ポケットから文庫本 〜「坂の上の雲」と日本人 関川夏央(著)〜 | B&Fab「本」と「ものづくり」と「珈琲」

B&Fab「本」と「ものづくり」と「珈琲」

本(Book)とモノづくり(Fabrication)を中心に、人が集まり会話が生まれる憩いの場、そんな場所を作りたく、ただいま奮闘中!(または迷走中)

新年スタートしたシリーズ「ポケットから文庫本」の第2弾


「坂の上の雲」と日本人 関川夏央(著)

「坂の上の雲」はご存知の通り、司馬遼太郎の名著のひとつです。
明治という文明開化の時代、それまでの武家社会から近代の民主社会への変換という、まさに言葉では表せないほどの、混迷のまたは迷走の時代を、本気で己の生死をかけて生き抜いた若者たちの物語です。

明治維新により、それまでとは全く違う環境での生活を強いられることになるのですが、当時の若者たちにも、世の中がつまらないとか政治家が悪いとか、そんな冷めた気持ちもあったのでしょうか?

この物語の3人の主人公(秋山好古、秋山真之、正岡子規)は、松山藩(現愛媛県)に生まれます。そして青年になり、志を持って上京します。
秋山兄弟は軍人に、正岡子規は文学の道に、それぞれ分かれていきますが、近代日本国家、日本文化の創生期に大きな影響を及ぼす、大きな仕事をすることになります。


本書は、その明治日本の青春物語「坂の上の雲」に、作者司馬遼太郎が込めた真のメッセージを追求する評論です。
著者の関川夏央氏が解明したひとつには、この小説は「反内面」「反ナルシスズム」を主張する写実小説(私小説に対し)である、ということです。
これはどういうことなのかというのを、私なりに考えてみました。


欧米列強のアジア地域占領攻撃から国を守るために、明治日本政府は総力をあげて強国ロシアと対し、奇跡的な勝利をあげることになります。その勝利には、武家社会で培われた「武士道」が大きく影響していることは間違いありません。
明治日本はその勝利を機に軍事国家として成長し、近隣諸国に進出していくことになりますが、明治以降生まれた真の「武士道」を学んでいない人たちが次第に国家の中心になっていきます。
そして時代は流れ、ついには第二次世界大戦の敗戦で国家存亡の危機的状況を招くことになります。この戦争を引き起こしたのは、国家として最大の誤りであったのだということが、「坂の上の雲」作者司馬遼太郎の主張であり、戦後20年以上経った今(坂の上の雲が書かれていた頃)、高度成長期の真っ只中の日本国家が、また再び自己陶酔に陥って同じ過ちを繰り返すことにならなかと言うことを危惧して、物語を通じてメッセージを伝えているものであるということだと思うのです。


時は過ぎ、幸いに平和国家として今も生き残っている日本ですが、その後もバブルで大騒ぎし、その崩壊で日本経済は約20年の成長を失うことになります。そしてまた今、アベノミクスという実体のないまやかしを皆で崇め、あたかも今後の成長は間違いないようなことを風潮する政治社会。いまこそもう一度歴史に学び、同じ過ちを繰り返さないことが重要ではないかと思うのです。


戦後70年、激動の中で現在の平和国家を築いてきた日本ですが、いままさにその根底が大きな変革を起こしていることに気付き始めています。
私たち昭和日本人が、過去に学んだ苦い体験を改めて反省し、未来の日本に何を残していくのか、未来の日本を背負っていく若者たちに何を伝えていくことができるのか、真剣に考えなければいけない時に直面しているのではないのでしょうか。

自分の懐だけを肥やすような生き方はもうやめにして。


(了)