一九一七年米・ミューチュアル社製作作品
チャップリンの勇敢
Easy Street
説明 山城秀之
監督 チャールズ・チャップリン
脚本 ヴィンセント・ブライアン
チャールズ・チャップリン
撮影 ローランド・トサロー
放浪者(のちに警察官) チャールズ・チャップリン
伝道活動をしている娘 エドナ・パーヴィアンス
無法者 エリック・キャンベル
牧師 アルバート・オースティン
アナキスト ヘンリー・バーグマン
伝道所を訪れた男 ジェームズ・T・ケリー
伝道所を訪れた母親 ジャネット・サリー
子沢山の父 ロイヤル・アンダーウッド
無法者の妻 シャーロット・ミノー
麻薬中毒者 ロイド・ベイコン
解説 チャップリンの、ミューチュアル社における九本目の作品。それまでは警察官たちから追い回されることが多かった放浪者チャーリーが、なんと本作では心を入れ替えて警察官になり、人々が貧困と暴力に苦しむ街に平和をもたらすという物語。原題は舞台となる街の通りの名前であるが、「裕福」という意味もあり、前半街に掲げられた通りの看板には強烈な皮肉がこめられている。二巻物ではあるが、テンポが良く内容も充実、重厚さも持ち合わせている。
また、字幕タイトルはすべて、チャップリンの自筆である。
略筋 あてどなく彷徨ううちに伝道教会の入口階段下で眠っていたチャーリー、教会でエドナの弾くオルガンと賛美歌の声に目を覚ましフラフラと中へ。そこで牧師の話とエドナの励ましに一念発起、チャーリーは職を探すために街へ行く。
「裕福通り」と名付けられた街の一角は、皮肉なことに無法者とアナキストが暴力で支配しており、警官はとても太刀打ちできず袋叩きにされ連日怪我人が警察署に運び込まれてくる始末。
そんなわけで警察署の入り口には「警察官緊急募集」と貼り出されていた。それを見たチャーリーは署長自らの試験に合格、晴れて警察官となって無法地帯の巡回に行く。そこで出くわしたのが無法者の親分エリック。警棒で殴っても何ともないエリックをガス灯のガスで眠らせたチャーリーは大手柄をあげる。
その後も貧しさのあまり食べ物を買う金もない女性を助けたり、偶然再会したエドナと子沢山の家庭を訪問したりするチャーリー。
しかしそのころ、運び込まれた警察署ではエリックが目を覚まして……。
Hope Mission
希望という名の伝導教会。(集まっている人々)その教会の前で一夜を過ごした宿無しのチャーリー君。その耳に流れてくる歌声ーー
チャーリー「……ん、なんだ?」
その調べに誘われるように教会の中へ。
婦人「今歌っているのはここよ」
チャーリー「どうも……(歌本をポケットに)」
(着席。牧師の話が始まる)歌が終わり、牧師の話が始まります。
婦人「(遅れてきたご婦人)すみませんが、ちょっとの間この子お願い出来ます?」
チャーリー「お安いご用です」
(婦人、メガネを取り出してかける)
チャーリー「あの……その……この子……まだ抱っこしときます?」
婦人「どうもありがとう」
チャーリー「いえいえどういたしまして……ああ、ごめんなさい、すっかりこぼしちゃいました……ははは」
牧師「しーっ、お静かに」
牧師のお話のあとで再び賛美歌を歌い、人々は帰って行きます。
チャーリー君、賛美歌の伴奏をしていたエドナに釘付け。
チャーリー「綺麗な人だなあ」
エドナ「今日は本当によく来てくださいました」
A new beginning ...
新たなる旅立ちへの決意が、チャーリー君の中に芽生えました。
チャーリー「(牧師、エドナと握手を交わす)ぼく、頑張ります(出て行こうとして)よし……あ、これはお返しします(募金箱を牧師に)」
(教会を出るチャーリー君)
チャーリー「何はともあれまずは仕事だ!」
Easy street ...
貧困と暴力が絶えることのない、無法者の支配する街。
Police returns from Easy street.
今日もまた傷だらけになった警官が、警察署に運び込まれて来ます。彼らは、その通りでは目の敵にされていました。ゆえに慢性的人手不足。(運ばれてくる警官たち)(イージーストリート、コテンパンにやられる警官)(車椅子で運ばれる)
署長「これじゃあ警官が何人いても足りないぞ」
(イージーストリート)チャーリー君、警察署の貼り紙に目を止めます。
チャーリー「警官募集?ふーん(行き過ぎるが)……そうか、警官……警官か。よし」
(なかなか入れない)宿無しで無職のチャーリー君にとって警察は、鬼門中の鬼門です。しかしーー(ついに入って行く)(イージーストリート)署長直々に応募者の身体検査。
署長「ふむーー体は丈夫そうだな(殴る)」
チャーリー「何するんだ!(殴り返す)」
署長「よし、合格だ!おめでとう」
チャーリー「ありがとうございます」
署長「早速制服を支給する」
(イージーストリート)馬子にも衣装。制服を着るとそれなりに見えてくるから不思議です。
署長「うむ、いいじゃないか。頑張りたまえ!(背中を叩く)」
‘Your beat is Easy street.’
君の受け持ち地区は、イージーストリートだ」
チャーリー「では行ってまいります」
男「(出て来たチャーリーを見て)なんだなんだ、おかしなおまわりだな、はははは」
チャーリー「何がおかしいんだ?(警棒で殴る)まったく……あ、こいつ、留置場にぶちこんどいて(連れて行かれる)」
(イージーストリート)今日もおまわりをコテンパンにのしていい心持ちのエリック。
エリック「(金を拾う)これは俺んだ!」
エリックは街の無法者どもの中でも、腕っぷしの強さでは誰も敵わない、いわばイージーストリートの帝王とでもいうべき男。人々はエリックのひとにらみで蜘蛛の子を散らすように逃げて行ってしまいます。(帽子を被り直すエリック)それでも人々は、寄せては返す波のように、おっかなびっくりエリックに近づいては逃げて行く。
エリック「うー、暴れ足りねえなあ。おまわりの奴、また来ねえかなあ」
そこへやってきたチャーリー君。
チャーリー「(エリックの横に止まって)うん、平和だな」
エリック「おおっ、来た!」
飛んで火にいる夏の虫。(ピッタリ横をついてくる)
チャーリー「うーん……なんでだろう……うなじがチリチリする……(落ちている制服を拾って)これ、僕のと似てますよね、ははは……うーん、もしかしたら
“I think I’ll call a Policeman.”
Tおまわりさん呼んだ方がいいかも」
エリック「呼んでみろ!ただじゃ置かねえぞ!」
チャーリー「そんな……呼ぶわけありませんよ……」
緊迫した攻防は続く。
チャーリー「あれ?ーー(送話口を口元に持って行くが)んー、んー!(送話口を覗いて)あ!何かこの中に!すごい!」
エリック「どれどれ?」
(チャーリー「えい!」)
エリック「何もないぞ」
(チャーリー「えい!」)
エリック「なんだ?やってみろ!」
チャーリー「えい!えい!(ちょっと離れて)えい!」
エリック「おい!逃げるじゃねえぞ、いいか、そこでじっとしてろ!(チャーリー「えい!」)よーし、逃げるなよ。(チャーリー逃げる。捕まえて)逃げるなといったろうが!見てろ、俺様の力を見せてやる、どうだ!こんなガス灯の柱なんかこうだ!どうだ!わかったか!(ガス灯の柱を折り曲げる)えい!」
チャーリー「今だ!(飛びついて)」
Gas!
とっさに機転をきかせたチャーリー君、エリックにガスを噴射。さすがの暴れん坊もーー
エリック「む、むー!むー!(座り込む)」
チャーリー「どうかな?(脈を取って)もうちょっと」
ついにイージーストリートの帝王エリックをやっつけたチャーリー君、早速署に連絡。(横になって電話)
警官「はいもしもし、なに?(それは本当か?)新入りがエリックをやっつけたそうだ!行くぞ!」
街の人々もこわごわ様子を見に集まってきました。エリックを倒した英雄チャーリー君。人々は恐怖の眼差しを彼に向けますがーー悪い気はしません。(人々を蹴散らす)
チャーリー「みんな遅いなあ」
そこへ署長一行が到着。さんざんひどい目にあっているので、小さな子供にもおっかなびっくりです。
署長「やつはどこだ?」
チャーリー「ここです」
署長「よし、署に運べ!(運んで行く)チャーリー、よくやった!」
チャーリー君、引き続き街の見回り。早速怪しい女性を発見。
チャーリー「ああちょっと、(エプロンから食べ物を手にする)これはなんですか?」
女性「すみません、もう何日も何も食べていなくて」
チャーリー「それは……じゃあどうぞ」
女性「ええ?本当に?」
チャーリー「あ、ちょっと待ってて(露店の品物を手当たり次第に取って)……これも全部、どうぞ」
そこへやってきた伝道所のエドナ。
エドナ「こんにちは!まあ、警察官になられたのね」
チャーリー「ええ、まあ」
(女性、気を失う)
エドナ「まあ大変!」
チャーリー「部屋に運んであげましょう」
(エリックを運んで署に入る警官たち)
エドナ「ちょっと疲れていたのね、気がついてよかったわ」
つまん「おまわりめ!(植木鉢を落とす)」
実はその女性はーーエリックの妻でした。
エドナ「どうしたのかしら?」
チャーリー「さあ、気が立ってるんでしょう」
エドナ「そうだ、よかったらご一緒していただけません?」
そこは伝道所にも顔を出したことのある、子沢山の男の家。エドナは時間を見てはこうして信者たちの家を訪ねているのでありました。
チャーリー「(男の手を握って)がんばってくださいね」
さて同じ頃、こちらは警察署。エリックが目を覚ましました。
エリック「んーーん?なんだここは?」
警官「ま、まずい!それ、いっせいにかかれ!」
警官「こいつめ!こいつめ!」
エリック「ええい、うるさいおまわりどもめ!」
エリック復活。並み居る警官たちをあっさりなぎ倒して、出て行きました。
Charity ...
一方エドナの慈善活動を手伝うチャーリー君。
チャーリー「(子供たちに食べ物を配る)さ、ご飯の時間だよ」
エリック「ううむ、あのおまわりはどこへいった!」
(自分の部屋に戻る)
妻「どこ行ってたのよ、このろくでなし!」
エリック「うるさい!」
妻「なによ、この!」
(夫婦喧嘩)(子沢山の家)
チャーリー「では、そろそろ失礼します(男と握手)」
強肩エリック。(投げたものが向かいのアパートに飛び込む)
チャーリー「大丈夫ですか、旦那さん?」
エリック復活を知った人々がまた集まってきました。(エリックの部屋)
チャーリー「むむ、なにやらまた騒がしいぞ」
(夫婦喧嘩は続く)
チャーリー「(中に入る)なんだなんだ、まったく忙しい町だな」
エリック「あ、お前!」
チャーリー「こりゃ大変(逃げる)」
エリック「待てーっ!」
チャーリー君とエリックの追いかけっこ。(野次馬たち)
町内を一周して部屋に戻ってきました。
チャーリー「(警棒で殴る)えい!えい!えい!」
エリック「へへへ、もう逃がさねえぞ(鍵を飲み込む)もうお前は袋のネズミだ!」
(ぐるぐる回る)
子沢山の男「おい、いい加減にしろ!」
チャーリー「えい!(男に命中)」
(攻防戦は続く)
エリック「ええい、ちょこまかしやがって!」
チャーリー君危機一髪、窓から樋を伝って下へ。町の荒くれどもも襲いかかってきます。
チャーリー「(鉢合わせ)いけない!」
(チャーリー、やり過ごしてエリックの部屋へ)
エリック「ええい、どこへ行った?」
チャーリー「よし、これじゃなくて(大きな家具を窓から)これ!」
(エリック倒れる)
エドナ「まあ!なんてこと!チャーリーさん!」
You keep out of this!
男「おい女、お前はすっこんでろ!」
哀れエドナは荒くれ者に連れ去られて行きます。
チャーリー「(ひと息つく)いやー、大変だった(転ぶ)」
一方エドナは地下室へ。
男「ここで大人しくしてろ!」
そこには麻薬中毒の男が、今まさに一発決めようとしているところでした。
男「あ!女だ!」
エドナ「こないで!」
男「……いい女だ!」
目をギラつかせて、ジャンキーの男はエドナに迫ります。
(くつろぐチャーリー)(地下室の攻防戦)(立ち上がるチャーリー)(攻防戦)
チャーリー「さて……そろそろ署に戻るかな(部屋を出る)野次馬は帰った帰った」
エドナ「来ないで!」
しかし荒くれどもはついにチャーリー君に襲いかかりました。
(地下室のジャンキー、注射器を置く)
男「へへへ」
不自然な注射器の置き方。
エドナ「誰か!助けて!」
荒くれどもに抱えられたチャーリー君、地下室に放り込まれました。
男「なんだお前は!この野郎!(殴る)どうだ!さあこっちに来い!」
チャーリー「んーーんん、お尻にチクリと……(お尻に刺さった注射器を見て)これは?あっ!エドナさん!」
たちまち全身の血がたぎり、アドレナリンが全開で放出され、チャーリー君ジャンキーをガッタガタのギッタギタにのしたのであります。しかし、まだ終わってはいません。残る荒くれどもを当たるを幸いちぎっては投げちぎっては投げ投げてはちぎり投げはちぎり、あっという間に片付けてしまいました。
エドナ「チャーリーさん!」
チャーリー「エドナさん!」
Love backed by force, forgiveness sweet. Brings hope and peace to Easy, street.
かくして、再び世界に愛は戻ってきました。正義の力と甘美な癒しによって、イージーストリートに、希望と平和が訪れました。
町の真ん中に新たに伝道所が作られました。人々はそこに集い、巡回するチャーリー君と挨拶を交わします。
人々「おまわりさん、こんにちは!」
(夫婦揃って出てくるエリック)エリックもまるで人が変わったよう。
チャーリー「まだかな……あっ!エドナさん!」
エドナ「チャーリーさん!お待ちになって?」
チャーリー「いえーーじゃあ、行きましょう」
エドナ「……ええ」
(腕を組んで歩くふたり)1917年アメリカミューチュアル社作品、チャールズ・チャップリン監督主演「チャップリンの勇敢」全巻の終わりであります。