1928年「チキン戦争」
Pass the gravy
監督 フレッド・グィオル
製作・脚本 ハル・ローチ
マックス Max Davidson
マックスの娘マーサ Martha Sleeper
シュルツ Bert Sprotte
シュルツの息子ジーン Gene Morgan
マックスの息子イグナッツ Spec O’Donnell
Once upon a time there was a man.
昔むかしーーひとりの男がいた。(庭に立つ3人)
Named Schultz
名前はシュルツ。(優勝カップを手に)
Who won many prizes.
その名は栄光に満ちていた。それは(優勝カップにグランドチャンピオンの文字)
With a rooster. “Brigham”, headman of the hennery.
品評会で最優秀賞に輝いた「ブリガム」という雄鶏によるもの。(シュルツが抱えている雄鶏。脚に金の足輪)
ジーン「いいかい、父さん」
Schultz’s son
シュルツの息子ジーンは
Loved the girl next door.
隣の家の娘マーサにぞっこんだった。
Her father raised flowers.
彼女の父マックスは、庭で花を育てていた。(種を愛おしそうに見る)
Her brother raised what it’s not polite to Mention.
そして、彼女の弟のイグナッツは、注意力散漫だった。(隣の庭に目をやる)
ジーン「もう一枚行くよ!」
イグナッツ「いいなあ、僕も撮ってほしいなあ(ジョウロが傾く)」
マックス「んん、急に冷え込んできたぞ……しかも尻だけが……(後ろを見て)おい!何をやってるんだ!」
イグナッツ「ごめんよ父さん」
マックス「もういい、向こう行ってろ!」
撮影会は続く。
シュルツ「こいつだけで撮ってくれ」
ジーン「いいよ。はい、撮れたよ」
さてマックスが種を蒔いていると……(後ろからブリガムがついて来て種を啄む)ゴンベが種まきゃカラスがほじくる。三度に一度は追わねばなるまい。
マックス「(ひと畝蒔き終えて)ああ、腰が痛い……あっーーこいつめ!(ブリガムを捕まえる)お前はとんでもないやつだ!
“Schultz, or not Schultz, you stay out of my yard — if you want to keep healthy!”
Tシュルツんところのトリだろうが何だろうが、うちの庭に勝手に入ってくるんじゃない!命が惜しくないのか!(放り投げる)」
しかし再び飛び込んでくるブリガム。何度放り投げても戻ってくる。ついにーー(何十羽ものニワトリが飛び込んでくる)
マックス「おい、こら!こいつめ!待て!(ブリガムを捕まえる)やっと捕まえた……よし、大人しくしろよ、いいな」
シュルツ「ん、ブリガムがおらん……(塀の節穴を覗く)あっ!おい、やめろ!(塀をぶち破る)やめろったら!(斧を取り上げる)
“Touch one hair on “Brigham’s” head and I’ll skin you alive!”
Tうちのブリガムにそれ以上触ってみろ、お前の皮を剥いでやるぞ!」
マックス「んん、それは……」
マーサ「パパ、どうしたの?」
“Can’t you quit fighting — even on our engagement day?”
Tジーン「父さんーー今日僕たちは婚約したんだよ、そんな記念すべき日に喧嘩なんかやめてくれよ」
シュルツ「う、うむーーそうだな」
“Sure! We’ll bury the hatchet and have a feast!”
Tマックス「確かにそうだ!こんなことは水に流して、パーティをしよう!」
マーサ「じゃあ私たちも準備するわね」
マックス「うむ……ワシもーーおーい、
“Ig — Natz!”
Tイグナッツ!イグナッツはどこだ?」
イグナッツ「なあに、父さん?」
マックス「(お札を渡して)ここに2ドルある。
“Get a two dollar roasting chicken.”
Tこれで、ローストチキンを買って来い」
イグナッツ「わかったよ」
マックス「うちのメイドに存分に腕を振るわせますんで」
シュルツ「それは楽しみですな。(ブリガムを放る)さあ、遊んでこい!」
イグナッツ「あっ!ニワトリだ!そうだ……こいつで2ドル浮くぞ」
(ブリガムの跡を追うイグナッツ。ふと上を見るとーー)
イグナッツ「ほらあれを見てごらん!よしっ!捕まえた!大人しくしろ!(飛び散るニワトリの羽)」
(暗転)(オーブンレンジの扉にeconomyの文字)そしてーーパーティのメイン料理、ニワトリの丸焼きが、旨みたっぷりの肉汁ーーグレイビーソースで味付けされ、着々と焼き上がって行く。
(優勝カップに注がれるワイン)
“Happiness to our loved ones — and many ‘Brigham’ win many more prizes!”
Tシュルツ「愛するふたりに幸せを願ってーーそしてブリガムはこれからもっとたくさんの賞を獲るに違いない!(ワインを飲む)さあ、どうぞ」
マックス「いただくよ」
イグナッツはお酒に興味津々のお年頃。
マックス「お前はまだ早い」
若い恋人たちも着飾ってーーパーティが始まる。
メイド「お待たせしました。あたしが腕によりをかけて作りましたからね、きっと腰を抜かしますよ」
(丸焼きがテーブルの真ん中に)
シュルツ「やあこいつは凄い!」
マックス「では切り分けるとしよう。ああ、この弾力、肉汁!
“It ain’t everybody can get a chicken like this!”
Tこんなチキンはそうそうあるもんじゃない!」
シュルツ「楽しみですな」
イグナッツ「ホント旨そう……ん、あれ?」
丸焼きチキンの足に燦然と輝く足輪ーそこに優勝の文字が!
イグナッツ「ーーあっ!」
普段はぼっとしているイグナッツの脳みそが人生で一番回転し始める。ニワトリの足に「一等賞」の足輪……シュルツさん家のブリガムは最近一等賞を取った……ブリガムはニワトリ……目の前の皿に載っているのはニワトリの丸焼き……つまりこれは……あああ、やっちまったオレ!
イグナッツの異変に、マーサが気づいた。
マーサ「(声に出さず)どうしたのイグナッツ」
イグナッツ「(声に出さず)これ、見てよ」
マーサ「(足輪の文字に気づいて)ええっ?まさかーーそんなーーもしかしてーー?」
イグナッツ「(声に出さず)そう……」
マーサ「(声に出さず)誰がこんなことを……?」
イグナッツ「(声に出さず)ーー俺が捕まえた」
マーサ「(声に出さず)どうしてそんなことを?」
イグナッツ「(シュルツを見る)父さんが2ドルくれた。チキンを買って来いって……」
マーサ「(声に出さず)それで?」
イグナッツ「(声に出さず)行こうとしたら塀の向こうからニワトリが飛んで来た。で、俺はそいつを追いかけて、スキをついて捕まえて……シメタ……(ニコニコ)そんでこうして……やっちゃった(頭を抱える)どうしよう姉さん」
マーサ「まったくあんたって人は……」
マーサは将来の夫にもこれを知らせねばと思った。
マーサ「ちょっと……あれ見て」
ジーン「え?……(足輪)ええっ!どういうこと?」
これはシュルツ氏に知られてはならない、その場にいるほとんどの人々ーー二人の父親以外のすべての人々がそう思った。
(イグナッツがチキンの足を取ろうとして叩かれる)
シュルツ「ずいぶん腹が空いているようだね」
イグナッツ「ええ……まあ」
マックス「私がちゃんと切り分けるから……これ、行儀が悪いぞ」
シュルツ「(怪訝そうに)まったくそうだと思うよ」
しかしイグナッツはめげなかった。(上を指差して気を逸らそうとするがダメ)
マックス「いい加減にせんか!本当に怒るぞイグナッツ!私が切り分けてやるといっておるだろうが!(切り分けて)ほれ、お前はこれだ」
イグナッツ「……」
シュルツ「よかったじゃないか」
イグナッツ「もうおしまいだよ」
マックス「さあシュルツさん、皿を」
シュルツ「ありがとう」
まさに足輪のついた部分がシュルツの皿へーー
イグナッツ「ダメだ……本当におしまいだ……神様……」
真実を知る者はみな、目を見開いた。
マックス「さあ、どうぞ」
(みな手を伸ばす)
マックス「何をするんだお前たち!これはシュルツさんのチキンだ」
シュルツ「どうも。ありがとう……やあ、うまそうだ」
(シュルツ氏、かぶりつく)
シュルツ「こいつぁうまい!
“It tastes as good as one of mine.”
Tたぶん私のチキンと同じくらいおいしいですな」
イグナッツ「そりゃそうだよ……」
シュルツ「何だって?」
イグナッツ「いえ……何でもありません」
3人の緊張は高まる。もういつバレても不思議ではない。
イグナッツ「どうしよう……(シュルツ氏の靴)そうだ!(コップを靴の上に落とす)ああっ!」
シュルツ「ああ、痛い!(立ち上がる)」
その隙に足輪をマッシュポテトで隠す作戦。ひとまずこれで時間稼ぎが出来る。イグナッツ、グッジョブ!
マックス「んん?どうかしましたかシュルツさん?」
シュルツ「い、いや……(イグナッツを睨んで)」
イグナッツ「あ、ごめんなさい……」
しかし、シュルツ氏はマッシュポテトも大好物だった。
万事休すーーイグナッツは父親に別れを告げ、その場を去って行く。
シュルツ「(どうした?という表情)」
イグナッツ「(首を振りながら)もうおしまいだ。さようなら」
堪え切れず泣きながら出て行くイグナッツ。
マックス「ーーなんだあいつは?」
“That kid’s hiding something from us!”
Tシュルツ「あの子は何かを隠しているようですな!」
マックス「いやいや、どうせたいしたことじゃありませんよ」
シュルツ「そうですか」
破滅の予感に、若い恋人たちも席を立つ。
マーサ「パパ、じゃあね」
ジーン「お父さん、失礼します」
シュルツ「……?」
ふたりはそれでも一縷の望みを託した。何とかシュルツ氏が気づく前にマックスに気づかせることができないかーー
ジーン「無理かもしれない……」
シュルツ「……?」
“They act like it’s a funeral!”
T「まるで葬式に出てるみたいなそぶりじゃありませんか?」
“We’ll have more for ourselves!”
Tマックス「我々にはこれだけの料理が残された、ということですな。さあ大いに食べましょう」
シュルツ「そうですな!」
マーサとジーンは絶望に苛まれながら懸命に考えたあげくーー
ジーン「(声に出さず)お父さん!見て!」
マックス「ん?(身振り手振り)何だそりゃ?」
シュルツ「何をしとるんです?(後ろを見る)」
(笑いながら退場するふたり)
シュルツ「何ですかな、あのふたりは?」
“It’s love makes them that way!”
Tマックス「いやあ、愛がそうさせるんでしょうきっと!若い頃は私もそうでした」
シュルツ「そう、ですかねえ……愛ねえ」
めげずにマックスにメッセージを送るふたり。
マックス「何をいいたいんだ?」
(ステップを踏みながら退場する)
シュルツ「あれも、愛ですか?」
マックス「うーん、そうだと思いますがねえ」
シュルツ「……」
(ふたりまた出てくる)(ニワトリのジェスチャー)
マックス「……?」
まさに素人参加のゴングショーのよう。
マックス「うーむ、わしは何を見せられているんだ?」
シュルツ「(振り向いて)ーーん?」
“As I was saying. You must pass the ball smartly.”
Tジーン「だから僕がいってるじゃないか、スマートにパスを出さないと。こんな風に」
(マーサ、去る。ジーンの足を引っ張るが、ズボンが脱げる。ジーン、去る)
マックス「ん?」
ふたりはついに、ブリガムがさばかれるシーンを演じ始めた。
マックス「何をいいたいんだ?」
マーサ「(優勝カップを見せる)これこれ!で、こっちが」
マックス「ん?それはつまり、これが(皿を指して)?」
マーサ「そう!そう!」
マックス「え?……え?……それは……つまり……!」
ようやく事態を把握しはじめたマックス。(皿の上の足輪)そしてイグナッツはーー(救急車を呼び止めている)
救急隊員「(担架を持って)怪我人はどこですか?」
マックス「……!」
“Stick around a few minutes!”
Tジーン「しばらく待っててください。すぐに怪我人がでるので」
いまや、マックスはすべてを了解した。あの担架に誰が乗るのかも。
マックス「これはいかん。これはいかんぞ(立ち上がってシュルツの近くへ)」
問題はあの足輪。それをシュルツ氏に気づかせてはいけない。マックスの奮闘が始まった。(足輪のついた肉を大皿に戻し、白い部分を皿に)
“Take the white meat! It’s more expensive!”
T「もっと白いところも食べないと!こっちの方が高価ですからね」
シュルツ「いや、私に取ってはこちらの方が価値がありますね(戻す)どうかお気遣いなく」
マックス「まあそんなこといわずに」
シュルツ「余計なお世話ですな。
“It's my chicken — and I’m going to eat it!”
Tこれは私のチキンです!だから、私はこれを食べるんだ!」
ふたつの皿の間をグレイビーソースのかかった肉とかかっていない肉が行ったり来たり。お互い一歩も譲らず、ついには手づかみでーー
シュルツ「いい加減にしないか!」
マックス「いや、食べ過ぎはいかん!」
シュルツ「うーん、もう我慢ならん!(テーブルをどかす)その肉をよこせ!」
3人対ひとりで肉を奪い合う泥試合。これぞまさに肉弾戦。
シュルツ「私の肉をよこせ!」
そしてついに肉はシュルツ氏の手にーー
シュルツ「はははは、やった!やったぞ!ざまあみろ……あっ!こ、これは……これは……
“Brigham!”
Tブリガムっ!」
マックス「しまった……」
シュルツ「……どういうことだ?」
マックス「それは……失礼!(逃げる)」
シュルツ「待て!許さんぞーっ!」
(逃げるマックス)シュルツ氏、怒りをこめた渾身の一投。狙いはあやまたずーーのちにシュルツ氏は遠投の世界記録を達成するが、それはまた別の話。1928年製作「チキン戦争」映画一巻の終わり。
