第二章「親の態度で子どもも変わる」
卒業後の進路は誰が決めるのかーその(2)
子どもと父親と私との面談、こちらは打って変わって父親はほとんどしゃべらない。
「この成績では、よほど頑張らないと希望の高校には入れないよ。」と私が言う。「はい。分かっています。」と生徒が答える。その生徒は日ごろからおとなしく、授業中にも自分から手を挙げることがないような生徒なので、あまり発言もしないだろうと予想し、「お父さんはどうお考えですか?」と父親の意見を求めてみた。しかし父親は、
「本人の意志を応援したいと思っています。」と答える。私と生徒とのやりとりは、「どのくらい頑張らなければならないか」というような内容に移っていった。生徒はいつもより能弁になっていくが、父親は決して口を差し挟まない。脇で時おり相槌は打つものの、時折厳しい表情になったりほほ笑んだりしながら聞いているだけなのである。私が言いたいことも、じゅうぶんに理解しているようだ。後にその父親は「いやぁ、息子があんなにたくさん喋ってくれるとは思いませんでしたよ」と言う。こういう親も数少ない。
この生徒は希望の高校にも合格し、大学卒業後、今は社会保険労務士として活躍している。家庭を持ち、子どもにもめぐまれて幸せそうに暮らしている。そして、さらなるスキルアップをめざして、仕事をこなしながら大学院にかよっているという。あの三者面談を思い出す。本人の努力はもちろんあるが、子どもを信じ、自立を促す親の態度も重要なのだと、つくづく思う。
さて前述の、父母ともにそろって面談に出席した家庭、つまり「高校関係者に知っている人がいるから・・」と父親が公言し、子どもの前に平気で「コネ」を曝してしまったその親の子どもはどうなったのか。大学付属の高校の定時制に入学はできたが、念願の大学に進学することはできなかった。今は定職に就かず、アルバイトで生活しているらしい。歳を重ねた母親といっしょに、二人だけで生活している。
現在、中学校における三者面談は別の意味で難しくなってきている。先生が「ここは受験しない方がいい」とか「ここを受験すべきだ」などと強く発言することは許されない。学校からの過度な押しつけとみなされるからである。生徒が行きたいと望んでいるところを受けさせるのが原則となっている。
「子ども中心主義」の考えは、ここにも及んでいると言えよう。そうなると、子どもの見栄や高望みばかりが優先され、学校によってはバタバタと不合格者が出てしまう。子どもの言いなりになってしまう親もいて、教師が「内申書の数字(通常二学期の通信簿の数字)が不足していますよ」と言おうものなら、「それじゃぁその数字を書き変えればいいじゃないか」と要求するような、とんでもない親も出てくる。
卒業後の進路は誰が決めるのか。三者面談の場面から、現代の親と子の在りようも見えてくる。客観性を持って自分を見つめることができる「自立の芽」をどう育てるか、そこに至るまでの親と子の間の在りようが大切となる。
進路決定にあたって中学校の三者面談は、本人や家族にとっては終盤の一局面にすぎない。あるいは長いスパンでみれば、親子の関係性の、ほんの経過地点・中間地点にすぎない。親の意識は、もっとずっと早くから陰に陽に形成されている。
「先生、お宅のお嬢さんに家庭教師をお願いできないかしら?」と知り合いから依頼されたことがある。聞けば、私の娘が英語で行う授業もあるような大学にかよっていたので、知り合いのその母親としてはそういう学校にあこがれて「自分の娘もそうさせたい。だから英語の家庭教師をしてくれないか」というわけだった。
「ところで、お子さんは何年生ですか?」「小学校1年生です。」「えっ?・・・・」
「高校も私の娘と同じところに行かせたい」と言う。確かに私の娘が出た高校は、公立であっても、外国人が英語で授業をする科目を早い時期から取り入れるなど、国際色豊かな学校である。だからと言って、小学校1年生のうちから英語の力を付けることが大事なのか。子どもが6歳のうちから、「親の意志だけで」進学先の高校を定めてしまっていいものなのか。子どもは親の所有物ではないはずである。
++++ 付記 +++++++++++++++++++++
卒業や進級・進学のシーズンを迎えている。100人いれば100種類の達成感や挫折や希望がある。第一章で書いた「児童養護施設の少年」(小学校3年生のころから、春・夏・冬など長期休業中に我が家に来て生活していた施設暮らしの少年)はどうなったか。
センター試験550点満点中、445点獲得。複雑な事情を抱えて養護施設で暮らす状況にありながら、よくここまで頑張ったものだと感心させられる。自力でつかんだ進路決定である。首都圏の大学に進学することになった。奨学金とアルバイトによる自活の大学生活が待っている。一人で暮らすための部屋探しに、一泊二日で同行した。彼の高揚感に満ちたオーラがひしひしと伝わってくる。
私はアパート賃貸契約の保証人になったが、「一人で生きていけ、一人で生きていって判断力や思考力を磨き抜け、未来が待っている!」と秘かなエールを送りながら、彼の人生に期待している。
