昭和十三年大都映画「争闘阿修羅街」
監督 八代毅
原作・脚色 吉村操
潤色 山内俊英
撮影 下村晴夫、富澤恒夫、成田勉、宮入寅應、太田真一
主演 ハヤフサヒデト、大河百々代
キャスト
速報記者 ハヤフサヒデト
写真班デブ山 大岡怪童
編集長 高村栄一
技師長 久松玉城
別荘番 清水明
発明家 松村光夫
支配人 小笠原隆
乾分 池田利夫、村山敏夫、小川勇二、春山茂清
お嬢さん 大河百々代
女中さん 大山デブ子
早朝から、人も街もせわしげに動き始める大都会。ここは毎朝新聞本社ビル、社会部の編集部。
編集長「あいつら遅いなまったく……(電話に出る)はい、もしもし、うむ、うむ、わかった」
そこへ入って来たのはーー写真班のカメラマンデブ山と速報記者のハヤフサ。
ハヤフサ「ーーどうも」
デブ山「おはようござーー」
編集長「ばかもん!何時だと思っておるんだまったく!」
ハヤフサ「……はあ」
デブ山「反省しております。(頭を叩く)お前も(叩く)」
ハヤフサ「何するんだ!編集長、どうせ我々はT半人前のふたり組だとおっしゃるのでしょう」
デブ山「うまいこというなあ。Tしかり!ふたり合わせてようやく一人前の仕事しかできない。しかしまた、愛すべき好漢ふたりでもあるわけです!」
編集長「何をいっとるんだ!(新聞を広げて)これを読みたまえ」
ハヤフサ「(手に取って)世界初、新型軽飛行機を発明した松村博士」
編集長「いいかね。Tこの国家的発明家にあって、その発明に対する感想ならびに写真を夕刊締切までに必ず撮ってきたまえ」
(睨みつける編集長)
T編集長「くれぐれもいっておくが、今度失敗すると退社を命ずるよ退社を」
ふたり「ーーえっ?承知しました。では行ってまいります」
編集部のお荷物とまでいわれる凸凹コンビに、最後通牒が下されました。とるものもとりあえず、バイクをかって急ぐふたり。
デブ山「おい、じゃんじゃん飛ばしてくれよ。T今度の記事さえうまく行けば絶対昇給は疑いなしだ」
ハヤフサ「ああーーT松村って一度もあったことがないんだが、頑固親父だそうだぞ」
デブ山(声)「(道路に帽子が落ちる)あ、俺の帽子!」
(バイクの脇を車が走り去る)
ハヤフサ「(顔の泥)うわっぷ!な、何だ……」
(走り去る車)
Tハヤフサ「ちくしょう!挨拶ぐらいしてもいいぞ!よし謝らしてやる!」
フルスロットルで車を追いかけるハヤフサ。(車の前に回って止める)
ハヤフサ「(車に近づいて)おい!T人に泥をひっかけて黙って行く奴があるか。謝れ!」
T令嬢「(小型カメラ)わざとしたんじゃないから、そんなに怒らなくてもいいでしょう」
ハヤフサ「何だって?」
T令嬢「(ハンカチを投げる)拭けば元通りの顔になるわよ」
ハヤフサ「何だこんなもの!(捨てる)」
デブ山「おいおい、俺が使うよ」
令嬢「でもーーTいくら拭いてもあんまり冴えた顔じゃないわね」
ハヤフサ「何だと?」
令嬢「ごめん遊ばせ(車、出る)」
ふたり「お、おい、危ないじゃないか!(バイクに飛び乗ろうとするも、転ぶ)ちくしょう……」
(松村俊英の表札)航空工学の斯界の泰斗、松村俊英の邸宅。(模型の複葉機)ようやく松村博士の屋敷を訪れた凸凹コンビ。(ソファに横になっているハヤフサ)(椅子で居眠りしているデブ山)
ハヤフサ「(起き上がって)冗談じゃないぞ、いつまで待たせるつもりだ」
女中「失礼します。あの……どうぞ(デブ山にお茶を出そうとして)」
デブ山「ありがとうございます」
Tハヤフサ「はなはだ勝手ですが、夕刊締切時間に間に合うようにお会いしたいのですが。もう一度お伝えください」
令嬢「(カーテンの隙間から覗く)あら……そうだわ」
女中「あ、お嬢様」
令嬢「しーっ!早く行って!」
(二階から降りてくる博士と支配人)
女中「旦那様、T新聞社の方が早くお目にかかりたいそうで」
博士「そうか……T今すぐ行くからーー」
T令嬢「お父さん、あんな三文記者にあうことないわよ」
博士「いや、しかしお前ーー」
T令嬢「それよりかお約束の別荘へ行きましょうよ。週末休暇もいいものよ。ねえ、小笠原さん?」
支配人「そうですね。T社長、お嬢さんのおっしゃるとおり、お疲れを休められた方が」
博士「うむーーそうだな。T一日も早く発表してお役に立てたいから娘のお相手をしながら仕事を続けよう」
T支配人「それでは別荘の方に設計図を持たせて技師長をやりますから、早く完成してください」
博士「うむ。T山でゆっくりと考えるのもまたいいだろうから、では行くことにしようか!」
(応接間に入ってくる令嬢)
令嬢「あら、記者さんってあなたたちでしたのね?」
ハヤフサ「(デブ山をこづく)おい!」
デブ山「えっ?(立ち上がり)Tあ!あなたはご当家のお嬢さんでしたか。先刻は失礼しました」
令嬢「どういたしまして」
ハヤフサはどうしてもお高くとまったこのお嬢さんが気に食わない。
(アッカンベー合戦)
支配人「お待たせしました……松村博士は新型軽飛行機のことで現在頭がいっぱいなもので、私がお話をお伺いいたしましょう」
ハヤフサ「そうですか……」
(屋敷の玄関口)(車に乗り込む博士と令嬢)
令嬢「(車に)ちょっと待ってて(バイクに近づく)」
(令嬢、メモをバイクにはさんで、燃料タンクのバルブを緩める)
デブ山「博士じゃないんじゃ写真は用なしか……おや?」
(車、発進する)
デブ山「ああっ、おい!Tいっぱい喰ったぞ!博士が出て行った!」
支配人「……」
ハヤフサ「ちくしょー(キックスターターを踏むも)」
デブ山「何やってんだよ(降りて)ああっ!やられた!ガソリンが漏れてる!」
ハヤフサ「ええ?参ったなあ……あ?(メモに気付く)」
T(メモ)「間抜けな記者殿、こんなことではまだ一人前ではない。ふたりで半人前ですよ。ガゾリンスタンドは十二哩先にあります」
ハヤフサ「やられた……あのじゃじゃ馬娘め」
仕方なく編集部に戻るとーー
編集長「何をやっとるんだ!T君たちはまさに半人前だよ。別荘で記事をとることが君たちの最後のチャンスだ。もう一度だけ機会を与えるよ。早く山の別荘へ行きたまえ!」
ふたり「わかりました……」
社員「失礼します。編集長、T松村さんの令嬢からお手紙です」
編集長「松村博士の令嬢から?」
それは泥だらけの凸凹コンビの情けない顔。
編集長「おい、デブ山くん、T君の職業は写真を撮ることだよ。人に撮られるなんて間抜け千万だ。早く行きたまえ!まったく。おいおい、何なんだ君たちは!早く行きたまえ!まったくーーあのふたりにも困ったもんだ」
浜の真砂は尽きるとも、世に編集長の苦労は尽きまじ。
こちらは松村博士の別荘ーーすぐそばを清流が流れる山深い地に立つ瀟洒な邸宅である。(設計図を前に話し合うふたり)(コーヒーを運ぶ女中)
別荘番(声)「おい!」
女中「(振り返って)はい?」
T別荘番「貸せ!(コーヒーを取り上げる)女中の分際でお仕事中の旦那様の邪魔をするんじゃない。俺が持って行く」
女中「ーーは、はい」
(博士と技師長が話している)
別荘番(声)「失礼します。コーヒーをお持ちしました」
博士「ありがとうーーT章子は?」
T別荘番「お嬢様はーー散歩に行かれました」
(橋を渡る令嬢)都会の汚れた空気に疲れた令嬢ーー章子も、新鮮な山の空気を胸いっぱいに吸い込んでたちまち生き生きはつらつとするのだった。
(川原で絵を描く)
令嬢「(気配を感じて)ーー?」
ハヤフサ「こんにちわ。Tお上手ですね。どれ、僕が先生になって点をつけてあげましょう」
令嬢の筆を取り上げるとハヤフサ、ささっとキャンバスに
ハヤフサ「T丙ノ丁……まあ暖炉に焚べた方がいい出来ですね」
令嬢「まあ(アッカンベー)」
Tハヤフサ「先日の写真ありがとう。そのお礼に僕からもお渡しいたします」
それはーー(章子が舌を出している写真)
令嬢「ふん!」
ハヤフサ「お嬢さん、Tこんな顔するとお嫁の貰い手がありませんよ」
令嬢「余計なお世話だわ!(立ち上がる)」
(その拍子にイーゼルが倒れてキャンバスが川へ)
令嬢「あっーー!(川に入ろうとして)どうしよう……」
ハヤフサ「(令嬢を抱き抱えて)T渡してあげますよ」
親切に渡してやると思いきやーー(川に放り出す)
令嬢「ーーひどい」
ハヤフサ「これは愛車に悪戯をされたお礼です。悪しからず。ではーー」
デブ山「あいつちょっとやりすぎだよ。お嬢さん、今行きますからね!(抱えて、下ろす)大丈夫ですか?」
令嬢「余計なお世話よ!」
デブ山「ええ?ひどいなあ。あ、そうだ、帽子帽子(川に取りに戻る)」
ハヤフサはその足で別荘に博士を訪ねた。
T博士「こんな山奥までよくわかったものだね」
Tハヤフサ「ぜひあなたの軽飛行機について伺いたいと思った信念の賜物ですよ」
博士「さすがは新聞記者だね……Tまだ公表とは行かんのだが、もう二、三日の辛抱だ。君もそれまでゆっくりして行きたまえ」
Tハヤフサ「いや、もうそのゆっくりの手は喰いませんよ」
博士「こりゃあまいったなあ。しかしT今度は大丈夫。君に優先権を与えるよ」
別荘番「(その様子をじっと見つめる)」
博士「ーーおや?」
令嬢「……ただいま帰りました」
博士「章子……Tどうしたんだ、そんなに濡れて?」
令嬢「それは……その」
Tハヤフサ「夕立にでもあったんですか?」
令嬢「(何ですって?)(アッカンベー)」
ハヤフサ「(シャッターチャンス)」
令嬢「……」
デブ山「ええ、どうも、お邪魔します」
T令嬢「(それを見て笑う)ええ……大変な、しかも部分的な大夕立でしたよ」
博士「そうか……気付かなかったなあ」
(デブ山と章子、くしゃみ合戦)夜になって……(博士、章子、技師長、凸凹コンビが眠っている)
デブ山「(ベッドから落ちて)痛っ!(戻ろうとすると)」
ハヤフサ「狭いよ」
デブ山「ええ?じゃあどうすりゃいいんだよ……これもダメ……これもダメ」
女中部屋ではーー(枕元に置いたネズミ取りに手を挟まれ)
女中「痛いっ!ネズミじゃなくて私がかかってたら世話ないわまったく……なんkお腹が減っちゃった……(餅を手にする)あらっ!(起き上がる)何の音かしら?(時計を見る)気のせいか……(横になる)いやっ!確かに誰かの足音がするわ!ええ?どうしよう……」
女中がおそるおそる部屋の戸を開くとーー(別荘番の後ろ姿)
別荘番「見たな……!」
女中「きゃーっ(気を失う)」
静まり返った屋敷の中を、別荘番はゆっくりと二階へ。その右手にはあやしく光る一本のナイフが握られていた。しばらくして、根を覚ました女中は不吉な予感の導くまま、二階の技師長の部屋へ。
女中「だ、旦那様、い、一大事、大変です!(ドアを叩く)」
令嬢「(起き上がって)……?」
博士「(起き上がる)」
女中(声)「旦那様!旦那様!技師長さんがーーっ!」
(技師長の部屋)
博士「これは……っ!」
(寝酒のウィスキーを飲むコップがテーブルから落ちている)
博士「(視線を上げると)ああっ!」
(うつ伏せになっている技師長の背中にはナイフが深々と……)
T博士「おい、早く新聞社の連中を起こしていくれ!」
女中「は、はい」
女中「起きて起きてちょうだい!T新聞屋さん、早く来ておくれ!大変な事件だよ!」
デブ山「ええ?事件だって?Tこんな山奥の大事件は新聞ダネにはならんよ」
T女中「こんな山奥では殺人事件でも新聞のタネにならないかしら?」
デブ山「えええっ?Tサツジンジケン?それはーーホホホホ」
ハヤフサ「しっかりしろ!(背中を叩く)」
Tデブ山「ホ、本当かい、その事件ってのは?」
女中「ええ。T別荘番が技師長を殺して、たった今逃げ出して行ったところだ」
ハヤフサ「ーーよし」
(ハヤフサ、飛んで行く)
ハヤフサ「博士、T心配しないで待っててください。そのカバンは必ず取り返して来ますから」
技師長を殺した犯人は、軽飛行機の設計図の入ったカバンを盗んで行ったのであった。
ハヤフサ「(バイクに飛び乗る)さあデブ山、行くぞ!」
その時二階から降りて来たのはーー
博士「小笠原くん!T何てことをするのだ!君は気でも違ったのか!」
令嬢「お父様!」
支配人「お嬢さんはこっちですよ。T驚いちゃいけません。私はあなたの設計図ほしさに部下を別荘番に仕立てて完成される今日の日を待っていたのです」
令嬢「……」
T支配人「今頃あの設計図は別荘番の手で私たちの隠れ家に届けられてるでしょう」
(支配人、令嬢をじっと見て)
T支配人「そしてこの娘さんは、私の役得にいただいて行きます」
博士「章子……」
令嬢「お父様……」
支配人「ええい、愁嘆場はそこまでだ!Tおい面倒だ!この老いぼれもついでに連れて行け!(令嬢に)さあ、来るんだ!」
ただならぬ雰囲気を感じ取ったのかーー(窓から覗く女中)(走り去る車)
一方の凸凹コンビ、あっさり別荘番を捕まえた。(バイクのエンジンをかけるハヤフサ)
デブ山「(後ろに向かって手を振る)じゃあな!」
ハヤフサ「行くぞ!」
デブ山の握るロープの先はーー
別荘番「ちきしょう……いてて(立ち上がる)うわーっ!」
デブ山「ちゃんとついてこいよ!」
別荘番「うわーっ、助けてくれーっ!」
女中「大変たいへん大変たいへん大変ーー」
別荘番「助けてーっ!」
女中「ああ、記者さん、大変よう、(車が通り過ぎる)T旦那様とお嬢さんが今の自動車で攫われたっ!」
ハヤフサ「何だって?よし、追いかけよう!」
今度は博士と令嬢をさらった悪党一味を追いかける凸凹コンビ。
デブ山「すまん、落とし物だ」
ハヤフサ「早くしろよ」
デブ山「帽子帽子ーー(帽子の中の石を捨てる)(バイクに戻って)すまんすまん」
ハヤフサ「行くぞ!」
別荘番「うーん、ひでえ目にあった(起き上がる)」
女中「あっ!」
別荘番「ちくしょうめ……(偽の入れ歯を外す)」
女中「やめて!来ないで!」
別荘番「このやろう……っ!」
女中「いやっ!(ロープを引っ張る)」
別荘番「うわーっ!(転ぶ)」
女中「あら……これは……?」
別荘番「こいつめ」
女中「ほらほら!」
別荘番「痛っ!」
女中「もう一丁!」
別荘番「ようし……(ロープを引っ張る)」
(女中、去る)
別荘番「ようしどうだ!ロープは全部こっちのもんだぞ!あれ、どこへ行った?」
一方の凸凹コンビ、懸命に追うものの、なかなか追いつけない。
車はついに、高層ビル街へ。アジトで設計図を盗んだ別荘番を待つ一味。
(ウィスキーを飲む)(囚われの博士と令嬢)(顔を見合わせるふたり)(ウィスキーを注ぐ)
T支配人「まだ別荘番の奴は来ねえのか!」
(乾分が窓から覗く)
手下「おや……?(バイクをとめる凸凹コンビ)親分!T変な奴がふたり、この建物に入って来やしたぜ」
支配人「なに?ーーそうか、T邪魔が入ると面倒だ。このふたりを連れて俺は先に波止場に行ってる。いいな。T別荘番の奴が設計図を持って来たら、すぐに手前たちもやって来い」
乾分「(博士を立たせて)さあ来い!」
支配人「お嬢さんも来るんだ」
敵のアジトに侵入した凸凹コンビ。
ハヤフサ「行くぞ」
デブ山「待ってくれよ。ずいぶん響きのいい部屋だな」
ハヤフサ「ばか!大きい音を立てるんじゃない!」
デブ山「わかってるよまったくもう……」
待ち構える乾分たち。
デブ山「うむ……ここが怪しいな……おい、ハヤフサ……ここじゃないか」
乾分「よし、開けるぞ!」
たちまちはじまる大乱闘。
デブ山「うーん……(窓際に行く)(下で車に乗り込む悪党一味)ああっ!おい、ハヤフサ!ハヤフサ!ハヤフサったら!」
ハヤフサ「(こいつめ!)」
Tデブ山「おい大変だ!お嬢さん父娘を連れて行ったぞ!」
ハヤフサ「なに!?」
(走り去る車)
ハヤフサ「しまった!」
デブ山「(屋上に上がる)おーい、ハヤフサ!」
乾分たち「あそこだ!」
Tハヤフサ「おいデブ山!後から続いて来い。今度こそ素晴らしい写真の材料を作ってやるから」
デブ山「頼むぞ!」
乾分たち「待てーっ!」
さてここからしばらくの間、昭和の鳥人、稀代のアクションスター、ハヤフサヒデトのスタントなしの超絶アクションをお楽しみください。(ロープを伝って隣のビルへ)ビルの屋上から屋上へ飛び移りながら、逃げる悪党一味の車を追いかける!(飛び移る)(逃げる車)(飛び移る)(下から追いかける乾分たち、デブ山)(飛び移る)飛ぶ!飛ぶ!飛ぶ!まさに鳥人!最後にロープを伝って川を越え、下へ!(書類を抱えた人とぶつかる)(逃げる車)
ハヤフサ「ああ、すみません!(川に落ちて行く書類)わわっ!」
(川に落ちるハヤフサ)(河岸に泳ぎ着く)
アクションシーンはまだまだ続く。(道路に横になる)(走って来た車に捕まる)そしてついに博士と令嬢をさらった悪党どもにおいついたハヤフサの獅子奮迅、八面六臂の大活躍!
ハヤフサ「(博士と令嬢を救い出して)さあ来い!」
博士「(とぼとぼ歩きながら)いやあ……疲れたねえ……」
令嬢「……ええ」
デブ山「博士!これを(カバンを投げる)」
博士「ありがとう」
デブ山「どういたしまして……お、写真写真!」
毎朝新聞が誇る写真班の自称ナンバーワンデブ山の面目躍如というべきところであったがーー(カメラを取られる)
デブ山「あれ?あれれ?おい、返してくれよ」
快男児ハヤフサ、まるで疲れを知らぬように悪党どもをちぎっては投げちぎっては投げ。(デブ山、なかなか写真を撮れない)ボスの小笠原との一騎打ち。
ハヤフサ「さあ来い!」
デブ山「こいつめ!ーーうっ」
(積み上げられた人間の山)
ハヤフサ「さあどいたどいた!ーーおいデブ山、起きろ!(写真を撮るんだろ!しっかりしろ!行くぞ!」
(博士たちの前を通る凸凹コンビ)
令嬢「(立ち上がって)あの……」
ハヤフサ「(無視してバイクに乗り込む)おい!(デブ山を引っ張る)」
令嬢「……」
(バイク、走り去る)
令嬢「……」
博士「章子……」
しかし、走り去ったはずのバイクはーー
(泥水をはねてふたりの顔にかかる)
博士「ううむ……これは」
令嬢「……」
博士「ひどいじゃないか、君」
ハヤフサ「どうもすみません……Tこの前のお礼だ。拭けば元々だろう」
令嬢「……ひどい!」
ハヤフサ「きれいにしてやるよ(章子を抱えて)」
デブ山「ーーどうも。これ、どうぞ」
博士「ありがとう」
(噴水に章子の顔をつけるハヤフサ)ほとんど拷問のような洗顔法。
ハヤフサ「こんなもんかな」
令嬢「ひどいわ!(離れる)」
Tハヤフサ「(こちらに向かせて)君も俺同様、あんまり磨き映えのしない顔じゃね」
デブ山「ハヤフサ!大変だよ!Tおーい、よく考えてみると、写真をまだ一枚も撮ってないのだ。いよいよこれで半人前コンビのふたりもお払い箱というわけだ」
Tハヤフサ「心配するなよデブ山。何でも事件は大詰めが大切だ。写真は俺が撮らせてやる!いいか!」
(ハヤフサ、章子を抱き上げる)
Tハヤフサ「さあ撮れ!こんな素晴らしい材料があるじゃないか」
デブ山「ーーええ?お前を?」
ハヤフサ「そうだよ!さあ!」
デブ山「馬鹿馬鹿しい……痛っ!」
かくてーーふたりでやっと一人前といわれ続けた毎朝新聞の凸凹コンビ、ハヤフサとデブ山の奮闘により、世界的発明を巡る大事件は無事解決したのであった。(にこやかに見ているデブ山と博士)速報記者ハヤフサヒデトこの年三十四歳、発明家松村博士の令嬢章子この年十六歳。歳の差を感じさせない新鮮なカップルの誕生であった。昭和十三年大都映画作品「争闘阿修羅街」はこの場面を持ちまして大団円であります。
