1933年横浜シネマ商会作品「百万両珍騒動〜三公と蛸」
横浜シネマ商会・村田安司による切り紙アニメーション。逓信省簡易保険局委託作品。お祭りと踊りが大好きな魚屋の三公。昨夜も夜通し踊って呑んで、家に帰って仕事もせずに寝ていると、熊さんが海に眠るお宝の場所が描かれた地図を持ってやって来る。その額なんと百万両!欲に目が眩んだ三公は早速船を操って海へ。海底から見事にお宝を引き上げるのだが、なぜか大蛸が後を追いかけて来る。その宝の箱に入っていたのは……
【前説】ご来場誠にありがとうございます。活動写真弁士の山城秀之でございます。ただいまよりご覧いただきますのは切り紙アニメーション「百万両珍騒動〜三公と蛸」という作品です。今回の大活動写真大会では、本作と夜の部の「こがねの花」がアニメーション作品となっております。伴奏は湯浅ジョウイチさんです。どうぞ最後までごゆっくりお愉しみください。
(鎮守の森)遠く近く、打ち寄せる漣のように、また岩を噛む波濤のように、村ハズレ、鎮守の森の樹々を越えて聴こえてくるのは、単調にして複雑な調べ、いつやむともしれぬ律動と突然の静寂ーーおりから中空に登った月はあわあわと地上を照らしております。
(踊る人々)村祭りの夜。
人はーー春の訪れをことほいで集い踊る。夏ともなればこぼれるような星空のした踊る。豊かな秋の収穫を喜んで踊る。厳しい冬を迎える準備をようやく終えて踊る。ことほどさように、人と祭りと踊りは切っても切れない関係なのであります。(ひとり輪から外れて踊る男)
(踊りの輪を見物している人々)
ここに、三度の飯より祭り好きーーいや、踊り好きの男がひとり。(踊りの指示をする人)魚屋の三公といいます。この三公、踊りの次に好きなのが酒。お祭りの夜ともなれば一杯ひっかけてから踊りの輪に入ろうとするものの、まともに踊れるわけでもなくひとり勝手に踊っては喜んでおります。
(自宅に帰ってくる三公)その日も昼間の稼ぎをふところに、ほろ酔い気分で祭囃子に誘われて、下手の横好きで結局踊りの輪にも入れず、村人たちに笑われながらもよい心持ちで帰ってきてーーそのまま横になって高イビキ。(暗転)
翌朝ーー
女房「ちょっとあんた、あんたったら!T夜があけましたよ。買い出しに行くんですよ。ねえ、ちょっと!まったくーーTたまには踊りも結構だが、仕事にでられないほど酔っ払うのは困っちまうね。さあ、起きてくださいよう!」
三公「うるせえなあ。今日は休みだい」
女房「ええ?そうそういつも休むわけには行かないじゃないか!Tしかたがない、また私が買い出しだ」
(大八車を引いて行く女房)申し訳ない気持ちがないわけでもない三公。(布団を頭からかぶる)とそこへやってきたのはーー
熊公「おい、三公、いるか?」
ガキの頃から腐れ縁の漁師の熊さん。今は怪我をしてぶらぶらしております。
T熊さん「三公!三公!いねえのか?ん?いるじゃねえか。おい、T三公!おい、いつまで寝てやがる!(松葉杖でこづく)」
三公「痛えなあ。Tひでえことをするない!」
熊さん「ははははは。T早朝から熊さんという福の神のご入来だ。怒るな怒るな。はははは」
三公「なにを?T何が福の神だ?」
熊さん「まあまあーーちょっとこれを見てくれ(懐から地図を出す)」
三公「なんだいこりゃ?」
熊さん「三公ようーーTお前を見込んで打ち明けるんだが、実はこうなんだ……」
三公の耳元で熊さんが話すことにはーー
(荒れ狂う波、嵐、稲光)
熊さん「お前も話くらいは聞いたことがあるだろう、もう何十年も昔、百年に一度といわれるような大嵐の夜のことだ。堺の港で千両箱をいくつも積み込んだ船があった。(岩)荒れ狂う大時化の海に揉まれて船は海路を見失い(岩にぶつかる)真っ二つになって、とうとう沈没ーーそれがこのあたりだ。(地図を指差す)船は、積み込まれた千両箱もろとも、まだ海の底に眠っているそうだ(海底に沈んだ船の残骸)ーーTそのとき生き残った船頭が、この間死んだ隣村の作兵衛爺さんだ。身寄りのないあの爺さんがいまわのきわに俺にこういって(作兵衛、懐から地図を出す)この地図をくれたのさ。(にやりと笑って)Tというわけで、この秘密を知ったのは俺だけだ……Tところが俺はこの体でなんとも仕方がない。船に乗ることもできゃしねえ。(身を乗り出す)Tそこで、仲良しのお前にすっぱりこの仕事を譲ろうというんだ。ただし引き上げた金は山分けという約定で……どうだい三公、乗るかい?」
三公「せ、千両箱はいくつ積んでたんだ?」
(海底の難破船)
熊さん「作兵衛爺さんの話じゃあ、少なく見積もっても百万両」
三公「ひゃ、百万両?ってことは……ええと、いくらなんだ?えーと、えーとーー」
(暗転)こうして熊さんから作兵衛爺さんの宝の地図を受け取ったもののーーそれを聞いたおかみさんは猛反対。
三公「うるせえな!俺は行く!行くっていったら行くんだい!」
(おかみさんを振り切って出て行く)
三公「まったく話のわからねえ嬶だよ。海の底へ行くのが危ないって?海が怖くって魚屋ができるかい!何しろ百万両だぞ百万両。それだけの大金が手に入りゃあもう怖いもんなしじゃねえか、ええ、左うちわのお大尽ってもんだ。まったく嬶ってのは困ったもんだよ」
かくて三公、地図を頼りに宝の船がぶつかった大岩目指してひた走る。(地図)
三公「(手をかざす)おお、あれじゃねえか?ええ、待ってろよぅ、お宝お宝」
(暗転)(大岩に係留する三公)
三公「よし、これでいいーーさて。えいっ(飛び込む)」
勢いよく飛び込んで、一直線に海の底へ。
三公「(海中で態勢を変える)よっ、ほっ、いてて。うむ、着いたぞ……さあて、お宝はどこだ?(千両箱がいくつか)お、あった!」
三公海中で大喜び。さてすでにうっすらこの先の展開がおわかりの方もございましょうが、今しばらく我慢してご覧ください。
三公「あったあった!宝の山だ!お大尽だ!おおうい!」
よぉっく訓練された縄の端が、呼ばれてすうっと三公の手元へ。
三公「よしよし(千両箱にくくりつける)さてーー(タコの足が)あっ!ちょちょちょっと!助けてくれーっ(逃げ出す)」
(捕まえそこねて墨を吐くタコ)(船に戻る三公)
三公「ひゃー、まったくたまげた!ありゃあいったいなんだ?」
(タコ、縄のついた千両箱を引っ張る)三公とりあえず縄で結えた千両箱だけでも引き上げようとするもののーー
三公「うんしょ、うんしょ、うんしょーっ!」
(千両箱ごと引き上げられるタコ)(岩にぶつかって手を放す)
三公「よいしょ、よいしょーーやややっ!に、逃げろーっ」
沈んだお宝の守り主なのか、大ダコ凄まじい形相で後を追ってきます。
三公「何だい何だいあの八本足は!」
どうにも執念深いタコ。
三公「まだ追っかけてきやがる!」
海図もなにもあったものではなく、しゃにむに逃げるうちに丘に上がってひと安心、と思いきや(船が砂に埋まる)
三公「おいおいおい」
(島民たち、踊っている)さて宝の地図は日本沿岸であったはずがーーいつの間にやらなにゆえやら、ここは南洋の離れ小島。もうすっかり皆様お気付きとは思いますが、もう少しお付き合いのほどを。(千両箱を抱えて逃げる三公)(追う大ダコ)紫紺の空には星乱れ、緑の野には花吹雪、千村万落春たけて、春や春、春南方のローマンス。(千両箱を抱えて逃げる三公)(追う大ダコ)踊り好きは洋の東西南北を問わず。ひとたび踊り始めれば、いつやむとも知れぬ狂乱の宴。
しかしここでようやく迫り来る異変に気付いた人々。恐怖に慄きつつ、われ先に逃げて行く。(家の中へ)
三公「おいおいおいおい(中に入る)」
(大ダコも家の中へ)このシーンがかの国民的アニメーションのエンディングに影響を与えたに違いない、といえなくなくもないのではないでしょうか?(出てくる人々、一人が千両箱を抱えている。三公、追う大ダコ)
三公「おいおいおい、そりゃあ俺んだ!」
さてーー南洋の島といえば椰子の木。(椰子のジュースを飲んでいる猿)
猿「おやおやーー?」
三公「待て待て待て待て」
(逃げる島民)(三公を追い抜く大ダコ)やはり足は多いに越したことはないようでーー
猿「(椰子の実を投げる)えいっ!」
見事命中。
猿「ははははははーーん?」
島民「うーん……まだまだ」
(フラフラしながら逃げる島民)踊り好きのサガのなせるワザか、朦朧としつつ踏むステップ。
猿「うーむ、なかなかしぶとい。ではもう一個ーー(外れ)ええい今度こそ(投げる)」
これでトドメをさされてついにダウン。
猿「愉快愉快ーーさて、抱えているのはいったい何かな?」
(追う大ダコ)(追う三公)
三公「待て待て待て待て」
猿「ほほ、いただき」
島民「これはオレのものだ!放せ!」
千両箱は三公のもとへ。しかし大ダコもまだ諦めぬ。ついに取り戻したその中にはーー(飛び出してくるタコのおかみさんと子供のタコが三匹)
三公「な、何だこりゃあ(倒れる)」
島民・猿「あはははは」
タコの一家が帰って行く。皆様ここまでご覧いただき誠にありがとうございます。あと一息、あと一分であります。
猿「あれあれ、あの人ーー大丈夫かね……ちょいと、ちょいと」
女房「ちょいとあんた、起きてくださいよ。Tいつまで寝るんだろう。もうお昼ですよ」
三公「ーーうーん。え?Tタコはどうした?」
女房「タコですか?Tタコは大きいのを二つ、イイダコが四十ばかりーー足が早いからすぐ茹でときました」
三公「ーーは?」
(店先に並べられた魚たち)
女房「他にもいろいろ見繕って買っときましたから」
三公「はあ。その金はどうしたーー?」
女房「ゆんべ帰ってきたときに私に投げて寄越したじゃありませんか、これお釣り」
ようやく夢を見ていたことに気付いた三公。恐縮することしきり、まったく、おかみさんには頭が上がらないのであります。
T三公「何だ、ありゃ?なんの音だい?」
T女房「大家さんがまた新築をはじめるんですとさ」
すべてはこれ邯鄲夢の枕、「百万両珍騒動〜三公と蛸」、映画一巻の終わり。
【後説】どうもありがとうございました。伴奏は湯浅ジョウイチさんでした。途中、われわれの大先達の名調子を一部使わせていただきました。さて続きましては弁士アラカンます子によるマキノプロダクション作品「三朝小唄」サウンド版でお送りいたします。引き続きお愉しみください。
横浜シネマ商会・村田安司による切り紙アニメーション。逓信省簡易保険局委託作品。お祭りと踊りが大好きな魚屋の三公。昨夜も夜通し踊って呑んで、家に帰って仕事もせずに寝ていると、熊さんが海に眠るお宝の場所が描かれた地図を持ってやって来る。その額なんと百万両!欲に目が眩んだ三公は早速船を操って海へ。海底から見事にお宝を引き上げるのだが、なぜか大蛸が後を追いかけて来る。その宝の箱に入っていたのは……
【前説】ご来場誠にありがとうございます。活動写真弁士の山城秀之でございます。ただいまよりご覧いただきますのは切り紙アニメーション「百万両珍騒動〜三公と蛸」という作品です。今回の大活動写真大会では、本作と夜の部の「こがねの花」がアニメーション作品となっております。伴奏は湯浅ジョウイチさんです。どうぞ最後までごゆっくりお愉しみください。
(鎮守の森)遠く近く、打ち寄せる漣のように、また岩を噛む波濤のように、村ハズレ、鎮守の森の樹々を越えて聴こえてくるのは、単調にして複雑な調べ、いつやむともしれぬ律動と突然の静寂ーーおりから中空に登った月はあわあわと地上を照らしております。
(踊る人々)村祭りの夜。
人はーー春の訪れをことほいで集い踊る。夏ともなればこぼれるような星空のした踊る。豊かな秋の収穫を喜んで踊る。厳しい冬を迎える準備をようやく終えて踊る。ことほどさように、人と祭りと踊りは切っても切れない関係なのであります。(ひとり輪から外れて踊る男)
(踊りの輪を見物している人々)
ここに、三度の飯より祭り好きーーいや、踊り好きの男がひとり。(踊りの指示をする人)魚屋の三公といいます。この三公、踊りの次に好きなのが酒。お祭りの夜ともなれば一杯ひっかけてから踊りの輪に入ろうとするものの、まともに踊れるわけでもなくひとり勝手に踊っては喜んでおります。
(自宅に帰ってくる三公)その日も昼間の稼ぎをふところに、ほろ酔い気分で祭囃子に誘われて、下手の横好きで結局踊りの輪にも入れず、村人たちに笑われながらもよい心持ちで帰ってきてーーそのまま横になって高イビキ。(暗転)
翌朝ーー
女房「ちょっとあんた、あんたったら!T夜があけましたよ。買い出しに行くんですよ。ねえ、ちょっと!まったくーーTたまには踊りも結構だが、仕事にでられないほど酔っ払うのは困っちまうね。さあ、起きてくださいよう!」
三公「うるせえなあ。今日は休みだい」
女房「ええ?そうそういつも休むわけには行かないじゃないか!Tしかたがない、また私が買い出しだ」
(大八車を引いて行く女房)申し訳ない気持ちがないわけでもない三公。(布団を頭からかぶる)とそこへやってきたのはーー
熊公「おい、三公、いるか?」
ガキの頃から腐れ縁の漁師の熊さん。今は怪我をしてぶらぶらしております。
T熊さん「三公!三公!いねえのか?ん?いるじゃねえか。おい、T三公!おい、いつまで寝てやがる!(松葉杖でこづく)」
三公「痛えなあ。Tひでえことをするない!」
熊さん「ははははは。T早朝から熊さんという福の神のご入来だ。怒るな怒るな。はははは」
三公「なにを?T何が福の神だ?」
熊さん「まあまあーーちょっとこれを見てくれ(懐から地図を出す)」
三公「なんだいこりゃ?」
熊さん「三公ようーーTお前を見込んで打ち明けるんだが、実はこうなんだ……」
三公の耳元で熊さんが話すことにはーー
(荒れ狂う波、嵐、稲光)
熊さん「お前も話くらいは聞いたことがあるだろう、もう何十年も昔、百年に一度といわれるような大嵐の夜のことだ。堺の港で千両箱をいくつも積み込んだ船があった。(岩)荒れ狂う大時化の海に揉まれて船は海路を見失い(岩にぶつかる)真っ二つになって、とうとう沈没ーーそれがこのあたりだ。(地図を指差す)船は、積み込まれた千両箱もろとも、まだ海の底に眠っているそうだ(海底に沈んだ船の残骸)ーーTそのとき生き残った船頭が、この間死んだ隣村の作兵衛爺さんだ。身寄りのないあの爺さんがいまわのきわに俺にこういって(作兵衛、懐から地図を出す)この地図をくれたのさ。(にやりと笑って)Tというわけで、この秘密を知ったのは俺だけだ……Tところが俺はこの体でなんとも仕方がない。船に乗ることもできゃしねえ。(身を乗り出す)Tそこで、仲良しのお前にすっぱりこの仕事を譲ろうというんだ。ただし引き上げた金は山分けという約定で……どうだい三公、乗るかい?」
三公「せ、千両箱はいくつ積んでたんだ?」
(海底の難破船)
熊さん「作兵衛爺さんの話じゃあ、少なく見積もっても百万両」
三公「ひゃ、百万両?ってことは……ええと、いくらなんだ?えーと、えーとーー」
(暗転)こうして熊さんから作兵衛爺さんの宝の地図を受け取ったもののーーそれを聞いたおかみさんは猛反対。
三公「うるせえな!俺は行く!行くっていったら行くんだい!」
(おかみさんを振り切って出て行く)
三公「まったく話のわからねえ嬶だよ。海の底へ行くのが危ないって?海が怖くって魚屋ができるかい!何しろ百万両だぞ百万両。それだけの大金が手に入りゃあもう怖いもんなしじゃねえか、ええ、左うちわのお大尽ってもんだ。まったく嬶ってのは困ったもんだよ」
かくて三公、地図を頼りに宝の船がぶつかった大岩目指してひた走る。(地図)
三公「(手をかざす)おお、あれじゃねえか?ええ、待ってろよぅ、お宝お宝」
(暗転)(大岩に係留する三公)
三公「よし、これでいいーーさて。えいっ(飛び込む)」
勢いよく飛び込んで、一直線に海の底へ。
三公「(海中で態勢を変える)よっ、ほっ、いてて。うむ、着いたぞ……さあて、お宝はどこだ?(千両箱がいくつか)お、あった!」
三公海中で大喜び。さてすでにうっすらこの先の展開がおわかりの方もございましょうが、今しばらく我慢してご覧ください。
三公「あったあった!宝の山だ!お大尽だ!おおうい!」
よぉっく訓練された縄の端が、呼ばれてすうっと三公の手元へ。
三公「よしよし(千両箱にくくりつける)さてーー(タコの足が)あっ!ちょちょちょっと!助けてくれーっ(逃げ出す)」
(捕まえそこねて墨を吐くタコ)(船に戻る三公)
三公「ひゃー、まったくたまげた!ありゃあいったいなんだ?」
(タコ、縄のついた千両箱を引っ張る)三公とりあえず縄で結えた千両箱だけでも引き上げようとするもののーー
三公「うんしょ、うんしょ、うんしょーっ!」
(千両箱ごと引き上げられるタコ)(岩にぶつかって手を放す)
三公「よいしょ、よいしょーーやややっ!に、逃げろーっ」
沈んだお宝の守り主なのか、大ダコ凄まじい形相で後を追ってきます。
三公「何だい何だいあの八本足は!」
どうにも執念深いタコ。
三公「まだ追っかけてきやがる!」
海図もなにもあったものではなく、しゃにむに逃げるうちに丘に上がってひと安心、と思いきや(船が砂に埋まる)
三公「おいおいおい」
(島民たち、踊っている)さて宝の地図は日本沿岸であったはずがーーいつの間にやらなにゆえやら、ここは南洋の離れ小島。もうすっかり皆様お気付きとは思いますが、もう少しお付き合いのほどを。(千両箱を抱えて逃げる三公)(追う大ダコ)紫紺の空には星乱れ、緑の野には花吹雪、千村万落春たけて、春や春、春南方のローマンス。(千両箱を抱えて逃げる三公)(追う大ダコ)踊り好きは洋の東西南北を問わず。ひとたび踊り始めれば、いつやむとも知れぬ狂乱の宴。
しかしここでようやく迫り来る異変に気付いた人々。恐怖に慄きつつ、われ先に逃げて行く。(家の中へ)
三公「おいおいおいおい(中に入る)」
(大ダコも家の中へ)このシーンがかの国民的アニメーションのエンディングに影響を与えたに違いない、といえなくなくもないのではないでしょうか?(出てくる人々、一人が千両箱を抱えている。三公、追う大ダコ)
三公「おいおいおい、そりゃあ俺んだ!」
さてーー南洋の島といえば椰子の木。(椰子のジュースを飲んでいる猿)
猿「おやおやーー?」
三公「待て待て待て待て」
(逃げる島民)(三公を追い抜く大ダコ)やはり足は多いに越したことはないようでーー
猿「(椰子の実を投げる)えいっ!」
見事命中。
猿「ははははははーーん?」
島民「うーん……まだまだ」
(フラフラしながら逃げる島民)踊り好きのサガのなせるワザか、朦朧としつつ踏むステップ。
猿「うーむ、なかなかしぶとい。ではもう一個ーー(外れ)ええい今度こそ(投げる)」
これでトドメをさされてついにダウン。
猿「愉快愉快ーーさて、抱えているのはいったい何かな?」
(追う大ダコ)(追う三公)
三公「待て待て待て待て」
猿「ほほ、いただき」
島民「これはオレのものだ!放せ!」
千両箱は三公のもとへ。しかし大ダコもまだ諦めぬ。ついに取り戻したその中にはーー(飛び出してくるタコのおかみさんと子供のタコが三匹)
三公「な、何だこりゃあ(倒れる)」
島民・猿「あはははは」
タコの一家が帰って行く。皆様ここまでご覧いただき誠にありがとうございます。あと一息、あと一分であります。
猿「あれあれ、あの人ーー大丈夫かね……ちょいと、ちょいと」
女房「ちょいとあんた、起きてくださいよ。Tいつまで寝るんだろう。もうお昼ですよ」
三公「ーーうーん。え?Tタコはどうした?」
女房「タコですか?Tタコは大きいのを二つ、イイダコが四十ばかりーー足が早いからすぐ茹でときました」
三公「ーーは?」
(店先に並べられた魚たち)
女房「他にもいろいろ見繕って買っときましたから」
三公「はあ。その金はどうしたーー?」
女房「ゆんべ帰ってきたときに私に投げて寄越したじゃありませんか、これお釣り」
ようやく夢を見ていたことに気付いた三公。恐縮することしきり、まったく、おかみさんには頭が上がらないのであります。
T三公「何だ、ありゃ?なんの音だい?」
T女房「大家さんがまた新築をはじめるんですとさ」
すべてはこれ邯鄲夢の枕、「百万両珍騒動〜三公と蛸」、映画一巻の終わり。
【後説】どうもありがとうございました。伴奏は湯浅ジョウイチさんでした。途中、われわれの大先達の名調子を一部使わせていただきました。さて続きましては弁士アラカンます子によるマキノプロダクション作品「三朝小唄」サウンド版でお送りいたします。引き続きお愉しみください。
