中国、バブルの象徴「超高層ビル建設ラッシュ」は経済衰頽の兆し | 勝又壽良の経済時評

中国、バブルの象徴「超高層ビル建設ラッシュ」は経済衰頽の兆し

バブルは崩壊する運命
超高層ビル建設で収賄
村に328mのホテル

世界の耳目を集めた中国の高度経済成長は、ついに幕を引くことになった。昨年のGDPは実質9.2%、再び二ケタ成長に戻ることはない。改革・開放政策でスタートした高度成長はざっと33年間続いた。それは、無理に無理を重ねたものだった。もはやその継続は「政治的」に不可能である。成長の果実が広く国民全般に及ばず、一握りの富豪を生みだしただけであった。

高度経済成長が33年間も続けば何が起こるか。人々に「傲慢」な態度をもたらすということである。この好景気が、未来永劫に続くものと錯覚するのである。これこそ「バブル」そのものであり、「社会病理」現象をもたらすのである。国家も個人もあらゆる行動が、恐れを知らない傍若無人の振る舞いをするのだ。国家は、軍拡が経済大国に相応しいと思い上がり、周辺国を威嚇して当然という意識になる。個人の経済行動はやたらと拡張型になり、鬼面人を驚かして満足するにいたるのである。前者の例についてはもはや触れまい。私が、連日のブログで取り上げているテーマであるからだ。後者の例を挙げれば、「超高層ビルの建設ラッシュ」が「不動産バブル」の行き着く先である。次に、これを歴史的に証明した記事を紹介したい。

バブルは崩壊する運命
米AP通信社は、1月12日に次のように報じた。

①「投資銀行バークレイズ・キャピタルが、過去140年間における超高層ビル建設と景気について調べた結果、超高層ビルの建設ブームになると金融危機が訪れるという関連性がわかった。歴史的に、超高層ビルの建設は融資が得られやすいことや地価の上昇、過度に楽観的な見通しによるもので、ビルが完成する頃には景気後退に陥るという。 現在、中国は超高層ビル建設ラッシュのまっただ中にあり、世界全体の超高層ビル124棟のうち約半数にあたる53%が中国にある。新たに建設される超高層ビルの8割が地方都市であり、バークレイズ・キャピタルはこれを『建設バブル拡大の証拠』だと指摘している」。

過去1年ほどの間に、私はこういった趣旨の記事を2度ほど目にしたが、さほど注意もせずに見過ごしてきた。ただ、投資銀行バークレイズ・キャピタルが、「過去140年間における超高層ビル建設と景気について調べた結果」という箇所を目にしたとき、私の頭にピンと来たのである。世界のバブル史において、主役は「株式バブル」か「不動産バブル」のいずれかである。1929年の世界恐慌時の米国バブルは「株式バブル」であった。1990年の日本では、株式と不動産が絡んだ「複合バブル」である。中国は先に「株式バブル」が終わって、「不動産バブル」へと火がついていったのである。世界のバブルの歴史と中国を絡めて見たとき、①の記事はきわめて信憑性をもって私を捉えたのである。

①では、「現在、中国は超高層ビル建設ラッシュのまっただ中にあり、世界全体の超高層ビル124棟のうち約半数が中国にある。新たに建設される高層ビルの8割が地方都市」である。中国の超高層ビル建設が、北京や上海などの大都会から地方都市へ移っている現状は、不動産バブルが中国全土に及んでいる証拠であろう。確かに全国100都市の住宅価格推移では、ここ3ヶ月ほど下がっているがわずかである。北京や上海では高級マンションの投げ売りが行なわれている。一方、地方都市では前記の超高層ビルが住宅価格を引き上げているので、全国平均では「微弱」な下落に止まっているのであろう。大都市での高級マンション投げ売りが局部現象に止まるわけでなく、時間差で地方都市へ拡大されるはずである。未だ熱気の冷めていない「不動産バブル」は、地方都市でのホテル建設ブームを引き起こしているのだ。次にそれを紹介したい。

シンガポール紙『ザ・ストレーツ・タイムズ』(1月9日付け)によると、中国では不動産ブームの副産物として中国各地で「5つ星」クラスの高級ホテルが大量に建設されてきた。今、こうした高級ホテルの空室率が上昇し、「幽霊ホテル」と化している。

②「中国ホテルの平均客室稼働率は、アジアでインドに次ぐ低稼働率である。昨年1~9月、シンガポールや香港の客室稼働率は平均80%を超えていたが、中国本土の客室稼働率は61%にすぎなかった。中国本土には現在500軒以上の5つ星ホテルがある。それにもかかわらず、今なお100軒を超える高級ホテルが建設中だ。さらに、1000軒以上が建設認可を待っている」。

③「中国本土における国際的な高級ホテルの部屋数は、過去5年間62%の割合で増加してきた。拡大を続ける理由の一つに、ホテルサイドが管理のみを担当し、本体の建設は地元の不動産開発業者が請け負っているという事情がある。高級ホテルは不動産開発プロジェクトの目玉ではあるものの、一部の開発業者は住宅やショッピングモール、オフィスビルの建設など総合プロジェクトの中で利益を回収している。ホテルだけで利益を上げることができないためだ。地方政府のメンツでホテルが建設されるケースもある」。

②では、「中国本土の客室稼働率は61%だが、今なお100軒を超える高級ホテルが建設中だ。なお、1000軒以上が建設認可を待っている」という異常さだ。これはどう見ても「正気の沙汰」ではない。まさに「バブル現象」そのものである。中国経済が未来永劫に10%成長が続くという「幻想」に取り憑かれた結果である。

③では、「ホテル本体の建設は地元の不動産開発業者が請け負っているほか、地方政府のメンツで建設されるケースもある」と、ずばり指摘している。問題は、地方政府首脳が高級ホテルを自己のステータスにするという「公私混同」が起こっている点である。不動産開発業者では歴とした国有企業が顔を連ねており、地方政府から建設補助金や金利補給を受けている例が普通とされている。これでは、ホテル建設ブームを引き起こすわけである。だが、この裏には次のカラクリが用意されているのだ。中国文化と言って差支えない、あの「賄賂の収賄」である。

超高層ビル建設で収賄
『中国経済網』(1月15日付け)によると、昨年、摘発された国有企業トップの汚職金額は平均3000万元(約3億6000万円)を超えたと、伝えている。

④「中国紙『法制日報』傘下の雑誌『法人』などが発表した『2011中国企業家犯罪報告』によると、中国で昨年、汚職で摘発された国有企業トップの平均年齢は52歳、汚職金額の平均は2010年の957万元(約1億1600万円)から3380万元(約4億1100万円)へと急増した。金額増加の背景には、執行猶予付き死刑判決が増え、死刑判決後に即執行されなくなったことも関連していると指摘する」。

④を読むと、中国官僚が底なしの賄賂漬けになっている実態が分る。賄賂欲しさにホテル建設を行なっている、といっても過言でない。それだけに、「不動産バブル」の根がいかに深く、その広がりがどこまで大きくなっているのか。想像を絶した規模であろう。となると、今回の「不動産バブル」崩壊は、相当に深刻な影響を中国経済へ与えるに違いない。

①の指摘を改めて読み直したい。「現在、中国は超高層ビル建設ラッシュのまっただ中にあり、世界全体の超高層ビル124棟のうち約半数にあたる53%が中国にある。新たに建設される超高層ビルの8割が地方都市である」という現実は、決して安易に見過ごしてはならないであろう。単純な「住宅バブル」の域を超えており、文字通り「不動産バブル」になっている。私はこれまでのブログで、「住宅バブル」とか「不動産バブル」という言葉を使ってきた。①の記事を読むと、中国は「住宅バブル」でなく「不動産バブル」であると、はっきり規定すべきだと考えるにいたった。それを裏付ける記事を次に紹介したい。村が独立で超高層ホテルを建設、オープンさせたというニュースである。

村に328mのホテル
『チャイナフォトプレス』(2011年10月8日付け)は、次のように報じている。

⑤「中国一の『金持ち村』として知られる江蘇省華西村で高さ328メートルの超高層ホテル『華西竜希国際大酒店』が完成した。地上72階建てで、高層階には展望台のほか、プールや花鳥園が設けられ、2階には2000平方メートルのショッピングエリアがある。『建村50周年』に合わせてオープンしたもの。建設費は30億元(約360億円)で、村民約200人が1000万元(約1億2000万円)ずつ出資したことでも話題となった」。

⑤を読むと、さらに中国の「不動産バブル」の凄まじさが理解できるのだ。この328メートルの超高層ホテルは、なんと「中国8番目の高さであり、村を訪れても、ホテルを一歩出ると観光地がほとんどない」(『日本経済新聞』(2011年10月26日付 電子版)という「超自然環境」にある。村民3万5000人の村が、素人で超高層のホテル経営に乗出すというのだ。

中国が「不動産バブル」の渦中にあると解釈すれば、①の「投資銀行バークレイズ・キャピタルが、過去140年間における(世界の)超高層ビル建設と景気について調べた結果、超高層ビルの建設がブームになると金融危機が訪れるという関連性がある」という指摘は、中国経済に重く跳ね返ってくる。超高層ビル建設は、建設ブームの象徴的な出来事にすぎない。こうして中国で現在進んでいる事態は、歴史上では「空前絶後」の規模に膨張している可能性が出てくるのである。

中国当局は、この「不動産バブル」をどのようにして乗り切る積もりなのか。具体的な処方箋は聞かれない。ともかく、これ以上バブルの火を燃えさからないように「管理」しておき、自然鎮火をまつ腹積もりである。だが、建設資金の回収ができなければ、「経済循環」はストップして経済活動は止まるのである。「不動産バブル」は破裂するしかないわけで、管理することは不可能である。歴史上、すべての「バブル」が崩壊したのは、「管理」できなかった結果である。習近平・次期国家主席は大変な「時限爆弾」を背負っての船出を余儀なくされる。「毒をもって毒を制す」という言葉がある。財政支出拡大によって景気をさらに刺激し、「停滞」している債権を流動化して回収するという「荒療治」だ。それは不可能である。地道に時間をかけて、不良債権を処理するしか方法はないのだ。その覚悟が中国政府にあるとは思えない。

(2012年1月23日)


インドの飛翔vs中国の屈折/勝又 壽良

¥2,415
Amazon.co.jp

日本株大復活/勝又 壽良

¥1,890
Amazon.co.jp

企業文化力と経営新時代/勝又 壽良

¥2,310
Amazon.co.jp