏によると、上海総合指数の底値はPBR1.4倍で、ちょうど昨年の11月に指数が2500を超えて上昇した時の水準。これが下値支持線になるとしている」。

中国では、PERを評価指標に使わずに、株価純資産倍率(PBR)で見た方がベターという説を紹介している。PBRはPERより市場変動の影響を受けにくいと考えられるからだ。現在、市場のPBRは高値の2.7倍から下落して1.7倍近辺にある。

これから迎える上海総合指数の底値は、PBRが1.4倍に相当する昨年11月の総合指数2500の水準になるのでないか。私は、この見方に合理的な根拠があるように思う。ただ株価については、人それぞれの投資尺度がある。上海株は、昨秋のレベルまで下方調整されれば、そこから出直しになるのだろうか。

となれば、現在よりも500ポイント以上の下落余地が出てくる。中国当局が現状でテコ入れしても、まったくの「無駄カネ」になる。ここは、相場の自動調整に委ねる以外に方法はないのだ。次に問題になるのは、これまでの膨大な「介入コスト」をどのようにして回収するかである。

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月31日付)は、次のように論じた。

⑦「過去1週間(注:8月24~28日)の中国の株式市場急落は、中国当局が市場買い支え努力を放棄したか、あるいは少なくとももっと低い株価水準防衛のため一時退却しているとの印象を与えている。だが、政府はこれまでに購入した株式をどう処理するのだろうか。2008年と09年の米政府による救済とは異なり、中国は市場の底ではなく天井近辺で株式を購入したという厄介な状況にある。こうした投資から中国当局は、米政府が得たような利益を得る公算はほとんどない。市場はこれまでのところ、大半の買いを入れた株価水準を下回っているからだ」。

中国当局は、株価急落に驚いて腕力で株価下落を押さえ込む間違いを犯している。「株価バブル」崩壊は、いわば相場の自律的調整であるから、政治が介入して止められるものではない。市場経済の原則に疎い中国当局は、国民を弾圧する同じ方法を用いて直接介入したのだ。この結果、高値での相場テコ入れであるから、介入コストは極めて高くなっている。

米国では、安値での介入であった。相場回復後に相当の利益を得た。中国では、今後なお株価が下落予想ゆえに、莫大な介入コストを誰が負担するのか。新たな財政的な問題が発生するに違いない。地方政府にとって別途、不動産バブル崩壊による不良債権が発生するから、まさに「ダブル・パンチ」になるのだ。

⑧「上海総合指数(週末8月28日終値は3232.35)はバブルが形成されるまでの3年間、2000~2400のレンジで取引されていた。このレンジにまで下落するとすれば、3000を若干下回った最近の安値からさらに20%下落することになる。中国当局は、既に成長鈍化している経済にこうした損失が重荷にならないように、対応策を見つける必要があるだろう。政府が救済のためにいくら使ったかに関する公式発表は一切ない」。

ここでも、上海総合指数はバブル発生前の2000~2400のレンジまでの下落を想定している。後、20%程度の下落を見込んでいるのだ。さらなる値下がりは、中国政府の株価介入コストを自動的に膨らませる。財政的に困難な段階に入って行くなかで、新たな財政負担増は、中国政府にとって「泣き面に蜂」となろう。政策ミスが招いたお荷物である。

⑨「中国政府が、完全に株式市場に屈服させられたかどうか。現時点では判断しがたい。政府はバブルを助長させた信用取引が落ち着くまで、支出(介入)を続けると決定するかもしれない。公式統計によれば信用取引の残高は8月27日現在、1兆元弱に減少し、7月のピーク時の2兆2700億元を大幅に下回るなど状況は改善した。ある時点で、中国当局はこの救済事業(注:株価介入)の無益さを自覚する公算が大きい。救済(介入)が終わった時、真の処理が始まることになるだろう」。

冒頭で指摘したように、中国証券監督管理委員会(証監会)では、相次いで専門家が退職している。もはや、相場の流れをマネジメントする能力を失っているとも言えるのだ。ここからの無難な方法は、相場への介入を中止することであろう。「相場は相場に聞け」であって、相場自体が持つ自律調整力に委ねるしか方法がない。この市場の持つ「哲理」を理解すれば、今後は無駄な介入を控えるべきだ。株価が均衡点に達するまでは、大きな下げ相場を覚悟することが求められる。

(2015年9月11日)




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