第四章「大人にできること」 | 元校長先生のブログ

第四章「大人にできること」

生活保護と子ども-(1)

 

 養育家庭(里親)として、児童相談所からの要請を受け、小6の兄と小1の妹のきょうだいを預かって、近くの小学校へ私の家から1ヶ月くらい通わせたことがある。母子家庭で、母親が入院してしまったために子どもの面倒を見る人がいない、という事情によるものだ。母親は、生活保護を受けていると聞かされた。



元校長先生のブログ-生活保護と子ども-(1)




 児童相談所関連の施設に、「一時保護所」という施設がある。ここに入所する方法もあるのだが、そこからでは学校に通えなくなってしまう。その一時保護所が「満員」という事情もある。一時保護所が満員で入れないなら、それはもう一時保護所とは言えないではないか、と素朴な疑問も消えないが、相次ぐ児童虐待の被害児童でいっぱいなのだそうだ。虐待をエスカレートさせないために、児童相談所は、時として警察や裁判所等とも連携しながら、被害の子どもを強制的に親から引き離して、一時保護所に入所させる。その数がここ数年増え続け、すぐに満杯になってしまうというわけだ。


 

 朝晩の冷気が感じられる晩秋に、そのきょうだいは我が家にやってきた。児童相談所の職員が大きな荷物を抱えて連れてきてくれたそうだ。私が仕事から帰ると、二人は仲良く炬燵に入って肩を並べて勉強している。


「コンニチワ、よろしくお願いします」とキチンとあいさつする。大人に気に入られるための精一杯の背伸びだろうとは推察できるが、いきなり腹にパンチを浴びせてくる子どもよりは、いいのかもしれない。


 だが、妙なこともあった。児童相談所の職員が運んでくれたこの子たちの冬物の衣類は、みな新品なのである。我が家で1週間ぐらいいっしょに暮らすと、だんだん慣れてきて、子どもたちも私たちに気を許すようになる。


「誰に買ってもらったの?」と聞くと「お父さんに」と答える。テレビの音楽番組を見ながら1年生の妹が「この人のコンサート、行ったんだぁ」と嬉しそうに呟く。

「いいなあ。誰と行ったの?」と聞けば「お父さんと・・」と答える。


 6年生のお兄ちゃんは「それ、内緒にしときなさいってお母さんが言ってただろ」と小さな声でたしなめる。「愛してる人と一緒に暮らすのと、ちゃんとご飯が食べられるのと、どっちがいい?」などと、小学校1年生にしては妙に大人びた会話もあった。真新しい文房具も、お父さんに買ってもらったと言って、見せてくれる。


 学校にも問い合わせてみると「そうなんです。お父さんは運動会にも来ていたんですよね。どうもよくわからないのです。」と、曖昧な返答である。ついでに「お兄ちゃんは、公立の中高一貫校を希望しているようですが?」と尋ねてみると「それは無理でしょう。彼特有の見栄ですよ。」と先生は言う。子どもが重い背景を背負っている場合、虚言で自分を保とうとするのはよくあることだ。偽りの武装で身を固め、自分を防御しようとするのではないだろうか。それにしても、母子家庭と聞いていたのに、これはどうしたことだろう。


 見慣れぬタバコの吸い殻が2本、隣の家の植え込み近くに落ちていたことがある。きょうだいがやって来た翌朝に発見したものだ。ひょんなことから「お父さんのタバコはセブンスターだよ」とお兄ちゃんが語ってくれたことがある。2本の吸い殻は、セブンスターだった。


 向かいに住む近所の奥さんが「夜8時過ぎに加藤さんの家の前に男の人が居た」と証言している。死んだはずの男が実は生きていて、近隣の住まいの灯りでその男の顔が映し出されるというサスペンス映画『第三の男』のようだ。今では「第三の男」は、このきょうだいの父親であろうと確信しているが、我が子可愛さの行動と信じたい。


 つまり、この子たちの両親は、生活保護を受給するために「形式的離婚」「偽装離婚」をしていた疑惑が極めて濃厚というわけだ。しかし私は、この夫婦を責める気がほとんど無い。なぜなら、もっと悪質な「不正受給」があるからだ。


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